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第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
~帰る家を得た兄妹~
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【東京事変】からおおよそ二か月が過ぎた。
政府から魔特隊が公式に政府組織の一つとして管理される事が発表され、その活動内容や資金運用、隊員達の状況などが適時更新という形で公表される事となった。
これにより小嶋総理の思惑通り、彼等への反発や嫌がらせなどが急激に数を減らす事となる。
いわゆる法の傘による抑止力……関係者への否応なき迷惑行為などが重犯罪行為として処罰される様になったからである。
それでも訴える事を止めるには至らず、申請する事で行う事の出来るデモが時折行われる事があったが。
こうして、【東京事変】により公開された勇達魔特隊関係者へ対する当たりはほとんど鎮静化を果たした。
こうして落ち着きを取り戻した事で、勇もまた外出が容易となっていた。
もちろん、多少なりに変装は必要だったのは言うまでもないが。
そんなとある日。
外は寒いながらも雨が降りしきり、心なしか東京の街はいつもよりも人気が少ない様に感じさせていた。
そんな街の一角、一つ目立つ高さを誇るマンションの前に、勇の姿があった。
高級感を感じさせるロビーへと足を踏み入れると、開かずの自動ドアが姿を現す。
居住者許可制の扉だ。
彼がそっとその隣……インターホンと思しきタッチパネルへと手を触れると、恐る恐る目的の部屋番号を打ち込み居住者を呼ぶ。
すると間もなくマイクから聞こえて来たのは……ナターシャの声だった。
『あ……ウンティテ……』
「あ、ナッティ、開けてもらえるか?」
『うぅ?』
「あぁ……レ ン ネ ィ ?」
『ワ!! マチ!! マァーーチィ―――』
「……ロシア語習おうかな……」
どうやらレンネィを呼びに行ったのだろう、ナターシャの声が遠くへ消えると思わず勇の口から溜め息が漏れる。
機械を挟めば異国の言葉。
その不便さは相変わらずといったところか。
謎の力であっても翻訳能力は命力と同じ様に働いている。
それに限らず、身体的な面に関する性質は命力と非常に酷似している様だ。
今では以前同様、感覚的にその力を使う事が出来る様になっていた。
その力の大小を感じ取る事がどうにも出来ないのが不安の種でもあったが。
そんな悩みを巡らせていると……今度はよく聞き慣れた声遣いがインターホンから聞こえ始めた。
『あら勇、早かったわね』
「初めて訪れるので、時間に遅れたら悪いと思いましてね」
『ふふ……さぁ入って』
彼女の言葉を皮切りに、開かずの自動ドアが「スゥー」と小さな音を立てて開き、勇を招き入れる。
勇は誘われるがままにそこへ立ち入り……レンネィの家である部屋へと向かう為にエレベーターへと乗り込んだのだった。
その日、勇はレンネィの家に招かれていた。
退院したという事と、色々あったから話をしようという彼女からの提案である。
一緒に退院したアンディとナターシャの面倒も見て欲しいという話もあって、彼は潔く受けたのだった。
勇がレンネィの家へと訪れると、レンネィは彼をそっと受け入れ屋内へと案内する。
中へと足を踏み入れ進めると……そこには一人暮らしだったとは思えない程に広いリビングが現れ、彼の驚きを誘うのだった。
「すごいな……これ一人で住んでたんですよね?」
「えぇ、もちろん……でもこれからはしばらく三人暮らしかしらね」
そう語る彼女の顔はどこか嬉しそう。
突然決まった事とはいえ、二人を受け入れると決めたのは彼女自身だ。
そもそも詳細な数こそ知りはしないが、彼女自身はアンディとナターシャくらいの子供が居てもおかしくない年齢のはずである。
きっと彼女もそんな子供が居る生活に憧れを持っていたのかもしれない。
彼女がその様な生活を望む事は、奇しくも戦わなければならない魔剣使いという宿命から外れた今ならば必然的だったのだろう。
「ッワァ!!」
「うわぁあああ!?」
その時突然、背後から大声が立ち上り……思わず勇が驚き飛び跳ねる。
何が起きたと振り向くと……そこには相変わらずのアンディとナターシャの姿があった。
「師匠すげえ驚いた!! やった!!」
「やったー!!」
「お前等……心臓に悪いよまったく……」
不意の出来事に、勇の口から詰まった息が堪らず「ぶはっ」と吐き出される。
それというのも、勇は本気で驚いていたからだ。
恐らく以前だったら命力を探知して気付いていただろう。
だが今は、命力を感じ取る事が出来ない。
自身の力の上下も感じないのと同時に……命力の一切も感じなくなっていたのである。
故に、彼は今……命力に関して無防備である事を改めて悟ったのであった。
「ほらほら二人共、イタズラばっかりしてないで……ちょっと話をしましょうか」
「わかったー!!」
