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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~壊炎と裂空 全てを穿つ白銀拳~

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 今回のア・リーヴェの話を聴く為に参集した関係者達が集まり、アルクトゥーンから出ていく為に列を成す。
 未だ誰しもが信じられぬ話を思い起こし、興奮冷めやらぬ様子を見せていた。

 その列の先に立つのは福留……こういった事に率先して動くのも彼のいつもの役目だ。
 
「上昇時と同じく、降下時も十五人づつ案内しますので、押さぬようお願い致しますねぇ」

 とはいえ集まったのはほとんどが政治家であり、落ち着きを持った者達ばかり。
 そんな声掛けなど不要といったところか。
 福留だけでなく他のグランディーヴァ隊員が後に続く者達を誘導しながら復唱し、特に混乱も無く順路を辿っていく。

 しかしそんな折、福留がその足を止め……インカムへとその手を伸ばした。

 なぜそんな物を付けているのか。
 彼は話の終盤で予め、瀬玲に付けるよう言われていたのだ。

 「もしもの時の為に付けておいて欲しい」、と。

「―――感じはどうでしょうか?」

 インカムから流れるのは当然彼女の声。
 たった数言、福留に向けて放たれた。

 途端、誰にも見えぬ彼の表情が僅かに曇る。

「そうですか、では状況を見て判断する事にしましょう」

 その一言を返すと共に、再び歩を進め。
 後に続く者達に悟られぬよう、先程と何ら変わらぬ対応を続けていた。

 やはり居住エリアも相当広い所為か、歩くにもそれなりに時間は掛かる。
 大人数ともなれば当然歩みも遅くなり、拍車が掛かるものだ。
 何せ大半は老人……福留も含めてだが。
 速足で行くのも憚れるようなメンツともあって歩みはどこか普通よりも遅い。

 まるでわざと遅く歩いているのではないかと思う程に、進みは緩やかだったのだ。



 居住エリアとその地下の多目的施設エリアの中心を貫く様に、観覧室への幅広の階段がロータリー状に続く。
 直径十メートル程もある大きな縦穴式ともあり、そこに見える人数は余りにも多い。
 それだけの人数が乗っても壊れない程に頑丈に出来ているのだろう。

 先頭がとうとう観覧室へと辿り着き、退出の時を待つ。
 しかしそんな中でも、福留は降ろそうとする事無く……観覧室の外側、窓の傍へと寄って真下を覗き込んでいた。



 その先に覗き見えるのは……激しく打ち上がる白の竜巻。



「ふぅむ……やはりこうなってしまいましたかぁ」

 表情に零す事無く、声だけが小さく漏れ出る。
 恐らくそれは瀬玲の通信に起因する事。

 彼もまた少なからず危惧していたからこその……予想通りの展開だった。

「福留さん、どうしましたか?」

 そんな様子を前に鷹峰が疑念を抱き、思わず声を上げる。
 さすがに付き合いも長いであろう二人……隠す事も叶わぬようだ。

「ああ、いえね、ほんの少しデモンストレーションを敢行しようという話が出ておりましてねぇ。 宜しければ皆さん最後に御観覧願えればと思います」



 それは当然嘘だ。
 その場にいる者達を心配させない為の。

 

 先程の話からの仲違いとわかれば、事情を知らぬ者達にとっては動揺に繋がる。
 その不安は言わば負の要素、勇達側にとってのマイナスの感情に他ならない。

 僅かであろうとも禍根を残さず、希望を持つ事……それが今必要な事なのだから。

「そういう事でしたか。 どれ……」

 鷹峰がさもな軽快な足取りで福留の傍へと歩み寄り、地表部へと視線を向ける。
 すると先程と同じ白の炎が渦巻いているのが見え、彼の驚きを誘った。

「おお、これは凄い」

 鷹峰に続いて他の官僚達もが興味を惹かれる様に窓部へと近寄っていく。
 するとたちまち現実の物とは思えぬ光景が目に留まり、大きな驚きを見せ始めた。

 動画などで魔特隊の戦いを観た事がある者も少なくは無いが、こうして生で見るのは初めてなのが殆どだ。
 鷹峰でさえそうなのだ、驚きもするだろう。

「彼等がどの様な力でアルトランに立ち向かうのか。 是非とも目にして頂き、胸に希望を抱きながら帰路に就いて頂ければと思います」

 この状況がどの様な経緯で起きたのか、どの様に転ぶのか。
 福留は愚か、それを伝えた瀬玲でさえもわかりはしない。
 この白の渦が勇を包んでいる事も。

 ただ信じるしか無かったのだ。
 勇が心輝を押し留める事を。



 天士の力が……苦難を退ける事を。





◇◇◇





 所変わり地表。
 白炎が空高く舞い上がるかの如く、激しく渦巻かせていた。
 その激しさは火花を周囲へと撒き散らす程。
 命力制御で対象だけを焼き尽くす炎は、周辺の草木には全くの影響を与えていない。

 ただ激しいが故に熱風が吹き荒れ……それによって強く煽られてはいるが。

「俺はもう止まる訳には行かねぇんだ。 すまねぇな……」

 それは彼にとっての手向けの挨拶。
 自らの手で灰塵に帰してしまった一番の親友への。

 そうしてしまった事への罪悪感もあるからこそ……軽くも重い一言。



ズグゴゴゴ……!!



 だがその時、白炎の渦が歪んだ。
 それは、心輝が事実を飲み込む事も出来ぬ束の間。

ズボアアッ!!

 なんと炎の渦の側面から、一筋の迸る光が突き出したのだ。
 光の筋は途端に二つに分かれ、水平の残光を刻む。

 そして瞬く間に……炎の渦を上下に切り裂いたのだった。



 余りにも強引に引き千切るが如く。



 天地に分かたれた炎の渦は心輝のコントロールを失い、バラバラに千切れ飛ぶ。
 欠片となった炎はまるで無数の鼠花火の様に無軌道を描き、火花を撒き散らしながら周囲へと激しく飛び散っていった。

「んな、バカなあッ!?」

 渾身の技のはずだった。
 これで全てが終わったはずだった。

 だが目の前に居るのは……勇。
 体に浮かぶ焼け跡すら、皆無。
 そして両腕に輝くのは剣ではない。

 心輝と同じ……腕甲。



「シィーーーーーーンッ!!!!!」



 その瞬間、勇が激しく大地を蹴り上げた。
 蹴り上げた場所が大きく抉られ弾ける程の力で。

 光り輝く白銀の腕甲が強烈な残光を引きながら。



 もはやその残光の巨跡……空間を削り取るが如し。



ドッゴォォォッ!!!!!



 それはもはや加減すら無い、本気の一撃。
 光速で打ち上げられた拳が隙だらけの心輝の下腹部へと突き刺さる。

「ぐぅおっがあッ!!?」

 隙だらけとはいえ、心輝の体には命力による身体強化がなされていた。
 しかしその一撃を撃ち込まれた瞬間……心輝の体が激しく「く」の字に曲がる。

 たちまち心輝の体を跳ね上げる程に、その威力は凄まじかった。

 跳ね上げられた心輝の体は一瞬にして相模湖を覆う木々の上へと打ち上げられ、その姿があっという間に森の中へと消える。
 それだけには留まらず、彼の消えた先にあったであろう木々が次々と宙を舞っていた。



 それ程までに……強力無比だったのだ。


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