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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
~愛情と切情 女の誇りと男の無知~
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もはや戦う力を欠片も残さぬ心輝。
そんな彼の口から必死に吐露された想いは……彼の無念をこれ程とまでに勇の心に響かせた。
そしてその想いは彼だけでなく、かの者にまで確かに届いていたのだ。
「シンッ!!」
突如、甲高い声がその場に響き渡った。
その声を耳にした勇と心輝の目が見開かれる。
それは二人が……心輝が良く知る声色だったから。
勇が咄嗟にその顔を振り上げ、声の元へと視線を向ける。
その先に見えたのは……二人の女性の姿。
レンネィである。
そしてその背後に立つのは、戦いを観ていたはずの瀬玲だった。
「レンネィさん……セリ、どうしてここに!?」
「レンネィさんが来るのが見えたからね、連れてきた」
そう、瀬玲は気付いたのだ。
二人の戦いの最中、遠くを走る見慣れた軽自動車の姿を。
それは遠視の能力を身に備える彼女だからこそ。
遅れて来る予定だったレンネィがこの時になってようやく訪れたのである。
レンネィの乗った車を見つけた瀬玲は即座に移動し、レンネィをこの場へと連れて来たのだ。
それがこの戦いを最も正しい形で終わらせる事が出来ると思ったから。
「あ……レ、レン……ネィ」
「シン!!」
勇に抱えられた心輝の目が泳ぎながらもレンネィの姿を必死に追う。
レンネィはそんな彼へと一目散に駆け寄ると、勇の代わりに抱き上げた。
ボロボロに成り果てた心輝を前に、レンネィまでもがその目を潤わせる。
しかし気丈な彼女は「グッ」と目を閉じ絞ると……そっと健やかな微笑みを向けたのだった。
「話はセリから全部聞いたわ。 ごめんなさい、私の所為で―――」
そっとその膝を折り、大地へと下ろす。
心輝の体ごと屈み込むと……そのままゆっくりと大地へと向けて降ろし、寝そべらせた。
「そしてありがとう。 貴方の想い、凄く凄く嬉しいわ……」
「レンネィ、俺……俺……」
彼女の手が心輝の頬へ優しく触れ、そっと撫で上げる。
肌を伝わる慈しみが……荒んでいた心輝の心を癒すかのよう。
気付けば心輝の強張っていた表情は和らぎ、落ち着きを取り戻していた。
すると、心輝の頬を触れていた手が「スッ」と離れ……途端に心地良さを失わせる。
それに気付き心輝が見上げると……落ち着いていたはずの彼の顔が唖然の表情へと移り変わった。
その目に映ったのが……レンネィの哀しみに帯びた表情だったのだから。
「でもねシン……そんな貴方の行動を、私は受け入れられない」
心輝の目がたちまち見開かれ、瞳孔を大きく震わせる。
自身の行動の否定……彼女を守ろうと必死だった事への。
それがとても信じられなくて。
「私は貴方から守ると言われた時、本当に嬉しかった。 だから私は貴方と共に生きる事を選んだの。 でもね、それは貴方がいつか私とだけでなく他の人達とも楽しく生きていける世界を作ってくれると信じたから」
しかし心輝の取った行動は違った。
彼女だけを守れればそれでいい……それがこの事の発端となった理由。
それは言われなくても簡単にわかるくらいに単純明快だったのだ。
「私は貴方が世界を救う為に発った時、誇りに思ったわ。 貴方と勇に任せればきっと何もかもが上手く行く、あわよくば私の命も救ってくれるかもしれないって」
「レ、レンネィ……それは―――」
「でも貴方は私の所為でこんな事を起こしてしまった……私はそれが悔しい!! 貴方をこうさせてしまったこの体が憎い!!」
レンネィが「ギリリッ」と歯を食いしばらせ、苦悶の顔を浮かべる。
そして心輝を大地に置き去りにしたまま……その身を起こさせた。
