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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~渡~
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B班の心輝と瀬玲が戦いを繰り広げている頃……。
アンディとナターシャらD班は川を渡っていた。
彼等が渡るのは、ほんの30メートル程の幅を持った川。
それ程大きな川では無いが……雨で増水し、流れを増しており、普通の人間やボート等では渡る事など到底不可能と言える程の急流と化していた。
では何故そんな川を渡る事になってしまったのか。
湿地帯が水に覆われ……彼等が進むべき道が途切れてしまったからである。
幸い、後続車両は水陸両用。
防水処理は川に入った所で問題無く、浸水の心配などは無いと言っても良い。
アタッチメントを切り替える事によるボート機能も有する為、水上に浮く事が出来るスグレモノだ。
だが……その機動力には限界があり、重量もある事から車両単体では増水した川の流れに逆らう事は出来なかった。
その為、子供であるアンディとナターシャが力づくで車両を引くという強引な結果と成ってしまったのである。
どうやら『あちら側』の生物であろうと、命力特性がある訳ではない様で……基本的には扱いは『こちら側』と大して変わらない。
川の生物などなんのその……命力の膜を纏った彼等に原生生物が傷を付けるなど出来るはずも無く。
ただ……その命力を使うにしろ、川の流れに逆らって車両を運ぶのは骨が折れる事には変わりない。
アンディ達が川底を蹴り上げて、そして時折生えている木等を上手く使って必死に引っ張る。
「うおおーーーーーー!!」
「んにゃあーーーーーー!!」
交互に跳ね跳ぶ様に川から飛び上がると、その度に車両ごと前進させていく。
あまりの引張力、あまりの抵抗力……その超人ぶりに、兵士達はただただ驚かされる。
魔剣使いとはここまで凄い者なのか、と。
それと同時に、見届ける事しか出来ない自分達の不甲斐なさに憤りも感じていた。
力及ばず気落ちする兵士達であったが……打って変わってアンディとナターシャはどこか楽しそうだ。
そう、楽しいのだ。
魔特隊本部から出た事がほとんど無い二人。
外の世界の事はほとんど知らないと言っても過言ではない。
それというのも、本部の住み心地が良すぎて出たがらないというのもあるが……何より彼等の倫理感が現代日本に合わず、出る事がなかなか許可されていないというのが専らの理由であった。
元々ホームレスで孤児だった彼等は言葉遣いや行動が粗雑で、日本で生活する事は出来ないとされていた。
それを今日に至るまで魔特隊の面々が教育し、現状の様に真っ当に近い人間性に成った訳だが……それと同時に新たな問題が発生した。
現実を知りたがってしまったのである。
その結果テレビや動画を見始め、カプロから読めるはずの無いライトノベルを強奪したりなど……とにかく魔特隊内で現代の情報を集めていた。
そんな中、遂に彼等は一つの事柄に興味を持つ事となる。
それはプール。
泳ぐ事……本部内にある風呂場では出来ない、してもいけない。
子供が遊んでみたい事柄トップ3にランクインしてもおかしくない事柄とも言える。
しかし残念ながら魔特隊本部にプールは無い……子供達には残酷な現実である。
彼等は夢見た……いつか、大きなプールで思う存分泳ぎたいと……。
そして彼等は遂に、その場を得たのだ。
川という、存分に泳げるフィールドを。
彼等の動きは明らかに泳ぎとは全く異なるが。
楽しければ、それでいい。
戦場である事はこの際どうでも良かったのである。
おおよそ1時間……ヘトヘトになりながらも、D班は川の渡航に成功した。
アンディとナターシャが停まった車へへたり込む様に寄りかかる。
彼等の頭上には簡単なテントが張られ、雨水を遮っていた。
二人を労う様に兵士達が身を挺して立てた物だ。
「本当に二人共お疲れ様でした……さすが魔剣使いといった所ですね」
「へへっ……そんなんでもねぇよー」
「でも楽しかったねー!」
そうは言うが、二人共照れ臭そうに濡れた頭を掻き乱す。
彼等の謙遜を暖かい笑いで包む兵士達。
