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第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
~住処 家族 最も願いしモノ~
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遂にちゃなの過去が明かされた。
その凄惨な過去は又聞きでは到底理解出来るはずも無い程に重く辛く。
でもそう告白した事は決して彼女にとってマイナスとなりはしない。
今は勇達が居る。
そんな彼女を受け入れてくれる人達が。
だからもう、ちゃなが生きる事に脅える必要は無いのだ。
重く苦しい話がそうして終わりを告げ。
福留が「悲しみを共有する」という一言と共に一枚のパンフレットを取り出す。
そこに描かれていた見出しは、勇達も目にした事があるとても普遍的な物だった。
「変容区域、特に東京など多くの方々が犠牲になったのはまだ記憶に新しいでしょう。 区域内及びその周辺は既に人が住めない程に荒れている事もご存知かと思います」
これは勇達ならよく知る事実である。
ちゃなの家も含め、大多数の家やビル、マンションが森の一部と化し。
原型すら留めていない家屋など幾つもあって。
消えた人間などもはや数知れない。
だが、その事件に巻き込まれたのは領域内に居た人間だけでは無かったのだ。
「ですが区域内に家があったのにも拘らず偶然にも区域外に居た方も少なくはありません。 救助された方もそうですね。 そんな方々を対象に、政府が救済処置を行う事を決めたのです」
そう、出掛けている間に家が転移に巻き込まれてしまったという人も当然居るのである。
そんな人達を救う為に現在も政府が主導で活動しているという訳だ。
そして実はこの話、既にテレビ等で放送されていた事でもある。
こうしている間にも計画は着々に進行中。
現在、東京郊外の指定地にて仮設住宅を建設中との事。
避難者はそれらが完成するまでの間、指定のホテルなどに泊まって難を逃れているのだそうな。
「それで希望する対象者にはその仮設住宅へ移り住んで頂く事となるのですが、ちゃなさんに関してはそうもいきません。 VIP相応の人物になりますからね。 同様に仮設住宅へ、という訳にはいきませんから」
「VIP……」
「なので、今後の事も考えてこの家の近くに彼女の為の居住宅を用意しようと考えています」
今後の事とは当然、要請の事。
勇の家の近くである方が学校も近ければ勇と合流もしやすい。
有事の際に二人をピックアップして即移動する事も容易いという訳だ。
「それってつまり、彼女がこの家を出て一人暮らしをするという事ですかね?」
「えぇ、そうなります。 それが一番自然な形かなと思いまして。 あ、もちろんこれはちゃなさんがそれを選ぶ場合となりますが」
「選ぶ……?」
「はい。 決定権は全てちゃなさんにあるという訳ですね。 もちろん選択肢はそれだけではありません。 藤咲家の方々が良ければ今のままでも構わないとも思っております」
つまり、どうするもちゃなの自由という事。
これも今まで不自由を被られてきた彼女に対する福留の思いやりの一端である。
それと同時に、選択させる事で自発を促すという目的もある様だが。
自分が決めた事なら責任感も生まれ、生活に自由度も生まれるだろう。
それが自立。
それを体験する事で、人間という生き物は日々成長していく事が出来るのだ。
もちろん、だからといって家を用意するだけ―――という訳では無い。
「もし一人暮らしをなさる場合には、バックアップとして光熱費や家賃類は政府側が肩代わりする予定です。 なので面倒なお金のやり取りに関しては一切気にする必要はありません。 足りない部分だけを報酬で賄って頂く事になるでしょう」
すると福留がまたしても鞄に手を伸ばし。
取り出しては机の上に広げたのは―――物件リスト。
既に多くの候補物件をピックアップ済みだった様で。
