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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
~SIDE勇-13 裸の王様~
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「貴方はアメリカに行ったハズ……何故ッ……!?」
小嶋の顔に浮かぶのは……悔しさに歯を食いしばり、苦痛に歪め潰れた憤怒の面。
憎悪とも言える責め立てる様な声をぶつけ、歩み寄ってくる勇を威嚇する。
「戻って来たんだ……アメリカで全て知らされて!!」
「何ッ……!?」
ここに至るまでおおよそ四時間……たったそれだけで勇達は日本の真実を知った。
その行動力こそ、平野が忠言した勇達の真価。
そして平野すら想像も付かなかった結論に対する素早さ。
小さな綻びであろうと、それはいずれ崩壊を招く枷と成る。
小嶋達にとって取るに足らないと思っていた綻びは……今、叶うはずだった理想を打ち砕く程までに大きくなっていたのである。
一歩一歩、確実に距離を詰めていく勇を前に、車を背後にした小嶋達は下がる事も出来ず追い詰められていく。
そんな時……平野が小嶋を庇うが如く前に飛び出した。
「ッ!? 平野さん!?」
その時、勇は初めて気付く。
小嶋を庇おうと立ち塞がった者の正体に。
元々仲間として共に戦地へ向かい、彼のサポートを受けて戦った事が何度もある。
戦いだけでなく常日頃から共に過ごし、時には笑わせられた事も。
仲良くやれていたと思っていた人物が今こうして敵の側に立っている。
福留同様……何かを考えての行動なのかはわかりはしない。
そんな平野を前にした時……勇の歩みが止まった。
「平野さん……どうして……」
「どうしてもこうしても……彼女の下に付いたのは僕の意思です!!」
その時、平野がブレザーに左手を差し込み……懐に仕舞ってあった拳銃を取り出した。
福留が持っていた物と同じ物を。
同様に構え、同様に……銃口を勇へと向けた。
そして同様に向けた鋭い視線もまた、嘘偽りない敵意を篭めたモノだった。
「そしてその要因を作ったのは……他でもない君だッ!!」
「えっ……」
福留ほど様にはなっていないものの、不慣れに構えられた拳銃は僅かに震え、それでも確実に狙いを定めようとしている。
その最中で、平野は己に募りに募った想いを吐き出し始めた。
「僕には野心があった……大きくなって世界を回す人間になるのだと!! だから僕は福留先生に教えを請い、その全てを学んだ!! そしてゆくゆくはあの人の様になり、多くの政財界と繋がりを持つ為に……!! 僕にはそれが出来る自信があったッ!!」
猛る感情は彼を怒りに内震わせ、体をも揺らし、照準を狂わせる。
それでも構う事無く……平野は叫ぶ。
自分の無念を乗せて。
「でも世界が変わってしまった……こんなにおかしくなって!! そして君が現れたんだ!! 君の存在はあっという間に僕を差し置いて大きくなっていった……福留先生が大きく期待する程に……!! それが悔しかった……福留先生に、君じゃなくて僕を見ていてもらいたかったんだッ!!」
その彼の顔に映るのもまた憎悪の陰り。
目の前に居る藤咲勇という存在が、彼にとって何よりも妬ましかったから。
「でももうそれも叶わない……僕はそう理解したんだ。 例え君が退いても、あの人の価値観が変わる訳じゃない……僕は君を越えられないとわかったのさ……」
そして同時に、福留の価値観を基準にする事を諦めたのだ。
しかし彼は全てを諦めた訳ではない。
「だから僕は小嶋先生の理想に付く事にしたんだ!! 当たり前じゃないか、僕は成功したいんだ……小嶋先生の下で新世界を築く、選ばれし者になるんだ!! そして僕が王になる!! 新世界を統べる王様になるんだッ!! だから……邪魔をするな藤咲勇ッ!!!」
彼は当然人を撃った事も無い。
そんな覚悟も無いだろう。
それでも、理想を追い求める為に……彼は引き金に指を充て、狙いを定める。
