上 下
906 / 1,197
第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」

~中心へ向かう為の唄~

しおりを挟む
 遂に勇達へ【創世の鍵】の在り処が伝えられた。
 しかしその所在地は、辿り着くのが不可能とも言える……星の中心アストラルストリーム

 それでも勇は諦めずに方法を模索する事を選んだ。
 諦めなければいつか必ず……その想いが彼の根底にあったから。

 その想いは、仲間だけでは無くヤヴの心にも一つの変化をもたらしていた。



「……以上が、ワシらの知る真実だ。 これから先はお主達が考えて行動するといいだろう」

「ありがとうございます、ヤヴさん」

 勇が笑顔を向けて頭を下げる。

 ヤヴが教えてくれた事は結論に至るにはまだ遠い事実なのだろう。
 でも一歩進む事が出来たから、勇にはそれだけでも十分だったのだ。

 そんな時、瀬玲が小さく手を挙げ……ヤヴへと視線を向ける。

「ヤヴさん、ちょっといいかな?」

「……何かね?」

 勇達が瀬玲へと視線を向ける中、瀬玲が手を降ろしていく。
 そして二人の視線が合った時……瀬玲の眼が僅かに鋭さを帯びた。



「この事ってさ……デュゼローも聴いた事なのかな?」



 その時、ヤヴの顔が「ピクリ」と動き、僅かな強張りが走る。
 明らかに何かを知っている……そう思わせるには十分な反応だった。

 背を向けた剣聖も目だけを動かし、動向に耳を傾ける。

 そんな中で……ヤヴは一つ息を整えると、彼女を前に頷いて見せた。

「うむ……その事はこちらに来てからグーヌーより聞いている。 彼等はデュゼローという者を筆頭とした【救世】を名乗る者達と密約を交わし、この真実を伝えたそうだな。 それ以上の事は訊かなかった様だが」

「やっぱりね。 それで【東京事変】に至ったのね……全部知って、無駄だと思ったから……」

「あの野郎……見ねぇと思ったら隠してやがったか……余計な気を回しやがって」

 デュゼローの事ともなればさすがの剣聖も気になるのだろう。
 そして彼が何を思って伝えなかったのかも……よく知る剣聖だからこそ理解出来た様だ。

「セリ、お前何か知ってたのかよ?」

「ん……まぁねー」

 その一言を最後に、瀬玲は何も語る事無く「ニヒヒ」といじらしい笑顔を浮かべていた。

 実は瀬玲、アージと会った事を打ち明けてはいない。
 それはまだ彼女とイシュライトとの秘密のままだ。
 まだアージが何を目的として動いているのか、何をしようとしているのかがわからなかったからこそ……迂闊に語る事を避けていた。

「デュゼローも言っていたな……『世界に神は居ない』って。 つまり、【創世の鍵】に触れる事が出来る者はもう居ないって事なんだろうな……知る限りでは」

 勇も【東京事変】の折にデュゼローと対話を交わし、そんな話を彼の口から聴いていた。
 その時のデュゼローに一つの諦めの様な意思を帯びていたのは間違いない事だ。

「でもアイツも諦めたんだ。 その先に進む事は出来ないって。 けど俺は諦めないさ……アイツが進めなかった道なんて幾らでもあるんだ。 だったら俺達は誰も進めていない道を切り拓くだけさ」

 そう、デュゼローは強かったが、決して万能ではなかった。
 勇を阻止できなかった事もしかり、アルクトゥーンの真価も発見出来なかったのだから。
 彼もまた人間だから……。

 そして勇は仲間達と共に今を切り拓けたから。

「それじゃあ、次は死なないで星の中心に行く方法を探さなきゃいけないですね。 なんだかすごい事になってきたなぁ」

 茶奈が小さく腕を前に構え、本人なりのやる気を見せる。
 そんな小さな仕草でも、勇達にはどこか元気を与え……大きな笑顔を漏れなく呼び込んでいた。

「もしかしたら昔から文化を継承するイ・ドゥールにも何か手がかりがあるかもしれません。 機会があれば立ち寄る事も考えてもいいかもしれませんね」

「ならよ、もしかすっと共存街の魔者達も何か知ってるかもしれないぜ? ゼッコォとか割と博識だしよ」

 勇の一言を皮切りに、仲間達の間に活気が生まれる。
 僅かな可能性でも、先に進む為のキッカケがあるのかもしれない。
 それが彼等に希望を呼び込んでいた。

 途端に屋内は提案と論議に包まれ、先程の様な明るい雰囲気を取り戻す。
 剣聖もそんな空気の中で……相変わらず背を見せながらも、自身なりのアイディアを模索する様を見せていた。

「なるほどな……これがか……」

 話し合う勇達を前に、ヤヴは一人佇みぼそりと呟く。
 まるで何かを悟った様に……優しい微笑みを浮かべながら。

 彼の呟きを拾う者も居ない中で、彼はただ見つめる。
 目の前で諦めを知らぬ若者達を見守る様に。

 きっと彼には……はそれしか出来ないから。



―――聴こえているだろうか、創世の女神よ―――



 願いを、想いを馳せるのみ。



―――彼等はきっと……貴女の希望に足り得るよ―――



 目を細め、慈しみを纏う穏やかな顔付きで。
 暖かく……勇達を見守り続けていた。





 それから一時間程が過ぎ去った。
 気付けば昼間は過ぎ去り、夕刻が迫ろうとする時を刻む頃。

 議論も詰まり、後は行動するのみ。
 勇達もどこか話し合う事に満足し、出来上がった結論に自信を覗かせていた。

 それが成功する確証なんてどこにも無い。
 そればかりは勇の「確証」も閃いてはいない。

 でも、試してダメなら違う方法を模索する。
 それでもダメなら次を探す。

 世界が終わるまで。
 世界が救えるまで。

 彼等は止まるつもりなど毛頭も無いのだから。





 だが……そんな彼等の足を掬わんと、悪意が魔手を伸ばしていた。





「里長、大変だ!!」

 突如、木の扉が勢いよく開き……外から若者のゴトフ族が勢いよく飛び込んで来た。
 息を上げ、険しい顔付きを浮かべて。
 手に握るのは手製の石槍……里を守る為の武器だ。

「何があった……!?」

 突然の事に驚きつつも、ヤヴは冷静さを失う事無く若者に応える。
 勇達の注目をも集める中で……若者は乱した息を整える間も無く荒げた声を上げた。

「正体不明の魔者が……里の入口の外にッ!! 恐ろしいまでに強く、既に半数の防人さきもりが犠牲に……!!」
「なんだとッ!?」



 前触れも無く訪れた敵襲。
 それはヤヴだけでなく勇達をも驚愕させる。

 果たして、急襲せし魔者の正体とは。

 争い知らぬゴトフの里を……得も知れぬ悪意が今、覆い尽くそうとしていた……。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...