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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」
~再生と灰塵 二人はもう止まらない~
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バキバキバキキ……
幹が弾け、支えを失った木々が次々と倒れていく。
同時に、余りにも強く打ち付けられたが故に弾けて舞っていた木々もが大地に落下し、激しい音を打ち鳴らしながら反り跳ねていた。
それらの原因を作ったのは……勇に殴られ飛ばされた心輝。
「グホッ……ガ……がはっ……」
麻痺……余りの威力に呼吸が止まり、その身が動かせなくなる程の痺れが襲う。
悶絶……自身の体が壊れなかった事が幸いであると思える程の苦しみが全身を駆け巡る。
吐血……内臓の一部が大きなダメージを受けている証拠。
たった一撃……たった一撃で、こうまでにも打ちのめされたのだ。
強くなったつもりだった。
勇が退いた後、代わりになろうと影で誰よりも努力したつもりだった。
本当はバロルフにだって負けない事くらいは知っていた。
隙を見せたつもりなんてこれっぽっちも無かった。
でも、それすら無為に消えた……たった一撃で。
まるで今までが無駄だと思えてしまう程に次元が違い過ぎたのだ。
これが天士なのだと。
これが天力なのだと。
理解に至るにはそう掛からなかった。
「言ったハズだ、お前を止めると」
木々が倒れ、静まりを見せたその先から……近づく人影が一人。
いや、もはや影では無いだろう。
激しい光を撒き散らすその様は……人光。
「俺は例えお前がこの先戦えない体になろうとも、想い留めるまで手を緩めるつもりは無い……!!」
一歩づつ、ゆっくりと確実に。
その意思、その想いの赴くままに。
天士・藤咲勇がその力を吐き出しながら、倒れた心輝の前に立つ。
「ぐぅ……かはッ、て、め……ッ!!」
心輝も負けじと大地に拳を突いて立ち上がる。
しかしその身は震え、今にも倒れそうな様相。
なんとか二つの足で地に付くも……脇腹を抑え、土まみれの顔に脂汗が滲み出る。
なおダメージは深刻な程に体を蝕んでいる様であった。
その目に映るのは、勇の両腕。
ハッキリと具現化された……白の両腕甲。
「どういう事だ、その腕ァ……!!」
創世の鍵、創世の剣。
初めて聴いた時からそれはそういう物だと思っていた。
顕現した時も、剣なのだと思っていた。
だがそれは違ったのだ。
「創世剣はあくまで俺の意識が生み出した最適解に過ぎない。 創世の鍵から通じて得られる力は自由に具現化出来るんだ。 例えばそう、これは敢えて呼ぶなら……〝創世拳〟だな」
その形もまた、彼にとっての最適解。
心輝相手を想定とした……彼と全く同じスタイル。
「俺と同じ力でねじ伏せるってぇのかよ、ふざけんな……」
途端、心輝が脇腹を抑えていた手をだらりと垂らす。
わなわなと溢れ出る怒りのままに、その拳を握り締め。
気付けば……先程まで悶絶していたとは思えない程に、力強く立つ様を見せていた。
まるでもう痛みなど無いと言わんばかりに……。
過去二年間の一時期、心輝はずっと考えていた。
「自分にとっての強みとは何か」と。
アストラルエネマに目覚めて久しい茶奈は無限の命力によって無敵にも近い攻撃力と防御力を有している。
瀬玲は繊細かつ精密で確実な命力の扱い方を会得した後、命力操作技術に卓越する事で支援すら多種多様に行える様になった。
格闘であればイシュライトの天性の才能と努力の賜物により、魔剣が無いにも拘らず最高峰の実力を誇る程。
彼等を前に、儚くも凡人に近い心輝には特筆するべき点は無かった。
その後……苦心の末、考え付いたのだ。
強みが無いのであれば、創ればいいのだと。
前線にて戦う事が多い心輝にとって、負傷とは隣り合わせだ。
傷を負えば体の動きは鈍くなり、自身の長所をも殺す事になる。
ならば傷を負っても構わない、即時に再生してしまえばいい。
瀬玲やイシュライトの持つ【命力循環法】とは違う。
自身だけの力で自然治癒能力を極限にまで高める方法だ。
それは幸運にも【グワイヴ】の持つ炎の力と非常に相性が良かった。
自身を内燃機関として命力を押し込めて細胞を活性化し、凄まじい速度での再生を促す。
その上で発生する熱をコントロールし、魔剣の排熱機関を利用して命力の炎を自身の体へと循環させる。
纏う炎は自身の命力によるもの。
放出する様に見せかけ、その力は自身に戻り、再び再生を促す力へと変換される。
