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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~蒼燐と白輝 甦りし伝説の超金属~

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 その時、室内が騒然の声に包まれる。
 心輝が、茶奈が、瀬玲が、レンネィが。

 散々あれだけウンチクどうでもいいことを語られ続けた末に前言撤回された事に。

 カプロだけが「みんな喜んでくれてるッス」と勘違いしていたのは言うまでも無い。

「な、なぁおい、お前何話したんだよ!?」

 むしろ心輝の興味は勇へと向けられる。
 カプロをこれだけ唸らせたのだ……彼の持っていたが一体何なのか、惹かれざるを得なかったのである。

「ああ、ちょっとした裏技だよ。 折角だからア・リーヴェの知識にアクセスして、『あちら側』の古代技術の中にある失われた製法を教えたのさ」

『今は一大事ですから、こういった情報が必要であれば幾らでも提供する事が出来ます』

 すると……今まで潜んでいたのだろうか、勇の胸元のポケットからア・リーヴェが姿を現した。
 仲間達が「え、居たの!?」などと驚きを上げる中、勇の服を掴みながら必死に肩へと向けて登っていく。
 『んごおおお』などという小さな声が微かに聞こえていたが……揃って幻聴だと思った様だ。

『少なからず、世界が交わる事で良い事もあった様ですから。 これを機に利用した方が良いと思われます』

「いや、肩に乗る意味あったのか……?」

 勇の容赦の無いツッコミが、場に静寂をもたらす。
 突然の彼女の登場による驚きも合わさって……誰もが一言呟く余地すらありはしなかった。

『―――皆さまが私の事を忘れてしまったのかと思いまして』

「寂しがり屋かよッ!?」

 しかし途端に自慢の心輝節が炸裂する。
 手が動くのであれば間違いなくツッコミが飛んでいただろう。
 彼の代わりに瀬玲が手を振り抜いていた訳ではあるが。

 そんなツッコミが再び静寂を呼び、ア・リーヴェすらも押し黙る。



 そして何を思ったのか……そのまま勇の胸元ポケットへと戻っていったのだった。



「戻るのかよッ!?」

 世界を別った創世の女神は意外と繊細な様だ。
 頭だけをポケットから覗かせ、心輝に向けて哀しい目を向けていた。

「……な、なんていうのか、その、カプロに教えたのは古代で使われていた超金属の事さ」

「超……金属……!?」

 その単語を前に、今度は本当の意味での驚きで誰もが押し黙る。

「そう。 ほら、俺達の世界でも神話とかに出て来るだろ?」

「神話の素材!? オリハルコンとかアダマンティンとか言われてるやつか?」

 ギリシャ神話などで登場するのは神々だけではない。
 彼等が使う道具や、それを構築する素材など、様々な未知の物体が幾多にも登場する。
 心輝が言った金属もまた同様で、現代には存在しない、あるいは現存する金属であったなどという学説がある。
 例えばオリハルコンは希少価値の高い貴金属であり、真鍮か銅だったとも言われている。
 アダマンティンはただの硬い鉄であるといった様な、その程度の話でしかない。
 中には神話だけでなく古代超文明アトランティスで使用されていたとすら言われており、時代を超えてその物質の特殊性だけが独り歩きしている。
 ただそれらの精錬方法が伝わっていないから、誰もがそれを証明する事が出来ないだけだ。
 そもそも、そういった神話そのものが創作であるという観点もあり、証明する事の方が愚かであるといった風潮すらある程である。

 だが、それすらも……彼等には真実を証明出来る論拠がある。

「ああ。 実はな、ああいう神話って……『あちら側』での出来事を興したものなんだよ」
「「「ええええ!!?」」」

 これにはさすがのカプロも驚きを隠せない。
 当然だ、神話とは当然『こちら側』の物の事。
 そんな物語が生まれた時、既に『こちら側』と『あちら側』は別れているのだから。

 全く接点の見当たらない話に、矛盾すら感じずには居られないだろう。

 ただそれも、れっきとした理由があったのだ。

「ほら、ア・リーヴェが言っただろ、二人の天士が無数に散って人の心に入ったって。 それで天士が持っていた『あちら側』の記憶が、宿った人々の記憶に混じったんだ。 それで無意識にその記憶が神々の行った所業、神話って形に置き換えられて残ったのさ」

「マ、マジかよ……」

「もちろん全部がそうって訳じゃないけど、大きく影響を受けていたり、中にはまんまってのもある。 神話に出て来る神のモチーフは『あちら側』の人達だったんだよ」

『アルトランをモチーフにしたお話もありますからね』

 言うなれば、『あちら側』で起きた戦争が神話での出来事と大体一致するという事だ。
 神話の戦いの殆どが人知を超えた物……早い話、命力や天力を使った戦いが描かれていたという事。
 当然、それは国を変え、大陸を超えて様々な風土に合った形で興されている。
 全く違う土地で生まれた宗教にも拘らず共通点が見られたりなどするのは、同じ記憶を基に創られた話だからという訳だ。

