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第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
~顕現せし戦神~
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勇がグリュダンから人々を助けて回っている間、茶奈は広場でグリュダンの軍勢を相手に激しい戦いを繰り広げていた。
茶奈の身体能力は勇が構築した命力鍛錬法によって鍛えられ、細身ながらも強靭な肉体へと成長を遂げている。
外観などは変わらず……筋肉や骨や血管、それら体の構造を司る部位の基本剛性を強靭に仕上げる事が出来るのがこの鍛錬法の強みでもあった。
それに加え、かつアストラルエネマという無限の命力を有し、そして二つを重ね揃える事で命力消費量すら上限を突破した彼女に……もはや砕けぬ物は無い。
「はぁぁーーーッ!!」
全身を淡い赤色の命力が包み、外装甲として振るう。
多重の命力の塊とも言えるその装甲は、攻撃に転用すれば激しい攻撃意思として相手を砕くのだ。
たった一撃拳を打ち抜けば……グリュダンの体はただの岩も同然、激しく破壊音を立てて砕け散るのみ。
縦横無尽に茶奈が舞い、殴り、回し蹴りを見舞う。
一撃の名の下に、グリュダンの軍勢を確実に葬っていく。
彼女は知っていた。
【二次転移】と呼ばれる、このグリュダンの群れを呼び出す現象の事を。
そしてその戦闘能力、その特性、その習性を。
これは初めての出来事では無い。
日本であっては初めてであったが、海外では既に幾つも起きている事だった。
そして彼女達自身が解決した事もあった。
だからこそ、その対処方法も知っている。
だがそれを実行すれば、彼女自身がどうなってしまうのかわからない。
それを理解してもなお彼女はその方法を選択した。
それが魔特隊【一番隊】隊長であり、勇に託されたからこその……彼女の覚悟なのだから。
広場のグリュダン達を倒しきった後、茶奈が広場の中央で胸前で手をクロスさせて構える。
その時、彼女の奥深くに一つの感情を沸き立たせ……その感情を命力へと乗せた。
それは殺意。
完全なる敵意とも取れる感情が、淡い赤色だった命力の色をまるで血の様な紅色へと変化させていく。
そして命力を高め……【ヘイトフィールド】として周囲へと一気に放出したのだった。
ッドォーーーーーーン……
それは風が吹き抜けるかの様に街中へと一瞬にして流れて行き……その後、僅かな静寂が広場を包んだ。
「フッ……フッ……」
茶奈が息を整え準備を取る。
この後来るであろう、本番に向けて……自身の全てをぶつける事が出来る様に。
ズズズ……
すると……地響きの様な音が起き始め、それが徐々に大きくなっていく。
それを感じ取った茶奈が「フゥーーー!!」と息を大きく吐き、そして大きく吸い込んだ。
ドドド……!!
次第に地響きが大地を揺らし、広場を包み込んでいく。
屋内に逃げ込んだ人々が怯えながら恐る恐る覗く中……遂に彼等は訪れた。
大量のグリュダンの軍勢が広場へ姿を現したのだ。
茶奈だけを狙う為に、全てがその意思を以ってこの場所へとやってきたのである。
昔出会ったグリュダンは敵意に反応し、それを受けて初めて大暴れをするものだった。
【二次転移】で現れたグリュダンはその限りでは無かったが、敵意を強く持つ者に惹かれる習性を有している事には変わりはなかった。
彼女はその特性を利用し、彼女はグリュダン達をこの場所へと呼び寄せたのだ。
それが先程の【ヘイトフィールド】を展開した理由。
しかしそれは、無数のグリュダン相手に一人で戦わなければならないという事でもあった。
茶奈が再びフルクラスタを展開し、やってきたグリュダン達にアピールする。
「先程敵意を乗せたのは私だ」と言わんばかりに、激しく強く命力を迸らせて。
その瞬間……グリュダン達が彼女の四方八方から……一斉に襲い掛かった。
「ッ!!」
集団で押し潰そうとするかの様に……大量のグリュダンが彼女の頭上へ向けて飛び掛かり、一斉にその身で体当たりを敢行する。
一瞬にして青い空はグリュダンの赤一色となり、彼女目掛けて落下していった。
ッドォーーーーーーン!!
だが、その中央をまるで雷光が如き一閃が突き破り、赤い光を伴って空へと飛び出した。
衝撃の余り、飛び掛かった巨体が幾つも弾かれ大地へ叩き付けられていく。
触れていない者までもがそれに煽られ間も無く同様に落下したのだった。
空に飛び上がった茶奈が空気を叩き、今度は急降下していく。
そして地に伏した一体のグリュダン目掛けて、握った両拳を打ち付けた。
ドッガァーーーーーー!!
