上 下
774 / 1,197
第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」

~SIDE瀬玲-02 駆け抜ける赤~

しおりを挟む
 現在時刻 日本時間16:19......

 一台の深紅の車が東北へ向けて爆走していく。
 進路は既に円を描く首都高の外縁ルートを乗り越え、東北道を北上中……後は真っ直ぐ行くだけの道へと辿り着いていた。

 車の合間を縫う様に、それでいて寸分の狂いも無くスマートに切り返していく様はまるでレースさながら。
 さすがの超高級スポーツカー……いや、もはやスーパーカーと名状した方が良いだろうか。
 日本の狭い道路では普段出す事など適わない、尋常ではない速度で並み居る車をぶち抜いていく。
 抜かれた方が驚いてしまう程に……ただただ凄まじい勢いであった。

 だが運転する当の本人……瀬玲は至って冷静だった。
 命力を一度滾らせれば、そこから生まれる集中力と反射神経は普通の人間よりも格段に向上する。
 特に彼女の場合、魔剣の特殊能力とも言える遠視能力と感覚鋭敏化が備わっているのも大きい。
 そんな事もあり、この様な速度の運転であっても彼女にとっては普通の車を運転しているのとなんら変わらないのである。

 ただ一つ困った事があると言えば……夕日だろうか。

 既に日は落ち始め、傾きを持って射し込む日差しが彼女達の視界を奪う。
 運転自体に支障は無いものの……嫌だと言えば嫌なもので。
 光を遮る為に片手を翳し、もう片手で超速度を出す車を運転する様は見るからに危なっかしいものだ。

 そんな時、隣に座るイシュライトがそっと、瀬玲に何かを差し出した。

「セリ、これを掛けてください」

 差し出されたのは……派手な紋様がフレームに刻まれた鋭い形のサングラス。
 一体どこから取り出したのか。
 おあつらえ向きに渡されたサングラスを見た瀬玲が思わず吹き出し、堪らず大笑いを上げた。

「アッハハッ!! ……ちょっとイシュぅ? 一体こんなのどこから取り出したのよぉ……」

 折り畳まれたサングラスを片手で器用に弾き、耳掛けを立てさせる。
 瀬玲がチラリと隣を覗き込むと、これ見よがしにイシュライトが揃えた二本の指で相槌を返した。

「ここに置いてあったのですよ。 きっとシンの趣味でしょう」

 その指が瀬玲の操るシフトレバーの少し前へと向けられる。
 どうやらそこにあるポケット型の収納に仕舞ってあった様だ。

「アイツらしいわ……ま、ありがたいけどね」

 瀬玲が自身の顔にサングラスをスッと掛け、再び巡り巡る道路を見据える。
 一切のストレスを排する事に成功し、そのまま日が落ち始めた空の下でひたすらに車を走らせたのだった。





 そんな爆走する車を、覆面パトカーに乗る警官が目撃し、思わず驚きの声を上げる。
 彼等の目に一瞬留まったのはナンバープレートでは無く……車の後部に描かれた模様。

 それは茶奈達魔特隊だけに使う事を許された、魔特隊のエンブレムだった。

 魔特隊のエンブレムは民間では如何なる使用をも禁止されている。
 いざという時にナンバープレート以上に魔特隊の行動をアピールする目的がある為だ。
 例え遊びであっても、付けて公道を走ろうものなら逮捕される事すらある程に厳しい。
 それを備え付け、しかも普通の人間では触る事すら許されない程の高級車が大急ぎで突き抜けていったのだ。
 それがどうにも緊急性を感じさせ、警官達を戸惑わせていた。

「赤のロンバルディーニ……すぐ照合出来そうか?」

「待ってくれ……出た。 園部心輝の所有車両だそうだ……魔特隊、本物だな……」

 見てくれでわかった警官も相当な車マニアだったのだろう。

 彼等は警官でも一端に過ぎない。
 今日本で起きている事などわかる訳も無く。
 爆走していった車が魔特隊の物とわかるや否や、彼等は追跡を諦めた。
 逆に、その車が魔特隊の作戦行動中だという事を付近の仲間へ伝えるのだった……。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...