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第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」

~空へ帰りし者達の、虹の明日を願う唄~

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 遂に勇の手によって創世の力が開花した。
 その力を前に、異形は成す術も無くその身を砂へと変えたのだった。

 勇が異形の崩れた場所へと歩み寄り、その身を屈める。
 その手が伸びた先に居るのは……異形の素となっていた少年の体。

「良かった……生きてる」

 その手を口元に翳し感じ取るのは僅かな呼吸の残滓。

 少年は弱ってこそいたが、外傷はどこにも無い様だ。
 そもそも、そうなる様に勇が斬った訳であるが。

 自分の放った力がどこまでなのか……彼にもまだ見た事は無かったから。
 知っていても、今初めて使ったから……一抹の不安はあったのだろう。

 それでも「確証」のままに振れたから、こうして少年は生きて戻る事が出来た。
 それがどこか嬉しくて……勇の顔に微笑みが浮かぶ。

「帰ろう……君の家族が待ってるから」

 そっと少年を抱きかかえ、勇が立ち上がる。
 そんな彼の下へ、全てが終わった事を理解した茶奈達がゆっくりと歩み寄っていた。

「勇さん……その子は……?」

「今の怪物にされてしまった子だよ。 普通の子さ……でももう大丈夫だ」

 普通の子供が怪物にされたという事実。
 それがどうにも今まで以上に浮世過ぎて。
 それでいて、何か知り得ぬ深刻な事態が起きている事を察させていた。

 得体の知れぬ元凶。
 その存在を悟った茶奈達の顔に陰りが帯びる。

 しかし勇は彼女達を前にもなお微笑みを向け、その緊張を解させていた。

「おめぇ……今の力、もしかして……」

「ええ、想像の通りです。 俺が今振るったのは創世の力……創世の鍵の一端です」

「「「ッ!?」」」

 途端、何も知らなかった茶奈達に衝撃が走る。
 それも当然だ。
 先程まで手に入れる方法に悩みあぐねていた創世の鍵……それを今、勇が使ったと言うのだから。

「おま……それってどういう……」

「うーん、色々話すと長くなるし、俺の説明力じゃ長々となり過ぎるだろうから……出来れば皆の前で一気に話したい、かな?」

「アンタ、『色々』を後で話すって言ったじゃん……」

 今目の前に居るのは藤咲勇以外の何者でもなく、ア・リーヴェでも、地球の意思でもない。
 全てを知ったから活舌が良くなる訳でも無ければ、突然として頭脳明晰になる訳でも無い。

 例え全てを知ろうと、勇は勇のまま。
 どこか抜けていて、それでいて要領も悪い……ただの人間の一人のままに過ぎないのだ。

「後は後だろ……何から話していいか纏めてから話すって。 そうだな……まずは一旦、日本に帰ってからがいいかな……?」

 すぐにでもわかると思った矢先の話、まるで焦らされるかの様で。
 最も納得のいかないであろう剣聖はと言えば……勇を見下ろし、鋭い眼光をぶつけていた。
 もちろん茶奈達も同様に疑心を篭めたジト目を浮かべていたのは言うまでもない。









 こうして、ゴトフの里を巻き込んだ異形との戦いは終わりを告げた。

 その後、勇達はヤヴ達の下へと戻り、戦いの終わりと創世の鍵に至れた事を報告する。
 その時のヤヴの喜びは計り知れないものであろう。
 もちろん悲願達成を望む里の者達全員にとっても。

 そしてそれらを伝えた勇達は……ゴトフの里の者達から歓声を受けながらも、興奮冷めやらぬ内に帰還の途へと就くのだった。

 彼等には彼等の成すべき事がある。
 そう理解したからこそ……ヤヴは彼等を見送ったのだ。

 真に全てが終わった後……報告の為に再び訪れる事を望んで。





 勇達はアルクトゥーンへと帰還後、福留達に事の顛末を説明した。
 ゴトフの里での事、異形の襲来、そして創世の鍵を得た事。

 しかし勇にはそれ以上に伝えなければならない事が多くある。
 だからこそ、彼はグランディーヴァを一時日本へと帰還する事を改めて提言するのだった。
 
 全ては……世界が何故こうなってしまったのか、それを説明する為に。

 それを知るべき仲間である人が日本に多く居て。
 知ってもらいたい人が日本の代表者だから。
 それ以外にも、救った少年を家に帰さなければならないといった事もある。

 勇の意思を汲んだグランディーヴァはタイを発つ事を決めた。
 一時的に目的を変え、進路を日本へと向けたアルクトゥーンが海を越える。



 彼等の期待と不安がなお渦巻く中で……。



 見え隠れする悪意。
 それが徐々に姿を日の下へと晒していく。
 だがそれも間も無く明らかとなるだろう。

 それを伝える事もまた勇の役目だから。

 明かされるであろう真実は、明暗を強く浮き彫りとさせる。
 それに勇達という彩りが加えられた時……果たして世界はどの様な色へと形変わるのであろうか。



 今はまだ先見えぬが如き不透明さだからこそ、塗り潰す事もまた可能なのだ。



 虹色の可能性を持つ彼等ならば……きっと。





第三十二節 完


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