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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~粉砕と破砕 物理物質の限界点~

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 相模湖の周辺は木々が生い茂っており、自然の雄大さをありありと見せつける。
 南部は特に広大で、自然に加えてキャンプ場や遊泳施設、宿泊施設などの娯楽に向けた設備が整っている程だ。
 レジャーなどで訪れればきっと多くの顧客が満足出来る事だろう。
 アルクトゥーンが駐留している所為で出入り禁止となって人こそ居ないが……彼等が居なければ、シーズンともあって多くの人々が出入りしていたかもしれない。

 しかし……そんな場所は今、戦場と化した。
 たった二人の男が己の信念の下に命を懸けて戦う戦場へと。

 その戦いは……まだ続く。





 誰しもが終わりだと思っていた。
 大地を抉るクレーターは、心輝を砕いた証拠とも成りえたのだから。

 だがこの時、皆が目を疑う。

 クレーターが突如として赤黒い爆炎に包まれたのだ。
 そして一筋の白い光が一直線に空へと舞い上がる。

 心輝である。

 彼はまだ戦えたのだ。
 超再生能力によってを再生させ、怯む事無く戦意を迸らせる。
 その全身から流血しながらも……闘志を一滴たりとも漏らす事無く。

 もはや超再生能力ですら回復は追い付いてはいない。
 それでも心を折る訳にはいかなかった。
 もし折れてしまえば、その時点で体は動かなくなるだろう。

 不退転。
 彼が止まれないというのはそういう事に他ならない。

 心輝は己の感情を昂らせる事で命力効率が上がるという特異な体質を持つ闘士ファイターだ。
 加えて炎熱放射能力を持つ魔剣【グワイヴ】との相性が拍車を掛け、今の様な力を得るに至ったのだろう。
 逆に言えば、感情が収まれば命力効率は格段に落ちてしまう。
 それはすなわち、超回復能力すら衰えてしまうという事。
 その上でこれ程までのダメージを負ったのだ……もし止まれば、その時点で死すらも有り得る。

 勝利失くして生は得られない……それ程までにリスキーな力。
 それを心から理解しているから、彼は「止まらない」と宣言したのだ。



 戦いの意思云々ではなく……ただ決死の覚悟を決める為に。



「ッガァァァーーーーーー!!!!」
 
 己の意思の赴くがままに。
 愛と、意地と、根性と。
 想いを全て雄叫びへと換えて。
 我が身を顧みる事も無く。
 その姿はまるで……今は亡き妹、亜月と面影を被らせる。

 やはり二人は兄妹だったのだ。

 似ていない様で。
 でもこうして似ていた。
 奇しくも戦いという同じ場で、命を懸けて心で叫ぶ。

 想いを貫く為に。

 勇は心輝を叩き付けた反動で未だ空の上。
 彼の体が自由落下を起こす間も無く、心輝が飛び上がったのである。

 心輝の左腕に全身全霊を籠めて。
 肉体をバネに、殴られた衝撃を反力に換えて。
 漲る命力を爆発力に換えて。
 自身の体を犠牲にした最大最高の渾身の一撃が今、撃ち放たれる。

 勇もまた彼が来るのを予感していたから。
 その一瞬に己の力を再び籠め。
 体に備わりし無限の天力を推進力に換え、心輝の一撃に真っ向から立ち向かう。 
 撃ち降ろせしは虹光の拳。

 二人の拳が撃ち放たれた時、その場は光に包まれる。



ズオオオオッッッ!!!!!



 虹の光と白炎の光。
 全て交わり、極光と成す。

 途端、激しい光が周囲へ弾け飛ぶ。
 火花にすら見える程に、煌めき瞬かせながら。
 衝撃波が吹き荒れ、大地の木々を螺旋状に煽り、薙ぎ倒して。

 全ては一瞬の間の出来事。

 そして全ての力が拡散した時……二人の力のぶつかり、その末を映し出す。

 空の中で突き合わされる二人の拳。
 勇・心輝共に腕を真っ直ぐに伸ばしきりながら。
 全ての力が紛れも無くその一撃に乗っていた。



バキギャンッッッ!!



 その時、甲高い断裂音が二人の間に響き渡る。

 なんと心輝の左腕に備えた魔剣【グワイヴ】に無数の亀裂が走ったのだ。
 更に衝撃が表皮から幾多もの破片を撒き散らさせる。
 命力珠すら弾け飛び、破片は砂と化しながら飛び散っていた。

 凄まじい力同士のぶつかり合いは、もはや物理物質の組成では耐えきれぬ程に強烈だったのである。

 心輝の腕すら例外ではない。
 骨にすら亀裂が走り、関節が砕け散り。
 肉が、筋肉が、断裂し、血飛沫を撒き散らせる。

 対して勇の創世拳は……無傷。

 創世拳が撃ち放たれた衝撃の殆どを吸収し、彼の体を守っていたのだ。
 その構成素体は物理物質では無く、この次元に本来存在しえない亜次元構造体。
 原理そのものが違うのだ、物理物質では砕く事など不可能。

 それ故に、全ての力は心輝へと還り……魔剣と腕を砕いたのである。



 だがそこで空かさず動いたのは……心輝だった。



 自身の腕を犠牲にしながらも、超再生によって腕の機能だけを取り戻させる。
 その力を振り絞り、砕けた手で勇の拳を掴み取ったのだ。

 先程の勇と同じ様に……爆炎を使わずに己の肉体で力を奮う。

 あっという間に勇の目前へと自身を引き込み……右足による鋭い蹴撃を繰り出した。
 勇の頭部を狙う、横薙ぎの一閃。
 
バギャンッ!!

 鈍い音が響く。
 しかしそれもまた、勇の読み通りだった。
 掲げられた左腕が彼の頭部を守り、心輝の蹴撃を防ぎきったのだ。

メキキッ!!

 その反動が右足に備えた【イェステヴ】すら砕かせ、破片を撒き散らせる。
 先程地上へ落ちた際、落下の衝撃を全て受け止めたのだ……元々砕けていたのだろう。

「ちいいッ!!!」

 なお心輝の行動は留まる所を知らない。
 創世拳の装甲上で撃ち当てた脛を走らせる様に心輝の体が高速回転する。
 砕けた魔剣の鎖帷子を内部から引き千切りながら。

 左足の魔剣が火を噴き、回転力を生んだのである。

 その鋭く柔軟な身のこなしは元来、彼の得意とする所。
 勇の動きよりも洗練された回転が、最大限の力を発揮させていた。



ドッギャアーーーーーーンッッッ!!!



 回転から生み出されたのは左足での蹴り落とし。
 それが見事直撃し、今度は勇が地上へと向けて落下していった。

ドッバォウ!!

 間髪入れず心輝が右腕と左足の魔剣から炎を放ち、勇を追い掛ける。
 魔剣を半分失ったが故に出力は落ち込み、もはや彼の落下速度は自由落下にも近い。

 それでも十分だった。
 ただ追うだけで良かったのだから。
 魔剣を失った以上、空中で満足に戦う事は出来ない。

 ならば地上で決着を付けるのみ。
 心輝だけでなく勇もまた、同じ想いを脳裏に巡らせながら地上へと落ちていく。



 こうして二人の戦いはとうとう地上戦へともつれ込むのだった。


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