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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」

~SIDE勇-10 導かれるままに~

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 現在時刻 日本時間18:29......

 勇と心輝が東京の中心目掛けて空を舞う。

 心輝の炎の翼は、一仰ぎで彼の体を高速で飛翔させる程のもの。
 だが、それを勇は追い付く所か追い越す勢いでビルの上を跳ねていくのだ。
 そんな彼の動きを前に、心輝が改めてその底力に驚く表情を見せていた。



 この2年間、茶奈だけでは無く、彼も当然鍛えて来たのだ。
 勇に負けない様に、と。
 その甲斐あって、今の実力は当時命力を使えた頃の勇を越えたと自負出来る程に卓越したものだった。

 それですら、この様に敵わないのだ……驚きもしよう。



「お前の体、一体どうなってんだってぇの……!!」

「それは俺が知りたいくらいさ」

 弾丸の様に跳んでいく勇が心輝の横に並ぶ度にそんな会話が交わされる。
 余裕は無かったが、会話が出来ないほど緊張に支配されていた訳ではない。
 勇も心輝の成長ぶりに驚いていた事もあったのだろう、二人の対話はどこか互いに懐かしむ様な朗らかな雰囲気を見せていた。

 勇の家から東京の中心地まではそれなりには離れている。
 だが二人の速度ならば、その距離など大した事は無い。
 総理官邸までであれば10分少しでもあれば辿り着ける程に、彼等は速いのである。

「所でよ……例の魔剣兵って奴に出くわしたら……お前はどうする?」

「……俺は彼等を救いたい……けど、多分もうそれは……」

 言い切る前に、勇の体が落ちていく。
 再び上がってくるのであろうが……心輝はその間に勇の答えを察していた。

 彼の答え……それはきっと、「介錯する事」なのだと。



 勇達が魔剣兵を元に戻す手段など知りはしない。
 もしかしたら瀬玲やイシュライトの秘術で戻せるかもしれない。
 だが前例があるから……尻込みしたのだろう。

 前例……それはアンディの右腕だ。

 アンディの右腕は二年前の大怪我を治す際、魔剣使用の後遺症で命力が通わなくなっている。
 ナターシャの意識が入り込んだ体が、腕の在り方を忘れたからというのが通説だ。

 そして今回の魔剣兵も同様、体に亜月の細胞が混ざっている。
 それも全身に至るまでに。

 もしそんな彼等を秘術で治そうものなら、もしかしたら命力を失って死に至るかもしれない。
 そうすれば結局、殺す事と結果は変わりはしない。
 そもそも死んだ心を取り戻すなど……例え命力であっても出来る事と出来ない事がある。

 科学者でも無い彼等が再生を考えるには……知識が足りない。



 再び勇が姿を現し、言い掛けた答えを連ねようとするが……心輝は空かさず首を横に振った。
 勇もなんとなく伝わった事がわかっていたのだろう、答える事は無かった。

 例え非情な事だとしても……彼等はそれを選択せざるを得ない状況なのだから。



 そんな折、突然彼等の向かう道からずっと先、方角が大きくズレた場所で何かが迸った。



 それは命力の迸り。
 明らかに敵意を乗せた命力の波動が心輝の感覚を逆撫でするかのように激しく掻き乱す。
 それを感じ取った心輝が堪らず勇へと声を張り上げた。

「勇ッ!! あっちからなんかわからねぇ命力の昂りを感じる!! 何かが起きてるんだ!!」

 街中で命力の迸りなどあり得る訳がない。
 共存街ならともかく、そこは既に渋谷を過ぎた地点。
 魔者すら居るはずがない場所だ。

 それに疑念を感じた心輝が視線を向ける。



 だが、次に勇が隣に現れた時……彼の視線はまた別の所へ向けられていた。



「シン、何か妙な予感がする……お前一人で調べられるか?」
「お前、どうする気なんだ!?」
「俺は……そのずっと先になんだかわからない感覚を感じる!! でもそこに行かなきゃならない……そんな気がしたんだ!!」

 勇が感じたのは直感か、それとも別の……。
 本人にもわからない、妙だが不思議と懐かしい感覚。
 まるで彼を呼んでいる様な、そんな気がしてならなかったのだ。

 勇が再び降下を始め、ビルの屋上を足で叩く。
 その軌道は大きくずれ、自身の言う場所へと向けて跳び去って行った。

「ったく……!! アイツはいちいち意味がわからねぇ所から道を見つけやがるッ!!」

 心輝もまた軌道を変え、命力の迸りがあった場所へと向かう。

 彼等の行動は、目的とは異なる行動ではあるのかもしれない。
 それでも二人は向かわざるを得なかったのだ。
 官邸に行っても小嶋が居るかはわからない。
 しかし命力の迸りは言わば彼等にだけ通ずる案件だと言える。
 そこに何かのヒントがある事を信じて、彼等は突き進む事を決めたのだ。

 それでも、勇だけはどこか違っていた。

 確証は無くとも確信がある。
 そんな曖昧か支離滅裂の様な条件下で、彼は自分の感覚を信じたのである。

 それはまるで、に引き付けられるかの様に……。


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