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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」

~攻~

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 作戦本部。
 福留達が姿勢を変える事無く、多数に並べられたモニターでくまなく戦況を確認する姿があった。
 
「B班、戦闘開始を確認、大規模な戦力の模様」
「来ましたか……ヘデーノの姿は?」
「映像からは見られません」

 モニターに映るのは……心輝と瀬玲に備えられたカメラからの映像。
 森林上空からの高速移動の様子と、地上を走る様子がリアルタイムで表示されている。
 心輝からの映像は高速移動の影響でブレが激しいが……時折チラリと覗かせた鮮明な画像には、何人もの武器を持ったオッファノ族の走る様子が映し出されていた。



 二日目が始まり、おおよそ7時間後の事である。





―――





 時は既に日中過ぎ。
 B班は予定されていた進攻距離おおよそ半分程度の場所へと到達していた。
 それというのも、福留の指示による先制攻撃が行われていたからである。

 B班には高速移動による突貫を得意とした心輝が居る。
 他の班に比べ、比較的機動力に優れているのがB班の強みだ。
 本来ならばここに同等の機動力を持つあずーがいればもっと捗っただろう。
 彼女の強い希望・・・・が無ければ、もっと作戦は有利に進められたのかもしれない。

 心輝がしんがりとして進路へ向けて突貫していく。
 空に赤の軌跡を残し、森林の彼方へと飛び去っていった。

 そんな彼の目に映るのは、画像と同じ……オッファノ族達の走る姿。

 どうやら彼等も心輝達の急進攻に気付き、行動を始めたのだろう。
 心輝の行動を皮切りに、地上を行く瀬玲及び後続車両へ向けて行動を開始したのである。
 彼等がやってくるのをじっと身を潜めて待ち構えていたのだ。

 もちろんオッファノ族の反撃は心輝達も予想済みの事。
 空を舞う心輝へ見舞われたのは、無数の矢弾。
 前時代的ローテクな弓矢と侮る事無かれ……高速で撃ち放たれたには命力が篭められており、直撃すれば魔剣使いと言えど致命傷は避けられない。
 だがそれを心輝は命力で強化した動体視力で見切り、躱していく。
 炎を自在に操り、空で舞い躍るが如き柔軟な動きを見せていた。
 どこかレンネィの動きを彷彿とさせる、しなやかかつ無駄の無い動き。
 彼女から学んだであろう体重移動を意識した、心輝なりの進化した戦闘スタイルだ。

「殺すなってのもよォ!! 難しい話だよなぁーーーーーーッ!?」
 


ドォンッ!!



 突如、爆音と共に心輝の両腕から爆風が放たれた。
 それに伴い、心輝の体が地上へ向けて急降下していく。
 一瞬にして地上へと到達した彼を迎えるのは、二人のオッファノ族。
 だが彼等は心輝の動きに対応する事が出来ず……未だ空を見上げたまま。
 彼に気付き、視線を向けるも……時は既に遅し。

 その一瞬で……心輝がその二人へ蹴撃を見舞っていたのである。

 降下の遠心力を利用して威力を高めた蹴りは、彼等の意識すらも刈り取る。
 命力を篭めた打撃は魔物である彼等にも防げはしない。
 激しい一撃は、その巨体をも大きく弾き飛ばす程に強烈だった。

 周囲で矢弾を放っていた他の雑兵達も気付き始め、慌てて心輝へ向けて矢を番える。
 だが瞬きをする間すら無く……心輝は森の中へ忽然と姿を消したのだった。

「オオッ!? どこいった!?」

 雑兵達がその姿を見失い、彼が消えた場所へ意識を集中させる。
 しかし、その判断は間違っていた。



キュンッ!! キュンッ!!



 鋭い音が鳴り響き、雑兵達に向けて真っ直ぐ閃光が走る。
 密林をつんざく多数の光軸が雑兵達の腕や肩を漏れなく貫いていった。

 それは瀬玲から撃ち放たれた光の矢。
 力は最大限に抑えられ、殺傷能力は低い。
 だが戦う力を奪う程の威力はある。

 矢弾に撃ち抜かれた雑兵達が堪らず膝を突く。
 痛みを耐えた者もガクリと腕を落とし、戦える様な状態ではない。
 そんな彼等の前を……瀬玲を天板上に乗せた車両が通り過ぎていった。

「死ぬ気あるなら来ればいいさ……けどね、次来るなら命は保証しないッ!!」

 瀬玲が地に伏せるオッファノ族へ向けて大声を張り上げる。
 一転真剣モードの彼女……しかし内心は少し不満の模様。

「いっそ掛かってくればいいのに……面倒が無くていい」

 そんな彼女は「フゥ」と一息付くと……何を思ったのか、魔剣を足場、車両の屋根へと向ける。
 そして躊躇う事無く……魔剣から無数の矢弾を打ち放った。



ダララララララッ……



 光の矢弾は撃ち放たれた途端、屋根に突き刺さる前にその動きを止めていた。
 魔剣【カッデレータ】の矢弾軌道コントロール能力を利用した、寸止め射撃だ。
 彼女の目の前に映るのは、空中で動きを止めた矢弾達。
 それを空いた右手で乱暴に掴み取ると……自分の正面の宙上へ丁寧に並べ始めた。