目の前に居る邪魔者を排除する為に。
「平野さん……それはおかしいよ……!!」
その時、平野が引き金を引く前に……勇の声が上がった。
途端、平野の指がピクリと震え、動きが止まる。
「な……何……?」
「平野さん……貴方の理想の未来は、皆居なくなった世界なんですよ? 例えフララジカが止まったとしても……そこに残るのは、皆が殺し合った後の世界じゃないか……」
「そ、それは……」
王とは、民衆あっての存在である。
人を統べる者である。
政治家だけが集まって築かれるのは会議あって、国ではない。
民衆が住む国を纏める為に、王が居るのだ。
「貴方は……裸の王様になりたいんですかッ……?」
一つのおとぎ話がある。
民衆に慕われたい、王としての威厳を得たいが為に、身なりを飾ろうと奔走する王様の物語だ。
だがその王様は詐欺師に騙され……選ばれし者にしか見えぬと言われた服を買わされた。
騙された事を知らぬ王は、見えぬ服を前に虚言を張り上げ、その服を身に着けた体で街へと繰り出したのである。
そんな王を見た民衆はとうとう彼に呆れ、見放した。
王はそこで初めて気付いたのだ。
自分が騙されていた事に。
そして、飾る事に何の意味も無い……ただの虚勢に過ぎない事に。
フララジカを止める為に人々が殺し合った世界。
それを眺めて観ていただけの者達を、誰が慕うだろうか。
そもそも生き残った者は居るのだろうか。
そんな世界で王になっても、たった一人だ。
それはまさに『裸の王様』……ただの滑稽な道化師に過ぎないのだから。
「ぼ、僕は……う、うう……」
核心とも言える勇の一言が平野の心を激しく揺さぶらせた。
彼の望んだ未来、野望……それらが崩れていく感覚。
そんな感覚に苛まれ……とうとう、平野が膝を突く。
手に持っていた拳銃を地面に落とし、そのままガクリと両手を大地に突いたのだった。
「うぅぅ……く……くそッ……くッそぉぉおーーーーーーッ!!」
自分の理想が余りにも儚くて。
そして単純だと気付いてしまったから。
項垂れ、肘を突き、悔しさで身が震える。
大粒の涙が頬を流れる前に零れ落ち、日で焼けたアスファルト上に染みこんで蒸発していく。
今の彼はもう気付いてしまったのだ。
自分の犯した過ちがどれだけ浅はかで愚かな事だったのかを。
アスファルトが乾かしきれない程の雫が零れ落ち、浮かび上がった染みの黒さが悲しみの深さを体現するかのよう。
「平野さん、それでも貴方ならわかるハズだ……人はやり直せるって事を。 だから俺は信じてる……貴方が見せてくれた笑顔は嘘じゃあないんだって」
悲しみに打ち震える平野へ、勇がそっと囁きを贈る。
なお声を荒げて泣き喚く彼にそれが聴こえていたかは定かではないが……そう一つ伝えると、勇はそっと視線を移した。
車に背を這わせる様にゆっくりと逃げようとする小嶋へ向けて。
ダンッ!!
「ヒッ!?」
突如、叩く様な音が周囲に鳴り響き、それに驚いた小嶋が思わず悲鳴を上げる。
それは勇がつま先でアスファルトを叩いた音。
余りの衝撃にヒビが入ってしまう程に力強く。
デュゼローが実践したのと同じ、人心掌握の布石の一つである。
威嚇にも足る破衝音を前に、委縮した小嶋が堪らず固まる。
そして外していた視線が再び勇へ向けられた時……彼女はただ、畏怖した。
勇から刺すかの如き鋭い視線が向けていたから。
平野に向けられた視線とは異なる厳しい目付き。
それは今までに彼と対峙した多くの悪意に向けられた物と同じ。
彼は今、小嶋由子を自身を脅かす最大の敵として認識しているのだ。
まだ何も起きていない2年半前の時点であれば、ここまで敵意は向けなかっただろう。
だが……小嶋が動いた所為で、当時勇の恋人でもあった亜月は死んだ。
それだけではない。
今の今までに、小嶋ら【救世同盟】が動いた事で世界は死で溢れかえったのだ。
そしてそれに心を痛め、苦しんだ仲間達がいた。
家族もまた脅かされた。
だから勇は敵意を向けた。
彼にとって、小嶋由子はもはや人間では無かった。
人間の面を被った……魔物。
人を襲う魔者にすら劣る、同種である者を慈しむ心も知らぬ異生物。
