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第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」

~Arrival <到着>~

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 ようやく勇達を乗せた車がアルライの里へと到着する。
 だがそんな彼等を迎えたのは、予想だにもしない出来事であった。

「あっ! 危ないッ!?」

 突如、そんな声と共に車が急停車し。
 車内で騒いでた勇達が不意に揺らされる。

「どうしたんですか!?」

 しかしそこはさすがの勇。
 自慢の鋭感覚で、倒れそうだったちゃなと瀬玲を支えるファインプレイを見せつける。
 そしてそんな勇の腰部に突っ込んだあずーは何やらとても嬉しそう。

「ゆ、勇君、ほら見て……」

 でもそんな事になど気を留められる事も無く。
 言われるがままに勇達がフロントガラスの先へと視線を向けると―――



 その先にはなんと、アルライ族の者達の姿が。



 身なりからして恐らく若者だろうか。
 まるでカプロを成長させた様な姿で、体毛もまだ柔らかそうに靡いていて。
 顔付きもまだ丸みのある幼らしさを伴っている。

 あちらもどうやら車にびっくりした様だ。
 揃って丸くした目を向けて固まっていて。
 それでいてどこか興味深そうに首を傾げる姿も。

 そしてここは当然、結界の外。

 驚く事に、彼等は結界の外に出てきていたのである。

 好奇心旺盛な若者ならば外に出たいと思うのも無理は無く。
 もう外は安全だと知らされればこうなるのも必然で。

 恐らく、ジヨヨ村長から事情を聞いた者が里の外に出て来たのだろう。
 思いがけないサプライズに、勇達も思わずホッコリとした笑みが零れる。

「こんにちは、皆さん。 村長さんは御在宅ですか?」

 そんな彼等へ、御味が遠慮無しの挨拶だ。

 もう警戒する必要も無い事を知ったから。
 そうもなれば、関西人らしい持ち前の陽気さが役に立つ。

「あ……こ、こんにちは。 村長は家でお待ちしてると思います」

「わかりました、ありがとうございます!」

 そんなテンションは若者達が戸惑いを見せるほど。
 彼等も人間がここまでフレンドリーだとはさすがに思っていなかったのかもしれない。

 でもその人間とのちょっとした触れ合いも、彼等には初の試みな訳で。
 たちまち声を交わした者をからかう様な、仲間同士でじゃれあう姿を見せつける。

 その姿は勇達の様な子供が見せる様子となんら変わらない。

 そう、何も変わらない。
 それはつまり彼等もまた勇達と同じで、同じ思考論理を持つ生命体という事なのだ。

「それじゃあ僕は料理用の食材の買い出しに行ってくるから、勇君達は先に村に行っててくれ。 村長に挨拶は忘れないでね」

「わかりました。 買い物気を付けて!」

 そんなアルライの若者達が愉快そうな姿を見せる中、勇がようやく車から降り立つ。
 テントの詰まった袋や調理器具なども引っ提げて。

「こんちは~」

「あ、昨日の……こんにちは」

 どうやらこの若者達、先日の際に勇を見ていた様だ。
 見知った顔の登場に、思わず指を差す仕草で出迎えていて。

 勇もその事に気付き、「ウンウン」とニッコリした頷きで返す。
 知っててもらえたのがどうにも嬉しかった様子。

 ちなみに、人に指を差すのは現代においてマナー違反だ。
 文化の違う彼等だからこそ許される行為なので真似しないでおこう。

「ちぃーっす!!」
「こ、こんにちは~」
「やっほー!!」
「どうも……」

 勇に続いてちゃな達もが続々と車を降りていき。
 出るわ出るわ怒涛の集団参上模様に、アルライの若者達も唖然とするばかりで。
 巨大な荷物を引っ提げて横切る姿を、もはやボーッと見届ける事しか出来はしない。