まだ引き取って数日だというのに、既に子供をあやす親のよう。
それに対し、二人はまだ子供っぽくとも比較的成長しているからだろうか……彼女の言う事を素直に聞く素振りを見せていた。
ここまで聞き分けが良ければ親代わりのレンネィとしても助かる所ではあるだろう。
とはいえ……勇は先程ナターシャが発していた「マチ」という言葉が若干気に成るようで。
四人がリビングのソファーへ向かっていくと……歩きながらそっと勇がレンネィに尋ねた。
「二人を引き取るって聞いてたけど……実際の所、どういう扱いなんです?」
「ん、それはねぇ……」
レンネィがゆったりとソファーに腰を掛けると……これ見よがしにアンディとナターシャが彼女にくっつく様に左右へと座る。
勇が机を挟んで対面のソファーをへと腰を下ろすのを見届けると、レンネィは「フフッ」と微笑み答えを返した。
「福留さんに協力してもらって……二人を養子に迎えたの。 一応、私も今は日本国籍があるし……生活する分には三人とも十分な資産を持っているから……」
「養子……じゃあ今二人は……」
「そうだよ、レンネィさんはオイラ達のマチになったんだ」
「んふふー!」
なんとなく、そうなのだろうと勇は予感してはいた。
しかし、二人がこの様に受け入れ、こうして喜びを露わにしている所を目の当たりにすると……まるでじわじわと湧き上がってくるような嬉しさが顔に滲み出ていく。
気付けば勇の顔にはおかめの様なぷっくりとした笑顔が浮かんでいた。
「そっか……二人共、良かったな……!!」
「「うん!!」」
元々孤児の二人。
魔剣使いの師匠に出会う前も、別れた後も、二人はずっと誰にも頼らず生きて来た。
でもこうして今、血は繋がっていないけれど甘えても良い相手が出来た。
そんな二人がどこか、いつか藤咲家にやってきた茶奈と被ってやまない。
「二人共……レンネィさんを困らせる様な事はするなよ?」
「うん、わかってる……オイラ達はもう子供じゃいられないんだって事もさ」
魔特隊で学んできた事があったから二人は厳しい現実を知っていて、こうやって無邪気さと真面目さを切り分ける程に成長する事が出来ている。
二人共もう日本の社会で言えば中学三年生ほどの歳だ。
だがきっと……その精神はそれを遥かに超えているのだろう。
でも甘えた事が無かったから。
今は……それが許されてもいい。
「でもねでもねししょ、がんばればガッコ、いけるって!」
「へぇ……じゃあなおさら頑張らなきゃな」
彼等は学校という存在には憧れを抱いていた。
非日常を生きて来たから……彼等もまた、茶奈と同様に普通を望むのだろう。
でも今はまだ日本語すらおぼつかない状態だ。
だからまずはそこから。
本人達がやる気ならばきっと、なんとでもなるだろう。
政府から魔特隊が公式に政府組織の一つとして管理される事が発表され、その活動内容や資金運用、隊員達の状況などが適時更新という形で公表される事となった。
これにより小嶋総理の思惑通り、彼等への反発や嫌がらせなどが急激に数を減らす事となる。
いわゆる法の傘による抑止力……関係者への否応なき迷惑行為などが重犯罪行為として処罰される様になったからである。
それでも訴える事を止めるには至らず、申請する事で行う事の出来るデモが時折行われる事があったが。
こうして、【東京事変】により公開された勇達魔特隊関係者へ対する当たりはほとんど鎮静化を果たした。
こうして落ち着きを取り戻した事で、勇もまた外出が容易となっていた。
もちろん、多少なりに変装は必要だったのは言うまでもないが。
そんなとある日。
外は寒いながらも雨が降りしきり、心なしか東京の街はいつもよりも人気が少ない様に感じさせていた。
そんな街の一角、一つ目立つ高さを誇るマンションの前に、勇の姿があった。
高級感を感じさせるロビーへと足を踏み入れると、開かずの自動ドアが姿を現す。
居住者許可制の扉だ。
彼がそっとその隣……インターホンと思しきタッチパネルへと手を触れると、恐る恐る目的の部屋番号を打ち込み居住者を呼ぶ。
すると間もなくマイクから聞こえて来たのは……ナターシャの声だった。
『あ……ウンティテ……』
「あ、ナッティ、開けてもらえるか?」
『うぅ?』
「あぁ……レ ン ネ ィ ?」
『ワ!! マチ!! マァーーチィ―――』
「……ロシア語習おうかな……」
どうやらレンネィを呼びに行ったのだろう、ナターシャの声が遠くへ消えると思わず勇の口から溜め息が漏れる。
機械を挟めば異国の言葉。
その不便さは相変わらずといったところか。
謎の力であっても翻訳能力は命力と同じ様に働いている。
それに限らず、身体的な面に関する性質は命力と非常に酷似している様だ。
今では以前同様、感覚的にその力を使う事が出来る様になっていた。
その力の大小を感じ取る事がどうにも出来ないのが不安の種でもあったが。
そんな悩みを巡らせていると……今度はよく聞き慣れた声遣いがインターホンから聞こえ始めた。
『あら勇、早かったわね』
「初めて訪れるので、時間に遅れたら悪いと思いましてね」
