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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~斥~
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「―――オオオッ!!」
ドッガァ!!
アージやマヴォと同等ともあろうかという程の大きさを持つオッファノ族。
そんな巨体へアージ自慢の拳が容赦無く捻じ込まれる。
途端、「メキメキ」と肉と骨を軋ませる音を立てながら……巨体が高く打ち上げられた。
そこは彼等程の背丈を持つ草木が生い茂り、僅かな木々が並ぶ湿地地帯。
アージとマヴォ率いるC班は早くもその場所で戦闘を開始していた。
功を焦った数人のオッファノ族雑兵が彼等に戦いを挑んでいたのである。
魔者であり、敵対しているとわかるはずも無い二人へ何故戦いを挑んだかは定かではないが。
しかし所詮は雑兵……たった数人では魔剣使いの進攻を止める事など出来はしない。
イ・ドゥール族の都で鍛えられた二人であればなおさらの事だ。
「ハアッ!!」
マヴォが木の上から飛び掛かる者の攻撃を躱し、擦れ違いざまにカウンターの膝蹴りを見舞う。
素早い身のこなしを持つマヴォならではの反撃だ。
強烈な一撃を腹部に受けた雑兵は衝撃のままに弾き飛ばされ、勢いのままに草木の中へと転げる様に消えていく。
仲間の惨状を目の当たりにした他の雑兵達が戸惑いを隠せない。
圧倒的な実力を持つ二人を前に、仇を取りたくとも手が出せずにいたのだ。
「もう終わりかあッ!? 戦う事が目的でないのであれば去れェ!!」
「お前等が手を出さねぇなら何もする気はねぇぞ!!」
彼等の怒号が響く中……雑兵達は枝から枝へ飛ぶ様に渡り、密林の中へと去っていく。
二人に打ちのめされた者達も死んではおらず……遅れて続き、這う様にしてその場から姿を消した。
「行ったか……」
敵を退け佇む彼等の後方から、間も無く国連軍兵士の乗った車両が姿を現す。
二人としてはそれなりに先行していたつもりだった。
戦いで足を取られていた間に追い付かれてしまった様だ。
「兄者、先を急ごう」
「うむ」
再び力強く大地を蹴り出し、泥を跳ね上げて彼等が先を進む。
既に時刻は夕刻……太陽は地平線の彼方にその姿を置き、青かった空は再び赤みを帯び始めていた。
一方その頃……。
心輝と瀬玲らB班もまた敵意に囲まれていた。
そこは密林に覆われた場所。
無音の中に響くのは野鳥や動物の鳴き声、草木の擦れる音。
まるでそれは静けさを助長するかのよう……敵意など全く感じない。
だがそれは、そうさせない様にオッファノ達が動いていたに過ぎない。
彼等に迫るのは、アージ達を襲っていた雑兵達よりも戦う意思の強い者達。
純粋に戦う事を目的としてやってきた敵である。
しかしその動きと言えば……統制が取れている様で統一性の無いばらけた動き。
訓練されていない様な、個々の意思を強く感じさせる素人に近い動作だった。
それに気付かぬ程の心輝達ではない。
迫る敵意に気付いた二人が足を止め、警戒する様に周囲を伺う。
そんな時、四方を囲む木々の中から雑兵達が飛び掛かった。
「―――いつもこれだ!! ったくよォーーーーーッ!!」
その雄叫びと共に、二人が同時に飛び出す。
心輝は飛び出す様に向いた方向へ。
瀬玲は飛び掛かった雑兵達の隙間を縫う様に上空へ。
無駄の無い動きは、敵に動向を悟らせない。
雑兵達にとっては、二人がまるで煙となって消えたかの様だった。
高速で散った二人を捉える事が出来ず、飛び掛かった六人程の雑兵達が揃って膝を大地へ突かせて着地していく。
そんな彼等へ、飛び上がった瀬玲の視線が鋭く向けられる。
だがその時……飛び上がった瀬玲へ向け、新たに現れた雑兵が襲い掛かった。
「おおおンッ!!」
命力を篭めた爪が暗い闇に落ち始めた森の中で輝きを放つ。
鋭い爪が瀬玲目掛けて光を走らせた時―――
「―――ッハハ!! 来たあッ!!」
瀬玲は恐れるどころか……その顔に大きく歪んだ笑みを覗かせていた。
戦いに魅入られた彼女にはもう恐怖などは無い。
今の彼女に有るのは……戦いそのものへの渇望。
欲望にも足る闘争精神は、彼女に更なる飛躍の一歩を踏ませる。
その瞬間……雑兵の視界から瀬玲の姿が消えた。
まるで空中で跳ねたかの様に……飛んだ勢いを急加速させたのだ。
体重移動を利用して慣性を振り子の様に働かせ、更に高く舞い上がらせたのである。
その体が宙で大きく捻られると……その身を揺らす様に大きく回転し始める。
長い髪が追従し、彼女の体を中心とした円を描くと……その外縁に光が纏い始めた。
ヒョンッ!!―――ヒョォォォンッ!!
