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第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」

~真実を訴えし者の唄~

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「続いてデューク=デュランだけど……」

 エイミー=ブラットニーの事を話し終え……次の話題に上がったのは、勇でも知る人物。
 だがそれを語ろうとしたアルディは僅かに表情を強張らせていた。

「彼に関しても、フランスに居るという事以外は殆ど知らない」

 それについては勇達も同様だ。
 小嶋騒動の際に大迫から名前を聞いた一人……デューク=デュラン。
 フランスに居るという事も福留から小耳を挟んだ事があり、仲間達にも共有されている事実だ。

「フランス政府が秘匿しているんだったな……」

「その通り。 彼も結構やり手でね、あの手この手で罠を張って、追尾を躱しているんだそうだ。 彼は凄いよ……人柄もいいし、手腕も素晴らしい。 おまけに美人秘書付きときたものだ。 羨ましい事この上なかったね」

 アルディから漏れるのは、デュランを褒める様な言葉ばかり。
 容姿や性格など、勇達が初めて知る情報も含まれてはいたが……後半はただの僻みが羅列するだけだった。

 それ程までに……アルディにとってのデュランは完璧な人間だったのだろう。
 頂点を目指そうとしていたアルディが妬ましくなる程に。

「―――とまぁそんな所だね。 そうそう……あと一つ、これは君達も知らない事かもしれない」

「えっ……」

 その時、アルディの表情が僅かに強張りを見せる。
 それに気付いた勇達もまた緊張を感じ取り……僅かに目を細めさせた。



「デューク=デュランは恐らく、魔剣使いだろうね」



 途端、勇達の顔に驚愕の表情が浮かび上がる。
 当然だ、予想打にもしなかった事実なのだから。

 【救世同盟】は現代で生まれた組織だ。
 世界を救うという理念の下で人が集まっただけで、魔剣使いがリーダーになる必要性は無い。

 だがデュランが魔剣使いという事実。
 それはかつてのデュゼローを彷彿とさせ、勇達に思わぬ強い緊張を呼び込んでいた。

「私は魔剣使いの事はよくわからないが、恐らく彼は強い。 何故なら……彼は同志デュゼローに教えを受けたと聞いているからね」

「なっ!?」

「そして知識も知恵もあり、【救世同盟】を束ねるカリスマ性も十分だ。 そんな彼に君は勝てるかい?」

 アルディが突如鋭い目付きを浮かべ、意見を請う。
 その相手は当然、勇だ。

 その問いを前に、勇は直ぐには答えられずにいた。
 出会ってもいない、知りすらしない相手と比べる事が出来るはずも無いのだから。

「もし力でねじ伏せる事が出来たのなら、それは幸運だろう。 だが今の君には恐らくそれは無理だ。 何故なら君は私に策略で負けた。 結果的には私の方が敗北したがね」

「それは……」

「もっと賢くなりたまえ、ユウ=フジサキ。 そしてを手に入れるんだ」

「……答え?」

「そうだ、君の信念の基となる答えの事だよ。 グランディーヴァは今、簡単に言えば宙づり状態だ。 目的があっても目標がハッキリとしていないだろう? 君は言ったハズだ、『世界を救ってみせる』と。 だがその方法はまだ確立していない……!」

「ウウッ!?」

 アルディの一言は核心だった。
 勇だけでなく、茶奈やディック達すら動揺させる程の。

 福留とミシェルはそれを理解していたからこそ、彼の一言を前に目を逸らしていた。

 途端、アルディの顔が自身の手によって覆われ、指の間から目だけが覗く。
 隙間から浮かぶ瞳は……厳しさと慈しみが同居した鋭さを誇り、勇へと一身にぶつけられた。





「見つけるんだ、ユウ=フジサキ。 真に世界を救う方法を。 それが出来なければ、デュランには勝てない……!!」





 それはまるで激励の様だった。
 デューク=デュランという男を生で見て感じた彼だからこそ言える一声は、何者が語るよりも強く、真実味に溢れていたのだから。
 先日まで殺し合う敵だった人間から放たれたとは思えぬ一言に、勇達が激震する。

 力だけでも、知恵だけでも、勝つ事は出来ない。

 それ程の事を言わせるまでに、デュランという男は恐ろしい存在なのかもしれない。

「真実を見つけ、世界を味方に付けろ。 そうすればきっと君達に付け入る隙はあるはずだ。 その時は是非とも私にも教えてもらいたいものだね」

「アルディ……アンタは……」











 尋問が終わり、アルディがディックに連れられて独房へと歩いていく。
 しかしその背中は先程の高説に恥じぬ堂々とした様だった。

 彼の去っていく背中を勇達が見送り続ける。
 その顔はどこか、友を見送るかの様な清々しい表情を浮かべていた。

「アルディさん、本当は悪い人じゃないのかもしれませんね」

「俺もそう思う……少し変な奴だけどな」

 彼の語った言葉は明らかに勇達への応援。
 そして一つの道しるべとも言うべきもの。

 敵だった人間からそんな事を言われるなど、思っても見なかったのだろう。

「もし世界がここまで複雑に歪んでいなければ……彼は世界をリードする一人になっていたかもしれませんねぇ」

「時代の犠牲者という訳ですね……とても悲しい事です」

 フララジカが始まる前から、世界は色々な人の思惑が絡み合い、複雑に歪んでいた。
 人がもう少し彼の様に誠実だったのなら……アルディはこの様な道に走らなかったかもしれない。

 それ程までに……世界の在り方は人生をも軽々と歪ませてしまうのだから。

「彼が嘘を付いている可能性もありますが……勇君はその点に付いてはどう思いますか?」

「俺にはアルディが嘘を付いているとは思えない。 それも策略の内なのかもしれないけど、少なくとも目標の事に関しては嘘も真も無いと思うから」

「そうですね、あの人の心の色……勇さんに似ていましたもん」

 勇の心の色……空色。
 空の様に透き通った様な、誠実の色だ。

 茶奈の一言は勇の僅かな惑いを払い、思わず微笑みを呼び込む。

「なら俺達は……見つけよう、真に世界を救う方法を。 アルディが嘘を付いているかどうか判断するのは、見つけて伝えてからでいい。 嘘だったのなら、そこで悔しがる姿が見られるだけなんだしな」

 勇の一言を前に、茶奈達が頷き応える。
 彼女達の心もまた既に決まっていたから。



 こうしてアルディとの対話が終わりを告げる。
 かくして彼との話は仲間内へと伝えられ、これからの目標に意思を固める材料となった。

 だが勇達が向かおうとしているのは得体の知れない隠れ里。
 そこで果たして何が待つのか……誰もまだ予想すら出来はしない。


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