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第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」
~紅月、黄華を包む~
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「アッ、がッ!! ぐぅぅ……!!」
「いやぁ!! 勇君ッ!?」
亜月の手が勇の首を「ギリギリ」と締め上げる。
抵抗出来ない事をいい事に、その力を如何なく発揮して。
そこの彼女自身の意思は関係ない。
泣こうが喚こうが、身体が言う事を聞いてくれないのだから。
対するデュゼローもただその状況を鼻で笑い、静かに眺めるだけだ。
背後に居る魔者二人もまた同様にして。
見る限り、魔者達が亜月同様に操られている節は無い。
少なくとも、操られた時に現れるであろう意思の乖離は。
恐らく、どちらも自らの意思でデュゼローと共に行動をしているのだろう。
その目的や理念を汲んで。
そうでなければ、『あちら側』の人間と魔者が手を組むなど到底あり得ないのだから。
―――早く 皆に知らせ ないと……何とか して……!!―――
こうしている間にもどんどん勇の顔から血の気が引いていく。
血流さえも抑えられ、まともに頭への血液が通わなくて。
それが勇の意識を断続的に断ち切り、視界はもはやコマ送りの粗雑な動画のよう。
「あ、ず……ッ!!」
それでもなお、首を絞める手は力を増していく。
指が食い込んでいく程に強くきつく。
「メリメリ」と音を立て、今にも握り潰さんばかりに。
もう亜月自身も俯き、首上だけが力無く項垂れ降りている。
抵抗を諦めたのか、それとも絶望を受け入れたのか。
いや、違う。
彼女は何も諦めてはいない。
その一瞬に意識を集中させていただけだ。
「あッがッ―――ぐぅぅぅッッッ!!」
「あ ず……?」
「ぐぅううう、んおォォォーーーーーーッッ!!!」
それは、亜月の唸り声と共に突如として始まった。
まるで獣達が唸り咆えるかの様に。
まるで大地が震えるかの様に。
亜月を包む一帯の大気が揺れ動き、振動音さえも呼び起こす。
空気が震えているのだ。
亜月の唸り声に呼応して。
「ほう……?」
その事実を前に、あのデュゼローがその眼を見張らせる。
見開き、視線を釘付けにしながら。
それは空気が震えている理由を悟ったが故に。
今起きている現象が何なのかを読み取ったのである。
如何に尋常ならざる事が起きているのか、を。
「いッぎィィ!! あアあァァァァッッッ!!!!!」
しかしそれはきっとデュゼローでなくとも理解出来る事だ。
何故ならば―――
亜月の身体から、異様な命力が浮かび上がっていたのだから。
亜月の持つ命力は本来、淡い黄色を宿している。
その光を宿した彼女はまるで、闇夜に輝く月の様なのだが。
今浮かび上がっている命力は―――赤。
その色は言うなれば紅月の如く。
鮮やかさと裏腹に、色合いから不気味さえも滲んでくるかのよう。
そして何よりも、その存在そのものが異様だからこそ。
それはまさにアメーバの様相。
液状の様な命力があっという間に亜月自身を包み込んだのだ。
その体に浮かんでいた黄色い命力さえも呑み込んで。
そして赤の命力がその手さえも呑み込んだ時、それは起きた。
ブチッ、ビチチッ!!
なんと、突如として亜月の腕に無数の筋が浮かび始めたのである。
細く白かったあの腕をも、命力の様に赤く染めながら。
ブシッ!! ブババッ!!
