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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」

~騎士改曲〝鋼の翼〟~

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「これより進路をリビア中央に設定。 緊急時に付き、進路上の諸国に通達のみ行い、最大船速で目的地へ向かうようお願いします」

 勇達が管制室から出て、首にあたる長い通路を突き進む。
 並び歩く莉那は器用にタブレットを操作しながら、インカムを通して管制室のメンバーに指示を送っていた。

 彼等が向かうのは前部格納庫。
 人員居住エリアの前方下部、アルクトゥーンの首元に存在するエリアだ。
 後部と異なり狭めだが、緊急発進などで重宝するカタパルトが搭載されている。

「では、これから作戦を説明します。 まずはこれを見てください」

 通信を終えた莉那がタブレットを掲げ、勇達へと向ける。
 勇達が画面を覗き込むと……そこにはリビア周辺の地図とアルクトゥーンの現在位置、そしてリビア中央から南に掛けてに三つの印が浮かび上がっていた。

「これは先程の動画の配信元を逆探知し、そこから絞り上げたアルディ潜伏の候補地です。 勇さん達にはこれからこれらの場所を分散して急襲、アルディの確保または魔剣ミサイルの破壊が最終目標となります」

「凄い……こんなものいつの間に……」

 恐らくアルディの動画が流れていた際、彼女はずっとその居場所を探していたのだろう。
 勇がリビア急襲を指示する事を見計らって。

「それにあたり皆さんには三部隊に分かれて行動をし、到達後に個々に分散して目標の発見を急いで頂く事になります」

 勇達が通路を抜けると、下層へ続く階段へと辿り着く。
 真下に行けばすぐに格納庫といった場所だ。
 そこで莉那はタブレットを引き、懐へと抱え込んだ。

「まず第一部隊は勇さんを筆頭に茶奈さん、心輝さん。 第二部隊は瀬玲さんとイシュライトさん。 第三部隊はマヴォさん、ナターシャさん、ディックさんで構成します。 第一部隊は茶奈さんの輸送の下で最も遠い南部へ、第二部隊はアルクトゥーンが直接西部へ輸送します」

「第三部隊は……? 機動力が乏しいなら心輝を配置した方が良いのではないか?」

 そこで降りていた階段の先が見え、下層へと足を突く。
 すぐ目前に見える銀色の空間……前部格納庫。
 そこへ皆の視線が向けられた時、彼等は知る。

 第三部隊の人員がそう割り当てられた理由を。



「うぴぴ……その必要はねぇッスよ。 何故ならマヴォさん、アンタにゃ【ヴォルトリッター】があるッスからね」



 格納庫の中央に置かれていたのは、マヴォの愛機【ヴォルトリッター】。
 アルクトゥーンへ乗り込む際、この機体もまた艦内へと搬入されていた。

 だが、肝心の【ヴォルトリッター】は詰まる所、巨大なバイクだ。
 愛機の事をよく知るであろうマヴォはと言えば……首を傾げ、眉を細めさせていた。

「いくらコイツであろうと、地面に落ちればひとたまりもなかろう。 どうするつもりなんだ……?」

 勇達もまたマヴォ同様、疑問の顔を浮かべる。
 そんな彼等を前に……カプロは得意げに彼等の前へと踊り出ては一足先に格納庫へと飛び込んでいった。

「……上出来ッス。 これならいけるッスね」

「だから一体何が―――」

 彼に続き格納庫へと足を踏み入れた勇達。
 その時……彼等の視界に異様な物が映りこむ。

 そこにあったのは……まるで戦闘機の翼の様な、銀色の鉄の塊。
 全長で言えば十メートルもありそうな程に長い、の物体。
 先日勇と茶奈が後部格納庫で見かけた物だ。
 そんな物を前に、誰しもが不思議に思わずには居られなかった。

 カプロと莉那を除いては。

「うぴぴ……コイツはこんな時の為に開発していたヴォルトリッターの追加プラスパーツ【グライドランサー】ッス!! コイツを高速走行モードにしたヴォルトリッターと連結する事で、なんと飛行機みたいに空を飛ぶ事が出来る様になるんス!!」