余りの破壊力に攻撃された個体の胴体が粉砕され、その動きを止める。
茶奈はそれでも止まる事無く、目にも止まらぬ速さで別の個体へと殴り掛かっていた。
砕けた破片が飛散し、街の建物へとぶつかっていく。
しかし今の茶奈にそれを心配する余裕は一切無かった。
彼女の額に浮かぶのは、苦痛からの歪み。
例えフルクラスタであろうと、攻撃の衝撃を全て吸収出来る訳ではない。
魔者の障壁と異なり……体を急激に動かす外骨格的な能力を兼ねた伸縮性を伴っている為、衝撃などを完全に吸収する事は出来ない。
車のタイヤの緩衝バネが運転者への振動を全部吸収しきれないのと同じ事である。
その為……彼女の拳には攻撃の度に相当な衝撃が掛かっている事となる。
相手が普通の魔者であればよいが……相手が相当堅いグリュダンであれば話は別だ。
既に彼女の拳骨の部分は出血し、僅かに青みを帯びている部分すらある。
相当な痛みも伴っているはずだ。
それでも茶奈は戦わなければならない。
それが彼女に課せられた使命だから。
自ら選んだ戦いだったから。
次から次へと襲い掛かるグリュダン達を迎撃し、破砕し、弾き飛ばしていく。
だが一向に減る事の無い敵を前に、彼女の心が少しづつ弱っていく。
≪負ける訳にはいかない―――本当に終わる?≫
≪皆を助けなければ―――本当に助けられてる?≫
≪きっとすぐ助けが来る―――本当に皆来る?≫
そんな疑念が彼女の中に沸々と湧き上がり、不安が彼女の力をも弱める。
魔剣があったら。
仲間がいたら。
この事態を予測出来たら。
心の欲求が、彼女の力を不安定にさせる。
だがそれでも茶奈は曲げない。
「やり遂げてみせる!! 出来なきゃ私にはッ!!」
渾身の一撃がまたしてもグリュダンを砕き、内部で命力を放出させて完全崩壊させる。
「あの人に!! 会う資格なんて無いッ!!」
己の掌を剣に見立て一閃し、彼女を囲むグリュダン達を一斉に斬り裂く。
「やらせはしない!! あの人は!! 私があッ!!」
想いだけが彼女を突き動かしていた。
攻撃を寸でで躱し、反撃で仕留め、次に繋げて攻撃を許さない。
しかし彼女の腕や足はもう……限界に近かった。
履いていた靴は既に壊れて無くなり、衣服はズタズタに引き裂かれ。
見るからに痛々しい姿へと変わり果ててもなお……戦いの意思は止まらない。
そんな折、遂に勇が広場に姿を現した。
だが、彼女のボロボロになって戦う姿を前に……思わず上げたくなった声が止まり、その目を見開かせる。
「茶奈……」
彼女がその時発した言葉は、偶然だったのだろうか。
それとも深層心理に根付いた言葉だったのだろうか。
それはあの時、この街で、勇を守って死んだ親友の放った言葉と同じだったから。
「あ……ああ……!!」
こうやって人々や、勇を守ろうとして、自分を犠牲にしようとする姿が彼と重なって。
「ダメだ……茶奈ッ……」
そして守る事が出来なかった二人の少女の姿が被る。
「君は……君は……ッ!!!!」
もう二度と失いたくない。
そう誓って。
でも失って。
それでも諦めなくて。
でも失って。
それを繰り返し、そしてまた、失おうとしている。
「そんなのは……絶対に……ッ!!!!」
茶奈がなお攻勢を続け、襲い来る敵を屠っていく。
だがその反応が僅かに遅れ……遂にその時が訪れてしまった。
ドッガァ!!
「がはっ……!?」
不意のグリュダンからの一撃により……茶奈の体が大きく弾かれた。
フルクラスタの影響もあって大きなダメージには至っていない。
だが不意に跳ね飛ばされた事と集中が途切れた事により、彼女はバランスを取る事が出来ず……大地へ落下し、軽い体が小さな物音を立てて地面を転がっていく。
そして彼女が立ち上がろうと両手を地に付けた時……その体一杯を大きな影が覆った。
「あ……」
彼女の前で、一体のグリュダンが重ねた拳を大きく振り上げていたのである。
もう彼女に抵抗する事は出来なかった。
その光景を前に、勇は静かに咆える。
『もう二度と、あの時の過ちを犯してはならない』
『大事な人を失ってはならない』
それが彼の想いであり、願いだった。
その時、勇の心に一つの囁きが生まれる。
―――それを成せるならば、力は貴方と共に―――
そして世界は止まる。
彼だけの世界が訪れる。
それはそう思える程に―――刹那―――
「茶奈あああぁぁぁーーーーーー!!!!」
ギィィィーーーーーーーーンッ!!!!!