その枚数は一枚二枚では済まされない……その数おおよそ三十枚。
この付近にそれだけの数の物件があるという事実も割と衝撃的である。
さすが東京、人口密集地帯というだけに家屋の数も並ではないという事なのだろう。
そしていざ四人が想い想いで手に取ってみれば。
そのいずれもが1LDK、2DKなどといった、一人で暮らすにはいささか大きいと思える物件ばかりで。
もちろんそんな家に住めれば自由快適そのものだ。
大の字に寝そべって転がっても問題無い広さで、物の置き場に困る事も無く、文句を言う人間も居ないのだから。
そんな物件が選び放題。
普通の人間なら喜びもするだろう。
でもそんな物件情報を眺めるちゃなの顔は浮かなくて。
「さてちゃなさん、どうしましょうか?」
「え!? あ、えっと……」
どうやら何かを思い悩んでいたのだろう。
そんな時に突然選択肢を迫られれば戸惑うのも仕方ない訳で。
その目が手に取った物件と勇達の顔とを行き来するばかりだ。
次第に顔の動きも止まり、沈み込む様に俯かせる。
その様子は、何かを言い出せないもどかしさをハッキリと体現していて。
たちまち生まれた静寂が、福留に「背中を押してみましょうかねぇ」とすら思わせていた。
だが、福留の動こうとしていた口はピクリと震わすだけに留まる事となる。
「あっ、あのっ……も、もしも……」
ちゃなが先に動いたのだ。
その顔を俯かせたままで。
とはいえその言葉は途端に詰まり、後が続かない。
何かを言いたそうにモニョモニョとさせてはいるが。
もしかしたら思い付いた事を口に出すのが恥ずかしいのかもしれない。
そう伝えるのもおこがましいとでも思ったのかもしれない。
でもそう言い掛けたから、福留ももはや口出しはしないだろう。
彼女がその一歩を踏み出せる勇気を持っている事を知っているから。
「もしも勇さん達が嫌でなければ―――」
「「「ッ!!」」」
そう、彼女の選択はもう最初から決まっていたのだ。
そんな物件を見せられようと、どんな好条件を見せつけられようとも。
「―――この家に居たいですっ……!!」
こう願う程に、彼女の心は暖かさを求めていたのだから。
福留が勇達と最初に出会った時、ちゃなも兄妹なのだろうと勘繰ったもので。
それも直後に否定され、居候として伝えられた。
それがあって福留は彼等の身辺調査を行う事に決めたのだ。
「彼等は何故、ここまで家族の様に見えたのだろうか」という些細な疑問を発端として。
当初そう見えたのは、藤咲家が〝お人好し〟だったからという事が大きかったのかもしれない。
それと言うのも、彼等は出会って初日のちゃなを受け入れて、すぐに打ち解けていて。
福留と出会った三日目には完全に溶け込んでいたのだから。
けれどきっとそれはキッカケにしか過ぎなかったのだろう。
そう見えたのは何よりも、ちゃなが家族という存在を求めていたからだ。
生まれて十六年余り、彼女はずっと家族の愛情を受けずに育ってきて。
でも自分以外の子供達には家族と呼ばれる存在が付きっきりだった。
羨ましかったのだろう。
憧れていたのだろう。
そうしたら突然事件に巻き込まれて。
気付いたら勇達が寄り添ってくれた。
何も文句を言わずに、何も深く訊かずに。
それがちゃなには堪らなく嬉しかったのだ。
憧れの家族が出来た様で。
だから彼女はほんの少しの勇気を得る事が出来たのである。
些細でも、踏み出す事が出来る様になる勇気を勇達から貰ったのである。
そしてその勇気を以って踏み出す事が出来たから―――
「ちゃなちゃん、全然嫌じゃないよ……!」
「そうとも、むしろ居て欲しいくらいだよ!!」
そのお陰で勇の両親も、想いの内をこうして曝け出す事が出来た。
彼等も類を見ない〝お人好し〟で。
ちゃなの境遇に心を強く打たれたのだろう。
その一言を皮切りに、突然二人が揃って席を立ち、惚けるちゃなへと空かさず駆け寄っていく。
彼等の慈しみの心はもうその全てを受け入れたから。
悲しみも、苦しみも分かち合いたいから。
