751 / 1,197
第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
~今に至りし世界~
しおりを挟む
長い月日が流れた。
【東京事変】から二年と言えば、長く聞こえはしないかもしれない。
だが少なくとも、世界にとっては余りにも長く苦しい月日だった。
その間に、多くの命が失われた。
それだけではない。
なお止まる事の無いフララジカ。
世界の各地で、未だ転移は続く。
世間には公表されていないが、そのスパンは徐々に短くなっていた。
ここまでに世界で起きた事の真実のほとんどを勇は知らない。
日本では、世界で起きた事は事細かには報道されていないのである。
インターネットの情報も一部制限され、何があったかどうかの記述がされるのみ。
勇自身の行動の制限もまたそれを助長する。
それは全て国内で【救世同盟】の信者を増やさない為の処置。
だが勇はその不穏な空気を僅かだか感じ取っていた。
しかし何も出来ない今……勇は一心不乱に体を動かすのみ。
何が出来るのかがわからないからこそ……ただ静かに、自分を磨く事に専念するのだった。
これが過去二年間で起きた記憶である。
そして時間は勇と小野崎紫織が渋谷の空を仰いだ時へと舞い戻る。
ここまでに起きた出来事を胸に……勇は今もなお、自身と戦い続けていた……。
◇◇◇
僅かに空が青みを帯びる。
日が落ちていく時間帯……僅かな雲が彼方の夕焼けを反射し空に彩りを呼ぶ。
勇が東京横断を終え、帰路に就く。
ほんの少し道がずれたのか……彼が胸に抱えるのは、横浜土産だった。
「よっ……」
土産を潰さぬよう、加減し跳ぶ。
それもまた一つの彼の訓練。
気付けば空高く……まるで雲に届きそうな程に。
バサバササッ
空を抜ける勢いが包み袋と服を煽り、激しい音を掻き鳴らす。
気付いて見下ろせば、そこは見慣れた街並みが広がっていた。
たちまち跳ねた勢いが弱まり降下が加速していく。
徐々に大きくなっていく街並み。
その先に見据えるのは……見た事があるが、普通なら見る事の無い景色。
ットーーーーーーン……
それは静かな着地だった。
重心のバランス制御と足のバネとしなりを利かし、全ての降下慣性をも殺す見事なまでの着地。
ぶちゅっ……
「あ……」
だが……ほんの少し加減が甘かった様だ。
抱えたお土産の箱が僅かに崩れ……内包してあった焼売が僅かな音を立てて潰れていた。
「うーん……まだちょっと加減にムラがあるな……少し見直さないと」
「はぁ……」と一吐き溜息を洩らすと……勇はそっと立ち上がり、くるりと振り向く。
そこあるのは彼の実家だった。
ガチャリ……
「ただいまー」
玄関の扉を開き、屋内へと足を踏み入れる。
すると間もなく返って来るのは母親の声だった。
「おかえりー」
素っ気なく返って来る返事に反応する事も無く、勇が靴を抜いて上がる。
そのままリビングへと入り、目の前にあるダイニングテーブルの上に買って来たお土産の袋をストンと置いた。
「ちょっと行き先ズレて、横浜付いちゃったから……焼売買ってきた」
ダイニングチェアに座る母親がそれを見ると、「やった」と言わんばかりに笑みを浮かべた反応を返す。
「じゃあ今夜のおかずにしよっか」
「一部ミスったから……それから使って。 残りは皆に持っていくよ」
「はーい。 まぁちょっと前と比べたら随分成長したんじゃない?」
途端勇の顔に浮かぶのは眉間にシワを寄せた苦笑。
こんなロードワークを始めたのもほんの一年前からで……こうして力の使い方を学んでいるという訳だ。
当初はお土産を完全消滅させた事もあり、それと比べれば相当マシになったと言えるだろう。
こういった毎日を過ごし、彼はその力の使い方をほとんど理解する事が出来ていた。
しかし未だ【光の剣】に関してだけはどうにもならず、模索する毎日が続いている。
その力の源が何であるか……そのキッカケさえ掴めれば……。
そんな想いを胸に、今日も彼は体を休める。
もしかしたら明日にはきっと何かがわかるかもしれない……期待と願いを込めて。
【東京事変】から二年と言えば、長く聞こえはしないかもしれない。
だが少なくとも、世界にとっては余りにも長く苦しい月日だった。
その間に、多くの命が失われた。
それだけではない。
なお止まる事の無いフララジカ。
世界の各地で、未だ転移は続く。
世間には公表されていないが、そのスパンは徐々に短くなっていた。
ここまでに世界で起きた事の真実のほとんどを勇は知らない。
日本では、世界で起きた事は事細かには報道されていないのである。