その時、茶奈も、隠れて見ていた人々も何が起きたのか……理解する事は出来なかった。
ただ、目の前に背を向けた勇がいて。
そして茶奈を襲おうとしていたグリュダンの上半身が消滅して。
そして彼の手に【希望】が握られていたから。
「茶奈、待っててくれ……すぐ、終わらせる」
「勇さん……」
手に携えられた希望の光は次第に力をさらに強め、激しい剣の形へと象っていく。
腰を落とし、剣を構え、そして目を見開き睨んだ先に居るのは……襲い掛かって来るグリュダン達。
「もう失わせはしない……俺は……」
一歩を踏み出し、襲い来るグリュダンを前に臆する事無く……彼は行く。
「大事な人を……絶対に守るッ!!!!!」
その時……一閃が、街を貫いた。
想いが、願いが、彼の中で巡り巡って。
そしてそれを形に成した時、それは希望の光となって人々の心を照らす。
勇の手に握られていたのは……希望そのものだったのだ。
一瞬にして、大量のグリュダンだった岩塊が大地へ崩れ落ちていく。
だが、同時に貫いたはずの建物や隠れた人達には傷一つ付いてはいない。
グリュダンだけを斬ったのである。
それでもまだグリュダン達は全て倒れた訳ではなかった。
仲間達がいくら動かなくなろうが関係なく、敵意を見せた勇へ向かって襲い掛かっていく。
しかしそれはもう……一方的だった。
茶奈を捉える事すら困難だったのだ。
それを遥かに凌駕する動き、未だなお残る戦闘センスを見せつける勇に……誰一体として触れる事は愚か、まともに攻撃を仕掛ける事すら出来はしなかった。
そして勇の一閃一閃が斬るだけではなく消滅させる程の力を持つ。
まさにとめどない力の奔流……無駄なく、流れる様に動き、確実に敵を斬る。
その姿を形容するならば―――戦神。
勇の力はもはやそう謡われてもおかしくない程に……圧倒的だったのだ。
茶奈の身体能力は勇が構築した命力鍛錬法によって鍛えられ、細身ながらも強靭な肉体へと成長を遂げている。
外観などは変わらず……筋肉や骨や血管、それら体の構造を司る部位の基本剛性を強靭に仕上げる事が出来るのがこの鍛錬法の強みでもあった。
それに加え、かつアストラルエネマという無限の命力を有し、そして二つを重ね揃える事で命力消費量すら上限を突破した彼女に……もはや砕けぬ物は無い。
「はぁぁーーーッ!!」
全身を淡い赤色の命力が包み、外装甲として振るう。
多重の命力の塊とも言えるその装甲は、攻撃に転用すれば激しい攻撃意思として相手を砕くのだ。
たった一撃拳を打ち抜けば……グリュダンの体はただの岩も同然、激しく破壊音を立てて砕け散るのみ。
縦横無尽に茶奈が舞い、殴り、回し蹴りを見舞う。
一撃の名の下に、グリュダンの軍勢を確実に葬っていく。
彼女は知っていた。
【二次転移】と呼ばれる、このグリュダンの群れを呼び出す現象の事を。
そしてその戦闘能力、その特性、その習性を。
これは初めての出来事では無い。
日本であっては初めてであったが、海外では既に幾つも起きている事だった。
そして彼女達自身が解決した事もあった。
だからこそ、その対処方法も知っている。
だがそれを実行すれば、彼女自身がどうなってしまうのかわからない。
それを理解してもなお彼女はその方法を選択した。
それが魔特隊【一番隊】隊長であり、勇に託されたからこその……彼女の覚悟なのだから。
広場のグリュダン達を倒しきった後、茶奈が広場の中央で胸前で手をクロスさせて構える。
その時、彼女の奥深くに一つの感情を沸き立たせ……その感情を命力へと乗せた。
それは殺意。
完全なる敵意とも取れる感情が、淡い赤色だった命力の色をまるで血の様な紅色へと変化させていく。
そして命力を高め……【ヘイトフィールド】として周囲へと一気に放出したのだった。
ッドォーーーーーーン……
それは風が吹き抜けるかの様に街中へと一瞬にして流れて行き……その後、僅かな静寂が広場を包んだ。
「フッ……フッ……」
茶奈が息を整え準備を取る。
この後来るであろう、本番に向けて……自身の全てをぶつける事が出来る様に。
ズズズ……
すると……地響きの様な音が起き始め、それが徐々に大きくなっていく。
それを感じ取った茶奈が「フゥーーー!!」と息を大きく吐き、そして大きく吸い込んだ。
ドドド……!!