「でも、当時の製法を再現する事は現代には出来ないんだ。 それは何故か……」

「あっ!! 世界が隔てられた事で物質も別れたって言ってましたよね!?」

 先日のア・リーヴェによる語りの折、彼女はそう一言だけ言っていた。
 そこでようやく、彼等の中で全てが繋がる。

「そういう事。 本来一つだった時には造れていた金属も、世界が別れた事で造れなくなったんだ。 でも今、世界が僅かにだけど一つになった。 だから今なら造れるんだ。 かつて古代で生み出した、今の金属の物性をも超える超金属をね」

 その兆候は僅かだが、知らぬ内に出て来てはいた。
 勇達が現在使用している魔装の内蔵装甲板『アドミニリウム』はあちら側の鉄材を使用した新機軸化合金属である。
 物性こそ現行の金属と比べても大差は無いが、それでも強力な剛性と粘性を誇り、新時代の素材として技術界では注目を浴びている程の物。

 それを超え、かつ魔剣に最適な素材を……勇とア・リーヴェは知っていた。



「その名が【蒼燐合金鋼そうりんごうきんこうアーディマス】と【白輝霊鍮はっきれいちゅうエテルコン】……最強無比の硬度バランスを誇る金属と、最高効率の命力伝導率を誇る貴金属だよ」



 その名が出た途端、部屋中に「おお……」と言った驚愕の声が響き渡る。
 新素材の存在感とその力強さ……それを名前からすら感じ取れる気がして。

 共にこの星が誇る最高の素材であるという事。
 そこに期待を抱かずにはいられない。

「まぁどっちも命力が通わないと普通の金属と大差無いんだけどな」

「ええー……」

 当然だ、物理的な組成には何物にも限度がある。
 ただどれだけ命力という追加要素プラスアルファに対しての伸び代があるか……そこにこそ、この金属達の強さの秘密が隠されているのだ。

 例え現代でそんな素材が持ち込まれても、判別などつきはしないのである。



 そう、既にその金属の一部は……知らぬ間にこの世界に存在している。



「古代三十種もそれらの素材で構成されているんだよ。 【大地の楔】もエテルコン製なんだけどさ、俺の命力が低かったから壊れちゃったんだ」

 フララジカが始まってから間も無い頃、勇は福留に魔剣【大地の楔】を手渡した事がある。
 その後、福留は【大地の楔】の構造を当時の科学技術で調査したのだが……調査結果は「普通の銅」という事だった。
 現代科学ではその程度にしかわからないのだ。
 ただそれは命力を通わせる事で幾倍にも強化する事が出来る。
 だから当時の勇の様な小さな力しか持たない者でも普通に武器として扱う事が出来たのである。
 これを考えれば、エテルコンという素材が如何に強固な物質と成りうるというのがわかるだろう。

「素材強度の低いエテルコンでそれなんだぜ、アーディマスならほぼ不壊だと思っていいよ。 ちょっとばかし重いけどな」

「で、でもよ、そんな素材作れるのかよ。 材料とか色々必要なんじゃねぇの?」

 心輝の心配ももっともな事で。
 何せ神話に出て来る素材と呼ばれる素材はハッキリ言ってメチャクチャだ。
 「〇〇の吐息」だの「××の髭」だの、形として存在しない物から神話上の生物の一部までをも使用したものばかり。
 普通に考えれば容易に手に入るとは考えにくい。

 しかしそれも彼の杞憂に過ぎないのだが。

「理論的にはすぐにでも造れるッスよ。 ちょっと面倒臭いッスけどね」

「なぬ!?」

「当たり前ッス。 精錬方法はただ一つ、とある二種の現存する金属にボクら魔者の命力を篭めればいいだけッスから。 ちなみにその金属素材はどっちも資材にちゃんとあるッス」

 なんて事は無かったのだ。
 命力に最も相性の良い素材は、命力によって造られる。
 伝説に詠う素材は……魔者という『こちら側』に存在しない生物によって造られた物なのだから。
 『あちら側』でも素材が足りなくなったから造れなくなった……それだけに過ぎない。

 非常に単純明快な答えだったのである。

「ま、その調整方法も色々面倒だから、これから色々実験的に試していきながら造っていけばいいだけッス。 イイ物造りたいッスからね」

「お、おお……頼むぜぇカプロ!!」

「任せるッスよぉうぴぴ!! 折角だから皆の武器もバージョンアップするッスかねぇ~」

「あ、じゃあせめてそれまでの繋ぎに【ユーグリッツァー】の複製お願いしてもいいですか?」

「そっちはちょちょいのちょいッス。 手が空いたらやっとくッスよ~」

 たちまち室内に希望が溢れ、和気藹々とした空気に包まれる。
 全ての問題を解決し、彼等はまた一歩前へと進んだのだ。

 多くの期待を胸に、勇達はカプロに全てを託した。
 後は完成を迎えるのみ。

 新たな力の胎動……その先に見える物とは。



 きっと近い内、その雄姿を彼等の前に見せる事となるだろう。


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