だから二人は揃ってちゃなを優しく抱き込む事が出来た。
共に涙を流し、抱き合い、愛情をも共有し合う事が出来たのだ。
そうして見せた姿はまるで……本物の親子の様で―――
その凄惨な過去は又聞きでは到底理解出来るはずも無い程に重く辛く。
でもそう告白した事は決して彼女にとってマイナスとなりはしない。
今は勇達が居る。
そんな彼女を受け入れてくれる人達が。
だからもう、ちゃなが生きる事に脅える必要は無いのだ。
重く苦しい話がそうして終わりを告げ。
福留が「悲しみを共有する」という一言と共に一枚のパンフレットを取り出す。
そこに描かれていた見出しは、勇達も目にした事があるとても普遍的な物だった。
「変容区域、特に東京など多くの方々が犠牲になったのはまだ記憶に新しいでしょう。 区域内及びその周辺は既に人が住めない程に荒れている事もご存知かと思います」
これは勇達ならよく知る事実である。
ちゃなの家も含め、大多数の家やビル、マンションが森の一部と化し。
原型すら留めていない家屋など幾つもあって。
消えた人間などもはや数知れない。
だが、その事件に巻き込まれたのは領域内に居た人間だけでは無かったのだ。
「ですが区域内に家があったのにも拘らず偶然にも区域外に居た方も少なくはありません。 救助された方もそうですね。 そんな方々を対象に、政府が救済処置を行う事を決めたのです」
そう、出掛けている間に家が転移に巻き込まれてしまったという人も当然居るのである。
そんな人達を救う為に現在も政府が主導で活動しているという訳だ。
そして実はこの話、既にテレビ等で放送されていた事でもある。
こうしている間にも計画は着々に進行中。
現在、東京郊外の指定地にて仮設住宅を建設中との事。
避難者はそれらが完成するまでの間、指定のホテルなどに泊まって難を逃れているのだそうな。
「それで希望する対象者にはその仮設住宅へ移り住んで頂く事となるのですが、ちゃなさんに関してはそうもいきません。 VIP相応の人物になりますからね。 同様に仮設住宅へ、という訳にはいきませんから」
「VIP……」
「なので、今後の事も考えてこの家の近くに彼女の為の居住宅を用意しようと考えています」
今後の事とは当然、要請の事。
勇の家の近くである方が学校も近ければ勇と合流もしやすい。
有事の際に二人をピックアップして即移動する事も容易いという訳だ。
「それってつまり、彼女がこの家を出て一人暮らしをするという事ですかね?」
「えぇ、そうなります。 それが一番自然な形かなと思いまして。 あ、もちろんこれはちゃなさんがそれを選ぶ場合となりますが」
「選ぶ……?」
「はい。 決定権は全てちゃなさんにあるという訳ですね。 もちろん選択肢はそれだけではありません。 藤咲家の方々が良ければ今のままでも構わないとも思っております」
つまり、どうするもちゃなの自由という事。
これも今まで不自由を被られてきた彼女に対する福留の思いやりの一端である。
それと同時に、選択させる事で自発を促すという目的もある様だが。
自分が決めた事なら責任感も生まれ、生活に自由度も生まれるだろう。
それが自立。
それを体験する事で、人間という生き物は日々成長していく事が出来るのだ。
もちろん、だからといって家を用意するだけ―――という訳では無い。
「もし一人暮らしをなさる場合には、バックアップとして光熱費や家賃類は政府側が肩代わりする予定です。 なので面倒なお金のやり取りに関しては一切気にする必要はありません。 足りない部分だけを報酬で賄って頂く事になるでしょう」
すると福留がまたしても鞄に手を伸ばし。
取り出しては机の上に広げたのは―――物件リスト。
既に多くの候補物件をピックアップ済みだった様で。
その枚数は一枚二枚では済まされない……その数おおよそ三十枚。
この付近にそれだけの数の物件があるという事実も割と衝撃的である。
さすが東京、人口密集地帯というだけに家屋の数も並ではないという事なのだろう。
そしていざ四人が想い想いで手に取ってみれば。