しかも、それだけでは済まされるはずがない。
次の瞬間には肌に亀裂が走り、薄い血飛沫が舞い散り始めていて。
それも一箇所二箇所では済まされない。
場所・構造に関係無く、至る所から飛沫が弾け飛ぶ。
裂けているのだ。
それは二種類の命力のぶつかり合いが故に。
「がああァァァァーーーーーーッッ!!!」
亜月の身体に起きているのは、言わば二つの力のせめぎ合いだ。
操られた黄色の命力と、潜在的に秘めていた赤色の命力との。
その二つの力が互いに身体の主導権を奪い合い、ぶつかり合っている。
その結果、身体の方が限界を迎えてしまった。
肉体が耐え切れなくなり、崩壊を招いたのである。
だが本来、二つの命力を持つなどは有り得ない。
少なくともデュゼロー達が知る限りでは。
その認識が驚きを誘い、こうして眼を見張っているのだろう。
「素晴らしいな……!! 操られた命力を潜在命力で強制的に塗り潰すか!! 二つの命力色、つまりは二面性―――いや、明確な拒絶を生む為に個を切り離したのか!?」
「ど、どういう事だデュゼローよぉ?」
「原理はあの女にしかわからん事だ。 だがそれだけ藤咲勇を想っているのだろう。 自己犠牲を成せる程にな。 我々の世界では到底有り得ぬ思考論理だろうよ」
人間というものは基本的に利己的だ。
己が在り、そして他が在る。
生死の倫理が離れれば離れる程、その価値観は反比例して不動となっていく。
でも現代はその倫理があるからこそ、高度な文明を気付く事が出来た。
人権という名の思考論理を以って。
その結果、現代人は他を心から愛する事が出来る様になったのだ。
誰かの為に、何かの為に―――自らを差し出し、他に尽くす事が。
その最たる例こそがこの亜月だ。
愛の為に止まらず。
愛の為に自らを変え。
愛の為に今、自身を犠牲にしようとしている。
勇を救う為に、自ら己を切り離したのだ。
その結果、何が待っているのかも理解して。
その先に待つのが、今起きている自分自身の崩壊。
そうなるのも当然だろう。
精神の塊とも言える命力同士をぶつけ合うのだから。
それがどちらも自分の命力ならば、すなわち同じ力を有しているという事で。
同じ力が押し合えば、どちらも打ち消される事となるだろう。
肉体の崩壊だけで済めば良いが、最悪の場合は死が待っている。
それを自らの意思で行うなど狂気の沙汰だ。
だからデュゼロー達は信じられなかった。
亜月がそれ程の覚悟と信念を有していた事に。
「まさかこの様な光景を目にするとは思わなかったな。 それだけでも収穫と言えるかもしれん」
故に、デュゼローの口元には笑みが浮かぶ。
それは決して嘲笑ではなく、超常に対する畏敬の喜びとして。
「それ程か、あの小娘が顕現せしものは」
大柄な魔者の問いにも、デュゼローはただ静かに頷きで応えるのみ。
魅入ってしまう程に、今起きていた光景が信じられなかったのだ。
信じられる訳もないだろう。
なんと、亜月の手が開き始めていたのだから。
崩壊よりも先に、魔剣に操られた命力が押し退けられていたのである。
今の命力のぶつかり合いが体の崩壊を招くなど、デュゼローもすぐに理解出来る。
でも、その理解すらもたった今覆されてしまった。
つまり、今目の前に起きている出来事はもはや常軌の先の先。
最強の一角を誇る男でさえ与り知らぬ現象が、幾度と無く繰り広げられている。
興味無い訳がないだろう。
少なくとも、世界をどうこうしようと思っている程に知識を蓄えている者ならば。
「ぎっイィィ!! あッがああああーーー!!!」
締め上げていた手が徐々に緩み、勇の首が元の形を取り戻し。
それと同時に気管が、血管が流れを求めて隙間を開けていく。
そしてその手が首から離れた時―――
遂に勇の身体がずるりと、大地へ滑り落ちる事となる。
「ぐはっ!! ―――ハァッ!! ハァッ!!」
勇としても紙一重だった。
あと数秒遅れれば、完全に昏倒していた事だろう。
その所為か、解放されたのにも拘らず大地に倒れたまま動く事すら叶わない。
命力機動さえままならないのだ。
それだけ精神的にも追い詰められていたが故に。
「まさか【ラパヨチャの笛】の精神支配を意思で跳ね退けるとはな。 相応の覚悟と信念が無ければ出来ぬ芸当だ。 藤咲勇よ、その女はお前よりもずっと強いぞ?」
