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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~世界と輪廻 科学に導かれし真理~

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 突如現れたビーンボールという男。
 彼はア・リーヴェの語りを遮り、その場に明るい風を吹き込んだ。

 しかし遮った意図はまだわからぬまま。

 果たして彼の思惑は一体何を呼び起こすのだろうか。



突然I話を'遮っmてしSまっoて申rし訳rないy。 その先を語る前にどうしてもお願いしたかった事があったもので……」

 懐かしの再会を交わし終えたビーンボールはア・リーヴェや周囲の傍聴人達に向けてくるりと回りながら謝罪を送る。
 しかしなお英語のままという事もあり、半数が困惑の顔を浮かべたままだ。

「ビーンボールさん、これこれ」
「あぁ、そうか、そうだった忘れていたよ」

 するとカプロが小さな機器を取り出し、ビーンボールへと差し出す。
 それはグランディーヴァでも使われている音声命力変換機構ソウルトランスレイターを有するマイクだ。

「よし、これで僕の言葉が皆に伝わるね。 改めまして、話をS遮っoて申rし訳rないy

 途端、傍聴人達が揃って驚きの声を上げる。
 彼の声が自分達の国の言語に聞こえ始めたからだ。

 とはいえ、最後の部分はわかりやすいだけに最初からしっかり認識されていたのではあるが。

「さて、皆に話が通じる様になったので……早速だけど、ア・リーヴェさんにお願いがあるんだ」

『はい、なんでしょうか?』

 その時、ビーンボールが左手の人差し指を上げながら「コクリ」と頷く。



「その続きを、僕の口から言わせて頂けないだろうか」



 その時、傍聴人達が動揺の声を上げる。
 彼等だけでなく、勇達もまた同様に。

 ビーンボールは決して天士でも魔剣使いでも無い。
 ただのひねくれ科学者探求者の一人だ。
 そんな彼がア・リーヴェの様に真実を語る……それがどうにも場違いの様に思えて。

 だが……その一言を前にしたア・リーヴェは、彼に微笑みを向けてそっと頷いたのだった。

『はい、構いません』

 それはまるで彼の思惑を知ってるかのよう。
 まさに何者をも信じる天士が故とも言える反応。
 そしてビーンボールもまた、そう言い切った事に自信を覗かせる様な丸い微笑みを浮かべていた。

「ありがとう。 それじゃあ早速だけど、まずは結論から言わせてもらうよ」

 彼にとっての結論、それはいわば空想の事に他ならない。
 虚実を現実にする……それが彼の言う『探求者』の在り方。

 しかしそれは決して科学にとって無関係とは言えない。

 科学もまた基本的には同様なのだ。
 科学とは「その原理が行われているのはこういう理由だからだ」、そんな結論から答えを導き出す事なのだから。
 その原理が現実の物である事と、そうでないものとの差に過ぎない。
 しかしそうでないもの……つまりは非現実的な物、それを追求するのもまた科学である。
 そうやって非現実を解明し現実と成しえて来たからこそ……今の科学技術が存在しているのだ。

 そして彼が成そうとしている事もまた、紛れも無い科学の一端なのである。

「僕は世界融合が起きた後、幾つかの疑念から仮説を立てた。 何故世界はこんな風に融合してしまったのか、何故この世界と融合してしまったのか、何故融合しても平気なのか。 こんな疑問からね。 全く持って幾つも問題が起こり過ぎて頭がパンクしそうだったよ、楽しかったけどさ」

 そこはさすがの科学者か、さも楽しそうに声を跳ね上げる。

「そして今、それらの疑問の仮説、グランディーヴァの面々が起こした奇跡、そしてア・リーヴェさんの話を聞いた事で僕は確信した。 天士とやらが何をしようとしたのか、その目的をね」