それに揃い、二人も思わず笑いを上げていた。
その後、ある程度体力が整うと……念の為、二人の体を診る事となった。
『あちら側』の領域の川に入ったのだ、見た事の無い生物による影響を考慮した上での診断である。
診断の結果……特に異常は無く、アンディに続いて診断を終えたナターシャが車両の外へと出てきた。
「どうだった?」
「大丈夫だってー」
「身体に問題無し、進攻は続行可能です」
「了解。 では、もうひと踏ん張り頑張ろう」
兵長がそう彼等に促すと、全員が車両に乗り込み発進準備を進める。
既に点検は済み……アンディとナターシャが出発次第、追従する事となる。
「んじゃ行こっ」
「おう!」
彼等が進む先は集落の一つ。
そこへ向けて二人が走り出す。
だがその時……アンディが何かに気付き、思わず足を止めた。
「待てナターシャ……!!」
突然の声に、ナターシャが慌て足を止めて彼を見る。
真剣な面持ちの彼に目を向けると……二人の視線が合わさった。
「アニキ……まさか……」
ナターシャがジワリと冷や汗を流し、雨に流され消える。
その目は大きく見開かれ、僅かに震えている様を見せていた。
「あぁ、そのまさかだ……魔剣を通して感じただろ?」
二人して途端立ち止まった様子に、車両に乗った兵士達も緊張を隠せない。
「うん……感じた……でも、この感じ……そ、そんなッ!?」
彼女が顔を引きつらせ、脅え始める。
そんな彼女へ……遂にアンディが驚くべき真実を口に出した。
「泳いでる時に……ションベンしときゃよかったぁ!!」
途端ずっこけるナターシャ。
その大声が兵士達にも聞こえたのか……車両の中で彼等もまた顔を落としていた。
「アニキ―……そこらへんでしてきなよー……」
「わ、わかった!!」
そそくさと茂みに向かうアンディ。
そんな様を追うのはナターシャは座った目。
「あっ……アタイもやっぱ行くー!!」
だが彼女も何かを感じてしまったのだろう。
ずっこけた体を引きずる様に立ち上がらせると……ナターシャがアンディの後を付いていく。
そんな様子を前にした兵士達が「この先大丈夫なのだろうか」と心配を隠す事が出来なかったのは言うまでもない。
彼等の現代に馴染む為の教育はまだまだ足りなさそうだ……。
なお、『こちら側』のアマゾンで川に向けて用を足すのは控えよう。
アンモニアに反応する超危険生物が居るので要注意である。
アンディとナターシャらD班は川を渡っていた。
彼等が渡るのは、ほんの30メートル程の幅を持った川。
それ程大きな川では無いが……雨で増水し、流れを増しており、普通の人間やボート等では渡る事など到底不可能と言える程の急流と化していた。
では何故そんな川を渡る事になってしまったのか。
湿地帯が水に覆われ……彼等が進むべき道が途切れてしまったからである。
幸い、後続車両は水陸両用。
防水処理は川に入った所で問題無く、浸水の心配などは無いと言っても良い。
アタッチメントを切り替える事によるボート機能も有する為、水上に浮く事が出来るスグレモノだ。
だが……その機動力には限界があり、重量もある事から車両単体では増水した川の流れに逆らう事は出来なかった。
その為、子供であるアンディとナターシャが力づくで車両を引くという強引な結果と成ってしまったのである。
どうやら『あちら側』の生物であろうと、命力特性がある訳ではない様で……基本的には扱いは『こちら側』と大して変わらない。
川の生物などなんのその……命力の膜を纏った彼等に原生生物が傷を付けるなど出来るはずも無く。
ただ……その命力を使うにしろ、川の流れに逆らって車両を運ぶのは骨が折れる事には変わりない。
アンディ達が川底を蹴り上げて、そして時折生えている木等を上手く使って必死に引っ張る。
「うおおーーーーーー!!」
「んにゃあーーーーーー!!」
交互に跳ね跳ぶ様に川から飛び上がると、その度に車両ごと前進させていく。
あまりの引張力、あまりの抵抗力……その超人ぶりに、兵士達はただただ驚かされる。
魔剣使いとはここまで凄い者なのか、と。
それと同時に、見届ける事しか出来ない自分達の不甲斐なさに憤りも感じていた。
力及ばず気落ちする兵士達であったが……打って変わってアンディとナターシャはどこか楽しそうだ。
そう、楽しいのだ。
魔特隊本部から出た事がほとんど無い二人。
外の世界の事はほとんど知らないと言っても過言ではない。
