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第二節「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」
~混ざり合う、その悲劇~
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「ヴェイリさん、ちょっと訊いていいですか?」
どこへ行こうというのかわからぬまま、歩くヴェイリの後に続く勇とちゃな。
そんな時、勇はまた一つ疑問に感じた事を投げ掛けていた。
ヴェイリなら率直に答えてくれる。
そんな安心とも思える雰囲気が彼にあったからだ。
そしてその期待に沿えるかの様に、ヴェイリが振り向き笑顔を見せる。
「なんだい?」
「えっと……俺達の居場所、どうしてわかったのかなって」
それは些細な事だが、何か重要にも感じられて。
何せ勇達があの店内に居たのをピンポイントで見つけてやって来たのだから。
そこに何かカラクリがあるのではないか、そう思わずにはいられなかったのだ。
「ふむ、そうだね。 なら魔剣使いになって間も無い君達にだから教えてあげよう。 実は魔剣使いというのは、卓越すれば人の命力を遠くから感じ取る事が出来るんだ」
「ええっ!?」
そんな事は剣聖も教えてくれなかった。
もちろん訊く機会も何も無かったし、能力の事自体知らなかった訳だけれども。
「はは、ソードマスター殿はそこまで教えてはくれなかったか。 まぁ私も仕組みまではわからないんだけどね、そう感じてしまうのさ。 それで君達の命力、気配の様な物を感じたって訳だ。 とはいえ、この力は人間か魔者かまでは判別出来ないんだけどね」
「へぇ~……」
これには勇達も感心せざるを得ない。
ヴェイリはその力を使って勇達を見つけていたのだ。
ただ人か魔者か、それを見極める為に接触してきたのである。
そのお陰でこうして出会えた事は全くもって幸運だったと言えるだろう。
「君達もいずれ備わる日が来るさ。 そう、いずれ、ね……」
その「いずれ」がいつになるかはわからない。
それでも期待せずにはいられなくて、勇達の頬に笑窪が浮かぶ。
魔剣使いという存在の特殊性はまだまだ奥が深そうだ。
「ほら、見えたよ、あそこだ」
ここまでに一〇分ほど歩いただろうか。
するとヴェイリが右手に見えた一つのビルを指し示す。
そのビルは変容度合いが少なく、他の建物と比べて比較的原形を留めていて。
入口もしっかり見えるし、なんなら地下までの入り口も丸見えだ。
そんな場所へと歩を向け、「付いてきてくれ」と一言を残して歩き行く。
勇達も置いて行かれまいとそのすぐ後ろに付く中で。
ヴェイリが踏み入ったのはその地下に続くスロープ路。
壁には見慣れた有料駐車場のロゴが浮かび、地下がそうである事を示している。
しかし今は当然車の一台も通る訳も無く、閑散としたもので。
地下一階に辿り着くと、内部もじめっとした植物に覆われていた。
開放的な間だからだろうか。
どうやら変容はある程度仕切られていなければ建物だろうと影響が及ぶらしい。
今の光景を前に、改めてそう思い知らされる。
あの時建物の中に居なければ自分も消えていたかもしれないと。
この様な思考が勇にふと過り、思わずその身を「ブルリ」と震わせる。
するとそんな中ふとヴェイリが立ち止まり、その右腕をゆるりと持ち上げて。
腕の先、掌から指を一本だけ伸ばして水平に指し示す。
何だろうか?
そんな疑問の抱きつつ、勇とちゃなが指に誘われる様に視線を運ぶ。
その先にあったのは、コンクリートの灰色で覆われた駐車場の壁面だった。
「アレだ」
たったその一言。
それだけを残し、ヴェイリがその口を紡ぐ。
先程までの優顔に陰りを、僅かな強張りを纏うままに。
勇達には遠くて何がどうなのかはわからない。
だがその先に何かがある。
まるでそれを求めるが如く、勇達は揃って再び前に踏み出していた。
一歩一歩距離を詰めるごとに、壁の様相が露わと成っていく。
普通の壁、ただの塗り固められたコンクリートの壁が。
そう、思い込んでいた。
でも近づく度に、目を凝らす度に。
その光景に違和感が浮かぶ。
壁が迫る度に、輪郭が彩る度に。
その違和感が異質をも呼び込んで。
そしてそれに気付いた時、勇達はただただ―――驚嘆の声を上げる。
「こ、これってッ!?」
目を疑わずにいられない。
何故なら、その壁にはなんと腕甲を備えた人の腕が生えていたのだから。
しかもそれだけではない。
よく見れば壁には人型もが浮かび上がっていて。
「ヴェイリさん、これッ!?」
驚きながらの問い掛けに、ヴェイリはその目を閉じながらゆっくりと答えた。
「これが彼女だ」
ビルの地下にある壁に浮かぶ人型の模様。
その正体こそが、勇達が探すもう一人の魔剣使いだったのである。
それに気付いてしまったからだろう。
ちゃなが途端に「ヒッ!?」と声を漏らして後ずさる。
当然だ、実際に人がモノと化しているのだから。
「恐らく、この世界に『転移』した際に『そちら側』の建物と同化してしまったのだろう。 運が無かったんだろうな」
「『転移』って……」
そう語るヴェイリは何か知っているのだろうか?