 事情を知らぬ大半が思わずその唾を飲む。
 きっとア・リーヴェもまた、彼が何を言わんとしているのかわかっていたのだろう。

 彼女の微笑みに応える様に……ビーンボールは遂にその結論を打ち出す。



「天士の目的……それはずばり、僕ら人類に新しい宇宙を創造させる事なのではないか!!」



 そう言い放たれた瞬間、天士の知識を持つはずの勇の目が見開かれる。
 彼だけではない、傍聴人全てが……あまりの事実に声を詰まらせていた。

「どうかな、ア・リーヴェさん。 僕の導いた結論は?」

 その一言が皆の視線をア・リーヴェへと集めていき。
 注目を集める中、微笑みを浮かべたままの彼女はそっと……頷きを見せた。

『ええ、その通りです。 よくぞその答えを導いてくれました』

「おおっ!! やった!! やはり僕の仮説は正しかったあッ!!!!」

 途端、ビーンボールが喜びの余り、転がるかのように体を揺らして喜びを見せる。
 福留と同い年とは思えない程の軽快っぷりだ。

「でもなんでビーンボールさんがそこに行きつけたんですか……?」

 勇もどこかまだ釈然としない様で、喜びを上げ続けるビーンボールに声を掛ける。
 するとビーンボールは「ニコリ」とした丸い笑みのままで自信満々に胸を張り上げた。

「ここまで答えが見えたんだ、きっとこの結論に導く事は言う程難しい話じゃないだろうさ」

「そうなんですか?」

「そうともさ!」

 するとビーンボールは自信満々に壇上へと上がり、勇の代わりに演台の横へと立つ。
 演台の裏に立つと見えなくなってしまうが故に仕方のない事か。

「考えても見て欲しい!! 何故命力を使う事で空や宇宙といった過酷な環境に生身で居られる事が出来るのか。 何故命力で体を鍛える事が出来たり、物理現象を操る事が出来るのか。 何故アルクトゥーンは宇宙へ飛ぶ事が出来るのか。 何故命力で異国の者と会話が出来るのか―――」

 恐らく茶奈の起こした行動も福留を通して逐一彼の耳に入っていたのだろう。

 出るのは勇達が今までに当たり前の様にやってきた事ばかりだ。
 そして事実に喜び、受け入れ、普通に使ってきた。
 その意味合いに気付く事も無く、深く考える事も無く。

「それらは至って簡単だ。 そう、その力は全て、人類が宇宙へ旅立つ為に必要な事だったんだよ」
「「「!?」」」

 そう、それらには理由があったのだ。
 存在する理由が。

 何一つ余す事無く。

「空や宇宙で活動出来るのは、過酷な宇宙で活動し続ける必要があったから。 物理現象を操るのは、宇宙での無期限活動中にあらゆる対処が出来る様にする為。 アルクトゥーンは本来異星へと旅立つ為の船として建造されたんだ、龍の形をしているのは生物的な形が相手の種族に知的生命体である事を悟らせる為だろう。 そして異国の者と会話が出来るのは、文化の異なる異星間での円滑なコミュニケーションを図る為―――」

 最初から、それらはそうやって存在していた。
 きっとこれは地球だけでなく、宇宙に散らばる異星人にも同じ様に備わっているのだろう。

「オマケに言うと、先日、チャナ=タナカが宇宙に行った時、命力が抜けたという話があっただろう?  そこはやはり星の命力を借りているから地球から離れてしまえば力は当然抜けてしまうのさ。 でもその力は無限に近い。 そう、アストラルエネマとはすなわち……人類が魔者から命力を教わり、天力に目覚めた時の可能性の指標、天力のひな型だったんだ」

『例え無限に放出出来たとしても、人一人の力の放出程度では星の命力は尽きる事はありませんからね。 アストラルエネマはいわば人を導く星のゆりかご……』

 アストラルエネマ、無限の命力とその秘密。
 それもまた天力と深い関わりがあったのだ。

「遠い未来に異星同士を繋げ、宇宙中を繋げ、文明を発展させ、そして遠い未来に―――宇宙と一つとなった人類は新しい宇宙を創る。 そう、天士ア・リーヴェ、君達と同じ様に」

『ええ。 それは私達も、そして私達の前にも、そのずっと前も前も……同様にして行われてきたのです。 幾度と無く宇宙を産み、育み、送り出す。 そしてまた新しい人類が生まれる―――』

 そうして宇宙は幾度と無く生み出され、そして人を、天士を生んだ。





『―――私達はそれを、【セカイ輪廻りんね】と呼んでいます』





 【セカイ輪廻】。
 すなわち、宇宙は常に巡り巡って生み出され続ける。
 人個人では計り知れない程の膨大な時間を超えて。

 何度も何度も新しい宇宙が生み出され、その度に全く新しい知的生命体が生まれたのだ。



 新たな〝セカイ〟を生み出す為に。


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