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第二十七節「空白の年月 無念重ねて なお想い途切れず」

~製造師の誤算~

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 事件が起きてからおおよそ三週間後。
 勇達は再び魔特隊としての活動を再開し、海外遠征を控えていた。
 戦いの傷がまだ残っているズーダーや、気落ちしたマヴォ、魔特隊ではないイシュライトを連れて行く訳にもいかず……赴くのは勇、茶奈、心輝、瀬玲の四人。

 だが勇の胸中には一抹の不安が宿っていた。

 未だ光の剣が使えない事……それが不安材料だったから。

 時々、それらしい力を放出する事は出来た。
 しかし、いずれも光が出るだけで攻撃的な力にはならず。
 しかも安定しない……つまり、攻撃手段には成り得ない。

 それに対して身体能力はデュゼローと戦った時同様、不安定ではあるが強靭さは失われていなかった様だ。
 不満を持つ民衆へのデモンストレーションを兼ねてグラウンドで茶奈との組手を行った際も、フルクラスタを纏った彼女を凌駕する身体能力を見せつけた。

 だがそれだけだ。
 攻撃も通らないのである。
 その身体能力で彼女を殴っても、命力特有の物理不干渉性能が働き、全てを無効化される。

 それは魔者が持つ特有の命力障壁を突破する事が出来ないのと同意義でもあった。

 勇の体に対する謎は、ますます深まるばかり。
 それが不安となって彼の信念をも不安定化させる。

 戦う事の出来ないジレンマ。
 けれど人よりも何倍も秀でた身体。
 そのあべこべな状態に、彼は困惑の色を隠せない。

 それを解決する為に……彼は遠征を志願したのである。





 遠征前、最後の打ち合わせで仲間達が福留の下へ集まり、出向先での作戦を確認する。
 全ての打ち合わせが完了し、残すは出向のみとなったその時……勇の下にカプロが姿を現した。
 彼の手には一本の布にくるまれた何かが掴まれており、それが何であるかは容易に想像出来るものだ。

「勇さん、今回の作戦でコイツを使って欲しいッス」
「ん……これは?」

 そっと差し出されたのは、一本の魔剣。

 かつて彼が使っていた翠星剣と酷似したその魔剣。
 鍔の部分だけが異なり、命力珠の換装ユニットをオミットした完全固定式の長剣である。
 代わりに幾つもの小さな命力珠がちりばめられ、個々に光を放っていた。

「これって……翠星剣?」

 そのデザイン性に通ずるものを感じ、思わず勇の口から懐かしむ様な声色が漏れる。
 だがカプロはそっと首を横に振り、ニッコリとした笑顔を見せた。

「コイツは形容するなら【勇星剣ゆうせいけん】ってトコッスね、今の勇さんでも使えるように独立的な機構にしておいたッス。 これならきっと戦えるッスよ」

「カプロ……ありがとう!!」

 光の剣が使えないなら、代替品を用意すればいい……それがカプロの出した答えだった。
 彼の好意を受け、勇の顔に思わず笑顔が漏れる。
 それ程までに彼にとっては悩みの一つだったのだろう。





 こうして、勇達は出立した。
 多くの民衆が不満の声を上げて彼等の前に立ち塞がる中……彼等は専用車両の中から彼等の行為を目の当たりにしつつ、気にしない様にと心に言い聞かせながら訪れる時を待ち続けるのだった。





◇◇◇





 オーストラリア西部の荒野に勇達の姿があった。
 相対するのはいずれも高い凶暴性を持った、身長が三メートル程もある大型の魔者達。
 全身に太い棘の様な緑の鱗を持つ、非常に筋肉質な体付きのトドの様な姿。
 つい最近、転移してきたばかりで事情も知らぬ者達だ。
 だが彼等は決して人間と共存する事を望んではいなかった。
 自分達こそが最も優れた種であると言って聞かず、無差別に人の住む街を襲撃し始めたのである。

 勇達の必死の説得も耳を貸さず、巨体に任せた攻撃は彼等を翻弄する。

「こいつらあッ!?」

 雑兵一匹一匹が洗練された戦闘能力を有し、負ける様な相手ではないもののタフな体が勇達の焦りを買う。
 油断していた心輝が思わず声を漏らし、己の認識を改めざるを得ない状況に歯を食いしばらせた。

 だがさしもの勇達……『あちら側』でも突出する程に秀でたデュゼローやギューゼルを倒した彼等の能力はその程度で怯む事は無かった。

 光の槍とも言える矢弾が魔者達を貫き、その動きを止める。
 タフであっても動きは鈍い……瀬玲の弓型魔剣【カッデレータ】の真価が十二分に発揮されていた。

 そこに空かさず心輝が腕甲型魔剣【グワイヴ】の力を利用して滑空からの追撃を重ねて次々と魔者達を打ち倒していく。

 茶奈と言えば、もはや単騎での戦闘で十分だった。
 フルクラスタを纏って戦場を駆け巡り、拳の一振りで何人もの魔者達が宙を舞う。

 三人は【東京事変】での戦いで大きな成長を遂げたと言っても過言ではない。
 肉体的にでは無く精神的に、である。
 命力は心の持ち方で大きくその力を変える。
 だからこそ、彼等はそれに相乗して上がった力を十二分に発揮し敵を屠っていった。

 だが、勇はそこで攻めあぐねいていた。
 カプロから貰った勇星剣を信用していない訳ではない。
 でもどこか不安が拭えずにいたのだ。
 本当にこれを使っていいのか、と。



―――
――




 その頃、魔特隊本部、カプロの工房。
 カプロは職員達と共に工房内の設備の整頓に追われていた。

 【東京事変】の折に工房をも破壊されたためである。
 勇星剣を造る事が出来たとはいえ、工房の機能としてはまだまだ不十分。
 万全にせねば、この後に起きる不測の事態に対応する事は出来ないかもしれないのだから。

 そんな中、カプロはふと新しく譲り受けたノートパソコンの画面を覗き、何を思ったのか自分の造った魔剣のデータを鼻歌交じりに見返し始める。
 そこに映るのは最初に本気で造った翠星剣を始め、クゥファーライデ、イルリスエーヴェといった魔剣の数々の姿があった。
 懐かしむ様に眺め、そして最後に映る勇星剣の姿をまじまじと見つめて悦に浸る。
 彼はちょっとしたナルシストの気がある所為か、自分の仕事にちょっとした自信を覗かせる事が多い。



 だがそんな時、彼のまぶたがピクリと動き、その目を見開かせた。



「あ……ヤべぇッス……これじゃ……」

 途端その顔は真剣な面持ちへと変わり、傍に置いてあったスマートフォンへと手を伸ばす。
 そして手早く操作すると……おもむろに耳へと充てた。
 その画面に映るのは「福留氏」という文字。

「もしもし、福留さんッスか?」
『えぇ、はい、なんでしょう?』
「急ぎ、勇さんに撤収する様伝えて欲しいッス……勇星剣は……!!」
『え……ですがもう彼は……!! ああッ!?』



 電話の先で福留の聞き慣れぬ叫び声が上がり、場の深刻性を体現する。
 その瞬間、カプロは項垂れ……地に膝を突くのだった。

「勇さん……すまねッス……申し訳ねぇッス……!!」



 予見したのが……自信家の彼にとって最も屈辱的な結果だという事に他ならなかったのだから。
 



――
―――


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