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第八節「心の色 人の形 力の先」
~寸止め、まずはちょっとした練習から~
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「あの……組手って何でしょうか?」
「そこからかよッ!?」
勇とちゃな、二人の対決が始まる―――と思いきや、それ以前のお話で。
キョトンとして?マークを浮かべるちゃなを前に、心輝の鋭いツッコミが冴え渡る。
もっとも、組手の事を知らないのも無理は無いか。
そもそも戦いどころか、対戦競技さえ縁が無さそうな彼女だけに。
「組手っていうのは、対戦相手同士で殴り合ったりする訓練で―――」
「え、無理です……」
そして当然、進んで痛い思いをしようとは思うはずも無く。
ちゃながそんな説明を遮らんばかりに否定し、「サササッ」と後ずさりしていく。
こういう動きだけは何故かやたらと速い。
「あ、いや、実際に殴る訳じゃなくてね? 寸止めとかで―――シン、ちょっと説明手伝ってくれ」
「お? 任せとけ!」
今のちゃなに説明するには、口で言うより行動で示した方がずっとわかりやすいだろう。
という訳で実際に勇と心輝が実践して見せる事に。
「寸止めっていうのは、拳を突き出しても当てない様にする事で、いわゆるフリみたいなものだよ」
早速二人が相対し、拳を交互に突き出し合う。
もちろん互いに当てる事無く、かつわかり易い様にゆっくりと。
「こうしてゆっくりやるのでも充分さ。 相手がどう動くか考えたりも出来るしね」
そんな合間にも、二人のエア殴り合いは続く。
調子に乗った心輝があの手この手と妙技見せつける中で。
「だから当てなければいいだけだし、ゆっくりなら当たっても痛くないから平気だよ」
「そ、そうなんですか。 痛くないなら大丈夫かも」
そんな説明で理解出来たのか、ちゃながようやく首を縦に振る。
いまいち乗り気では無さそうであるが。
でもそんな話の最中であろうとも、心輝の調子はますますエスカレートしていくばかり。
遂には「ぬはははー!」などと笑いながら、格闘漫画の必殺技の真似を繰り出し翻弄する。
勇がゆっくりと動いているのをいい事にやりたい放題である。
だが、そんな調子をこいている心輝の視界から―――突如勇の姿が消えた。
その動きはまるで雷の如く。
瞬時にして、突き出された心輝の腕に幾つもの衝撃が走り込む。
勇の鋭くも弱い突きが幾多にも撃ち込まれたのだ。
パパパパパァンッ!!!
それだけでは済まされない。
こうして駆け巡る姿はもはや心輝の動体視力では捉える事叶わず。
たったその一瞬の間に、心輝の顎下へと勇の拳が控えていたのである。
もちろん組手らしく寸止めで。
「チョーシに乗んな」
「お、おう……」
きっと心輝の今の気分は、以前殴り倒した池上と同じなことだろう。
まさに瞬きする間に勇が懐へと潜り込んでいたのだから。
気絶せずに強さの片鱗を味わえた分だけは、幸運でもあり不幸でもあるだろう。
「イッテェ」と突かれた腕を摩りながら退場していく心輝。
その彼と擦れ違う様にして、ちゃながようやく勇の前に立つ。
「あ、当てないで下さいね」
「うん、気を付けるよ。 でも田中さんは俺を魔者だと思っていいから、しっかり避けて打つんだ」
「は、はい……」
この組手はあくまでもちゃなに近接戦闘の空気を体感させるため。
その道で一日の長である勇が加減し、自ら的となる。
こうする事でより実戦に近い経験を与え、共有する事が出来るのだ。
つまり、こうやって相対する事こそが、二人にとって最も最適な訓練になるのである。
「人類史上初っ、地球人魔剣使い同士の戦いが遂に始まるゥ!」
「これは一度戦闘経験のある勇の方が有利かぁ!?」
その傍らでは会議デスクとパイプ椅子に座った心輝達が実況を張り上げる。
一体いつの間に、どこから持ってきたのやら。
「さぁ、遂に二人の戦いがスタートだあッ!!」
カァンッ!!