インターネットの情報も一部制限され、何があったかどうかの記述がされるのみ。
勇自身の行動の制限もまたそれを助長する。
それは全て国内で【救世同盟】の信者を増やさない為の処置。
だが勇はその不穏な空気を僅かだか感じ取っていた。
しかし何も出来ない今……勇は一心不乱に体を動かすのみ。
何が出来るのかがわからないからこそ……ただ静かに、自分を磨く事に専念するのだった。
これが過去二年間で起きた記憶である。
そして時間は勇と小野崎紫織が渋谷の空を仰いだ時へと舞い戻る。
ここまでに起きた出来事を胸に……勇は今もなお、自身と戦い続けていた……。
◇◇◇
僅かに空が青みを帯びる。
日が落ちていく時間帯……僅かな雲が彼方の夕焼けを反射し空に彩りを呼ぶ。
勇が東京横断を終え、帰路に就く。
ほんの少し道がずれたのか……彼が胸に抱えるのは、横浜土産だった。
「よっ……」
土産を潰さぬよう、加減し跳ぶ。
それもまた一つの彼の訓練。
気付けば空高く……まるで雲に届きそうな程に。
バサバササッ
空を抜ける勢いが包み袋と服を煽り、激しい音を掻き鳴らす。
気付いて見下ろせば、そこは見慣れた街並みが広がっていた。
たちまち跳ねた勢いが弱まり降下が加速していく。
徐々に大きくなっていく街並み。
その先に見据えるのは……見た事があるが、普通なら見る事の無い景色。
ットーーーーーーン……
それは静かな着地だった。
重心のバランス制御と足のバネとしなりを利かし、全ての降下慣性をも殺す見事なまでの着地。
ぶちゅっ……
「あ……」
だが……ほんの少し加減が甘かった様だ。
抱えたお土産の箱が僅かに崩れ……内包してあった焼売が僅かな音を立てて潰れていた。
「うーん……まだちょっと加減にムラがあるな……少し見直さないと」
「はぁ……」と一吐き溜息を洩らすと……勇はそっと立ち上がり、くるりと振り向く。
そこあるのは彼の実家だった。
ガチャリ……
「ただいまー」
玄関の扉を開き、屋内へと足を踏み入れる。
すると間もなく返って来るのは母親の声だった。
「おかえりー」
素っ気なく返って来る返事に反応する事も無く、勇が靴を抜いて上がる。
そのままリビングへと入り、目の前にあるダイニングテーブルの上に買って来たお土産の袋をストンと置いた。
「ちょっと行き先ズレて、横浜付いちゃったから……焼売買ってきた」
ダイニングチェアに座る母親がそれを見ると、「やった」と言わんばかりに笑みを浮かべた反応を返す。
「じゃあ今夜のおかずにしよっか」
「一部ミスったから……それから使って。 残りは皆に持っていくよ」
「はーい。 まぁちょっと前と比べたら随分成長したんじゃない?」
途端勇の顔に浮かぶのは眉間にシワを寄せた苦笑。
こんなロードワークを始めたのもほんの一年前からで……こうして力の使い方を学んでいるという訳だ。
当初はお土産を完全消滅させた事もあり、それと比べれば相当マシになったと言えるだろう。
こういった毎日を過ごし、彼はその力の使い方をほとんど理解する事が出来ていた。
しかし未だ【光の剣】に関してだけはどうにもならず、模索する毎日が続いている。
その力の源が何であるか……そのキッカケさえ掴めれば……。
そんな想いを胸に、今日も彼は体を休める。
もしかしたら明日にはきっと何かがわかるかもしれない……期待と願いを込めて。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で
ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。
入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。
ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが!
だからターザンごっこすんなぁーーー!!
こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。
寿命を迎える前に何とかせにゃならん!
果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?!
そんな私の奮闘記です。
しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・
おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・
・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる