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第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」
~旅立ちの決意~
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小嶋由子が提示したのは魔特隊の処遇と勇の除隊宣言には限らなかった。
アンディもまた除隊の対象に。
それに伴い、ナターシャも仮除隊という形に収まった。
その理由としてはアンディの戦闘続行が困難である事。
そして何より二人がまだ幼いからこそ、子供を戦列に並ばせる事に対する不満を払拭する為であった。
二人はロシアに返される手筈だったが……そこに話を聞いたレンネィが間に入り、彼女の下に引き取られる事となった。
イシュライトが魔特隊に所属へ。
彼自身も瀬玲と共に居る事を望んだため、こちらに関してはすんなりと手続きが済んだ様だ。
人員が少なくなった事に対する補填ともあり、彼の対応に対して恩赦が発生した。
モンゴル政府を通して彼の故郷イ・ドゥールへの援助が確約されたのである。
彼の祖父であるウィグルイはその旨を伝えられ、日本政府によるVIP待遇での帰国となった。
こうして魔特隊内部での改革は進められ、早くも政府関係者による本部の運用が始まろうとしていた。
小嶋の発表から一週間後……メンバーに許された期限最終日。
心輝が、瀬玲が、家族とのしばしの別れを惜しみ、家族水入らずで時間を共に過ごす中……勇と茶奈もまた、自分達の家で最後の一日を過ごしていた。
茶奈は元々藤咲家の一員では無かった。
だが、フララジカがきっかけで藤咲家に居候する事と成り、今となってはもはや家族も同然だ。
彼女が大人しく、素直で家族思いだった事もあり……今回の別れに、藤咲夫婦は大きな落胆を見せていた。
「今日で最後なんだよな……茶奈ちゃん、今日は存分に甘えていいんだよ?」
「そうそう……私達は茶奈ちゃんを本当の家族だと思っているんだから……」
元々、藤咲夫婦は女の子が欲しかったのだとか。
それを初めて聞かされた時、勇はちょっと複雑だった様だが。
しかしこうして、手間のかからない珠の様な子が訪れたのだ……可愛がりもしよう。
当人もまた、過去の経緯からそういった愛情に飢えていたからこそ……二人の好意を心から喜んでいた。
「お父さん、お母さん……ありがとう……でも、きっとこれが最後じゃないって思ってるから……また会えるって思ってるから……今は普通で……普通でいさせてください……」
それは彼女なりの望み。
普通でありたかった。
ずっと願っていた。
そして少し違うけど、それでも叶った。
望んでいたからこそ、彼女にとっては普通が何よりもの幸せ。
彼女の望む声を前に、藤咲夫婦も、勇も……彼女の望むままに、共に過ごした。
父親も、母親も、その日の為に休みを取り。
勇も彼女に合わせて色々と動き回った。
その結果もあり、最後の日はほんの少し特別だったけれど……普通な日常の一幕となった。
心輝と瀬玲の家で、三家族によりちょっとしたホームパーティが開催された。
小さい家の中を嬉々として動き回り、家族で、友人で、語り合い、笑い合い……しばし訪れる別れを惜しむ様に楽しく時を過ごす。
気付けば一日はあっという間に過ぎて……翌日。
彼等にとうとう別れの時が訪れた。
心輝や瀬玲は両親との別れを済ませ、既に本部へと移動済み。
残すは茶奈だけだった。
玄関に立つ茶奈を、無言の両親がそっと抱き締め離さない。
そんな様子を勇は静かに見つめていた。
「そろそろ行かないと……怒られちゃいますから……」
「うん……ごめんね、茶奈ちゃん……」
彼女の柔らかな長髪からは母親と同じコンディショナーの甘い香りが漂い、それが更なる親近感を呼ぶ。
その香りを惜しむかのように……二人はそっと彼女から離れた。
「それじゃ、行ってきます……」
そう一言告げて、彼女はそっと踵を返す。
その肩は震え、二度と訪れるかもわからぬ愛情との別れを拒否するかのよう。
そんな時……彼女達の背後から声が上がった。
「茶奈……」
「っ!?」
それは勇から発せられた、彼女を気遣うかの様な優しい声色。
その声に茶奈は思わず歩を止め、背を向けたままじっと佇む。
「君を巻き込んでごめん……こんな事になるなら最初から……」
「それは違いますよ勇さん……これは私が望んで進んだ道なんです」
今にも泣きそうな、僅かに震えた声が返り……勇が思わず言葉を詰まらせる。
その先が言えなくて。
どうしても伝えられなくて。
思わずその口がすぼみ、強張りを生む。
そんな勇へ……茶奈が勇気を振り絞り、想いを言葉に換えて連ねる。
「私は勇さんに一杯勇気をもらったから……だから今度は勇さんの代わりに皆に勇気を与えたいんです。 私は……私は……うぅ……」
彼女の感情が昂り、そして溢れ出る。
熱い感情が水滴となって頬を流れ、赤く染めた肌に一筋の跡を残す。
そして彼女が振り向き、彼等に見せたのは……悲しみを乗り越えた、笑顔だった。
「私が……勇さんの代わりに……皆を導きますから……!!」
それが彼女の決意。
もう、弱々しかった彼女は居ない。
そこに居るのは一人の戦士。
一人の強い……女性だった。
人は成長する。
最初は弱くても。
厳しい事を目の当たりにしても、諦めなければ……どんどんと成長していく。
彼女もまた、勇と共に成長してきた。
そして今、彼女は勇を超えようとしていた。