「なんだと!?」

 高速走行モードとは、直線路などで最高速度を出す為に設けられたヴォルトリッターの変形モードの事である。
 ステアリングが殆ど効かなくなる欠点があるが、最高速度400km/hにも達する事が出来る様になるといったもの。
 
 その能力についてはマヴォも知る所ではあるが……追加パーツの事までは知らなかった様だ。

「オマケに後部には人員が乗れるようになってるッス。 内部にはラーフヴェラの命力自動制御システムと同じ物が搭載されていて、命力を持たないディックさんの様な人でも搭乗出来る様にオートガードフィールドが展開される様になってるッスよ」

「ほぉ~……凄いじゃないか……これなら確かに俺も前線に立てるってものだね」

「本当は戦闘兵器も乗せたかったんスけどね、敵への攻撃は当人の手に委ねる事にしたッス」

 カプロが望むのは、殺傷能力を高めた武器ではない。
 相手に出来うる限りの慈悲を与え、互いに生き残る為の力を望んでいる。
 だから彼は委ねたのだ……人の想いが最も籠る、彼等の手で使う武器を。

 きっと彼等がその想いを体現してくれるだろうから。

「皆さんよろしいですか? これから私達はグランディーヴァとして戦わなければなりません。 グランディーヴァの目的は殺し合う事無く二つの世界を救う事。 その理念を徹底せねば、誰も信じてもらえなくなります」

 カプロが、莉那が……己の想いを彼等に委ねる。
 これからの戦いが、ただの戦いではないという意味を篭めて。

「よって、皆さんはこれから……全ての相手において、不殺を貫いて頂きます。 少なくとも、自らの手で人や魔者を殺める事無きよう協力をお願い致します」

 莉那の無表情の口から強い想いが語られる。
 彼女がどんな気持ちでいるのか……無表情でありながらもひしひしと伝わらんばかりに。

 それを読み取った勇が頷き、意思を汲む。
 元より願っていたからこそ、その理解に迷いは無かった。

「特に瀬玲さんとイシュライトさんは気を付ける様お願い致します」

「耳が痛いわぁ……了解」

 二人が苦笑を浮かべながらも拝承のサムズアップを見せつける。

 こうして莉那の説明が終わり、残るは彼等の準備を待つだけ。
 莉那の指示の下……勇達は即座にその場から離れ、準備を行う為に自室へと急ぎ戻っていった。

 残るのは非戦闘員である莉那とカプロ、そして龍のみ。

「龍さん、私の采配は如何でしたでしょうか?」

 卒なく無駄無く……そうとしか思えぬ莉那の行動を前に、龍は口を閉じっぱなしだった。
 険しい顔付きの彼を前に、二人だけでは無く周囲のスタッフもまた緊張の面持ちを浮かべる。

 だが……途端、龍の強張った頬が緩みを見せた。

「申し分無い……さすが福留氏の孫といった所か。 見事な手腕であったよ」

 その一言と共に、龍が「パチパチ」と拍手を掻き鳴らす。
 そんな反応を前に……莉那は誰にも気付かれない様な小さな溜息を零していた。
 きっと内面は緊張していたのだろう。
 まだ経験も浅いのだ、不安もあったのかもしれない。

「ありがとうございます」

 小さな体が前屈し、更に小ささに拍車を掛ける。
 彼女のそんな姿を、龍は穏やかな微笑みを浮かべて見下ろしていた。

 緊張が解れた中、カプロがスタッフへ指示を送り、止まっていた【ヴォルトリッター】へ追加パーツ換装を再開する。
 設計がしっかりと上手く行ったのだろう……間も無く接続は完了し、発進準備は整った。

 茶奈用新型カーゴと【ヴォルトリッタープラス】……二つの翼が揃い、主を待つ。



 後は勇達が準備を整えてやってくるのみ。



 緊張が未だ残る艦内で、彼等の意思が交錯する。
 来たるべき戦いに向け……その準備は遂に整うのだった……。


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