そうして実現したのが……【超再生能力】。
自身を震わせて瞬時に再生し、戦いを繰り返す修羅。
ありとあらゆる事象生みし命力を無駄無く循環させ、多からずとも最大限に利用する。
以前から見せている熱の影響コントロールはそれを得ようとする上で学んだ賜物に過ぎない。
この力が今……その身に再び駆け巡る。
「そうかよ。 そうまでして止める気かよ。 なら俺は、俺はもう……ッ!!!」
超再生能力によって既に彼の体は普通に動ける程までに癒えていた。
だがそれはまだ本当の力を発揮しての再生では無い。
そう、彼は燃えれば燃える程……激しく強く、そして加速するのだから。
心輝が胸を張るかの如く突き出し、背後に向けて両肘を引き絞る。
そうして生まれた構えは、彼の前衛的なスタンスをありのままに見せつけるよう。
その目に浮かぶのは……決意の瞳と、涙。
『ソウルオーバーエンゲージ……リクエスト、リミットアーマーエジェクション、レディ?』
魔剣から電子音声が鳴り響き、赤色の光を迸らせる。
それは既に臨界点を越え、リミッターをも強制排出せんばかりの力を吹き出そうとしている証拠。
心輝ももう、止まらない。
「……イグニッション……フルオーバードライヴッ!!!!」
それこそが心輝の持つ最後の認証キー。
常人であれど、高めに高まった命力はもはや制限無しでは抑えきれない。
それ程までに彼は強くなったのだから。
【グワイヴ】だけではなく足に備えた【イェステヴ】までもが激しい炎を吹き出し、拘束装甲を排除させていく。
とめどなく溢れる炎は彼の体を包み込まんばかりに吹き荒れた。
途端、周囲に立つ木々が突如、炎を放ち焼けていく。
制御が効かなくなったのだ。
溢れ出る炎はもはや彼の精密制御から離れ、万物を焼く元来の形へと舞い戻る。
ただただ溢れるだけでは無い。
当然、彼の体へと循環するのだ。
こうして灼熱の循環サイクルが生まれた時、心輝が真の力を発揮する。
まるで自身の体そのものが炎へと変わったかの様に白熱化していた。
もはやその姿は……かつて顕現させた炎の巨人の姿そのもの。
周囲へ陽炎が吹き出し、景色を大きく歪める程の熱を放出する。
大気の水分が蒸発し、蒸気へと変わって周辺に撒き散っていた。
大地も熱の影響を受けて赤熱化し、その熱量を物語る。
「こうなった以上はもう俺も簡単には止まらねぇぞおッ!!!!!」
遂に心輝がその真の力を顕現した。
対するは天力を最大限に使う事の出来る勇。
これから始まる二人の対決は……皆の想像を絶す領域へと発展する。
幹が弾け、支えを失った木々が次々と倒れていく。
同時に、余りにも強く打ち付けられたが故に弾けて舞っていた木々もが大地に落下し、激しい音を打ち鳴らしながら反り跳ねていた。
それらの原因を作ったのは……勇に殴られ飛ばされた心輝。
「グホッ……ガ……がはっ……」
麻痺……余りの威力に呼吸が止まり、その身が動かせなくなる程の痺れが襲う。
悶絶……自身の体が壊れなかった事が幸いであると思える程の苦しみが全身を駆け巡る。
吐血……内臓の一部が大きなダメージを受けている証拠。
たった一撃……たった一撃で、こうまでにも打ちのめされたのだ。
強くなったつもりだった。
勇が退いた後、代わりになろうと影で誰よりも努力したつもりだった。
本当はバロルフにだって負けない事くらいは知っていた。
隙を見せたつもりなんてこれっぽっちも無かった。
でも、それすら無為に消えた……たった一撃で。
まるで今までが無駄だと思えてしまう程に次元が違い過ぎたのだ。
これが天士なのだと。
これが天力なのだと。
理解に至るにはそう掛からなかった。
「言ったハズだ、お前を止めると」
木々が倒れ、静まりを見せたその先から……近づく人影が一人。
いや、もはや影では無いだろう。
激しい光を撒き散らすその様は……人光。
「俺は例えお前がこの先戦えない体になろうとも、想い留めるまで手を緩めるつもりは無い……!!」
一歩づつ、ゆっくりと確実に。
その意思、その想いの赴くままに。
天士・藤咲勇がその力を吐き出しながら、倒れた心輝の前に立つ。
「ぐぅ……かはッ、て、め……ッ!!」
心輝も負けじと大地に拳を突いて立ち上がる。
しかしその身は震え、今にも倒れそうな様相。
なんとか二つの足で地に付くも……脇腹を抑え、土まみれの顔に脂汗が滲み出る。
なおダメージは深刻な程に体を蝕んでいる様であった。
その目に映るのは、勇の両腕。
ハッキリと具現化された……白の両腕甲。
「どういう事だ、その腕ァ……!!」
創世の鍵、創世の剣。
初めて聴いた時からそれはそういう物だと思っていた。
顕現した時も、剣なのだと思っていた。