それが今、身内だけでなく国を脅かそうとしている。
その敵を前に、勇はもう引く事は無い。
また過ちを犯さない為に。
「貴方はアメリカに行ったハズ……何故ッ……!?」
小嶋の顔に浮かぶのは……悔しさに歯を食いしばり、苦痛に歪め潰れた憤怒の面。
憎悪とも言える責め立てる様な声をぶつけ、歩み寄ってくる勇を威嚇する。
「戻って来たんだ……アメリカで全て知らされて!!」
「何ッ……!?」
ここに至るまでおおよそ四時間……たったそれだけで勇達は日本の真実を知った。
その行動力こそ、平野が忠言した勇達の真価。
そして平野すら想像も付かなかった結論に対する素早さ。
小さな綻びであろうと、それはいずれ崩壊を招く枷と成る。
小嶋達にとって取るに足らないと思っていた綻びは……今、叶うはずだった理想を打ち砕く程までに大きくなっていたのである。
一歩一歩、確実に距離を詰めていく勇を前に、車を背後にした小嶋達は下がる事も出来ず追い詰められていく。
そんな時……平野が小嶋を庇うが如く前に飛び出した。
「ッ!? 平野さん!?」
その時、勇は初めて気付く。
小嶋を庇おうと立ち塞がった者の正体に。
元々仲間として共に戦地へ向かい、彼のサポートを受けて戦った事が何度もある。
戦いだけでなく常日頃から共に過ごし、時には笑わせられた事も。
仲良くやれていたと思っていた人物が今こうして敵の側に立っている。
福留同様……何かを考えての行動なのかはわかりはしない。
そんな平野を前にした時……勇の歩みが止まった。
「平野さん……どうして……」
「どうしてもこうしても……彼女の下に付いたのは僕の意思です!!」
その時、平野がブレザーに左手を差し込み……懐に仕舞ってあった拳銃を取り出した。
福留が持っていた物と同じ物を。
同様に構え、同様に……銃口を勇へと向けた。
そして同様に向けた鋭い視線もまた、嘘偽りない敵意を篭めたモノだった。
「そしてその要因を作ったのは……他でもない君だッ!!」
「えっ……」
福留ほど様にはなっていないものの、不慣れに構えられた拳銃は僅かに震え、それでも確実に狙いを定めようとしている。
その最中で、平野は己に募りに募った想いを吐き出し始めた。
「僕には野心があった……大きくなって世界を回す人間になるのだと!! だから僕は福留先生に教えを請い、その全てを学んだ!! そしてゆくゆくはあの人の様になり、多くの政財界と繋がりを持つ為に……!! 僕にはそれが出来る自信があったッ!!」
猛る感情は彼を怒りに内震わせ、体をも揺らし、照準を狂わせる。
それでも構う事無く……平野は叫ぶ。
自分の無念を乗せて。
「でも世界が変わってしまった……こんなにおかしくなって!! そして君が現れたんだ!! 君の存在はあっという間に僕を差し置いて大きくなっていった……福留先生が大きく期待する程に……!! それが悔しかった……福留先生に、君じゃなくて僕を見ていてもらいたかったんだッ!!」
その彼の顔に映るのもまた憎悪の陰り。
目の前に居る藤咲勇という存在が、彼にとって何よりも妬ましかったから。
「でももうそれも叶わない……僕はそう理解したんだ。 例え君が退いても、あの人の価値観が変わる訳じゃない……僕は君を越えられないとわかったのさ……」
そして同時に、福留の価値観を基準にする事を諦めたのだ。
しかし彼は全てを諦めた訳ではない。
「だから僕は小嶋先生の理想に付く事にしたんだ!! 当たり前じゃないか、僕は成功したいんだ……小嶋先生の下で新世界を築く、選ばれし者になるんだ!! そして僕が王になる!! 新世界を統べる王様になるんだッ!! だから……邪魔をするな藤咲勇ッ!!!」
彼は当然人を撃った事も無い。
そんな覚悟も無いだろう。
それでも、理想を追い求める為に……彼は引き金に指を充て、狙いを定める。
目の前に居る邪魔者を排除する為に。
「平野さん……それはおかしいよ……!!」
その時、平野が引き金を引く前に……勇の声が上がった。
途端、平野の指がピクリと震え、動きが止まる。
「な……何……?」