しかしデュゼローの余裕は相変わらずだ。
残念がる事も、追い打ちをかける事も無く、ただただ賛辞を贈る。
遂には拍手までして見せる程だ。
「デュゼロォ……貴様……ッ!!」
「フッ、いきるのは構わんが―――意思を向ける相手は私では無く、その女なのではないか?」
「ッ!?」
でもその拍手は勇が憤りを見せようが止まらない。
視線さえも向けられる事は無い。
何故ならば称賛対象はまだ―――止まっていないのだから。
「ぐッぎィッ!! あウゥウゥゥ!!!」
「あずうッ!?」
そう、止まっていないのだ。
未だ彼女は戦い続けている。
己の命力同士でぶつかり合い、身体の崩壊を招き続けながら。
止められる訳も無いだろう。
止めてしまえば、すぐさま身体が再び勇を襲うだろうから。
それに、一度止めてしまえば再び紅の命力を生み出せるかもわからないから。
だから亜月はなお操られた力を抑え込み続けているのである。
それはデュゼローが称賛して止まない程、ただただ必死に。
「いやぁ!! 勇君ッ!?」
亜月の手が勇の首を「ギリギリ」と締め上げる。
抵抗出来ない事をいい事に、その力を如何なく発揮して。
そこの彼女自身の意思は関係ない。
泣こうが喚こうが、身体が言う事を聞いてくれないのだから。
対するデュゼローもただその状況を鼻で笑い、静かに眺めるだけだ。
背後に居る魔者二人もまた同様にして。
見る限り、魔者達が亜月同様に操られている節は無い。
少なくとも、操られた時に現れるであろう意思の乖離は。
恐らく、どちらも自らの意思でデュゼローと共に行動をしているのだろう。
その目的や理念を汲んで。
そうでなければ、『あちら側』の人間と魔者が手を組むなど到底あり得ないのだから。
―――早く 皆に知らせ ないと……何とか して……!!―――
こうしている間にもどんどん勇の顔から血の気が引いていく。
血流さえも抑えられ、まともに頭への血液が通わなくて。
それが勇の意識を断続的に断ち切り、視界はもはやコマ送りの粗雑な動画のよう。
「あ、ず……ッ!!」
それでもなお、首を絞める手は力を増していく。
指が食い込んでいく程に強くきつく。
「メリメリ」と音を立て、今にも握り潰さんばかりに。
もう亜月自身も俯き、首上だけが力無く項垂れ降りている。
抵抗を諦めたのか、それとも絶望を受け入れたのか。
いや、違う。
彼女は何も諦めてはいない。
その一瞬に意識を集中させていただけだ。
「あッがッ―――ぐぅぅぅッッッ!!」
「あ ず……?」
「ぐぅううう、んおォォォーーーーーーッッ!!!」
それは、亜月の唸り声と共に突如として始まった。
まるで獣達が唸り咆えるかの様に。
まるで大地が震えるかの様に。
亜月を包む一帯の大気が揺れ動き、振動音さえも呼び起こす。
空気が震えているのだ。
亜月の唸り声に呼応して。
「ほう……?」
その事実を前に、あのデュゼローがその眼を見張らせる。
見開き、視線を釘付けにしながら。
それは空気が震えている理由を悟ったが故に。
今起きている現象が何なのかを読み取ったのである。
如何に尋常ならざる事が起きているのか、を。
「いッぎィィ!! あアあァァァァッッッ!!!!!」
しかしそれはきっとデュゼローでなくとも理解出来る事だ。
何故ならば―――
亜月の身体から、異様な命力が浮かび上がっていたのだから。
亜月の持つ命力は本来、淡い黄色を宿している。
その光を宿した彼女はまるで、闇夜に輝く月の様なのだが。
今浮かび上がっている命力は―――赤。
その色は言うなれば紅月の如く。
鮮やかさと裏腹に、色合いから不気味さえも滲んでくるかのよう。
そして何よりも、その存在そのものが異様だからこそ。
それはまさにアメーバの様相。
液状の様な命力があっという間に亜月自身を包み込んだのだ。
その体に浮かんでいた黄色い命力さえも呑み込んで。
そして赤の命力がその手さえも呑み込んだ時、それは起きた。
ブチッ、ビチチッ!!
なんと、突如として亜月の腕に無数の筋が浮かび始めたのである。
細く白かったあの腕をも、命力の様に赤く染めながら。
ブシッ!! ブババッ!!