誰の為でも無い……自分の為に。
それが仲間や……勇の為になると信じて。
その言葉を最後に、茶奈は藤咲家から去っていった。
それ以降、彼女の部屋を使う者は誰一人としているはずもなかった……。
アンディもまた除隊の対象に。
それに伴い、ナターシャも仮除隊という形に収まった。
その理由としてはアンディの戦闘続行が困難である事。
そして何より二人がまだ幼いからこそ、子供を戦列に並ばせる事に対する不満を払拭する為であった。
二人はロシアに返される手筈だったが……そこに話を聞いたレンネィが間に入り、彼女の下に引き取られる事となった。
イシュライトが魔特隊に所属へ。
彼自身も瀬玲と共に居る事を望んだため、こちらに関してはすんなりと手続きが済んだ様だ。
人員が少なくなった事に対する補填ともあり、彼の対応に対して恩赦が発生した。
モンゴル政府を通して彼の故郷イ・ドゥールへの援助が確約されたのである。
彼の祖父であるウィグルイはその旨を伝えられ、日本政府によるVIP待遇での帰国となった。
こうして魔特隊内部での改革は進められ、早くも政府関係者による本部の運用が始まろうとしていた。
小嶋の発表から一週間後……メンバーに許された期限最終日。
心輝が、瀬玲が、家族とのしばしの別れを惜しみ、家族水入らずで時間を共に過ごす中……勇と茶奈もまた、自分達の家で最後の一日を過ごしていた。
茶奈は元々藤咲家の一員では無かった。
だが、フララジカがきっかけで藤咲家に居候する事と成り、今となってはもはや家族も同然だ。
彼女が大人しく、素直で家族思いだった事もあり……今回の別れに、藤咲夫婦は大きな落胆を見せていた。
「今日で最後なんだよな……茶奈ちゃん、今日は存分に甘えていいんだよ?」
「そうそう……私達は茶奈ちゃんを本当の家族だと思っているんだから……」
元々、藤咲夫婦は女の子が欲しかったのだとか。
それを初めて聞かされた時、勇はちょっと複雑だった様だが。
しかしこうして、手間のかからない珠の様な子が訪れたのだ……可愛がりもしよう。
当人もまた、過去の経緯からそういった愛情に飢えていたからこそ……二人の好意を心から喜んでいた。
「お父さん、お母さん……ありがとう……でも、きっとこれが最後じゃないって思ってるから……また会えるって思ってるから……今は普通で……普通でいさせてください……」
それは彼女なりの望み。
普通でありたかった。
ずっと願っていた。
そして少し違うけど、それでも叶った。
望んでいたからこそ、彼女にとっては普通が何よりもの幸せ。
彼女の望む声を前に、藤咲夫婦も、勇も……彼女の望むままに、共に過ごした。
父親も、母親も、その日の為に休みを取り。
勇も彼女に合わせて色々と動き回った。
その結果もあり、最後の日はほんの少し特別だったけれど……普通な日常の一幕となった。
心輝と瀬玲の家で、三家族によりちょっとしたホームパーティが開催された。
小さい家の中を嬉々として動き回り、家族で、友人で、語り合い、笑い合い……しばし訪れる別れを惜しむ様に楽しく時を過ごす。
気付けば一日はあっという間に過ぎて……翌日。
彼等にとうとう別れの時が訪れた。
心輝や瀬玲は両親との別れを済ませ、既に本部へと移動済み。
残すは茶奈だけだった。
玄関に立つ茶奈を、無言の両親がそっと抱き締め離さない。
そんな様子を勇は静かに見つめていた。
「そろそろ行かないと……怒られちゃいますから……」
「うん……ごめんね、茶奈ちゃん……」
彼女の柔らかな長髪からは母親と同じコンディショナーの甘い香りが漂い、それが更なる親近感を呼ぶ。
その香りを惜しむかのように……二人はそっと彼女から離れた。
「それじゃ、行ってきます……」
そう一言告げて、彼女はそっと踵を返す。
その肩は震え、二度と訪れるかもわからぬ愛情との別れを拒否するかのよう。
そんな時……彼女達の背後から声が上がった。
「茶奈……」
「っ!?」
それは勇から発せられた、彼女を気遣うかの様な優しい声色。
その声に茶奈は思わず歩を止め、背を向けたままじっと佇む。
「君を巻き込んでごめん……こんな事になるなら最初から……」
「それは違いますよ勇さん……これは私が望んで進んだ道なんです」
今にも泣きそうな、僅かに震えた声が返り……勇が思わず言葉を詰まらせる。
その先が言えなくて。
どうしても伝えられなくて。
思わずその口がすぼみ、強張りを生む。
そんな勇へ……茶奈が勇気を振り絞り、想いを言葉に換えて連ねる。
「私は勇さんに一杯勇気をもらったから……だから今度は勇さんの代わりに皆に勇気を与えたいんです。 私は……私は……うぅ……」
彼女の感情が昂り、そして溢れ出る。
熱い感情が水滴となって頬を流れ、赤く染めた肌に一筋の跡を残す。
そして彼女が振り向き、彼等に見せたのは……悲しみを乗り越えた、笑顔だった。
「私が……勇さんの代わりに……皆を導きますから……!!」
それが彼女の決意。
もう、弱々しかった彼女は居ない。
そこに居るのは一人の戦士。
一人の強い……女性だった。
人は成長する。
最初は弱くても。
厳しい事を目の当たりにしても、諦めなければ……どんどんと成長していく。
彼女もまた、勇と共に成長してきた。
そして今、彼女は勇を超えようとしていた。
誰の為でも無い……自分の為に。
それが仲間や……勇の為になると信じて。
その言葉を最後に、茶奈は藤咲家から去っていった。
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