それというのも、本部の住み心地が良すぎて出たがらないというのもあるが……何より彼等の倫理感が現代日本に合わず、出る事がなかなか許可されていないというのが専らの理由であった。
元々ホームレスで孤児だった彼等は言葉遣いや行動が粗雑で、日本で生活する事は出来ないとされていた。
それを今日に至るまで魔特隊の面々が教育し、現状の様に真っ当に近い人間性に成った訳だが……それと同時に新たな問題が発生した。
現実を知りたがってしまったのである。
その結果テレビや動画を見始め、カプロから読めるはずの無いライトノベルを強奪したりなど……とにかく魔特隊内で現代の情報を集めていた。
そんな中、遂に彼等は一つの事柄に興味を持つ事となる。
それはプール。
泳ぐ事……本部内にある風呂場では出来ない、してもいけない。
子供が遊んでみたい事柄トップ3にランクインしてもおかしくない事柄とも言える。
しかし残念ながら魔特隊本部にプールは無い……子供達には残酷な現実である。
彼等は夢見た……いつか、大きなプールで思う存分泳ぎたいと……。
そして彼等は遂に、その場を得たのだ。
川という、存分に泳げるフィールドを。
彼等の動きは明らかに泳ぎとは全く異なるが。
楽しければ、それでいい。
戦場である事はこの際どうでも良かったのである。
おおよそ1時間……ヘトヘトになりながらも、D班は川の渡航に成功した。
アンディとナターシャが停まった車へへたり込む様に寄りかかる。
彼等の頭上には簡単なテントが張られ、雨水を遮っていた。
二人を労う様に兵士達が身を挺して立てた物だ。
「本当に二人共お疲れ様でした……さすが魔剣使いといった所ですね」
「へへっ……そんなんでもねぇよー」
「でも楽しかったねー!」
そうは言うが、二人共照れ臭そうに濡れた頭を掻き乱す。
彼等の謙遜を暖かい笑いで包む兵士達。
それに揃い、二人も思わず笑いを上げていた。
その後、ある程度体力が整うと……念の為、二人の体を診る事となった。
『あちら側』の領域の川に入ったのだ、見た事の無い生物による影響を考慮した上での診断である。
診断の結果……特に異常は無く、アンディに続いて診断を終えたナターシャが車両の外へと出てきた。
「どうだった?」
「大丈夫だってー」
「身体に問題無し、進攻は続行可能です」
「了解。 では、もうひと踏ん張り頑張ろう」
兵長がそう彼等に促すと、全員が車両に乗り込み発進準備を進める。
既に点検は済み……アンディとナターシャが出発次第、追従する事となる。
「んじゃ行こっ」
「おう!」
彼等が進む先は集落の一つ。
そこへ向けて二人が走り出す。
だがその時……アンディが何かに気付き、思わず足を止めた。
「待てナターシャ……!!」
突然の声に、ナターシャが慌て足を止めて彼を見る。
真剣な面持ちの彼に目を向けると……二人の視線が合わさった。
「アニキ……まさか……」
ナターシャがジワリと冷や汗を流し、雨に流され消える。
その目は大きく見開かれ、僅かに震えている様を見せていた。
「あぁ、そのまさかだ……魔剣を通して感じただろ?」
二人して途端立ち止まった様子に、車両に乗った兵士達も緊張を隠せない。
「うん……感じた……でも、この感じ……そ、そんなッ!?」
彼女が顔を引きつらせ、脅え始める。
そんな彼女へ……遂にアンディが驚くべき真実を口に出した。
「泳いでる時に……ションベンしときゃよかったぁ!!」
途端ずっこけるナターシャ。
その大声が兵士達にも聞こえたのか……車両の中で彼等もまた顔を落としていた。
「アニキ―……そこらへんでしてきなよー……」
「わ、わかった!!」
そそくさと茂みに向かうアンディ。
そんな様を追うのはナターシャは座った目。
「あっ……アタイもやっぱ行くー!!」
だが彼女も何かを感じてしまったのだろう。
ずっこけた体を引きずる様に立ち上がらせると……ナターシャがアンディの後を付いていく。
そんな様子を前にした兵士達が「この先大丈夫なのだろうか」と心配を隠す事が出来なかったのは言うまでもない。
彼等の現代に馴染む為の教育はまだまだ足りなさそうだ……。
なお、『こちら側』のアマゾンで川に向けて用を足すのは控えよう。
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