次第に地響きが大地を揺らし、広場を包み込んでいく。
屋内に逃げ込んだ人々が怯えながら恐る恐る覗く中……遂に彼等は訪れた。
大量のグリュダンの軍勢が広場へ姿を現したのだ。
茶奈だけを狙う為に、全てがその意思を以ってこの場所へとやってきたのである。
昔出会ったグリュダンは敵意に反応し、それを受けて初めて大暴れをするものだった。
【二次転移】で現れたグリュダンはその限りでは無かったが、敵意を強く持つ者に惹かれる習性を有している事には変わりはなかった。
彼女はその特性を利用し、彼女はグリュダン達をこの場所へと呼び寄せたのだ。
それが先程の【ヘイトフィールド】を展開した理由。
しかしそれは、無数のグリュダン相手に一人で戦わなければならないという事でもあった。
茶奈が再びフルクラスタを展開し、やってきたグリュダン達にアピールする。
「先程敵意を乗せたのは私だ」と言わんばかりに、激しく強く命力を迸らせて。
その瞬間……グリュダン達が彼女の四方八方から……一斉に襲い掛かった。
「ッ!!」
集団で押し潰そうとするかの様に……大量のグリュダンが彼女の頭上へ向けて飛び掛かり、一斉にその身で体当たりを敢行する。
一瞬にして青い空はグリュダンの赤一色となり、彼女目掛けて落下していった。
ッドォーーーーーーン!!
だが、その中央をまるで雷光が如き一閃が突き破り、赤い光を伴って空へと飛び出した。
衝撃の余り、飛び掛かった巨体が幾つも弾かれ大地へ叩き付けられていく。
触れていない者までもがそれに煽られ間も無く同様に落下したのだった。
空に飛び上がった茶奈が空気を叩き、今度は急降下していく。
そして地に伏した一体のグリュダン目掛けて、握った両拳を打ち付けた。
ドッガァーーーーーー!!
余りの破壊力に攻撃された個体の胴体が粉砕され、その動きを止める。
茶奈はそれでも止まる事無く、目にも止まらぬ速さで別の個体へと殴り掛かっていた。
砕けた破片が飛散し、街の建物へとぶつかっていく。
しかし今の茶奈にそれを心配する余裕は一切無かった。
彼女の額に浮かぶのは、苦痛からの歪み。
例えフルクラスタであろうと、攻撃の衝撃を全て吸収出来る訳ではない。
魔者の障壁と異なり……体を急激に動かす外骨格的な能力を兼ねた伸縮性を伴っている為、衝撃などを完全に吸収する事は出来ない。
車のタイヤの緩衝バネが運転者への振動を全部吸収しきれないのと同じ事である。
その為……彼女の拳には攻撃の度に相当な衝撃が掛かっている事となる。
相手が普通の魔者であればよいが……相手が相当堅いグリュダンであれば話は別だ。
既に彼女の拳骨の部分は出血し、僅かに青みを帯びている部分すらある。
相当な痛みも伴っているはずだ。
それでも茶奈は戦わなければならない。
それが彼女に課せられた使命だから。
自ら選んだ戦いだったから。
次から次へと襲い掛かるグリュダン達を迎撃し、破砕し、弾き飛ばしていく。
だが一向に減る事の無い敵を前に、彼女の心が少しづつ弱っていく。
≪負ける訳にはいかない―――本当に終わる?≫
≪皆を助けなければ―――本当に助けられてる?≫
≪きっとすぐ助けが来る―――本当に皆来る?≫
そんな疑念が彼女の中に沸々と湧き上がり、不安が彼女の力をも弱める。
魔剣があったら。
仲間がいたら。
この事態を予測出来たら。
心の欲求が、彼女の力を不安定にさせる。
だがそれでも茶奈は曲げない。
「やり遂げてみせる!! 出来なきゃ私にはッ!!」
渾身の一撃がまたしてもグリュダンを砕き、内部で命力を放出させて完全崩壊させる。
「あの人に!! 会う資格なんて無いッ!!」
己の掌を剣に見立て一閃し、彼女を囲むグリュダン達を一斉に斬り裂く。
「やらせはしない!! あの人は!! 私があッ!!」
想いだけが彼女を突き動かしていた。
攻撃を寸でで躱し、反撃で仕留め、次に繋げて攻撃を許さない。
しかし彼女の腕や足はもう……限界に近かった。
履いていた靴は既に壊れて無くなり、衣服はズタズタに引き裂かれ。
見るからに痛々しい姿へと変わり果ててもなお……戦いの意思は止まらない。