「シン、私はね、貴方の枷にはなりたくないの。 私の存在が貴方を狂わせるのならば……私はもう、自分すら惜しくは無い」
「レンネィさんッ!? 何を言ってッ!?」
そんな時、勇が声を荒げて叫ぶ。
だがその彼へ向けて、レンネィの掌が声を遮る様に突き出された。
「レンネィ……待ってくれ……待って―――」
「私は貴方に出会えて本当に良かった。 それが人としての私の最高の幸せ」
勇も、瀬玲も、レンネィの覚悟とも言える言葉を前にもはや口を出す事すら叶わない。
出してしまう事すら躊躇う程に……彼女の言葉は余りにも、心を震えさずにはいられなかったから。
その中でレンネィはその顔を引き締め、かつて戦士だった頃の面影を取り戻す。
「例え戦いから退いても、私は戦士。 誇り高き魔剣使い、【死の踊り】レンネィ。 明日の為ならば自らこの命を散らす事に躊躇いは無いッ!!」
途端、彼女が心輝にも見える様に舌を大きく覗かせる。
それを見せる事の意味……それに気付いた心輝が力の限り、腕を振り起す。
「駄目だ、レンネィ……ッ!!! だめ……だ……ッ!!」
それでも届かない。
弱り切った彼の腕はもう……彼女には届かない。
「さようならシン……今までありがとう」
遂に、彼女の口が……舌を出したまま閉じきられる。
「うわあああああああ!!! レンネェーーーーーーーーーイッッッ!!!!」
心輝の叫びが木霊する。
勇が、瀬玲が驚き、目を見張らせる中で。
それ程までの誇り。
それ程までの覚悟。
心輝の覚悟すら霞む程に……その様は戦士として雄々しく。
そして時には……欺かせる。
「―――なんてね」
「「「えっ!?」」」
誰もが彼女が命を絶った……そう思っていた。
だがそんなレンネィは在ろう事か……噛み切ったはずの舌を「ペロリ」と覗かせ、微笑んで見せたのだ。
それにはさすがの勇達も唖然とせざるを得なかった。
「あ……レ、レンネィ……?」
「私だって命くらい惜しいわ、自殺なんて出来る訳も無い」
いじらしい笑みを浮かべ、してやったりと言わんばかりに「ウフフッ」と笑い声を上げる。
勇と瀬玲に至っては首を落として見上げる様にジト目を向けていた。
「でもねシン、貴方のやろうとした事は今の私と同じ事なのよ。 貴方は何もわかっていないのよ」
「わかって……ない……?」
「そう。 貴方は私の事を何もわかってない。 私がそんな守り方を望むと思う? この私が!」
その一言を前に、心輝が思わず口を詰まらせる。
言葉が見つからず、多様に口元を動かすのみ。
「結局貴方がやろうとしていたのはね、独りよがりなの。 誰も得しない。 そういう所を考えない所が貴方らしいけど、貴方の欠点でもあるって事」
「う……」
心輝も今の一言には図星だった様で。
弱り切った中でも、わかりやすい表情を浮かべさせる。
「さっきも言ったけれど、私は貴方も皆も生きてくれた方が嬉しい。 例え私が死のうともね。 でも、きっと勇か他のお熱い誰かさんが私の事も救ってくれるだろうから……それを信じる。 人任せなのは辛いけど、勇も彼もお人好しだから、頼ってもいいわよねぇ?」
するとレンネィは「ニコッ」とした笑みを勇へ向け、ウィンクを飛ばす。
そんな彼女を前に……勇はガクリと頭を落として大きな溜息を吐きながらも、小さなサムズアップを見せるのだった。
レンネィの裏では瀬玲も「仕方ないわねぇ」とぼやきつつも苦笑を浮かべていた。
「そういう訳だから。 それでも裏切るなら構わないわ。 でもその時は私も本当に覚悟を決めるからそのつもりで居なさい」
「お、おう……」
ここまで言われれば、さしもの心輝も事の重大さを受け入れ委縮する。
こうでもしないときっと彼はわからなかったのだろう。
さすがのレンネィ……彼の妻となったからこそ、彼の事を一番に理解しているという事か。
そんな心輝を前に、レンネィが再び身を屈めてその手を伸ばす。