 気付けばそんな勇達の姿も景色の彼方へ。
 縦に並んで歩き去る姿はどうやら相当好奇心の的となった様だ。

 でも、その姿が見えなくなれば―――自然とその好奇心は別に向けられる事となる。

「これキラキラしてる……すごいな」

 たちまち、若者達が目の前の車へと興味を示し始めたのだ。

 やはりこれだけの意匠を見せる物は村にも無い様で。
 艶やかなコーティングやガラス窓、銀の装飾やヘッドライトカバーにまで目を向ける。
 何もかもが新鮮な様相で、とても興味津々なご様子。

 その様な初々しい姿を見せれば、あの御味が黙っていられる訳も無く。

「はは、良かったら中にも入ってみませんか?」

「ほ、本当に!?」

「えぇ、もちろん。 折角だし、この辺りのドライブでもしてみますかぁ」

「わぁ……!」

 思いがけないアプローチは、若者達の好奇心をこれ程に無いまでに引き上げる。
 きっとこんな経験は、彼等にとって大きな成長の要素となるだろう。

 それこそがまさに交流の醍醐味というもの。



 どうやら勇達が始めるよりも一足先に、御味によって異文化交流は始まりを迎えた様だ。
 




◇◇◇





 長くて大きい階段を一歩一歩踏み締めて、勇達が遂にアルライの里へと降り立つ。

 突如露わとなった景色は心輝達に思わぬ感動を届けた様だ。
 三人揃って「おお~!」と感激の声を漏らしていて。 

 その感動に他人事では無い勇もどこか満足気である。

「うおお……スゲェー、人類初の試みスッゲェーーー!!」

 だが余りにも興奮し過ぎる者が一人。
 大興奮のままに両手を振り上げて喜びを露わにする姿が。

 しかしその愚か者も、たちまち地面にのたうち回る事になる。

ゴツンッ!!

「いッてぇ!!」
「ちょっと静かにしなさいよ。 大声出し過ぎたらダメって言われてたでしょ?」

 そんな暴走する心輝を止めるのはもはや瀬玲の役目だ。
 そういわんばかりのゲンコツが後頭部に突き刺さったのである。

 ただ、どうやらそれでも興奮は抑えきれなかった様で。

「わ、わりぃ! でも興奮するだろ普通、人類史上初の試みだろ!? 俺教科書とかに載っちゃうかな~イッヒッヒ」

「下品な笑い方やめてよもう……」

 地面に転がりながらも滲み出した嬉しさは止まらない、止められない。
 特別性にこれ以上無い羨望を持つ心輝らしい一面と言えるだろう。

 この場においてははた迷惑な話でしかないが。

「あ、皆あれ見てー!」

 するとそんな時、あずーが途端に声を上げる。
 何かを見つけたのだろうか、村の中へと指を差していて。

 ふと視線を示す先へと向けると、なんとあの三人のちびっ子達の姿が。
 カプロより小さいにも拘らず散々とこき下ろしていたあの三人だ。

 ポヨポヨパタパタと歩き来る姿は、まるで愛くるしい子犬が二本足で進んでいるかのよう。
 加えてのモフモフ感が女子陣の可愛いモノ好き精神をこれでもかと刺激する。

「「「かーわいーーー!!」」」

 しまいには「キャー」と三人揃っての嬌声を上げ。
 地面に倒れていた心輝を跳ね退けようとも構う事無く駆け寄っていく。

 そして女子達の暴挙に曝された心輝はと言えば―――

「解せぬ……」

「自業自得だろ」

 地面に転がったまま据わった目を浮かべていて。

 そんな踏まれたりふんだり蹴られたりけったりな心輝、「なんで俺だけ」と実に不服そう。
 勇としてはもはや誰の擁護しようもなく、顔をしかめるばかりだが。

「ようこそ、あるらいぞくのむらへっ」

「「「かーわぃいーーーッッ!!」」」

 一方で女子陣は相変わらずの興奮気味だ。
 あざとい姿を見せつけての子供達の歓迎に至極御満悦の様子。

 ただ惜しむらくは、そのモフモフを堪能する事が出来ない所か。

「この障壁ていうのがネックよね~、これさえなければ柔らかそうな毛を堪能出来るのに~」

 どうやら魔者の障壁は歳などに関係無く働いている様で。
 例え柔らかそうな毛並みでも、たちまち石の様に硬くて見えない壁に阻まれてしまう。
 いくら手を押しても、靡く毛にすら押し負けてしまうのだ。