だがそれは違ったのだ。
「創世剣はあくまで俺の意識が生み出した最適解に過ぎない。 創世の鍵から通じて得られる力は自由に具現化出来るんだ。 例えばそう、これは敢えて呼ぶなら……〝創世拳〟だな」
その形もまた、彼にとっての最適解。
心輝相手を想定とした……彼と全く同じスタイル。
「俺と同じ力でねじ伏せるってぇのかよ、ふざけんな……」
途端、心輝が脇腹を抑えていた手をだらりと垂らす。
わなわなと溢れ出る怒りのままに、その拳を握り締め。
気付けば……先程まで悶絶していたとは思えない程に、力強く立つ様を見せていた。
まるでもう痛みなど無いと言わんばかりに……。
過去二年間の一時期、心輝はずっと考えていた。
「自分にとっての強みとは何か」と。
アストラルエネマに目覚めて久しい茶奈は無限の命力によって無敵にも近い攻撃力と防御力を有している。
瀬玲は繊細かつ精密で確実な命力の扱い方を会得した後、命力操作技術に卓越する事で支援すら多種多様に行える様になった。
格闘であればイシュライトの天性の才能と努力の賜物により、魔剣が無いにも拘らず最高峰の実力を誇る程。
彼等を前に、儚くも凡人に近い心輝には特筆するべき点は無かった。
その後……苦心の末、考え付いたのだ。
強みが無いのであれば、創ればいいのだと。
前線にて戦う事が多い心輝にとって、負傷とは隣り合わせだ。
傷を負えば体の動きは鈍くなり、自身の長所をも殺す事になる。
ならば傷を負っても構わない、即時に再生してしまえばいい。
瀬玲やイシュライトの持つ【命力循環法】とは違う。
自身だけの力で自然治癒能力を極限にまで高める方法だ。
それは幸運にも【グワイヴ】の持つ炎の力と非常に相性が良かった。
自身を内燃機関として命力を押し込めて細胞を活性化し、凄まじい速度での再生を促す。
その上で発生する熱をコントロールし、魔剣の排熱機関を利用して命力の炎を自身の体へと循環させる。
纏う炎は自身の命力によるもの。
放出する様に見せかけ、その力は自身に戻り、再び再生を促す力へと変換される。
そうして実現したのが……【超再生能力】。
自身を震わせて瞬時に再生し、戦いを繰り返す修羅。
ありとあらゆる事象生みし命力を無駄無く循環させ、多からずとも最大限に利用する。
以前から見せている熱の影響コントロールはそれを得ようとする上で学んだ賜物に過ぎない。
この力が今……その身に再び駆け巡る。
「そうかよ。 そうまでして止める気かよ。 なら俺は、俺はもう……ッ!!!」
超再生能力によって既に彼の体は普通に動ける程までに癒えていた。
だがそれはまだ本当の力を発揮しての再生では無い。
そう、彼は燃えれば燃える程……激しく強く、そして加速するのだから。
心輝が胸を張るかの如く突き出し、背後に向けて両肘を引き絞る。
そうして生まれた構えは、彼の前衛的なスタンスをありのままに見せつけるよう。
その目に浮かぶのは……決意の瞳と、涙。
『ソウルオーバーエンゲージ……リクエスト、リミットアーマーエジェクション、レディ?』
魔剣から電子音声が鳴り響き、赤色の光を迸らせる。
それは既に臨界点を越え、リミッターをも強制排出せんばかりの力を吹き出そうとしている証拠。
心輝ももう、止まらない。
「……イグニッション……フルオーバードライヴッ!!!!」
それこそが心輝の持つ最後の認証キー。
常人であれど、高めに高まった命力はもはや制限無しでは抑えきれない。
それ程までに彼は強くなったのだから。
【グワイヴ】だけではなく足に備えた【イェステヴ】までもが激しい炎を吹き出し、拘束装甲を排除させていく。
とめどなく溢れる炎は彼の体を包み込まんばかりに吹き荒れた。
途端、周囲に立つ木々が突如、炎を放ち焼けていく。
制御が効かなくなったのだ。
溢れ出る炎はもはや彼の精密制御から離れ、万物を焼く元来の形へと舞い戻る。
ただただ溢れるだけでは無い。
当然、彼の体へと循環するのだ。
こうして灼熱の循環サイクルが生まれた時、心輝が真の力を発揮する。
まるで自身の体そのものが炎へと変わったかの様に白熱化していた。
もはやその姿は……かつて顕現させた炎の巨人の姿そのもの。
周囲へ陽炎が吹き出し、景色を大きく歪める程の熱を放出する。
大気の水分が蒸発し、蒸気へと変わって周辺に撒き散っていた。
大地も熱の影響を受けて赤熱化し、その熱量を物語る。
「こうなった以上はもう俺も簡単には止まらねぇぞおッ!!!!!」
遂に心輝がその真の力を顕現した。
対するは天力を最大限に使う事の出来る勇。
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