上 下
201 / 1,197
第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」

~Evolution <進化>~

しおりを挟む
「あの光は一体……!?」

 真価を発揮した勇を前に、福留が驚きを隠せない。
 それ程の、今までに見た事の無い強い輝きを発していたのだから。

「あれこそが魔剣使いの真の力です。 勇君はそれをたった今理解し、発揮する事が出来る様になったのです」

 そう返すのはレンネィ。
 ただその顔は浮かれとは程遠い強張りを見せていて。
 勇に対して不信とも疑念ともとれる細めた視線を向ける。

 でもそんな視線を向けるのも無理は無い。
 何故なら、勇がその領域に達した事がにわかに信じられなかったからだ。

「でもあの力を発揮するには本来十年以上の戦闘経験が必要になるはず。 それなのに何故あの子がたった一、二ヶ月で本質を理解出来たのか……私にはわからない」

 それというのも、勇が到達した領域はすなわち手練れ・猛者の領域。
 数々の戦いを乗り越え、長年を経て修練し、心と体を鍛え続けて来なければ到達出来ない場所だ。
 『あちら側』の人間にとってはそれが常識であり、生き残り、戦い続ける事こそが魔剣使いの誉れともなる。
 それは魔剣使いの才者でも、命力の才者でも覆す事の出来ない常識。

 勇はあろう事か、その常識を今この場で打ち崩したのである。

「あれはもう才能や実力の成せる技じゃないわ。 ハッキリとそう言い切れるくらいに」

「それはきっと勇様が何もかもを受け入れられる程の心をお持ちだからでしょう」

「心……?」

 ただその常識もきっと、『こちら側』には通用しないのかもしれない。
 それは心の在り方が全く違うものだから。

「勇様の心は空の様に何もかもを包み込む大らかさを持っています。 だから容易く人の言葉を信じ、受け入れ、呑み込む。 その本質までも限り無く」

 それに加え、勇の在り方が最も魔剣の仕組みに合っていたから。
 相手を疑わずに心から信じる事が出来る彼の意思が。

「だからお父様の言葉を真に理解する事が出来たのです。 これは命力でも理解力のお陰でもありません。 勇様が人の言葉を受け入れられる広い心を持っているからこそ成し得た事なのです」

 そしてその勇の在り方を心から愛するエウリィだからこそ、こう言い切れる。
 「この方ならば、何があろうと信じる事が出来る」と。

 それこそがエウリィの勇を想う形の真実。
 出会ったばかりでも信じる事の出来る色を持つ、勇の特別性だったのだ。

「じゃあもしかして、勇君は剣聖さんに勝てるかもしれないって事でしょうか?」

 そんな真実が福留に大いなる希望をもたらす。
 戦う力を失わなかった事は不本意だっただろう。
 でもそれ以上に、勇の背負った物を良く知っているから。

 そこに期待を抱かずにはいられなかったのだ。

「いえ、それでも勇君が剣聖に見込みはありません。 剣聖は本気を出そうものなら、山を砕き、海を割る実力を誇っていますから」

 ただそれも叶わぬ答えが返る。

 だがそれは決して希望が無い答えだという訳ではない。
 
「―――でも、彼は戦闘狂。 戦い合う事に重きを置く人物です。 つまり、認めた相手ならば戦い合う為に力を抑え、同等の力でより長く、より激しく戦う事を望むのです」

「うむ。 それ故に剣聖殿は今、勇殿と同じ力量で戦っている。 加減をしている今ならば、付け入る隙はあるハズだ。 その間に興味を削ぐ何かを講じる事が出来ればあるいは―――」

 彼等の目下で二人の戦いは今も続いている。
 目にも止まらぬ速さで剣を打ち合い、光を放ち、大地を砕きながら。

 二人の描く光の軌跡がその激しさを物語る程に。

 それが叶う今だからこそ、彼等は切に願う。
 勇が剣聖を退けられる事を。

 そして勇の無事を。





◇◇◇





「ようやく『魔剣使い』に成ったかぁぁああ!!」

 剣聖が叫び、激しく剣を奮う。
 それを勇が紙一重で躱し、いなし、素早く反撃する。
 その反撃も想像しえない体の動きで躱されて。

 でも追い付く事が出来ている。

 それは剣聖が加減したからではない。
 むしろ動きそのものは先程よりもずっと増している。

 なのにも拘らず、勇は剣聖の動きが見切れているのだ。



 勇はこの時、今までに無く冷静だった。
 止まっている様に動くその世界の中で。
 剣聖の動きを見切り、躱すその軌道を読み取れる程に。

 【大地の楔】得たから?
 命力に覚醒したから?

 否。
 自分の信念を貫く覚悟が出来たからである。



 ちゃなに助けられた。

 エウリィに信じられた。

 福留に求められた。

 心輝達に支えられた

 レンネィに教えられた。

 グゥに認められた。

 カプロ達に伝えられた。



 そして剣聖に導かれた。



 今の勇は多くの人々に支えられ存在している。
 そんな多くの人々が彼の背中を押してくれたかの様で。

 今対峙している剣聖ですらも同様に。
 まるで自分を成長させる為に戦っているのだろうと思えてならなかったから。

 それ程までに心はずっとずっと先を向いていて。
 その前向きな心が、勇の持つ鋭感覚さえも『進化』させたのである。



 今まで以上のその先を見通す為に。

 

 この時、勇もまた微笑んでいた。
 それは戦いを楽しんでいるからでも無く、剣聖と渡り合っているからでも無く。

 ただ単に、感謝しているから。
 
「うおおおおおッ!!!」
「かぁぁぁーーーッ!!!」

 再び二人が飛び掛かり合い、激しい応酬が繰り広げられる。
 しかしもうそこには互いの目的など介在してはいない。

 二人が戦うのは、共に己の信念を貫く為。

 勇が誰かを守りたいと想うその信念を。
 剣聖が得たい何かを求めるその信念を。

 だからこそ、これは殺し合いでは無い。



 これこそが、魔剣使いとしての想いのぶつけ合い方なのである。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...