含みのある言葉が暗に勇達へとそう伝えていて。
「私も詳しい事情はわからないが、考えるに『こちら側』と『そちら側』の世界が何かしらの力で混ざり合ったのだと思われる」
「あ……」
それでいてわかり易い言葉を使ってくれるからこそわかる。
今起きている事が如何に異常なのかが。
こうなるに至った原理こそわからない。
だが勇達の世界と剣聖達の世界が〝混ざった〟事でこの様な現象が起きた。
そう考えると大体辻褄が合うのだ。
人が居なくなったのも、もしかしたら地表部だけが〝混ざった〟事で消えてしまったのかもしれない。
そう、目の前の魔剣使いの様に。
当然、消えた人々がどこに行ったかなどわかりはしない。
そもそもこういった現象が何なのかもわかる訳も無い。
剣聖が言った通り、考えようが答えなど出る訳も無いのだから。
もちろん他にもわからない事は多い。
例えば言葉が通じる事だ。
こうやって今も互いが意思疎通を出来ている訳だが。
でも互いが知らない名称などは、不思議と聞こえ辛かったり、わからなかったりで。
そういった原因もまた彼等すら知らない謎の力が影響しているのかもしれない。
それこそ、二つの世界を混ぜるという神がかり的な力が。
もちろんこれはヴェイリの予測でしかない。
彼もまたこの事象に関して知識が無いからこそ。
だからこそ抱いている不安は勇達と一緒なのだろう。
少なくとも慎重に動いている辺り、文明の違いがある事も理解していそうだ。
その点、彼等は思うよりずっと賢いのかもしれない。
「故に我々へ【ダッゾ族】の討伐を命じた【フェノーダラ】も現存しているかどうか」
「だっぞ……あの魔者の名前ですね」
「うむ」
なので無駄な戦いも避けているといった所か。
雇い主である【フェノーダラ】という国が存在しているかわからない今だから。
もっとも、勇達『こちら側』の人間としては大いに困る訳だが。
どこへ行こうというのかわからぬまま、歩くヴェイリの後に続く勇とちゃな。
そんな時、勇はまた一つ疑問に感じた事を投げ掛けていた。
ヴェイリなら率直に答えてくれる。
そんな安心とも思える雰囲気が彼にあったからだ。
そしてその期待に沿えるかの様に、ヴェイリが振り向き笑顔を見せる。
「なんだい?」
「えっと……俺達の居場所、どうしてわかったのかなって」
それは些細な事だが、何か重要にも感じられて。
何せ勇達があの店内に居たのをピンポイントで見つけてやって来たのだから。
そこに何かカラクリがあるのではないか、そう思わずにはいられなかったのだ。
「ふむ、そうだね。 なら魔剣使いになって間も無い君達にだから教えてあげよう。 実は魔剣使いというのは、卓越すれば人の命力を遠くから感じ取る事が出来るんだ」
「ええっ!?」
そんな事は剣聖も教えてくれなかった。
もちろん訊く機会も何も無かったし、能力の事自体知らなかった訳だけれども。
「はは、ソードマスター殿はそこまで教えてはくれなかったか。 まぁ私も仕組みまではわからないんだけどね、そう感じてしまうのさ。 それで君達の命力、気配の様な物を感じたって訳だ。 とはいえ、この力は人間か魔者かまでは判別出来ないんだけどね」
「へぇ~……」
これには勇達も感心せざるを得ない。
ヴェイリはその力を使って勇達を見つけていたのだ。
ただ人か魔者か、それを見極める為に接触してきたのである。
そのお陰でこうして出会えた事は全くもって幸運だったと言えるだろう。
「君達もいずれ備わる日が来るさ。 そう、いずれ、ね……」
その「いずれ」がいつになるかはわからない。
それでも期待せずにはいられなくて、勇達の頬に笑窪が浮かぶ。
魔剣使いという存在の特殊性はまだまだ奥が深そうだ。
「ほら、見えたよ、あそこだ」
ここまでに一〇分ほど歩いただろうか。
するとヴェイリが右手に見えた一つのビルを指し示す。
そのビルは変容度合いが少なく、他の建物と比べて比較的原形を留めていて。
入口もしっかり見えるし、なんなら地下までの入り口も丸見えだ。
そんな場所へと歩を向け、「付いてきてくれ」と一言を残して歩き行く。
勇達も置いて行かれまいとそのすぐ後ろに付く中で。
ヴェイリが踏み入ったのはその地下に続くスロープ路。
壁には見慣れた有料駐車場のロゴが浮かび、地下がそうである事を示している。
しかし今は当然車の一台も通る訳も無く、閑散としたもので。
地下一階に辿り着くと、内部もじめっとした植物に覆われていた。
開放的な間だからだろうか。
どうやら変容はある程度仕切られていなければ建物だろうと影響が及ぶらしい。
今の光景を前に、改めてそう思い知らされる。
あの時建物の中に居なければ自分も消えていたかもしれないと。
この様な思考が勇にふと過り、思わずその身を「ブルリ」と震わせる。
するとそんな中ふとヴェイリが立ち止まり、その右腕をゆるりと持ち上げて。
腕の先、掌から指を一本だけ伸ばして水平に指し示す。
何だろうか?