おまけに何で持ってきてるのかわからない鐘まで鳴らす始末だ。
ずっと誰かが鞄に忍ばせていたのだろうか。
しかしその合図が、勇とちゃなに言い得ない緊張感をもたらす事となる。
共にファイティングポーズを構え、互いを睨み合う。
勇は片拳と肩を僅かに前に出した堅実な格闘フォームで。
一方のちゃなはどんぐりを抱えたリスの様な、肩を丸めて寄せるフォームだ。
だが如何な姿であろうと、二人は真剣そのもの。
例え格好良かろうが可愛かろうがもはや関係はない。
それぞれが思い思いの格好で戦いに挑んでいるのだから。
そんな心境など与り知らぬ実況を他所に、ジリジリと互いの距離を縮めていく。
「敵が君の目の前に突然現れるかもしれない。 それを想定するんだ」
「は、はいっ」
「いくよ……ッ!」
その一言を機に、勇があっという間に距離を詰めていき。
遂にはとうとう、拳がちゃなへと届く程に。
スゥッ―――
そうして繰り出されたのは、本当に遅い左拳。
蝶が飛んでいようものなら留まれそうな程に。
でも……
「んんっ!」
そんなスローな拳もちゃなには恐怖の対象だ。
たちまちその目を瞑り、ピタリと体を固めてしまっていて。
間も無く、「ちょんっ」と小さな鼻先に拳が当たる。
「あっ……」
「田中さん、目を瞑っちゃだめだ。 それじゃこの後も敵の攻撃が続いてしまう。 よく見て、上半身を動かして避けるんだ」
鼻を小突いたのは、いわゆる目を瞑った事へのペナルティ。
そんなNG的な行動に気付かせる為にわざと当てたのだ。
「君なら見えるハズだ。 さっきの俺の跳躍も君だけが見えてたから」
そう、ちゃなには見ようと思えば見えるはずなのだ。
池上との対戦時も、今回の跳躍も、ちゃなには全て見えていた。
それは溢れる命力が彼女の動体視力や反応速度を増させているから。
それに、実行する勇気もある。
魔剣使いになろうと振り絞った勇気が。
勇と一緒に戦う事を選び、敵を薙ぎ払ってきた勇気が。
そしてそれらを知っている勇だから、こう言い切れるのだ。
「だから君なら躱せる! 躱して見せるんだ!」
再びゆっくりとした拳が真っ直ぐ繰り出され。
ちゃなの顔面に目掛けて伸びていく。
すると、その勇の意気に応えるかの様に―――ちゃなの体が動いた。
その身を半歩下がらせて躱して見せたのだ。
「そう、それでいい! 後ろに下がるのも正解だよ! 当たらなければいいんだ!」
「う、うんっ」
「でも攻撃するには近づかなきゃいけない! だから今度は左か右か、斜め前に避けてみるんだ!」
その大いなる半歩が彼女を調子付かせ、身体を次なる攻撃へと備えさせる事に。
良く見える様にと、上目遣いだった目が真っ直ぐと見据えられ。
次第に内股だった足も、攻撃に合わせて開いていて。
体が動きやすい様にと自然に姿勢が整っていく。
三度訪れる拳を前に、今度は上半身を倒して左へ躱し。
そのまま「ススッ」と体をも寄せていく。
その様な感じで四度、五度と突き出しを繰り返し続け。
次第にちゃなの動きがリズミカルに。
「敵の攻撃は真っ直ぐだけとは限らない! こういうこともあるから敵の動きはちゃんと見るんだ!」
今度は大きく横へと振る様に繰り出された右拳が。
ボクシングなどで言う所のフックだ。
もちろんゆっくりではあるが、逃げた先を狙う様にしているからか動揺は否めない。
だがそれも今やちゃなを止める手立てにはならない。
自信が付いて来たのだろう。
言われるまでも無く、その身を屈ませて拳を避ける姿が。
「そう! それも正解だよ! そして敵の懐に入る為の重要な一手にもなる!」
スイングした拳がたちまち頭上をすり抜け、勇の体ごと離れていく。
とはいえ、ゆっくりと打つ方も姿勢を維持するのが大変そうだ。
