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第二十六節「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」

~伝う君の感触~

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 間髪入れずの連続攻撃だった。
 渾身の一撃も幾つか決まっていた。

 でも目の前の敵ギューゼルは未だ血の一滴すら流していないという。
 それも絶え間無い反撃まで見舞って。

 なんという強靭さか。
 なんという豪胆さか。
 
「うう、強い……」

「ば、化け物かよッ」

「冗談になんないわ、コイツ……!!」

 それ程の相手を前にして、不安が過って止まらない。
 明らかな劣勢で、各々の表情に焦燥感さえもが滲む。



「フフフ……フハァーッハハハッ!! やはりそうでなくてはなッ!! 」



 しかしそんな茶奈達を前に、ギューゼルが突如として笑いを上げる。
 ただし嘲笑ったのでは無く、心が打ち震えた事によって。

 その事を知らぬ彼女達が驚き慄こうとも関係無く。

「血沸き肉躍る戦いはやはりこうでなくてはッ!! お前達は誇っていい、ここまで戦える者は滅多におらんからなぁ! かつての【雷鳴候】さえもここまでには至らなかったあッ!! 故に滾るというものッ!!」

 まさに戦いを求める戦士という事か。
 あれだけの攻防だったのにも拘らず、見せたのは貪欲なまでの戦いへの欲求で。
 まさにこの男が宣っていた魔者の在り方そのものだ。

 故に高らかに笑う。
 猛者と対峙出来た事で。
 心より悦びで笑う。
 久しく見ぬ激戦となった事で。

 ただ、戦いへの欲求を見せたのがギューゼルだけとは限らないが。

「……ヒヒッ!」

 もう一人居たのだ。
 戦いに目覚め、心を解き放った者が。

 瀬玲である。
 茶奈と心輝が慄く中でも、彼女だけは別で。
 ギューゼルの言葉に呼応するかの如く、不敵な笑みを浮かべて心を昂らせる姿が。

 彼女もどうやら、火が付いたらしい。

「イイじゃん、それじゃあ愉しもうよッ!! アンタが求める〝滾る戦い〟ってヤツをさあ!!」

 しかもその昂りが、誰しも想像付かない様な光景を実現させる事に。

 なんと、瀬玲の拳もが光に包まれていたのだ。
 茶奈にもギューゼルにも負けない輝きを打ち放っていたのである。  

 そう、【フルクラスタ】だ。
 ギューゼルの拳を模倣し、形に仕上げたのだろう。

 ただ、少し小細工も加えてある。
 【カッデレータ】の予備弾倉バッテリーを掴み、その内包命力を利用して実現したと。
 言わば魔剣を利用した疑似命光拳といった所か。

 しかも瀬玲が体現したのは普通の命光拳ではなく、魔剣による命光拳だ。
 つまり魔装と組み合わせる事も可能という。

 ならばそこに【疑似命鎧装アレムグランダ】もが加われば、威力は段違いとなろう。

 たちまち瀬玲の上半身が白き輝きに包まれる。
 それだけの命力が迸っていたのだ。

 あのギューゼルが怯む程の力を。

「おおおッ!?」

「やろうよ、やり合おうよ……満足いくまでさあッ!!」

「―――よかろう、来ぉいッ!!」

 その滾る闘志、漲る命力が間も無く二人を跳び出させる。

 真っ向からのぶつかり合い。
 共に一切の細工も加えない、力と力の激突だ。

 そうなればギューゼルの方が有利か。
 圧倒的体格差、重量差ゆえに。
 三メートルもあろう巨体の慣性を活かせば、生まれる力は桁違い。

 そこに命力が加わる事で、拳に伝わる威力は何倍にも膨れ上がるだろう。

ッドォォォーーーーーーン!!

 だが、そうであろうとも瀬玲とギューゼルの力は拮抗していた様だ。
 互いの右拳を激しく突き合わせたにも拘らず、共に大地へ踏み留まる姿が。

 ただ、その時生まれた衝撃波はもはや尋常ではない。
 周囲の壁面を、窓硝子を砕いて吹き飛ばし。
 頑丈な二階スロープに断裂痕をも刻み込み。
 更には、立ち上がろうとしていた茶奈の体をぐわりと浮かせていて。

 でも止まらない。
 止まる訳が無い。

 瀬玲もギューゼルも悦びを露わにしたまま、既に次の一手に順じている。
 互いに突き出した拳を退き。
 身体を捻るがままに。
 もう片方の腕を力の限りに振り込んでいたのだ。

 とはいえ身体能力でもギューゼルの方がやはり一歩上か。
 続く拳が瀬玲よりも一段と速く振り抜かれる。

 人間ならば木っ端微塵になる程の威力を伴って。

ッパァーーーンッ!!

