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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~思惑、空へ~
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大西洋にて激戦を繰り広げている頃―――アメリカ政府作戦司令本部。
エイミー達の座する指令室にアルクトゥーンが雲の中へ入ったという情報が届けられていた。
「奴等め、尻尾を巻いて逃げ出したか? 衛星による追跡はどうなんだ」
「ハッ、現在追跡中ですが、詳細位置まではまだわからないとの事」
指令本部の壁に設置されたモニターにはアメリカを中心とした世界地図が表示されている。
もちろんただの世界地図ではない。
雲の動きや海上の動き、アメリカ軍艦隊の配置など、細かい状況が手に取る様にわかる程の物だ。
当然そこにはアルクトゥーンらしき表示も。
これにはさすがに地図の尺度の関係上おおまかな位置しかわからないが。
大きな雲も分厚く、通常映像では捉える事が出来ない様だ。
しかし人工衛星のカメラによる画像は光学映像だけには留まらない。
熱赤外線による熱分布映像や複数波長観測による地表計測など、特定する方法は豊富だ。
それだけでなく戦闘海域から見た映像や航空機からの画像など、相手を追う為にあらゆる手段を講じる事が出来るのである。
故に、例え巨大な積乱雲の中に隠れようともいずれその位置は特定されるだろう。
それをわかっているからこそ、高官達は笑わずには居られない様子。
「所詮は素人集団の集まりよ。 我々が雲の中まで見られないと思っているらしい」
「ならそのままその中で一生を過ごせばいい。 世界が滅ぶと怯え震えながらな」
そんな戯言を添えて。
彼等もまた世界が滅ぶとは本気で思ってはいないのだろう。
【アースレイジー】に所属するとはいえ、それは【救世同盟】の思想に順ずるというよりも単に国を守ろうという意思を汲んだもの。
その勢いとエイミーの存在感に惹かれて手を組んだに過ぎない。
彼等もまた国の現状に疎いを感じていたからこその立ち位置だと言えるだろう。
だがグランディーヴァを嘲笑う高官達へと向け、一人の声が静かに上がる。
「フフッ、随分と余裕なんですね。 戦いはまだ終わっていないというのに」
それはエイミーの一声。
まるで心内の虚を突くかの様な指摘は、高官達が思わず「ドキリ」として息を呑む程に鋭く。
「現状の戦況を見てそれが言えるのは愚かとしか言いようがありませんね。 前線の戦力は現在二割が失われ、今なお減少中です。 つまり彼等は前線を抑える為に戦力を放出したと言えるでしょう。 それがどういう事かわからない訳はありませんよね?」
「そ、それは無論だ!」
そう焦って返すも、エイミーは見透かした様に不敵な微笑みを向けるばかりだ。
これには高官達も堪らず押し黙るしかなく。
実際高官達が勇達を舐めていた事は間違いない。
彼等に戦略的思考は出来ない、そう考えているからだ。
勇達が実際に示した戦いは、魔特隊時代から含めて殆どが力によるごり押し。
そこに戦略性は見られず、相手が規模の小さい団体ばかりだったからこそ成し得てきた。
しかし今回の相手は自分達が誇るアメリカ軍の超物量戦力。
それを駆使して逆にごり押しすれば勝てるという確信が彼等にはあったからこその考えだったのだ。
その自信にも足る確信はエイミーへの反論をも呼び込む。
「だが実際、奴らは後退しているぞ?」
「ええそうですね。 後退している―――ように見せかけているのですよ。 私達に作戦を察せさせぬ様に。 きっと彼等は来ますとも。 ええ、必ず来ます」
高官達も予想していない訳ではない。
彼等がそこから来るなど、有り得もしないと思っているから。
でも出来るからこそ、捨てる事が出来ない可能性でもあったのだ。
「そう、彼等はこの司令部上空―――宇宙から来るでしょう」
その一言が打ち放たれた途端、高官達の表情に強張りが生まれる。