 これには女子達も残念でならない模様。
 ちゃなに至っては肩をガクリと落として項垂れる程である。

 だがそんな光景を前に、思わず頭を傾げる勇の姿が。

「あれ、そういえば俺こないだカプロを命力無しで揺すってた様な……」

 ふと思い、二日前の出来事を呼び起こす。
 でもあの時の事は怒りと恥ずかしさに夢中で。
 我を忘れていたからか、どうにも思い出せない。

「まぁいっか」

 もしかしたら無意識に命力を奮っていたのかもしれない。
 そんな事が過れば自然と気にならなくなった様だ。

「そらおめぇ、障壁ァ敵意が無きゃ働かねぇモンよ」

 そんな時、もはや聞き慣れたと言える野太い声がその場に響き。
 ふと勇達が振り向くと―――視線の先にはあのバノの姿が。

「あ、バノさんこんにちは―――ってそれ本当ですか!?」

「おう。 でなきゃカカァが子供を抱く事だってできゃあせんよぉ。 障壁は魔者同士にだって働くモンだ」

 どうやらある程度離れていても、バノには声が届く様で。
 その感受性は、感情だけでなく命力の乗った声を拾う事も容易としているらしい。

 しかしそんな事にすら気付けない程、新たな事実はこれとない驚きを呼び込んだ模様。

「じゃあ俺はそれくらい敵意が無かったって事なのか……そうかぁ」

「じゃからワシらはびっくりしたんよ。 でなきゃここまで信じれんわい」

 障壁は魔者自身にもコントロール出来る訳ではない。
 それ故に、敵意を抱いてしまえば勝手に障壁が働き、互いに見えない壁が生まれる。
 これも彼等にとっては常識で、節理の中の一つとして受け入れ続けた事だ。

 でもそれを人間である勇が命力も無しに無効化してしまえば驚くのも無理は無い。

 何故なら……彼等にとってそれに至るという事は、家族になったと同義なのだから。

「なるほどねぇ。 じゃあこの子達を触れないのは、私達にはまだ敵意があるって事なんだ」

「うむ。 まぁ厳密にいやぁ怨みや妬み、怒りや恐怖っちゅう感情に反応するんやがのぉ」

 対してちゃな達はまだまだ勇の領域に達していないのだろう。
 例え先入観が薄くても、魔者が敵だという認識が無くなった訳では無いのだ。

 ちゃなはともかくとして、瀬玲達もザサブ戦での恐ろしさを目の当たりにしたから。
 抱いた先入観が深層心理に根付いてしまっているのかもしれない。
 本人達が意識出来ないほど深くに。

 ただ無意識上とはいえ、こんなモフモフ達にさえその様な感情を抱いているとわかってしまえば。
 落胆を隠せず、今度は三人揃って項垂れる姿が。

 バノとしては、それも当然と言わんが如く気にしていない様だけども。

「それはいいとして、ジヨヨが呼んどるけぇ行ったってくれや」

 というよりも彼には役割があった様で。
 とても面倒そうに、手を後ろへと振り送る仕草を見せて誘う。

「あ、はい! じゃあ皆は先に準備しててくれ。 俺は挨拶してくる」

 勇としても元よりそのつもりだったのだろう、二言目には既に駆け出していて。
 仲間達を置いてさっさと村の中へ。

 ちゃな達としては、目の前の巨人を前に不安を隠せない。

「もしかして、この子達もいつかこんなムキムキマッチョになっちゃうのかな……」

「世知辛ーい!!」

 でもその不安が畏怖によるものとも限らない。
 別の意味での不安垂れ放題な彼女達を前に、堪らず顔をしかめさせるバノなのであった。


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