そんな感じで寸止めの組手が続く。
もしかしたら今のちゃなにはこれくらいが丁度いいのかもしれない。
「そこからかよッ!?」
勇とちゃな、二人の対決が始まる―――と思いきや、それ以前のお話で。
キョトンとして?マークを浮かべるちゃなを前に、心輝の鋭いツッコミが冴え渡る。
もっとも、組手の事を知らないのも無理は無いか。
そもそも戦いどころか、対戦競技さえ縁が無さそうな彼女だけに。
「組手っていうのは、対戦相手同士で殴り合ったりする訓練で―――」
「え、無理です……」
そして当然、進んで痛い思いをしようとは思うはずも無く。
ちゃながそんな説明を遮らんばかりに否定し、「サササッ」と後ずさりしていく。
こういう動きだけは何故かやたらと速い。
「あ、いや、実際に殴る訳じゃなくてね? 寸止めとかで―――シン、ちょっと説明手伝ってくれ」
「お? 任せとけ!」
今のちゃなに説明するには、口で言うより行動で示した方がずっとわかりやすいだろう。
という訳で実際に勇と心輝が実践して見せる事に。
「寸止めっていうのは、拳を突き出しても当てない様にする事で、いわゆるフリみたいなものだよ」
早速二人が相対し、拳を交互に突き出し合う。
もちろん互いに当てる事無く、かつわかり易い様にゆっくりと。
「こうしてゆっくりやるのでも充分さ。 相手がどう動くか考えたりも出来るしね」
そんな合間にも、二人のエア殴り合いは続く。
調子に乗った心輝があの手この手と妙技見せつける中で。
「だから当てなければいいだけだし、ゆっくりなら当たっても痛くないから平気だよ」
「そ、そうなんですか。 痛くないなら大丈夫かも」
そんな説明で理解出来たのか、ちゃながようやく首を縦に振る。
いまいち乗り気では無さそうであるが。
でもそんな話の最中であろうとも、心輝の調子はますますエスカレートしていくばかり。
遂には「ぬはははー!」などと笑いながら、格闘漫画の必殺技の真似を繰り出し翻弄する。
勇がゆっくりと動いているのをいい事にやりたい放題である。
だが、そんな調子をこいている心輝の視界から―――突如勇の姿が消えた。
その動きはまるで雷の如く。
瞬時にして、突き出された心輝の腕に幾つもの衝撃が走り込む。
勇の鋭くも弱い突きが幾多にも撃ち込まれたのだ。
パパパパパァンッ!!!
それだけでは済まされない。
こうして駆け巡る姿はもはや心輝の動体視力では捉える事叶わず。
たったその一瞬の間に、心輝の顎下へと勇の拳が控えていたのである。
もちろん組手らしく寸止めで。
「チョーシに乗んな」
「お、おう……」
きっと心輝の今の気分は、以前殴り倒した池上と同じなことだろう。
まさに瞬きする間に勇が懐へと潜り込んでいたのだから。
気絶せずに強さの片鱗を味わえた分だけは、幸運でもあり不幸でもあるだろう。
「イッテェ」と突かれた腕を摩りながら退場していく心輝。
その彼と擦れ違う様にして、ちゃながようやく勇の前に立つ。
「あ、当てないで下さいね」
「うん、気を付けるよ。 でも田中さんは俺を魔者だと思っていいから、しっかり避けて打つんだ」
「は、はい……」
この組手はあくまでもちゃなに近接戦闘の空気を体感させるため。
その道で一日の長である勇が加減し、自ら的となる。
こうする事でより実戦に近い経験を与え、共有する事が出来るのだ。
つまり、こうやって相対する事こそが、二人にとって最も最適な訓練になるのである。
「人類史上初っ、地球人魔剣使い同士の戦いが遂に始まるゥ!」
「これは一度戦闘経験のある勇の方が有利かぁ!?」
その傍らでは会議デスクとパイプ椅子に座った心輝達が実況を張り上げる。
一体いつの間に、どこから持ってきたのやら。
「さぁ、遂に二人の戦いがスタートだあッ!!」
カァンッ!!