しかも、それだけでは済まされるはずがない。
次の瞬間には肌に亀裂が走り、薄い血飛沫が舞い散り始めていて。
それも一箇所二箇所では済まされない。
場所・構造に関係無く、至る所から飛沫が弾け飛ぶ。
裂けているのだ。
それは二種類の命力のぶつかり合いが故に。
「がああァァァァーーーーーーッッ!!!」
亜月の身体に起きているのは、言わば二つの力のせめぎ合いだ。
操られた黄色の命力と、潜在的に秘めていた赤色の命力との。
その二つの力が互いに身体の主導権を奪い合い、ぶつかり合っている。
その結果、身体の方が限界を迎えてしまった。
肉体が耐え切れなくなり、崩壊を招いたのである。
だが本来、二つの命力を持つなどは有り得ない。
少なくともデュゼロー達が知る限りでは。
その認識が驚きを誘い、こうして眼を見張っているのだろう。
「素晴らしいな……!! 操られた命力を潜在命力で強制的に塗り潰すか!! 二つの命力色、つまりは二面性―――いや、明確な拒絶を生む為に個を切り離したのか!?」
「ど、どういう事だデュゼローよぉ?」
「原理はあの女にしかわからん事だ。 だがそれだけ藤咲勇を想っているのだろう。 自己犠牲を成せる程にな。 我々の世界では到底有り得ぬ思考論理だろうよ」
人間というものは基本的に利己的だ。
己が在り、そして他が在る。
生死の倫理が離れれば離れる程、その価値観は反比例して不動となっていく。
でも現代はその倫理があるからこそ、高度な文明を気付く事が出来た。
人権という名の思考論理を以って。
その結果、現代人は他を心から愛する事が出来る様になったのだ。
誰かの為に、何かの為に―――自らを差し出し、他に尽くす事が。
その最たる例こそがこの亜月だ。
愛の為に止まらず。
愛の為に自らを変え。
愛の為に今、自身を犠牲にしようとしている。
勇を救う為に、自ら己を切り離したのだ。
その結果、何が待っているのかも理解して。
その先に待つのが、今起きている自分自身の崩壊。
そうなるのも当然だろう。
精神の塊とも言える命力同士をぶつけ合うのだから。
それがどちらも自分の命力ならば、すなわち同じ力を有しているという事で。
同じ力が押し合えば、どちらも打ち消される事となるだろう。
肉体の崩壊だけで済めば良いが、最悪の場合は死が待っている。
それを自らの意思で行うなど狂気の沙汰だ。
だからデュゼロー達は信じられなかった。
亜月がそれ程の覚悟と信念を有していた事に。
「まさかこの様な光景を目にするとは思わなかったな。 それだけでも収穫と言えるかもしれん」
故に、デュゼローの口元には笑みが浮かぶ。
それは決して嘲笑ではなく、超常に対する畏敬の喜びとして。
「それ程か、あの小娘が顕現せしものは」
大柄な魔者の問いにも、デュゼローはただ静かに頷きで応えるのみ。
魅入ってしまう程に、今起きていた光景が信じられなかったのだ。
信じられる訳もないだろう。
なんと、亜月の手が開き始めていたのだから。
崩壊よりも先に、魔剣に操られた命力が押し退けられていたのである。
今の命力のぶつかり合いが体の崩壊を招くなど、デュゼローもすぐに理解出来る。
でも、その理解すらもたった今覆されてしまった。
つまり、今目の前に起きている出来事はもはや常軌の先の先。
最強の一角を誇る男でさえ与り知らぬ現象が、幾度と無く繰り広げられている。
興味無い訳がないだろう。
少なくとも、世界をどうこうしようと思っている程に知識を蓄えている者ならば。
「ぎっイィィ!! あッがああああーーー!!!」
締め上げていた手が徐々に緩み、勇の首が元の形を取り戻し。
それと同時に気管が、血管が流れを求めて隙間を開けていく。
そしてその手が首から離れた時―――
遂に勇の身体がずるりと、大地へ滑り落ちる事となる。
「ぐはっ!! ―――ハァッ!! ハァッ!!」
勇としても紙一重だった。
あと数秒遅れれば、完全に昏倒していた事だろう。
その所為か、解放されたのにも拘らず大地に倒れたまま動く事すら叶わない。
命力機動さえままならないのだ。
それだけ精神的にも追い詰められていたが故に。
「まさか【ラパヨチャの笛】の精神支配を意思で跳ね退けるとはな。 相応の覚悟と信念が無ければ出来ぬ芸当だ。 藤咲勇よ、その女はお前よりもずっと強いぞ?」
しかしデュゼローの余裕は相変わらずだ。
残念がる事も、追い打ちをかける事も無く、ただただ賛辞を贈る。
遂には拍手までして見せる程だ。
「デュゼロォ……貴様……ッ!!」
「フッ、いきるのは構わんが―――意思を向ける相手は私では無く、その女なのではないか?」
「ッ!?」
でもその拍手は勇が憤りを見せようが止まらない。
視線さえも向けられる事は無い。
何故ならば称賛対象はまだ―――止まっていないのだから。
「ぐッぎィッ!! あウゥウゥゥ!!!」
「あずうッ!?」
そう、止まっていないのだ。
未だ彼女は戦い続けている。
己の命力同士でぶつかり合い、身体の崩壊を招き続けながら。
止められる訳も無いだろう。
止めてしまえば、すぐさま身体が再び勇を襲うだろうから。
それに、一度止めてしまえば再び紅の命力を生み出せるかもわからないから。
だから亜月はなお操られた力を抑え込み続けているのである。
それはデュゼローが称賛して止まない程、ただただ必死に。
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