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第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」

~Règlement des regrets <後悔の清算>~

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 デュランを包む光が収まっていく。
 彼の心を星の中心へと誘う光が。

 時間で言えば、僅か六秒か七秒か。
 たったそれだけの時間の間に、全ての答えを得て帰って来たのだ。

 自身が真に望んでいた答えを。



 そんな彼の頬には―――とめどなく涙が流れていた。



 全てを知り、理解して。
 そして己の過ちに気付いてしまったから。
 後悔してもしきれない程に過ちを犯し続けてしまったから。

「今ようやく、全てを理解したよ。 君が伝えようとしていた事も、私が知るべき真実も何もかも……」

「無事に星の中心アストラルストリームに行けたんだな」

「ああ。 そこでデュゼローさんに会ってきたよ。 懐かしい、昔のままのあの人に」

「えっ……」

 勇にはデュランが何を見て聞いてきたのかまではわからない。
 それはあくまでもデュランという個体が星と繋がった事で交わされた会話の様なものだから。

「そして教えられたよ。 私はずっと勘違いをしていたんだってね。 デュゼローさんは決してこんな事を私に託した訳ではないのだと」

 砕けた魔剣を前にして、その欠片を掴み取り。
 かつての想いに馳せながら握り締める。
 血が滲む程に強く。

 まるでその痛みで、心の痛みを誤魔化すかの様に。

「デュゼローさんも不安だったんだ……!! 自分のやろうとしている事が正しいのかもわからなくて、でも推し進めなければならない程に追い詰められていて……」

「デュラン……」

「だからあの人は私に【アデ・リュプス】を託したんだ。 自分の犯すかもしれない過ちを正す為にッ!!」

 なまじ賢いから、追い詰められて。
 正しい事がわからなくとも、貫かねばならない想いがあって。
 仲間も集めて、思想も広げて、後戻りが出来なくなったから。

 だからデュゼローは託したのだ。

 レミエルという青年に全てを。



「デュゼローさんが魔剣を託してくれたのは……もしも自分が間違っていた時、僕が止められる様にする為だったんだッ!! 止められなくなった自身を僕に止めて貰いたかったからッ!!」



 自身の犯した過ちを清算してもらう為に。

 デュゼローにはそうする事しか出来なかったのだろう。
 自身が立ち止まれない事を理解してしまったから。
 
 だからバックアップを用意したのだ。
 この世界で最も信頼出来る存在へと。
 そして最も優しいと自負出来る存在へと。

 きっと自身を止めてくれるだろうと信じて。

「でもあの人が死んでッ!! 僕はそれで勘違いしてしまったッ!! あの人が負けたから同じ道を歩むんだって!! けれどそれは違ったんだッ!! そんな道なんてデュゼローさんは望んじゃいないんだって!! 」

 デュランが知るデュゼローはとても人間らしかった。
 勇が知る剣聖やラクアンツェよりもずっと。

 冗談を言い合ったり、笑い合ったり、時には首を傾げ合ったり。
 行動力はあっても、いざ買い物に出掛ければピューリーに振り回されたり。
 テレビを見ながら論議した時も、デュランに言い負かされる事だってあった。
 一緒にアニメを見たり、ドキュメンタリーを見たり、映画鑑賞だってした事もある。

 そうして二人が刻んで来た思い出は、誰よりも何よりも親友同士らしかったのだ。
 例え歳が十倍以上も離れていようとも関係無く。

 デュランの事を良く理解出来たくらいに。

「デュゼローさんは最初から僕に進むべき道を示してくれていたんだ。 君と同じ様な道に進むべきなんだって……」

 その想いが吐き出された時、デュランの想いは嗚咽となって溢れ出る。
 溜めて、溜めて、溜め込んだ数年来の本心を篭めて。

 かつての恩師で親友でもあるデュゼローへの感謝と謝罪の気持ちをも篭めて。



 こうして今、デュランという男はようやく過去の呪縛から解き放たれたのである。



「……すまない、取り乱してしまって……」

「いやいい。 心を曝け出したい時に出した方がずっと人間らしいからさ。 真実を知った今だから流すべき涙だってあるんだから」

「ありがとう……」

 悲しみからも、苦しみからも解放されて。
 ようやくデュランは真の意味で前に進む事が出来るだろう。

 その為に流す涙は、決して恥ずかしくはない。

 人よりもずっと涙を流してきた勇だから誰よりも理解している。
 それに戦いを終えた今、二人はもう悲しみを露わにする事さえ許されているのだから。

「それで私はデュゼローさんの声と意思を通じてア・リーヴェの事も知ったよ。 彼女から今この世界で何が起きているかもね」

 星との会話はすなわちア・リーヴェとの会話ともなる。
 デュゼローと話を交わして心を通じた事で、その心が星と繋がる事が出来たから。

 だからたったあの一瞬だけで、デュゼローはア・リーヴェとも交信出来ていたのだ。
 いつかの勇と同じ様に。

「そして私が成さねばならない事も、やっと理解出来た」

 するとそんな時、デュランがその身をゆっくりと持ち上げさせる。
 勇の前で堂々と、先程までと同じ自信を覗かせて。

「その事に気付かせてくれた君に再び感謝したい。 これで私は気兼ね無く、私の成したい世界救世を行えるのだから」

「って事はつまり?」

「私も君と同じ道を歩みたい。 それが私の……いや、このレミエル=ジュオノが望む未来だ」

 そうして差し出されたのは右手。
 強く逞しく、それでいて優しさを伴った。
 そこに垣間見えるのはもはや〝デューク=デュラン〟という虚像ではない。

 勇と同様に笑顔を求め、笑い合える世界を望む一人の青年だったのだ。

 そうして嘘偽り無き姿を晒す事が出来たから。
 そこに真実が見えたから。



 勇もまた、その手を取る事が出来る。



 掴み、握り返した拳は力強く暖かく。
 まるで互いの強さを確認し合うかの様に。
 それでいて、互いの暖かみを分かち合うかの様に。

 それが惜しみ無く出来る程に、今の二人は同じ志を抱いていたのである。

「ただ、願わくば私の望みを一つだけ聞いてもらって良いだろうか?」

「なんだ?」

「今しばらく、私を【救世同盟】のデューク=デュランとして扱って欲しいんだ。 アルトランとの戦いが終わるその時まで」

 でもその志は決して馴れ合う為という訳ではない。
 あくまでも世界を迫る災厄から救う為。

 その為ならば、デュランはその名を敢えて継ぎ続ける事も厭わない。
 既に血塗られて汚れきったこの名を。

「そしてこの戦いも、デューク=デュランとして終止符を打つよ。 その茶番に最後まで付き合って欲しい。 お願い出来るだろうか?」

「当たり前だろ? こうなった以上はとことん付き合うさ」

 その意思が同じ方向へと向いたならば、勇も当然否定などしない。
 こうしてわかり合えたのなら、二人はもう友人も同然なのだから。



 いや、天力という絆で結ばれた――― 一つの親友の形なのかもしれない。



 だから二人は並び行く。
 仲間達が待つ場所へ。

 戦いを経て親友となった二人が、この戦いを終わらせる為に。


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