おまけに何で持ってきてるのかわからない鐘まで鳴らす始末だ。
ずっと誰かが鞄に忍ばせていたのだろうか。
しかしその合図が、勇とちゃなに言い得ない緊張感をもたらす事となる。
共にファイティングポーズを構え、互いを睨み合う。
勇は片拳と肩を僅かに前に出した堅実な格闘フォームで。
一方のちゃなはどんぐりを抱えたリスの様な、肩を丸めて寄せるフォームだ。
だが如何な姿であろうと、二人は真剣そのもの。
例え格好良かろうが可愛かろうがもはや関係はない。
それぞれが思い思いの格好で戦いに挑んでいるのだから。
そんな心境など与り知らぬ実況を他所に、ジリジリと互いの距離を縮めていく。
「敵が君の目の前に突然現れるかもしれない。 それを想定するんだ」
「は、はいっ」
「いくよ……ッ!」
その一言を機に、勇があっという間に距離を詰めていき。
遂にはとうとう、拳がちゃなへと届く程に。
スゥッ―――
そうして繰り出されたのは、本当に遅い左拳。
蝶が飛んでいようものなら留まれそうな程に。
でも……
「んんっ!」
そんなスローな拳もちゃなには恐怖の対象だ。
たちまちその目を瞑り、ピタリと体を固めてしまっていて。
間も無く、「ちょんっ」と小さな鼻先に拳が当たる。
「あっ……」
「田中さん、目を瞑っちゃだめだ。 それじゃこの後も敵の攻撃が続いてしまう。 よく見て、上半身を動かして避けるんだ」
鼻を小突いたのは、いわゆる目を瞑った事へのペナルティ。
そんなNG的な行動に気付かせる為にわざと当てたのだ。
「君なら見えるハズだ。 さっきの俺の跳躍も君だけが見えてたから」
そう、ちゃなには見ようと思えば見えるはずなのだ。
池上との対戦時も、今回の跳躍も、ちゃなには全て見えていた。
それは溢れる命力が彼女の動体視力や反応速度を増させているから。
それに、実行する勇気もある。
魔剣使いになろうと振り絞った勇気が。
勇と一緒に戦う事を選び、敵を薙ぎ払ってきた勇気が。
そしてそれらを知っている勇だから、こう言い切れるのだ。
「だから君なら躱せる! 躱して見せるんだ!」
再びゆっくりとした拳が真っ直ぐ繰り出され。
ちゃなの顔面に目掛けて伸びていく。
すると、その勇の意気に応えるかの様に―――ちゃなの体が動いた。
その身を半歩下がらせて躱して見せたのだ。
「そう、それでいい! 後ろに下がるのも正解だよ! 当たらなければいいんだ!」
「う、うんっ」
「でも攻撃するには近づかなきゃいけない! だから今度は左か右か、斜め前に避けてみるんだ!」
その大いなる半歩が彼女を調子付かせ、身体を次なる攻撃へと備えさせる事に。
良く見える様にと、上目遣いだった目が真っ直ぐと見据えられ。
次第に内股だった足も、攻撃に合わせて開いていて。
体が動きやすい様にと自然に姿勢が整っていく。
三度訪れる拳を前に、今度は上半身を倒して左へ躱し。
そのまま「ススッ」と体をも寄せていく。
その様な感じで四度、五度と突き出しを繰り返し続け。
次第にちゃなの動きがリズミカルに。
「敵の攻撃は真っ直ぐだけとは限らない! こういうこともあるから敵の動きはちゃんと見るんだ!」
今度は大きく横へと振る様に繰り出された右拳が。
ボクシングなどで言う所のフックだ。
もちろんゆっくりではあるが、逃げた先を狙う様にしているからか動揺は否めない。
だがそれも今やちゃなを止める手立てにはならない。
自信が付いて来たのだろう。
言われるまでも無く、その身を屈ませて拳を避ける姿が。
「そう! それも正解だよ! そして敵の懐に入る為の重要な一手にもなる!」
スイングした拳がたちまち頭上をすり抜け、勇の体ごと離れていく。
とはいえ、ゆっくりと打つ方も姿勢を維持するのが大変そうだ。
そんな感じで寸止めの組手が続く。
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