そんな折、遂に勇が広場に姿を現した。
だが、彼女のボロボロになって戦う姿を前に……思わず上げたくなった声が止まり、その目を見開かせる。
「茶奈……」
彼女がその時発した言葉は、偶然だったのだろうか。
それとも深層心理に根付いた言葉だったのだろうか。
それはあの時、この街で、勇を守って死んだ親友の放った言葉と同じだったから。
「あ……ああ……!!」
こうやって人々や、勇を守ろうとして、自分を犠牲にしようとする姿が彼と重なって。
「ダメだ……茶奈ッ……」
そして守る事が出来なかった二人の少女の姿が被る。
「君は……君は……ッ!!!!」
もう二度と失いたくない。
そう誓って。
でも失って。
それでも諦めなくて。
でも失って。
それを繰り返し、そしてまた、失おうとしている。
「そんなのは……絶対に……ッ!!!!」
茶奈がなお攻勢を続け、襲い来る敵を屠っていく。
だがその反応が僅かに遅れ……遂にその時が訪れてしまった。
ドッガァ!!
「がはっ……!?」
不意のグリュダンからの一撃により……茶奈の体が大きく弾かれた。
フルクラスタの影響もあって大きなダメージには至っていない。
だが不意に跳ね飛ばされた事と集中が途切れた事により、彼女はバランスを取る事が出来ず……大地へ落下し、軽い体が小さな物音を立てて地面を転がっていく。
そして彼女が立ち上がろうと両手を地に付けた時……その体一杯を大きな影が覆った。
「あ……」
彼女の前で、一体のグリュダンが重ねた拳を大きく振り上げていたのである。
もう彼女に抵抗する事は出来なかった。
その光景を前に、勇は静かに咆える。
『もう二度と、あの時の過ちを犯してはならない』
『大事な人を失ってはならない』
それが彼の想いであり、願いだった。
その時、勇の心に一つの囁きが生まれる。
―――それを成せるならば、力は貴方と共に―――
そして世界は止まる。
彼だけの世界が訪れる。
それはそう思える程に―――刹那―――
「茶奈あああぁぁぁーーーーーー!!!!」
ギィィィーーーーーーーーンッ!!!!!
その時、茶奈も、隠れて見ていた人々も何が起きたのか……理解する事は出来なかった。
ただ、目の前に背を向けた勇がいて。
そして茶奈を襲おうとしていたグリュダンの上半身が消滅して。
そして彼の手に【希望】が握られていたから。
「茶奈、待っててくれ……すぐ、終わらせる」
「勇さん……」
手に携えられた希望の光は次第に力をさらに強め、激しい剣の形へと象っていく。
腰を落とし、剣を構え、そして目を見開き睨んだ先に居るのは……襲い掛かって来るグリュダン達。
「もう失わせはしない……俺は……」
一歩を踏み出し、襲い来るグリュダンを前に臆する事無く……彼は行く。
「大事な人を……絶対に守るッ!!!!!」
その時……一閃が、街を貫いた。
想いが、願いが、彼の中で巡り巡って。
そしてそれを形に成した時、それは希望の光となって人々の心を照らす。
勇の手に握られていたのは……希望そのものだったのだ。
一瞬にして、大量のグリュダンだった岩塊が大地へ崩れ落ちていく。
だが、同時に貫いたはずの建物や隠れた人達には傷一つ付いてはいない。
グリュダンだけを斬ったのである。
それでもまだグリュダン達は全て倒れた訳ではなかった。
仲間達がいくら動かなくなろうが関係なく、敵意を見せた勇へ向かって襲い掛かっていく。
しかしそれはもう……一方的だった。
茶奈を捉える事すら困難だったのだ。
それを遥かに凌駕する動き、未だなお残る戦闘センスを見せつける勇に……誰一体として触れる事は愚か、まともに攻撃を仕掛ける事すら出来はしなかった。
そして勇の一閃一閃が斬るだけではなく消滅させる程の力を持つ。
まさにとめどない力の奔流……無駄なく、流れる様に動き、確実に敵を斬る。
その姿を形容するならば―――戦神。
勇の力はもはやそう謡われてもおかしくない程に……圧倒的だったのだ。
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