そんな疑問の抱きつつ、勇とちゃなが指に誘われる様に視線を運ぶ。
その先にあったのは、コンクリートの灰色で覆われた駐車場の壁面だった。
「アレだ」
たったその一言。
それだけを残し、ヴェイリがその口を紡ぐ。
先程までの優顔に陰りを、僅かな強張りを纏うままに。
勇達には遠くて何がどうなのかはわからない。
だがその先に何かがある。
まるでそれを求めるが如く、勇達は揃って再び前に踏み出していた。
一歩一歩距離を詰めるごとに、壁の様相が露わと成っていく。
普通の壁、ただの塗り固められたコンクリートの壁が。
そう、思い込んでいた。
でも近づく度に、目を凝らす度に。
その光景に違和感が浮かぶ。
壁が迫る度に、輪郭が彩る度に。
その違和感が異質をも呼び込んで。
そしてそれに気付いた時、勇達はただただ―――驚嘆の声を上げる。
「こ、これってッ!?」
目を疑わずにいられない。
何故なら、その壁にはなんと腕甲を備えた人の腕が生えていたのだから。
しかもそれだけではない。
よく見れば壁には人型もが浮かび上がっていて。
「ヴェイリさん、これッ!?」
驚きながらの問い掛けに、ヴェイリはその目を閉じながらゆっくりと答えた。
「これが彼女だ」
ビルの地下にある壁に浮かぶ人型の模様。
その正体こそが、勇達が探すもう一人の魔剣使いだったのである。
それに気付いてしまったからだろう。
ちゃなが途端に「ヒッ!?」と声を漏らして後ずさる。
当然だ、実際に人がモノと化しているのだから。
「恐らく、この世界に『転移』した際に『そちら側』の建物と同化してしまったのだろう。 運が無かったんだろうな」
「『転移』って……」
そう語るヴェイリは何か知っているのだろうか?
含みのある言葉が暗に勇達へとそう伝えていて。
「私も詳しい事情はわからないが、考えるに『こちら側』と『そちら側』の世界が何かしらの力で混ざり合ったのだと思われる」
「あ……」
それでいてわかり易い言葉を使ってくれるからこそわかる。
今起きている事が如何に異常なのかが。
こうなるに至った原理こそわからない。
だが勇達の世界と剣聖達の世界が〝混ざった〟事でこの様な現象が起きた。
そう考えると大体辻褄が合うのだ。
人が居なくなったのも、もしかしたら地表部だけが〝混ざった〟事で消えてしまったのかもしれない。
そう、目の前の魔剣使いの様に。
当然、消えた人々がどこに行ったかなどわかりはしない。
そもそもこういった現象が何なのかもわかる訳も無い。
剣聖が言った通り、考えようが答えなど出る訳も無いのだから。
もちろん他にもわからない事は多い。
例えば言葉が通じる事だ。
こうやって今も互いが意思疎通を出来ている訳だが。
でも互いが知らない名称などは、不思議と聞こえ辛かったり、わからなかったりで。
そういった原因もまた彼等すら知らない謎の力が影響しているのかもしれない。
それこそ、二つの世界を混ぜるという神がかり的な力が。
もちろんこれはヴェイリの予測でしかない。
彼もまたこの事象に関して知識が無いからこそ。
だからこそ抱いている不安は勇達と一緒なのだろう。
少なくとも慎重に動いている辺り、文明の違いがある事も理解していそうだ。
その点、彼等は思うよりずっと賢いのかもしれない。
「故に我々へ【ダッゾ族】の討伐を命じた【フェノーダラ】も現存しているかどうか」
「だっぞ……あの魔者の名前ですね」
「うむ」
なので無駄な戦いも避けているといった所か。
雇い主である【フェノーダラ】という国が存在しているかわからない今だから。
もっとも、勇達『こちら側』の人間としては大いに困る訳だが。
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