 しかしその拳が間も無く響かせた音は、余りにも不相応な程に軽快だった。

 それもそのはず。
 あの瀬玲が素直に殴らせる訳も無い。
 突き出された剛腕をしなやかな拳捌きで受け流し、優しくいなしていたのである。

 しかもそれだけではない。
 いなした流れが瀬玲の体をぐるりと回す。
 それもギューゼルの剛腕の上を走る車輪が如く。
 
 後はその回転の流れのままに拳を突き出せば、腕への渾身撃となるだろう。

パキィィィーーーンッ!!!

 その瞬間、光が弾けて瞬いた。
 瀬玲得意の【命力の針】が炸裂した事によって。
 防御無視の一撃が剛腕の関節を打ち貫いたのだ。

「ウグォ!?」

 途端にギューゼルの顔が堪らず歪む。
 それだけの一撃だったが故に。

 瀬玲が拳を退けば、たちまち鮮血すら舞い散る程だ。
 極細ではあるが、噴水の様に勢いよく。

 ただ、それには代償も。
 退かせた拳はもう光が灯っていない。
 掴んでいた弾倉が砕けた事によって。
 針の一撃の負荷に耐えられなかったのだろう。
 それだけの超高等技術であるが故に。

 つまり、弾倉を引き換えに放てる渾身の一撃という訳で。
 そしてその効果は絶大と言えよう。
 あの堅牢なギューゼルに対して明確な傷を負わせたのだから。



 だからと言ってあのギューゼルが止まる訳も無いが。



 瀬玲が離れようとした時、それは既に起きていた。
 ギューゼルが捻っていた上半身を逆転回させていたのだ。
 振り抜いた慣性を相殺し、それでもなお力充分となるほど強引に。

 まるで体の駆動域を無視したかの様な、無茶苦茶な動きだった。
 それ程までにして放たれた打ち上げ膝蹴りが、たちまち瀬玲を襲う。

ドッガァ!!

 あの巨体が超高速で跳ねて回る。
 小柄な瀬玲を力一杯に弾き飛ばして。
 着地した途端に床が砕ける程に激しく。
 同時に床片を跳ね上げる程に強く。

 一方の瀬玲はと言えば―――無事では済まされない。

 咄嗟に体を丸めて防御していたのに。
 命力の盾を張っていたのに。

 余りの威力故に全ての防御が貫かれてしまった。
 衝撃が魔装さえ貫き、本体へと響いたのだ。
 それも着地がおぼつかなくなるまでの眩暈をもたらす程に。

「セリッ!! 大丈夫かッ!?」

 心輝も気が気では無かったのだろう。
 堪らず埋まっていた壁から抜け出しては声を張り上げる。

 すると瀬玲は真っ直ぐと腕を伸ばし、サムズアップを見せつけていて。

「……余裕ッ!!」

 確かにダメージは重いが、戦えない程では無かった様だ。
 戦意を誇示し、目の前の相手から視線を離そうとはしない。

 茶奈も当然、この程度で諦める訳も無く。
 瀬玲の気に充てられたからだろう、先程よりも強い闘志を構えで見せつける。

「なら今度は三人で一気に攻めましょう!!」

「っしゃあ!! やってやんよお!!」

「ウフフッ、面白くなってきたァ!!」

 茶奈達もまだ全力には達していない。
 つまりここからが本番だという事だ。

 なればあのギューゼルもまた身を奮い立たせよう。
 真なる戦いをその身で味わう為に

「フハハアッ!! ならば俺が完膚無きまでに叩き潰して見せよう!! 【魔烈王】の銘に賭けてえッ!!」

 後は互いに身を震わせ、力をぶつけ合うのみ。

 茶奈達の意思は、最強の【魔烈王】を相手にしようと留まる事を知らない。


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