「でももうしないのなら、また私が貴方をこうして抱いてあげるから……だから安心しなさい」
「うん……うん……」
こうなるともはや夫婦と言うよりも親子のよう。
それでも互いに受け入れるのは、二人がそれも含めて認め合っているから。
レンネィが心輝をそっと抱え上げ、柔らかな胸に受け入れる。
そうなった時、心輝は穏やかな笑顔を浮かべていた。
たちまち開いていた目はゆっくりと閉じ始め、ガクリと顎を落とす。
死んではいない……虫の息だが、気を失っただけだ。
心が休まってここでようやく緊張の糸が解けたのだろう。
そこで瀬玲が駆け寄り、レンネィの代わりに心輝を抱く。
彼女だけが傷付いた心輝を物理的に癒す事が出来るのだ、今だけは仕方がない。
「まったく、世話が焼けるんだから」
そう言いながらも、瀬玲もどこか安心したのか微笑みを浮かべていた。
勇もレンネィも同様に……事の終わりを確信し、安堵の溜息を吐き散らすのだった。
こうして、勇と心輝の壮絶な喧嘩が幕を閉じた。
観客である傍聴参加者達が安全確認を行った後、鷹峰を残してその場から帰っていく。
鷹峰も最後に福留に一言言い残すと、興奮の余韻を残したまま軽快に退艦していった。
「こうなると思った時は先に教えてくださいね。 今回の修繕費だけは国費で賄いますが、誤魔化すのはやっぱり難しいですから。 今回野党の代表の方々が参列して頂けたのでなんとかなるとは思いますけども」
やはり鷹峰には全てはお見通しだったようだ。
国政が関わるともなれば今回の事も一大事だった様で。
何せ相模湖南の森半分が荒れ地と化したのだ、誤魔化すのは至難の業だ。
その後、福留が怒り狂ったのは言うまでも無いだろう。
しかし今回の出来事が心輝にとっての大きな分岐点となったのは間違いない。
それも良い方向に傾倒したのは、不幸中の幸いだろう。
おかげで心輝の意思は以前と変わらぬまま……勇達と共に歩み続ける事を選んだ。
今は戦いで受けた傷を癒し、来たるべき日に備える。
近い内また勇達と共に大空を翔る為に。
彼等を乗せた巨龍は再び空を発つ。
新たな想い、誓いをその胸に抱いて。
そんな彼の口から必死に吐露された想いは……彼の無念をこれ程とまでに勇の心に響かせた。
そしてその想いは彼だけでなく、かの者にまで確かに届いていたのだ。
「シンッ!!」
突如、甲高い声がその場に響き渡った。
その声を耳にした勇と心輝の目が見開かれる。
それは二人が……心輝が良く知る声色だったから。
勇が咄嗟にその顔を振り上げ、声の元へと視線を向ける。
その先に見えたのは……二人の女性の姿。
レンネィである。
そしてその背後に立つのは、戦いを観ていたはずの瀬玲だった。
「レンネィさん……セリ、どうしてここに!?」
「レンネィさんが来るのが見えたからね、連れてきた」
そう、瀬玲は気付いたのだ。
二人の戦いの最中、遠くを走る見慣れた軽自動車の姿を。
それは遠視の能力を身に備える彼女だからこそ。
遅れて来る予定だったレンネィがこの時になってようやく訪れたのである。
レンネィの乗った車を見つけた瀬玲は即座に移動し、レンネィをこの場へと連れて来たのだ。
それがこの戦いを最も正しい形で終わらせる事が出来ると思ったから。
「あ……レ、レン……ネィ」
「シン!!」
勇に抱えられた心輝の目が泳ぎながらもレンネィの姿を必死に追う。
レンネィはそんな彼へと一目散に駆け寄ると、勇の代わりに抱き上げた。
ボロボロに成り果てた心輝を前に、レンネィまでもがその目を潤わせる。
しかし気丈な彼女は「グッ」と目を閉じ絞ると……そっと健やかな微笑みを向けたのだった。
「話はセリから全部聞いたわ。 ごめんなさい、私の所為で―――」
そっとその膝を折り、大地へと下ろす。
心輝の体ごと屈み込むと……そのままゆっくりと大地へと向けて降ろし、寝そべらせた。
「そしてありがとう。 貴方の想い、凄く凄く嬉しいわ……」