宇宙からの進攻。
これは考えられても、考えたくない手だったからだ。
例え世界に誇るアメリカ軍であろうとも、宇宙に対する戦闘力はまだまだ少ないと言える。
陸軍も海軍も空軍も戦力を送る事の出来ない、未開拓の領域。
そして先日アルクトゥーンは魔剣ミサイル撃墜で宇宙へと単身到達したという事実がある。
それ故にアメリカ軍に出来無くてグランディーヴァに出来る唯一の進攻順路となりえるのだ。
しかしだからといってそれに対する対策が無い訳ではない。
「まさか、本気で宇宙から来ると思うのか? ではどうやって空に行く。 我々の目を盗んで青空の中を突っ切れば、一瞬にして我々に見つかるぞ。 噂の結界とやらでも使うとでも? あれは衛星画像からなら丸見えだぞ!?」
高官の言う事ももっともだ。
何故なら、今いる空域より上空は雲どころか隠れる物が何も無い。
つまり、宇宙に行くにもバレバレだという事だ。
そしてアルクトゥーンの宇宙に上がる所が見えれば、人工衛星が捕捉する事も可能という事。
そうもなれば超長距離からの大陸弾道弾による攻撃も可能となるのである。
アルディの時とは違い、無数の弾頭を持つアメリカならば命力弾頭でなくともアルクトゥーンに致命傷を負わせる事が出来るだろう。
だがその事実があろうとも、エイミーは態度を改めない。
それどころか不敵な笑みが深みを増すばかりだ。
「ええ、そうかもしれません。 とはいえ、例えそれがわかって探しても……彼等に照準を合わせる頃にはきっとこの街上空に達しているかもしれませんね」
途端のエイミーの一言が高官達の背筋を「ゾクリ」と震わせる。
彼女が見せる不敵な笑みは、その意図と共に心に秘めた冷血な感情すら感じさせていたのだ。
「彼等が来るとわかっているのはこの街上空へと到達した時の一瞬のみです。 ならばそれを成せばいいだけの事」
それがどういう事か、もう彼等にはわかっていた。
そしてそれがどういう結果をもたらすのかも、当然わかっていたからこそ―――
衝撃の一言を前に、ロドニーが堪らずその身を激しく机上へ持ち上げる。
それ程までに彼女の提案は常軌を逸していたのだから。
「ほ、本気で言っているのか!? まさかお前はワシントンD.C.の上空に核を撃つ気なのかあッ!?」
そう、エイミーの言った事は詰まる所そういう事である。
アルクトゥーンに確実に直撃させるには地表降下時を狙えばいい。
そしてそれを狙い、確実に破砕する事が出来るだろう兵器を使用すればいい。
それこそが核弾頭。
アメリカには数百基を超える弾頭が各地に控えている。
例え魔剣ミサイルでなくとも、その一割を発射するだけで歴史を塗り替えられるのだ。
しかしこの意見には誰しもが躊躇せざるを得ない。
もしワシントンD.C.上空で核弾頭が爆発した場合―――
その衝撃波が地表へ降り注ぎ、街を廃墟と化すだろう。
それだけではない。
爆発によって放射性物質が放出されれば、風に乗って北米大陸全土が汚染されてしまう。
最低でも着弾地点上空であるワシントンD.C.は間違いなく全滅するだろう。
例え放射性物質が少ないとされる水爆や中性子爆弾などを使用したとしても、その影響は計り知れない。
エイミーが示した提案はまさに自傷行為。
グランディーヴァを打倒する為には自国が傷付こうとも厭わないという事だったのである。
「いいですかロドニー、現在の大統領は私です。 ブライアン元大統領から全権限を頂いた身なのですよ? 無礼な発言は許しません」
エイミーの自信有り余る態度と発言を前に、ロドニーは反論出来ず「クッ」と歯を食いしばらせるのみ。
他の高官達もロドニー同様の事を考えてはいたが、その真意を聞かずに反論出来る訳も無く。
「ですがこれはあくまで最終手段です。 現状把握とアルクトゥーンの位置、それらを認識し、全てを今すぐ撃滅する事が出来れば何の問題もありません。 それが出来る状況だと思えますか?」
「そ、それは……」
エイミーはなお不敵な笑みを向け続けたまま。
その姿はまるで他人事の様である。