「平野さん……貴方の理想の未来は、皆居なくなった世界なんですよ? 例えフララジカが止まったとしても……そこに残るのは、皆が殺し合った後の世界じゃないか……」
「そ、それは……」
王とは、民衆あっての存在である。
人を統べる者である。
政治家だけが集まって築かれるのは会議あって、国ではない。
民衆が住む国を纏める為に、王が居るのだ。
「貴方は……裸の王様になりたいんですかッ……?」
一つのおとぎ話がある。
民衆に慕われたい、王としての威厳を得たいが為に、身なりを飾ろうと奔走する王様の物語だ。
だがその王様は詐欺師に騙され……選ばれし者にしか見えぬと言われた服を買わされた。
騙された事を知らぬ王は、見えぬ服を前に虚言を張り上げ、その服を身に着けた体で街へと繰り出したのである。
そんな王を見た民衆はとうとう彼に呆れ、見放した。
王はそこで初めて気付いたのだ。
自分が騙されていた事に。
そして、飾る事に何の意味も無い……ただの虚勢に過ぎない事に。
フララジカを止める為に人々が殺し合った世界。
それを眺めて観ていただけの者達を、誰が慕うだろうか。
そもそも生き残った者は居るのだろうか。
そんな世界で王になっても、たった一人だ。
それはまさに『裸の王様』……ただの滑稽な道化師に過ぎないのだから。
「ぼ、僕は……う、うう……」
核心とも言える勇の一言が平野の心を激しく揺さぶらせた。
彼の望んだ未来、野望……それらが崩れていく感覚。
そんな感覚に苛まれ……とうとう、平野が膝を突く。
手に持っていた拳銃を地面に落とし、そのままガクリと両手を大地に突いたのだった。
「うぅぅ……く……くそッ……くッそぉぉおーーーーーーッ!!」
自分の理想が余りにも儚くて。
そして単純だと気付いてしまったから。
項垂れ、肘を突き、悔しさで身が震える。
大粒の涙が頬を流れる前に零れ落ち、日で焼けたアスファルト上に染みこんで蒸発していく。
今の彼はもう気付いてしまったのだ。
自分の犯した過ちがどれだけ浅はかで愚かな事だったのかを。
アスファルトが乾かしきれない程の雫が零れ落ち、浮かび上がった染みの黒さが悲しみの深さを体現するかのよう。
「平野さん、それでも貴方ならわかるハズだ……人はやり直せるって事を。 だから俺は信じてる……貴方が見せてくれた笑顔は嘘じゃあないんだって」
悲しみに打ち震える平野へ、勇がそっと囁きを贈る。
なお声を荒げて泣き喚く彼にそれが聴こえていたかは定かではないが……そう一つ伝えると、勇はそっと視線を移した。
車に背を這わせる様にゆっくりと逃げようとする小嶋へ向けて。
ダンッ!!
「ヒッ!?」
突如、叩く様な音が周囲に鳴り響き、それに驚いた小嶋が思わず悲鳴を上げる。
それは勇がつま先でアスファルトを叩いた音。
余りの衝撃にヒビが入ってしまう程に力強く。
デュゼローが実践したのと同じ、人心掌握の布石の一つである。
威嚇にも足る破衝音を前に、委縮した小嶋が堪らず固まる。
そして外していた視線が再び勇へ向けられた時……彼女はただ、畏怖した。
勇から刺すかの如き鋭い視線が向けていたから。
平野に向けられた視線とは異なる厳しい目付き。
それは今までに彼と対峙した多くの悪意に向けられた物と同じ。
彼は今、小嶋由子を自身を脅かす最大の敵として認識しているのだ。
まだ何も起きていない2年半前の時点であれば、ここまで敵意は向けなかっただろう。
だが……小嶋が動いた所為で、当時勇の恋人でもあった亜月は死んだ。
それだけではない。
今の今までに、小嶋ら【救世同盟】が動いた事で世界は死で溢れかえったのだ。
そしてそれに心を痛め、苦しんだ仲間達がいた。
家族もまた脅かされた。
だから勇は敵意を向けた。
彼にとって、小嶋由子はもはや人間では無かった。
人間の面を被った……魔物。
人を襲う魔者にすら劣る、同種である者を慈しむ心も知らぬ異生物。
それが今、身内だけでなく国を脅かそうとしている。
その敵を前に、勇はもう引く事は無い。
また過ちを犯さない為に。
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