「レンネィ、俺……俺……」
彼女の手が心輝の頬へ優しく触れ、そっと撫で上げる。
肌を伝わる慈しみが……荒んでいた心輝の心を癒すかのよう。
気付けば心輝の強張っていた表情は和らぎ、落ち着きを取り戻していた。
すると、心輝の頬を触れていた手が「スッ」と離れ……途端に心地良さを失わせる。
それに気付き心輝が見上げると……落ち着いていたはずの彼の顔が唖然の表情へと移り変わった。
その目に映ったのが……レンネィの哀しみに帯びた表情だったのだから。
「でもねシン……そんな貴方の行動を、私は受け入れられない」
心輝の目がたちまち見開かれ、瞳孔を大きく震わせる。
自身の行動の否定……彼女を守ろうと必死だった事への。
それがとても信じられなくて。
「私は貴方から守ると言われた時、本当に嬉しかった。 だから私は貴方と共に生きる事を選んだの。 でもね、それは貴方がいつか私とだけでなく他の人達とも楽しく生きていける世界を作ってくれると信じたから」
しかし心輝の取った行動は違った。
彼女だけを守れればそれでいい……それがこの事の発端となった理由。
それは言われなくても簡単にわかるくらいに単純明快だったのだ。
「私は貴方が世界を救う為に発った時、誇りに思ったわ。 貴方と勇に任せればきっと何もかもが上手く行く、あわよくば私の命も救ってくれるかもしれないって」
「レ、レンネィ……それは―――」
「でも貴方は私の所為でこんな事を起こしてしまった……私はそれが悔しい!! 貴方をこうさせてしまったこの体が憎い!!」
レンネィが「ギリリッ」と歯を食いしばらせ、苦悶の顔を浮かべる。
そして心輝を大地に置き去りにしたまま……その身を起こさせた。
「シン、私はね、貴方の枷にはなりたくないの。 私の存在が貴方を狂わせるのならば……私はもう、自分すら惜しくは無い」
「レンネィさんッ!? 何を言ってッ!?」
そんな時、勇が声を荒げて叫ぶ。
だがその彼へ向けて、レンネィの掌が声を遮る様に突き出された。
「レンネィ……待ってくれ……待って―――」
「私は貴方に出会えて本当に良かった。 それが人としての私の最高の幸せ」
勇も、瀬玲も、レンネィの覚悟とも言える言葉を前にもはや口を出す事すら叶わない。
出してしまう事すら躊躇う程に……彼女の言葉は余りにも、心を震えさずにはいられなかったから。
その中でレンネィはその顔を引き締め、かつて戦士だった頃の面影を取り戻す。
「例え戦いから退いても、私は戦士。 誇り高き魔剣使い、【死の踊り】レンネィ。 明日の為ならば自らこの命を散らす事に躊躇いは無いッ!!」
途端、彼女が心輝にも見える様に舌を大きく覗かせる。
それを見せる事の意味……それに気付いた心輝が力の限り、腕を振り起す。
「駄目だ、レンネィ……ッ!!! だめ……だ……ッ!!」
それでも届かない。
弱り切った彼の腕はもう……彼女には届かない。
「さようならシン……今までありがとう」
遂に、彼女の口が……舌を出したまま閉じきられる。
「うわあああああああ!!! レンネェーーーーーーーーーイッッッ!!!!」
心輝の叫びが木霊する。
勇が、瀬玲が驚き、目を見張らせる中で。
それ程までの誇り。
それ程までの覚悟。
心輝の覚悟すら霞む程に……その様は戦士として雄々しく。
そして時には……欺かせる。
「―――なんてね」
「「「えっ!?」」」
誰もが彼女が命を絶った……そう思っていた。
だがそんなレンネィは在ろう事か……噛み切ったはずの舌を「ペロリ」と覗かせ、微笑んで見せたのだ。
それにはさすがの勇達も唖然とせざるを得なかった。
「あ……レ、レンネィ……?」
「私だって命くらい惜しいわ、自殺なんて出来る訳も無い」
いじらしい笑みを浮かべ、してやったりと言わんばかりに「ウフフッ」と笑い声を上げる。
勇と瀬玲に至っては首を落として見上げる様にジト目を向けていた。
