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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~考~
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気付けば雨は止み……雲から夕焼けが覗き込み始めていた。
だが、そんな中……アージとマヴォは集落の一つで戦いを繰り広げていた。
集落の建物内に潜んでいたオッファノ族達が襲い掛かって来たのである。
「カァッ!!」
「フンッ!!」
相手を殺傷しない事を目的とするのであれば、もはや魔剣など不要。
命力を篭めた拳や蹴りで叩き伏せ、襲い掛かるオッファノ族達を撃退していく。
気付けば雑兵達は全て倒れ……大地に横たわり呻き声を上げる様を見せつけていた。
「フッ……フッ……フゥーーー……なんだ、これで終わりかぁ?」
マヴォがまだ戦い足りないと言わんばかりに呼吸を整える。
周囲を見渡し、敵意が無い事を確認すると……ゆっくり拳を降ろした。
だがその傍らで、アージが浮かない顔を浮かべ……空気を感じる様に鼻を天に向ける。
「解せんな……魔剣使いをこの程度の戦力で倒せると思っているのか……」
同じく拳を降ろして力を抜くが……その気持ちはどうにも落ち着かない。
そんな彼の傍へマヴォが寄っていくと……同様に鼻で空気を感じようと空を見上げた。
すると、不意に彼の目に空の光景が映り……その時初めて時間帯を感じ取った。
「もうすぐ夜だ……敵意も感じられない。 兄者、今日はここで一旦休んだ方がいい」
「ウム……だがもしこれが彼等の策略なら……」
間も無く、車両が彼等の前に姿を現す。
戦闘が終わった事に気が付き、物陰から出てきたのである。
「二人共、ご無事ですか?」
「ああ、問題は無い……倒れているこいつらの捕縛を頼む」
アージに言われるままに、捕縛用道具を持った兵士達が車から降りていく。
彼等が持つのはチタン複合ワイヤー……魔者が暴れても切れない強力な強靭な鋼線だ。
拘束具と違い、大きな荷物にならない事から捕縛用として用意された道具である。
それをただ手首や足首に巻き付けるだけ……そして専用の留 め 具を使用する事で、簡単に捕縛が可能となっている。
一度捕縛すればよほどの力を持つ魔者で無い限り、解く事は不可能だ。
なにせマヴォが外せなかったのだから。
この捕縛ワイヤー、実は魔特隊隊員による評価試験済みというシロモノである。
力が入らない様に固定するという工夫も必要だが、そんな条件下で捕縛されれば魔剣使いですら捕縛を解くのは難しい。
さしものマヴォも、そればかりはどうにもならず……性能試験でギブアップしたという経緯がある。
ちなみに……のたうち回る彼の姿に、アージが怒りを隠せなかったのは言うまでもない。
とはいえ、性能は折り紙付き。
多重に巻き付け、気絶したオッファノ族達を一人づつ捕らえていった。
捕縛が終わる頃、既に周囲は闇が包み始めていた。
時間も時間……マヴォの予想通り、福留からは停止指示が出されている。
とはいえ、解せぬと感じた事は未だ解決した訳では無く……アージはおもむろにインカムへ手を伸ばした。
「福留殿、すこしきがかり ある」
『アージさんもやはり感じましたか?』
どうやら福留も何かを感じ取り、その様な事を匂わせる。
『敵が少なすぎる……そういう事でしょうか?』
「そうだ すくない あまりにも。 ほか どうか?」
『B班への襲撃はC班への襲撃と比べて数は多かったですが……それでも大した数ではありませんでした。 A班、D班への攻撃は見られず……といった所です』
そう言われると……アージが顎を取り、思考を巡らせる。
だが、そんな彼に再び福留から通信が入った。
『しかしD班は環境の影響で進攻速度が遅れています。 それに合わせてA班の動きも止めましたが……これは恐らく、足止めですね』
「そうだな あしどめだ おれたちと 心輝たちのな」
『狙いは……勇君達でしょうねぇ』
福留とアージが感じ取ったのは……A班、勇達への攻撃の示唆。
それは何故か。
簡単な事だ……一番遅いはずの勇達A班だけが順調に進路を進んでいるからだ。
抵抗すら無く、環境に対する悪影響も無い。
環境こそ偶然ではあろうが、明らかなB、C班を意識した襲撃と、進攻が遅いD班への放置ぶり。
そこに意図的な意思を感じざるを得ないのである。
『アージさんの報告で確証を得ました……そこでですが、アージさんに相談があります』
「なにか?」
福留から続く話を受けると……アージは驚く顔を見せるが、間を置くと再び真剣な顔つきへと戻していく。
そして続き語られる指示を聞き終えると……そっとインカムから指を離し、空を見上げた。
既に星が見え始め、辺りはもはやその光だけが空を照らす暗闇の世界。