 これは力を抑える為の彼女の工夫。
 魔剣から直接撃ち出して射れば、直撃した瞬間爆砕する可能性もあったからである。
 おまけに、魔剣を介する場合……媒体を通す所為か、コントロールも若干難しくなる。
 直接手先を使って放つ方が、精密さが断然高くなるのだ。
 細かい部分を狙うならなおさらである。

「シン、返事出来るー?」
『あん? 無理に決まってるだろ!?』

 と言いつつしっかり返事を返す心輝。
 どうやら彼も絶賛戦闘中の模様。

「ちょっとぉ場所教えなさいよ」

 既に心輝は森の彼方……密集する様に生い茂る木々が彼女の視界を遮り、自慢の【見通す目】は活用出来そうに無い。
 命力レーダーを使うのも億劫なのだろう、瀬玲が面倒臭そうにそう言い放つ。
 だが返事は返らず……。

 しかし彼女はじっと佇み、進攻方向へと視線を向け続けていた。



ゴゴゴ……



 その時……地響きと共に、底から沸き上がる様な鈍い音が空気を通して伝わってきた。
 まるで水の中で聴く音の様に……湿気が阻んで音を歪ませる。
 大地を揺らす音では無い。
 その正体は、車に乗る国連軍兵士達が驚愕する程に……衝撃を呼ぶモノ。



 空を覆う密林。
 その隙間から見えたのは……遠くで持ち上がり現れた炎の巨人の姿であった。



「アッハハハッ!! 何アレ!!」

 途端、炎の巨人の周辺が業炎に包まれ大爆発を起こす。
 雨風すら弾き飛ばし、遠く離れた瀬玲達の下へも熱風がやってくる程に激しい爆炎だ。

 ヴィジャールーとの戦いで見せた巨人程では無いが……森から姿を晒すには十分過ぎる程に大きい。

 間も無く炎が収まり、炎の巨人が姿を消していく。
 オッファノ族達の雄叫びで騒がしかった密林は……轟音が消えると共に、雨音が囁くだけの静けさを取り戻していた。

『―――った も 敵 ねぇ―――』

 その後インカムに流れてきたのは雑音交じりの途切れ途切れの声。
 心輝の声と思われるその通信は、間も無く途切れて無音となる。
 すると……瀬玲の視線の先から赤い炎がチラチラと見え始め、心輝が姿を現した。

「終わったぜー!!」

 間も無く心輝がバランスを取りながら上手く車両の上に着地を果たす。
 途端、ドスンと尻餅を突き……大きく呼吸を始めた。
 どうやら命力以上に体力を使い過ぎた様で……腕がプルプルと痙攣している様にも見えた。

「ご苦労様……どう、敵は居そう?」
「んなの俺にわかるわきゃねぇだろ……レーダーはお前に任せた!!」

 攻撃一辺倒の彼……未だ命力レーダーなどの技能は覚えてはいない。
 疲れているとはいえ、他人本位の彼の態度に瀬玲も思わず溜息を吐く。

「ったく……ていうか、インカム壊れたんじゃないの?」
「おぉ、炎でやられちまったかぁ……これでも影響抑えたんだけどなぁ」

 おもむろに指に備えたインカムを取り外すと……外装の金属部分の塗装が焼けて剥がれ、メタリックの表皮が赤茶く変色していた。

「うへぇ……」
「経費マイナスおめでとー。 一基10万くらいだっけ?」
「オオォ……マジかよ……!!」

 特注品のインカム……最新技術の塊である為か、その価格はとんでもない。
 これでも量産を視野に入れた製品の為、ある程度価格低減された一品なのだが。

 堪らず項垂れる心輝。
 車両の揺れが彼の無念に沈んだ肩を何度も跳ね上げさせていた。
 そんな彼を、瀬玲はニタリとした笑みで見下ろす。
 思わず訪れたハプニングを愉しんでいる様子。

「とりあえず、アンタは車の中で休めば? 後は私がやっとく」
「わりぃな……後頼んだ」

 憎まれ口を叩きながらも、瀬玲が本来持つ優しさを滲ませる。
 そんな彼女に甘え……心輝は車両の上から器用に扉を開き、車内へ飛び込み姿を消した。

 意図した労いか、それとも自然にか。
 彼を見送った彼女の口は、声も無く「お疲れ様」と呟く様に小さく刻み動いていた。



 第二陣を退いたB班。
 雨が降りしきるの中、ゆっくりと車両と共に進攻を進める。
 その後訪れた待機指令に従うと……彼等はその場所を二日目の拠点として休息を始めたのだった。


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