『ふふ……さぁ入って』
彼女の言葉を皮切りに、開かずの自動ドアが「スゥー」と小さな音を立てて開き、勇を招き入れる。
勇は誘われるがままにそこへ立ち入り……レンネィの家である部屋へと向かう為にエレベーターへと乗り込んだのだった。
その日、勇はレンネィの家に招かれていた。
退院したという事と、色々あったから話をしようという彼女からの提案である。
一緒に退院したアンディとナターシャの面倒も見て欲しいという話もあって、彼は潔く受けたのだった。
勇がレンネィの家へと訪れると、レンネィは彼をそっと受け入れ屋内へと案内する。
中へと足を踏み入れ進めると……そこには一人暮らしだったとは思えない程に広いリビングが現れ、彼の驚きを誘うのだった。
「すごいな……これ一人で住んでたんですよね?」
「えぇ、もちろん……でもこれからはしばらく三人暮らしかしらね」
そう語る彼女の顔はどこか嬉しそう。
突然決まった事とはいえ、二人を受け入れると決めたのは彼女自身だ。
そもそも詳細な数こそ知りはしないが、彼女自身はアンディとナターシャくらいの子供が居てもおかしくない年齢のはずである。
きっと彼女もそんな子供が居る生活に憧れを持っていたのかもしれない。
彼女がその様な生活を望む事は、奇しくも戦わなければならない魔剣使いという宿命から外れた今ならば必然的だったのだろう。
「ッワァ!!」
「うわぁあああ!?」
その時突然、背後から大声が立ち上り……思わず勇が驚き飛び跳ねる。
何が起きたと振り向くと……そこには相変わらずのアンディとナターシャの姿があった。
「師匠すげえ驚いた!! やった!!」
「やったー!!」
「お前等……心臓に悪いよまったく……」
不意の出来事に、勇の口から詰まった息が堪らず「ぶはっ」と吐き出される。
それというのも、勇は本気で驚いていたからだ。
恐らく以前だったら命力を探知して気付いていただろう。
だが今は、命力を感じ取る事が出来ない。
自身の力の上下も感じないのと同時に……命力の一切も感じなくなっていたのである。
故に、彼は今……命力に関して無防備である事を改めて悟ったのであった。
「ほらほら二人共、イタズラばっかりしてないで……ちょっと話をしましょうか」
「わかったー!!」
まだ引き取って数日だというのに、既に子供をあやす親のよう。
それに対し、二人はまだ子供っぽくとも比較的成長しているからだろうか……彼女の言う事を素直に聞く素振りを見せていた。
ここまで聞き分けが良ければ親代わりのレンネィとしても助かる所ではあるだろう。
とはいえ……勇は先程ナターシャが発していた「マチ」という言葉が若干気に成るようで。
四人がリビングのソファーへ向かっていくと……歩きながらそっと勇がレンネィに尋ねた。
「二人を引き取るって聞いてたけど……実際の所、どういう扱いなんです?」
「ん、それはねぇ……」
レンネィがゆったりとソファーに腰を掛けると……これ見よがしにアンディとナターシャが彼女にくっつく様に左右へと座る。
勇が机を挟んで対面のソファーをへと腰を下ろすのを見届けると、レンネィは「フフッ」と微笑み答えを返した。
「福留さんに協力してもらって……二人を養子に迎えたの。 一応、私も今は日本国籍があるし……生活する分には三人とも十分な資産を持っているから……」
「養子……じゃあ今二人は……」
「そうだよ、レンネィさんはオイラ達のマチになったんだ」
「んふふー!」
なんとなく、そうなのだろうと勇は予感してはいた。
しかし、二人がこの様に受け入れ、こうして喜びを露わにしている所を目の当たりにすると……まるでじわじわと湧き上がってくるような嬉しさが顔に滲み出ていく。
気付けば勇の顔にはおかめの様なぷっくりとした笑顔が浮かんでいた。
「そっか……二人共、良かったな……!!」
「「うん!!」」
元々孤児の二人。
魔剣使いの師匠に出会う前も、別れた後も、二人はずっと誰にも頼らず生きて来た。
でもこうして今、血は繋がっていないけれど甘えても良い相手が出来た。
そんな二人がどこか、いつか藤咲家にやってきた茶奈と被ってやまない。
「二人共……レンネィさんを困らせる様な事はするなよ?」
「うん、わかってる……オイラ達はもう子供じゃいられないんだって事もさ」
魔特隊で学んできた事があったから二人は厳しい現実を知っていて、こうやって無邪気さと真面目さを切り分ける程に成長する事が出来ている。
二人共もう日本の社会で言えば中学三年生ほどの歳だ。
だがきっと……その精神はそれを遥かに超えているのだろう。
でも甘えた事が無かったから。
今は……それが許されてもいい。
「でもねでもねししょ、がんばればガッコ、いけるって!」
「へぇ……じゃあなおさら頑張らなきゃな」
彼等は学校という存在には憧れを抱いていた。
非日常を生きて来たから……彼等もまた、茶奈と同様に普通を望むのだろう。
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