目の前の高官達が引いた布陣が今現在の散々たる結果を生み出したから。
まるでそれを嘲笑い、卑下するかの様に。
背もたれに預けて傾いた顔で彼等を下し見る。
「噂をすればホラ……状況は悪化するばかりですよ」
すると図ったかの様に、指令室の扉を叩く連絡員がガラス張りの壁から覗き見え。
間も無く扉を開いて彼等の下へと馳せ参じ、強張った顔で今伝えられた情報を読み上げ始める。
「前線より連絡! 敵旗艦を雲の中で消失、痕跡が全く見当たらないとの事です……」
「なんだとぉ!?」
突如として伝えられた衝撃の事実に高官達が驚愕する。
たった一人、エイミーを除いて。
彼女の様子はまるで、こうなる事を読んでいたかの如く堂々としたものだったのだ。
「やはりこうなりましたか。 仕方ありませんね、最終手段を講じる事にしましょう」
「ま、待て!!」
「いいえ待ちません。 こうなった以上は前線にも役立って頂きます。 これより前線の全戦力をグランディーヴァ戦闘隊員に向けて攻撃を続行、これを討ち滅ぼしなさい。 いいですか、これは最上位命令です」
高官達の戸惑いも他所に、エイミーが連絡員へとそう告げる。
その時連絡員の目に映ったのは、唇を震えさせながらもそれ以上何も言えずに固まる高官達。
連絡員自身もまた戸惑う様を見せるが、敬礼を返してその場を立ち去って行った。
「エイミー……それをやったならば、必ず勝たねば引き下がれんぞ……!!」
「ええもちろんですよ。 ですがそれで終わりです。 後は彼等に罪を負わせればいいだけの事」
そう言い切る彼女を前に、高官達はもはや何も言うまいと持ち上げていた腰を落とす。
こうなってしまった事への後悔に頭を抱えながら。
エイミーは勇がここに来るだろうと予想していた。
それは単身ではなく、彼を運ぶ揺り籠と共に来る事も。
世界にグランディーヴァの正当性を知らしめるために、正式に捕まえに来るのだと。
もしも勇がならず者なら、先日の内に捕まえていただろう。
もしも勇が卑怯者なら、そんな事せずとも今すぐ一人で来るだろう。
でも彼は正直者だから、誠実な青年だから。
エイミーはその隙を突き、討ち滅ぼす事だけを考えるのみ。
勇達が知る以上に……彼女は狡猾なのだから。
エイミー達の座する指令室にアルクトゥーンが雲の中へ入ったという情報が届けられていた。
「奴等め、尻尾を巻いて逃げ出したか? 衛星による追跡はどうなんだ」
「ハッ、現在追跡中ですが、詳細位置まではまだわからないとの事」
指令本部の壁に設置されたモニターにはアメリカを中心とした世界地図が表示されている。
もちろんただの世界地図ではない。
雲の動きや海上の動き、アメリカ軍艦隊の配置など、細かい状況が手に取る様にわかる程の物だ。
当然そこにはアルクトゥーンらしき表示も。
これにはさすがに地図の尺度の関係上おおまかな位置しかわからないが。
大きな雲も分厚く、通常映像では捉える事が出来ない様だ。
しかし人工衛星のカメラによる画像は光学映像だけには留まらない。
熱赤外線による熱分布映像や複数波長観測による地表計測など、特定する方法は豊富だ。
それだけでなく戦闘海域から見た映像や航空機からの画像など、相手を追う為にあらゆる手段を講じる事が出来るのである。
故に、例え巨大な積乱雲の中に隠れようともいずれその位置は特定されるだろう。
それをわかっているからこそ、高官達は笑わずには居られない様子。
「所詮は素人集団の集まりよ。 我々が雲の中まで見られないと思っているらしい」
「ならそのままその中で一生を過ごせばいい。 世界が滅ぶと怯え震えながらな」
そんな戯言を添えて。
彼等もまた世界が滅ぶとは本気で思ってはいないのだろう。
【アースレイジー】に所属するとはいえ、それは【救世同盟】の思想に順ずるというよりも単に国を守ろうという意思を汲んだもの。
その勢いとエイミーの存在感に惹かれて手を組んだに過ぎない。
彼等もまた国の現状に疎いを感じていたからこその立ち位置だと言えるだろう。
だがグランディーヴァを嘲笑う高官達へと向け、一人の声が静かに上がる。
