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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」

~誠意、現れ~

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「三時間……それだけでいい。 それが出来れば、俺達は勝てる!!」



 たった三時間での戦争の勝利。
 そこに至ったのは〝確信〟でもブライアンからの提案でも無い。
 ハッキリとそう言い切れる程に自信を篭める、勇自身の導き出した答えなのである。

「今回の戦いはきっと厳しくなると思う。 でも成し遂げなければ俺達はここまでだ。 だから何が何でも俺を本土まで連れて行って欲しい」

「そこに連れて行けば勝てる算段があるんですね?」

「ああ。 詳しく説明出来ない事には変わりないけど……」

 勇がそう言い切った事に意味を感じずにはいられなくて。
 誰しもが押し黙る中で途端に莉那と龍が考え込み、その口を止める。
 福留も足を下げた以上、何を言うまいと勇達のやり取りを静かに傍観していて。

 そんな時、とうとう莉那の小さな唇が再び動きを刻む。

「……わかりました。 全ての事情は事が終わった後に説明頂きます。 勇さんにしかわからない理屈なのなら、私達がやるべきなのは目の前で起ころうとしている事に対する対処だけです。 そこでむやみに考える必要は無いのですから」

 グランディーヴァは勇の持つ理念の下に仲間が集まって出来たと言える団体だ。
 彼を信じ、世界を救わんと戦う為に。
 それは盲目的になれという事ではなく「彼の行う事全てに意味があると思え」という事に他ならない。
 先日勇と戦った心輝もまたその真の意味に気付いた今、それに疑う者達はこの場には居ない。

 だからこそ莉那はこう言い切ったのだ。
 「勇が勝てると言ったならば勝てる」のだと。

「ありがとう、莉那ちゃん」

「礼を言うのは早いですよ。 具体的な作戦、考えているのでしょう?」

 不意に莉那が見せるのは、見上げる様に覗き込みながら浮かばせる不敵な笑み。
 まるで全てを見抜いた様な彼女の視線も、今の勇の立場からすれば頼もしい事この上無い。

「勿論さ。 戦える人数は少ない上に俺は前線に立てない。 でも皆なら大丈夫だって俺も信じてるから、今回は皆の命を俺が預かる」

 すると何を思ったのか勇がそっと右手の人差し指を伸ばし。
 そのままその指が「スゥー」っと流れる様に―――一人の巨体を指し示す。

「その上で今回の前線での戦いのキーになるのは恐らくマヴォさんだと思ってる」

「お、俺か……!?」

 突然の指名に戸惑い、マヴォが思わず自身を指差し周囲を伺っていて。
 皆の視線を受け取る中で、勇の意図を読み取れずに顔をしかめさせるばかり。

「ああ。 、完成したんだろ?」

「あ……そうか、アレなら……」

 どうやらそう言われて初めて気付いた様だ。

 それは心輝の代わりに実践テストを買って出た末に出来た集大成。
 超金属を使用して造られた―――新型魔剣である。

 僅かな製作期間であったが、カプロにもはや不可能の文字は無い。
 二人の会話を前に、カプロが自信満々の胸を張り上げる姿が在ったのは言うまでもないだろう。

「ああ。 アレの機動力なら多分今までの心輝以上、もしかしたら茶奈に匹敵する戦果を上げられるハズだ」

 そう言い切る程に新型魔剣の性能は段違いだという事。
 マヴォもその意見にまんざらでも無く。
 「なるほど」と腕を組み、俯きながら深く考えを巡らせる様子を見せていた。

 如何にして有効的に扱う事が出来るか、その真価を発揮する方法を求めて。

「空軍の攻撃はナターシャと牽引したセリが凌いでくれ。 ディックさんはマヴォさんのサポートで。 それと今回は獅堂、お前も出てもらう」

「ぼ、僕かい!?」

 獅堂にはそう指名された事が驚きで。
 何せ彼の力はまだ実戦投入には早いと言わざるを得ない段階なのだから。
 しかし人手は多い方が良いのと、獅堂にも出来る役割があったからこそ勇は迷わず指名したのだ。

 とはいえ期待を掛けられれば燃えない訳も無いのが獅堂という男。
 勇の期待に応える為にも、その一心で拳を強く握り締める。

「じゃあ私も―――」
「茶奈には別の役割がある。 これは君にしか出来ない事だから……」

 自身だけにしか出来ない役割。
 そう聞かされた時、茶奈の表情に強張りが生まれる。
 彼女に出来て仲間に出来ない事はもはや僅かだが、残るいずれもが群を抜いて困難を極める行為ばかりだ。

 そこに期待をされれば、緊張しない訳も無い。
 だが茶奈ならやり遂げられるという自信があったから、勇は大事な役目を言い渡す事が出来る。

 茶奈はそれに対してただ一頷きを返すのみ。
 だけの事で、二人の間で言葉を交わす必要はもはや無いのだから。

「莉那ちゃん、カプロ、今回は敢えてアルクトゥーンを前進させなきゃいけない。 万が一に備えて防御システムは完璧に頼む」

 莉那もカプロも勇の一言を前に力強く頷く。
 元より不備は無い。
 でも二人の事だ、必要以上の手を加えてこれ以上に無い結果を導いてくれるだろう。

「イシュは俺と一緒にアルクトゥーンで本土に向かう。 俺を全力で守ってくれ」

「ええ、わかりました。 貴方を守る必要性を感じませんが、与えられた役目はこなしましょう」

 本土に付いても勇なりに成さねばならぬ事がある。
 一人では達成が困難と思えたからこその采配だ。

「概要は以上だ。 皆に任せっきりになるのは心苦しいけど……どうか頼む、俺に力を貸してくれ」

 そして最後に勇が見せたのは―――深く頭を下げた姿。
 自分の代わりに戦火を引き受ける仲間達に向けた、彼なりの誠意だった。

 きっとそんな行為など皆の前では何の意味も成さないだろう。
 皆が勇の事を信じ、付いてきているのだから。
 でもこう出来る彼だからこそ皆、今ここに居る。

 こんな彼だからこそ、人は惹かれてならないのだ。





「おう、そういう事なら俺も一枚噛ませな」





 そんな時、突如管制室の扉が消えて巨体がその姿を晒す。

 それは剣聖。
 どうやら勇達の話を影で聴いていた様だ。

「剣聖さんが!?」

「おうよ。 こうなった以上は俺もおめぇらに付いていくぜ。 目的が一緒なら構わねぇよなぁ?」

 もう勇達も、剣聖も進むべき道筋は一つになった。
 ここからはもう、師弟でも上に行く存在でも無い。
 共通の目的を持った仲間なのだ。

 それだけではない。
 勇達にとって剣聖という存在が如何に心強い事か。
 そう名乗り出た事が、たったそれだけで勇達への強い意思を更に強固とさせた。

「ええ……ありがとう、剣聖さん!!」

「剣聖さんが来てくれるなら鬼に金棒ですね!」

 強い意思は自信をもたらし、行動力を著しく増加させる。

 勇と剣聖。
 二人が持つ安心感とも言える存在感は、間違いなく今回の作戦に大きな影響を与えるだろう。

「計画の詳細は追って説明する。 開始は一週間後。 戦いは今まで以上に厳しくなる。 だからそれまでに皆、しっかりと準備を整えてくれ!!」





 こうして、勇によるエイミーとブライアンとの会合の末にグランディーヴァの道筋は定まった。
 決して楽とは言えぬ道のりだが、勇達にはもはや戸惑いなど在りはしない。
 勇の持つ絶対的な自信を信じ、その思惑を形にする為に。

 彼等はもう覚悟を決めたのだから。


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