そのいずれもが1LDK、2DKなどといった、一人で暮らすにはいささか大きいと思える物件ばかりで。
もちろんそんな家に住めれば自由快適そのものだ。
大の字に寝そべって転がっても問題無い広さで、物の置き場に困る事も無く、文句を言う人間も居ないのだから。
そんな物件が選び放題。
普通の人間なら喜びもするだろう。
でもそんな物件情報を眺めるちゃなの顔は浮かなくて。
「さてちゃなさん、どうしましょうか?」
「え!? あ、えっと……」
どうやら何かを思い悩んでいたのだろう。
そんな時に突然選択肢を迫られれば戸惑うのも仕方ない訳で。
その目が手に取った物件と勇達の顔とを行き来するばかりだ。
次第に顔の動きも止まり、沈み込む様に俯かせる。
その様子は、何かを言い出せないもどかしさをハッキリと体現していて。
たちまち生まれた静寂が、福留に「背中を押してみましょうかねぇ」とすら思わせていた。
だが、福留の動こうとしていた口はピクリと震わすだけに留まる事となる。
「あっ、あのっ……も、もしも……」
ちゃなが先に動いたのだ。
その顔を俯かせたままで。
とはいえその言葉は途端に詰まり、後が続かない。
何かを言いたそうにモニョモニョとさせてはいるが。
もしかしたら思い付いた事を口に出すのが恥ずかしいのかもしれない。
そう伝えるのもおこがましいとでも思ったのかもしれない。
でもそう言い掛けたから、福留ももはや口出しはしないだろう。
彼女がその一歩を踏み出せる勇気を持っている事を知っているから。
「もしも勇さん達が嫌でなければ―――」
「「「ッ!!」」」
そう、彼女の選択はもう最初から決まっていたのだ。
そんな物件を見せられようと、どんな好条件を見せつけられようとも。
「―――この家に居たいですっ……!!」
こう願う程に、彼女の心は暖かさを求めていたのだから。
福留が勇達と最初に出会った時、ちゃなも兄妹なのだろうと勘繰ったもので。
それも直後に否定され、居候として伝えられた。
それがあって福留は彼等の身辺調査を行う事に決めたのだ。
「彼等は何故、ここまで家族の様に見えたのだろうか」という些細な疑問を発端として。
当初そう見えたのは、藤咲家が〝お人好し〟だったからという事が大きかったのかもしれない。
それと言うのも、彼等は出会って初日のちゃなを受け入れて、すぐに打ち解けていて。
福留と出会った三日目には完全に溶け込んでいたのだから。
けれどきっとそれはキッカケにしか過ぎなかったのだろう。
そう見えたのは何よりも、ちゃなが家族という存在を求めていたからだ。
生まれて十六年余り、彼女はずっと家族の愛情を受けずに育ってきて。
でも自分以外の子供達には家族と呼ばれる存在が付きっきりだった。
羨ましかったのだろう。
憧れていたのだろう。
そうしたら突然事件に巻き込まれて。
気付いたら勇達が寄り添ってくれた。
何も文句を言わずに、何も深く訊かずに。
それがちゃなには堪らなく嬉しかったのだ。
憧れの家族が出来た様で。
だから彼女はほんの少しの勇気を得る事が出来たのである。
些細でも、踏み出す事が出来る様になる勇気を勇達から貰ったのである。
そしてその勇気を以って踏み出す事が出来たから―――
「ちゃなちゃん、全然嫌じゃないよ……!」
「そうとも、むしろ居て欲しいくらいだよ!!」
そのお陰で勇の両親も、想いの内をこうして曝け出す事が出来た。
彼等も類を見ない〝お人好し〟で。
ちゃなの境遇に心を強く打たれたのだろう。
その一言を皮切りに、突然二人が揃って席を立ち、惚けるちゃなへと空かさず駆け寄っていく。
彼等の慈しみの心はもうその全てを受け入れたから。
悲しみも、苦しみも分かち合いたいから。
だから二人は揃ってちゃなを優しく抱き込む事が出来た。
共に涙を流し、抱き合い、愛情をも共有し合う事が出来たのだ。
そうして見せた姿はまるで……本物の親子の様で―――
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