「でもねシン、貴方のやろうとした事は今の私と同じ事なのよ。 貴方は何もわかっていないのよ」
「わかって……ない……?」
「そう。 貴方は私の事を何もわかってない。 私がそんな守り方を望むと思う? この私が!」
その一言を前に、心輝が思わず口を詰まらせる。
言葉が見つからず、多様に口元を動かすのみ。
「結局貴方がやろうとしていたのはね、独りよがりなの。 誰も得しない。 そういう所を考えない所が貴方らしいけど、貴方の欠点でもあるって事」
「う……」
心輝も今の一言には図星だった様で。
弱り切った中でも、わかりやすい表情を浮かべさせる。
「さっきも言ったけれど、私は貴方も皆も生きてくれた方が嬉しい。 例え私が死のうともね。 でも、きっと勇か他のお熱い誰かさんが私の事も救ってくれるだろうから……それを信じる。 人任せなのは辛いけど、勇も彼もお人好しだから、頼ってもいいわよねぇ?」
するとレンネィは「ニコッ」とした笑みを勇へ向け、ウィンクを飛ばす。
そんな彼女を前に……勇はガクリと頭を落として大きな溜息を吐きながらも、小さなサムズアップを見せるのだった。
レンネィの裏では瀬玲も「仕方ないわねぇ」とぼやきつつも苦笑を浮かべていた。
「そういう訳だから。 それでも裏切るなら構わないわ。 でもその時は私も本当に覚悟を決めるからそのつもりで居なさい」
「お、おう……」
ここまで言われれば、さしもの心輝も事の重大さを受け入れ委縮する。
こうでもしないときっと彼はわからなかったのだろう。
さすがのレンネィ……彼の妻となったからこそ、彼の事を一番に理解しているという事か。
そんな心輝を前に、レンネィが再び身を屈めてその手を伸ばす。
「でももうしないのなら、また私が貴方をこうして抱いてあげるから……だから安心しなさい」
「うん……うん……」
こうなるともはや夫婦と言うよりも親子のよう。
それでも互いに受け入れるのは、二人がそれも含めて認め合っているから。
レンネィが心輝をそっと抱え上げ、柔らかな胸に受け入れる。
そうなった時、心輝は穏やかな笑顔を浮かべていた。
たちまち開いていた目はゆっくりと閉じ始め、ガクリと顎を落とす。
死んではいない……虫の息だが、気を失っただけだ。
心が休まってここでようやく緊張の糸が解けたのだろう。
そこで瀬玲が駆け寄り、レンネィの代わりに心輝を抱く。
彼女だけが傷付いた心輝を物理的に癒す事が出来るのだ、今だけは仕方がない。
「まったく、世話が焼けるんだから」
そう言いながらも、瀬玲もどこか安心したのか微笑みを浮かべていた。
勇もレンネィも同様に……事の終わりを確信し、安堵の溜息を吐き散らすのだった。
こうして、勇と心輝の壮絶な喧嘩が幕を閉じた。
観客である傍聴参加者達が安全確認を行った後、鷹峰を残してその場から帰っていく。
鷹峰も最後に福留に一言言い残すと、興奮の余韻を残したまま軽快に退艦していった。
「こうなると思った時は先に教えてくださいね。 今回の修繕費だけは国費で賄いますが、誤魔化すのはやっぱり難しいですから。 今回野党の代表の方々が参列して頂けたのでなんとかなるとは思いますけども」
やはり鷹峰には全てはお見通しだったようだ。
国政が関わるともなれば今回の事も一大事だった様で。
何せ相模湖南の森半分が荒れ地と化したのだ、誤魔化すのは至難の業だ。
その後、福留が怒り狂ったのは言うまでも無いだろう。
しかし今回の出来事が心輝にとっての大きな分岐点となったのは間違いない。
それも良い方向に傾倒したのは、不幸中の幸いだろう。
おかげで心輝の意思は以前と変わらぬまま……勇達と共に歩み続ける事を選んだ。
今は戦いで受けた傷を癒し、来たるべき日に備える。
近い内また勇達と共に大空を翔る為に。
彼等を乗せた巨龍は再び空を発つ。
新たな想い、誓いをその胸に抱いて。
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