「フフッ、随分と余裕なんですね。 戦いはまだ終わっていないというのに」
それはエイミーの一声。
まるで心内の虚を突くかの様な指摘は、高官達が思わず「ドキリ」として息を呑む程に鋭く。
「現状の戦況を見てそれが言えるのは愚かとしか言いようがありませんね。 前線の戦力は現在二割が失われ、今なお減少中です。 つまり彼等は前線を抑える為に戦力を放出したと言えるでしょう。 それがどういう事かわからない訳はありませんよね?」
「そ、それは無論だ!」
そう焦って返すも、エイミーは見透かした様に不敵な微笑みを向けるばかりだ。
これには高官達も堪らず押し黙るしかなく。
実際高官達が勇達を舐めていた事は間違いない。
彼等に戦略的思考は出来ない、そう考えているからだ。
勇達が実際に示した戦いは、魔特隊時代から含めて殆どが力によるごり押し。
そこに戦略性は見られず、相手が規模の小さい団体ばかりだったからこそ成し得てきた。
しかし今回の相手は自分達が誇るアメリカ軍の超物量戦力。
それを駆使して逆にごり押しすれば勝てるという確信が彼等にはあったからこその考えだったのだ。
その自信にも足る確信はエイミーへの反論をも呼び込む。
「だが実際、奴らは後退しているぞ?」
「ええそうですね。 後退している―――ように見せかけているのですよ。 私達に作戦を察せさせぬ様に。 きっと彼等は来ますとも。 ええ、必ず来ます」
高官達も予想していない訳ではない。
彼等がそこから来るなど、有り得もしないと思っているから。
でも出来るからこそ、捨てる事が出来ない可能性でもあったのだ。
「そう、彼等はこの司令部上空―――宇宙から来るでしょう」
その一言が打ち放たれた途端、高官達の表情に強張りが生まれる。
宇宙からの進攻。
これは考えられても、考えたくない手だったからだ。
例え世界に誇るアメリカ軍であろうとも、宇宙に対する戦闘力はまだまだ少ないと言える。
陸軍も海軍も空軍も戦力を送る事の出来ない、未開拓の領域。
そして先日アルクトゥーンは魔剣ミサイル撃墜で宇宙へと単身到達したという事実がある。
それ故にアメリカ軍に出来無くてグランディーヴァに出来る唯一の進攻順路となりえるのだ。
しかしだからといってそれに対する対策が無い訳ではない。
「まさか、本気で宇宙から来ると思うのか? ではどうやって空に行く。 我々の目を盗んで青空の中を突っ切れば、一瞬にして我々に見つかるぞ。 噂の結界とやらでも使うとでも? あれは衛星画像からなら丸見えだぞ!?」
高官の言う事ももっともだ。
何故なら、今いる空域より上空は雲どころか隠れる物が何も無い。
つまり、宇宙に行くにもバレバレだという事だ。
そしてアルクトゥーンの宇宙に上がる所が見えれば、人工衛星が捕捉する事も可能という事。
そうもなれば超長距離からの大陸弾道弾による攻撃も可能となるのである。
アルディの時とは違い、無数の弾頭を持つアメリカならば命力弾頭でなくともアルクトゥーンに致命傷を負わせる事が出来るだろう。
だがその事実があろうとも、エイミーは態度を改めない。
それどころか不敵な笑みが深みを増すばかりだ。
「ええ、そうかもしれません。 とはいえ、例えそれがわかって探しても……彼等に照準を合わせる頃にはきっとこの街上空に達しているかもしれませんね」
途端のエイミーの一言が高官達の背筋を「ゾクリ」と震わせる。
彼女が見せる不敵な笑みは、その意図と共に心に秘めた冷血な感情すら感じさせていたのだ。
「彼等が来るとわかっているのはこの街上空へと到達した時の一瞬のみです。 ならばそれを成せばいいだけの事」
それがどういう事か、もう彼等にはわかっていた。
そしてそれがどういう結果をもたらすのかも、当然わかっていたからこそ―――
衝撃の一言を前に、ロドニーが堪らずその身を激しく机上へ持ち上げる。
それ程までに彼女の提案は常軌を逸していたのだから。
「ほ、本気で言っているのか!? まさかお前はワシントンD.C.の上空に核を撃つ気なのかあッ!?」
そう、エイミーの言った事は詰まる所そういう事である。
