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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~女神と天士 世界が始まる時~

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 勇の手によって創世の女神と呼ばれた天士ア・リーヴェが彼等の前に実物として顕現した。
 数多の伝説を紡ぎ、多くの惨劇のキッカケともなったと言われる彼女の存在は、その伝説を知る『あちら側』の者達を大きく驚かせる事となる。
 しかし姿を現した彼女は伝説とは異なった、より人らしき者の姿。

 そして遂に彼女が語り始める。
 その口が連ねるのは……『あちら側』だけでなく『こちら側』にも関係する世界の真実。

 それが今、世に解き放たれようとしていた。



『まず始めに、私達天士が一体何者なのか、そこから説明する必要がありますね』

 彼女の声はその場にいる全員にもれなく響く。
 慈しみ、安堵……そんな感情を乗せた、優しい声で。

『先程フジサキユウが説明した通り、私達天士とは言わば精神生命体。 肉体を捨てる事で物理的なしがらみを拭い去って、〝前宇宙〟からこの世界へとやってきた存在です』

「前宇宙?」

『前宇宙とは現宇宙、今のこの世界が創造される前から存在する別の宇宙の事です』

 論説によれば……かつてインフレーション、ビッグバンという現象が起きた事によって宇宙が膨張を始め、今の宇宙が生まれたのだという。
 また近年の研究ではそれ以前にも宇宙は存在し、そこから何かしらのキッカケで現宇宙が誕生したとも言われている。
 しかしいずれも実証する事はまだ難しく、証明の段階には至っていない。

 だがア・リーヴェははっきりと言い切ったのだ。
 「自身が前の宇宙から来たのだ」と。 

 そして次に連なる一言もまた……聴く者達に衝撃を呼ぶ。



『実はこの宇宙を生み出したのは、私達天士なのです』



 その瞬間、事情を知る勇以外の人間が驚きでその目を見開かせる。
 当然だろう……目の前に居る小さな人形の様な者が宇宙の創造者だと言うのだから。

「それってつまり、天士は神様って事?」

 思わず傍聴人の一人から質問の声が上がる。
 するとア・リーヴェは表情一つ変える事無く、ハッキリと言い切るのだった。

『単純に言えばそうなります』

 その一言は傍聴人達の動揺を買う。
 その中には宗教などに身を置く者も少なくないだろう。
 彼女の肯定は信じる神を否定する事にも他ならなかったから。

 「静粛に」という声が福留から上がる中でも、なおア・リーヴェは語る事を止める事は無かった。
 その声は例え騒がしくても聞こえるのだから。

『ですが皆様の思う様な万能の神とは異なります。 私達も元は皆様と同じ様な人間でした。 ですから間違えもしますし、人の生死を左右する事も出来ません。 未来を見る事も出来ません。 私達が出来るのは精々知っている事を教えたり、見守るくらいなのです』

 そう、彼女達は元々人間。
 遥か昔、前宇宙にて文明を発展させた人間に過ぎなかったのだ。

 そして彼女は語り始める。
 かつて自分達がこの宇宙を生み出し、そして今に至る全てを。

 その場に居た者達はただただ……その言葉に耳を傾ける。





――――――
――――
――






 かつて私達がまだ人間だった頃から話は始まります。
 私達前宇宙の人類は栄華を極め、世界の隅々に渡るまでのあらゆる知識を得るまでに成長し尽くしました。
 もはや新しい物は何も無い、そう言い切れる程に。
 故にこうなるのは必然でした。

 私達はその果てに最後の挑戦を行う事を決めたのです。
 それが宇宙創造……私達の世界と異なる概念を持った宇宙の構築。
 得られる物が無いのであれば創ればいい、そう至ったのです。

 そしてその試みは見事成功し、新しい宇宙が誕生しました。
 試みに携わった者達は皆喜び、新たな世界の構築に胸を躍らせたものです。

 ですが私達の活動はそれだけに留まりません。
 創るだけでは無く、見守る事もまた大事。
 私達もまた、新たな宇宙へと向けて旅立つ必要があったのです。

 しかし人類が新宇宙に行く為に解決せねばならない問題が一つありました。
 それは肉体という有限物質が邪魔だったという事。
 前宇宙と新宇宙を繋ぐ空間を通り抜けるには、どうしても肉体という概念を捨てさらねばなりませんでした。

 そこで私達は有志と共に意を決して精神生命体である天命体エヴノィレと成り、新宇宙へと飛び込んだのです。

 私達は新宇宙に訪れると、散り散りに分かれました。
 まずは広がり続ける宇宙の中で、知的生命体を産み出せる星を探し始めたのです。
 精神生命体となれば時間的感覚は失われ、どれだけ大きな空間であろうと齢を取らずに自由に行き来する事が出来ます。
 長い長い旅になる事は承知の上でしたが、苦ではありませんでした。
 生命体は見つからなくとも、好奇心をそそられる星々が幾つも生まれ出ていたのですから。

 それから更に長い時間が過ぎました。
 新しい宇宙が生まれてからどれくらいの時が経ったでしょうか。

 そんな時、私達はとうとう一つの星を発見したのです。

 そう……私達と同じ様な有機生命体を構築した星を。

 私達はその発見に大変歓喜しました。
 当然です……まさか自分達と同じ様な生態を持つ生物が既に生まれているなど思っても見なかったのですから。

 そこで私達は周囲に散っていた仲間だけを呼び寄せ、ここで知的生命体を育む事を決めました。
 まず、前宇宙にて得た知識を動員し、衛星である月の中心に精神空間を作り出します。
 そこに惑星管理機関【フララジカシステム】を設置したのです。
 こうする事で万が一星に危険が及んでも、月が守る様に事象を動かす事が可能と成ります。

 ですがこれは本来、宇宙構築の際に取り決めたルールから逸脱した行為でした。
 「前宇宙の技術を天士自身が行使する事を禁ずる」といったルールです。
 それでもルールを破ったのは、その星がとても珍しいケースだと確信したから。

 生物が生き、成長し、進化する為の全ての環境条件が揃い、かつ、人類の祖先が既に生まれていたという事。
 多くの生命のるつぼを繰り返し、ありとあらゆる可能性が自然と試されていたという事。
 生命の遺伝子情報はいわば経験と積み重ねによって構築される物です。
 そういった繰り返しが私達が見つけるまでに行われていたのは奇跡以外の何者でもありません。

 だから私達は決めたのです。
 この星は何が何でも成就させてみせる、と。


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