その空の下で彼が想うのは何か……それを知るのは彼と福留のみ。
アージはゆっくりと休むマヴォの傍へと歩み寄ると、彼にそっと自身の思惑を彼に伝えたのだった。
だが、そんな中……アージとマヴォは集落の一つで戦いを繰り広げていた。
集落の建物内に潜んでいたオッファノ族達が襲い掛かって来たのである。
「カァッ!!」
「フンッ!!」
相手を殺傷しない事を目的とするのであれば、もはや魔剣など不要。
命力を篭めた拳や蹴りで叩き伏せ、襲い掛かるオッファノ族達を撃退していく。
気付けば雑兵達は全て倒れ……大地に横たわり呻き声を上げる様を見せつけていた。
「フッ……フッ……フゥーーー……なんだ、これで終わりかぁ?」
マヴォがまだ戦い足りないと言わんばかりに呼吸を整える。
周囲を見渡し、敵意が無い事を確認すると……ゆっくり拳を降ろした。
だがその傍らで、アージが浮かない顔を浮かべ……空気を感じる様に鼻を天に向ける。
「解せんな……魔剣使いをこの程度の戦力で倒せると思っているのか……」
同じく拳を降ろして力を抜くが……その気持ちはどうにも落ち着かない。
そんな彼の傍へマヴォが寄っていくと……同様に鼻で空気を感じようと空を見上げた。
すると、不意に彼の目に空の光景が映り……その時初めて時間帯を感じ取った。
「もうすぐ夜だ……敵意も感じられない。 兄者、今日はここで一旦休んだ方がいい」
「ウム……だがもしこれが彼等の策略なら……」
間も無く、車両が彼等の前に姿を現す。
戦闘が終わった事に気が付き、物陰から出てきたのである。
「二人共、ご無事ですか?」
「ああ、問題は無い……倒れているこいつらの捕縛を頼む」
アージに言われるままに、捕縛用道具を持った兵士達が車から降りていく。
彼等が持つのはチタン複合ワイヤー……魔者が暴れても切れない強力な強靭な鋼線だ。
拘束具と違い、大きな荷物にならない事から捕縛用として用意された道具である。
それをただ手首や足首に巻き付けるだけ……そして専用の留 め 具を使用する事で、簡単に捕縛が可能となっている。
一度捕縛すればよほどの力を持つ魔者で無い限り、解く事は不可能だ。
なにせマヴォが外せなかったのだから。
この捕縛ワイヤー、実は魔特隊隊員による評価試験済みというシロモノである。
力が入らない様に固定するという工夫も必要だが、そんな条件下で捕縛されれば魔剣使いですら捕縛を解くのは難しい。
さしものマヴォも、そればかりはどうにもならず……性能試験でギブアップしたという経緯がある。
ちなみに……のたうち回る彼の姿に、アージが怒りを隠せなかったのは言うまでもない。
とはいえ、性能は折り紙付き。
多重に巻き付け、気絶したオッファノ族達を一人づつ捕らえていった。
捕縛が終わる頃、既に周囲は闇が包み始めていた。
時間も時間……マヴォの予想通り、福留からは停止指示が出されている。
とはいえ、解せぬと感じた事は未だ解決した訳では無く……アージはおもむろにインカムへ手を伸ばした。
「福留殿、すこしきがかり ある」
『アージさんもやはり感じましたか?』
どうやら福留も何かを感じ取り、その様な事を匂わせる。
『敵が少なすぎる……そういう事でしょうか?』
「そうだ すくない あまりにも。 ほか どうか?」
『B班への襲撃はC班への襲撃と比べて数は多かったですが……それでも大した数ではありませんでした。 A班、D班への攻撃は見られず……といった所です』
そう言われると……アージが顎を取り、思考を巡らせる。
だが、そんな彼に再び福留から通信が入った。
『しかしD班は環境の影響で進攻速度が遅れています。 それに合わせてA班の動きも止めましたが……これは恐らく、足止めですね』
「そうだな あしどめだ おれたちと 心輝たちのな」
『狙いは……勇君達でしょうねぇ』
福留とアージが感じ取ったのは……A班、勇達への攻撃の示唆。
それは何故か。
簡単な事だ……一番遅いはずの勇達A班だけが順調に進路を進んでいるからだ。
抵抗すら無く、環境に対する悪影響も無い。
環境こそ偶然ではあろうが、明らかなB、C班を意識した襲撃と、進攻が遅いD班への放置ぶり。
そこに意図的な意思を感じざるを得ないのである。
『アージさんの報告で確証を得ました……そこでですが、アージさんに相談があります』
「なにか?」
福留から続く話を受けると……アージは驚く顔を見せるが、間を置くと再び真剣な顔つきへと戻していく。
そして続き語られる指示を聞き終えると……そっとインカムから指を離し、空を見上げた。
既に星が見え始め、辺りはもはやその光だけが空を照らす暗闇の世界。
その空の下で彼が想うのは何か……それを知るのは彼と福留のみ。
アージはゆっくりと休むマヴォの傍へと歩み寄ると、彼にそっと自身の思惑を彼に伝えたのだった。
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