アルクトゥーンに確実に直撃させるには地表降下時を狙えばいい。
そしてそれを狙い、確実に破砕する事が出来るだろう兵器を使用すればいい。
それこそが核弾頭。
アメリカには数百基を超える弾頭が各地に控えている。
例え魔剣ミサイルでなくとも、その一割を発射するだけで歴史を塗り替えられるのだ。
しかしこの意見には誰しもが躊躇せざるを得ない。
もしワシントンD.C.上空で核弾頭が爆発した場合―――
その衝撃波が地表へ降り注ぎ、街を廃墟と化すだろう。
それだけではない。
爆発によって放射性物質が放出されれば、風に乗って北米大陸全土が汚染されてしまう。
最低でも着弾地点上空であるワシントンD.C.は間違いなく全滅するだろう。
例え放射性物質が少ないとされる水爆や中性子爆弾などを使用したとしても、その影響は計り知れない。
エイミーが示した提案はまさに自傷行為。
グランディーヴァを打倒する為には自国が傷付こうとも厭わないという事だったのである。
「いいですかロドニー、現在の大統領は私です。 ブライアン元大統領から全権限を頂いた身なのですよ? 無礼な発言は許しません」
エイミーの自信有り余る態度と発言を前に、ロドニーは反論出来ず「クッ」と歯を食いしばらせるのみ。
他の高官達もロドニー同様の事を考えてはいたが、その真意を聞かずに反論出来る訳も無く。
「ですがこれはあくまで最終手段です。 現状把握とアルクトゥーンの位置、それらを認識し、全てを今すぐ撃滅する事が出来れば何の問題もありません。 それが出来る状況だと思えますか?」
「そ、それは……」
エイミーはなお不敵な笑みを向け続けたまま。
その姿はまるで他人事の様である。
目の前の高官達が引いた布陣が今現在の散々たる結果を生み出したから。
まるでそれを嘲笑い、卑下するかの様に。
背もたれに預けて傾いた顔で彼等を下し見る。
「噂をすればホラ……状況は悪化するばかりですよ」
すると図ったかの様に、指令室の扉を叩く連絡員がガラス張りの壁から覗き見え。
間も無く扉を開いて彼等の下へと馳せ参じ、強張った顔で今伝えられた情報を読み上げ始める。
「前線より連絡! 敵旗艦を雲の中で消失、痕跡が全く見当たらないとの事です……」
「なんだとぉ!?」
突如として伝えられた衝撃の事実に高官達が驚愕する。
たった一人、エイミーを除いて。
彼女の様子はまるで、こうなる事を読んでいたかの如く堂々としたものだったのだ。
「やはりこうなりましたか。 仕方ありませんね、最終手段を講じる事にしましょう」
「ま、待て!!」
「いいえ待ちません。 こうなった以上は前線にも役立って頂きます。 これより前線の全戦力をグランディーヴァ戦闘隊員に向けて攻撃を続行、これを討ち滅ぼしなさい。 いいですか、これは最上位命令です」
高官達の戸惑いも他所に、エイミーが連絡員へとそう告げる。
その時連絡員の目に映ったのは、唇を震えさせながらもそれ以上何も言えずに固まる高官達。
連絡員自身もまた戸惑う様を見せるが、敬礼を返してその場を立ち去って行った。
「エイミー……それをやったならば、必ず勝たねば引き下がれんぞ……!!」
「ええもちろんですよ。 ですがそれで終わりです。 後は彼等に罪を負わせればいいだけの事」
そう言い切る彼女を前に、高官達はもはや何も言うまいと持ち上げていた腰を落とす。
こうなってしまった事への後悔に頭を抱えながら。
エイミーは勇がここに来るだろうと予想していた。
それは単身ではなく、彼を運ぶ揺り籠と共に来る事も。
世界にグランディーヴァの正当性を知らしめるために、正式に捕まえに来るのだと。
もしも勇がならず者なら、先日の内に捕まえていただろう。
もしも勇が卑怯者なら、そんな事せずとも今すぐ一人で来るだろう。
でも彼は正直者だから、誠実な青年だから。
エイミーはその隙を突き、討ち滅ぼす事だけを考えるのみ。
勇達が知る以上に……彼女は狡猾なのだから。
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