それは束と成った髪が空を裂く音。
一転、二転……回数を重ねるごとにその鋭さを増していく。
その鋭さが最大まで高まった時……彼女はまるで竜巻の如き姿へと成す。
【髪の剣】という突風を纏いし竜巻へと。
その外縁と交わった時、雑兵の体は真っ二つに斬り裂かれたのだった。
そして細かくばらけた髪が肉塊を更に細かく引き裂いていく。
飛び散った肉片を前にした時……彼女の顔には大きく目を見開かせた異質な笑顔が浮かぶ。
それが戦闘狂と化した瀬玲の本当の姿であった。
間も無く舞い上がった瀬玲の体が重力に引かれて地上へと降下していく。
その先に待つのは、見上げながら地上に佇む雑兵達。
しかし、彼等に迎えられる彼女の顔は未だ笑いを浮かべたままだ。
再び激突……そう思わせた時、聞いた事のない妙な異音が瀬玲の耳を突く。
それに気付いた時、彼女達の視界外から炎の筋が幾重にも大地を走らせていた。
「っしゃらァーーーーーッ!!」
それはただの炎では無い。
心輝が放った物理干渉能力を有する【炎の鞭】だ。
雑兵達の足首に纏わりつく様に炎が伸び、全員の脚へと絡みついていく。
絡み付いた鞭は、高温の熱を滲ませながら……雑兵達を一気に引きずり込むのだった。
「「グオオオッ!?」」
途端、その場の雑兵達全員が体勢を崩して転んでいく。
それすらも意に介する事無く、心輝は全ての雑兵を宙へと放り投げた。
まるで瀬玲に殺させず逃がすかの様に……。
宙に舞った雑兵達の体が大地へ叩きつけられる。
しかし思ったよりもダメージは無かったのだろう。
体勢を立て直すや否や……慌てた様を見せながら、森の中へと散り散りに逃げて行った。
後に残るのは……心輝と、着地を果たした瀬玲の二人だけだ。
「やりすぎんじゃねぇよォ……つかお前、相当化け物染みたなぁ」
「それ、アンタに言われたくないんだけど?」
互いに憎まれ口を叩き合いながらも、いつの間にか浮かんでいたのは穏やかなる笑顔。
彼等は一瞬だけの戦いで成長した力を見せつけ、互いに高まった力の在り方に関心を寄せていた。
「さっきのあれ凄かったじゃん、どうやったの?」
「あん? 出来る様になったんだよ。 グワイヴの超パワーのお陰に決まってるだろ」
ヴィジャールーとの戦いがきっかけで使える様になった【炎の鞭】。
攻撃そのものに殺傷能力は無いが、自由自在、形容自在。
使い方次第ではヴィジャールーを握り潰した時の様な事も可能だ。
炎を放つグワイヴならではの技と言った所か。
それに対し瀬玲は……ただ髪に命力を篭めただけである。
だがそれは一本一本に鋭く、濃く、強靭にあつらえられたダイヤモンドワイヤーの如く。
その様な命力が篭められた髪はまさに【束髪の刃】と言っても過言ではない。
命力の使い方を理解した彼女ならではの技と言えるだろう。
「っとぉ、んな話してる暇ねぇぞ!!」
「あーそうだった……んじゃ改めていこっか」
二人はそう言い放つと揃って飛び上がる。
瀬玲が心輝の腰へと抱き掛かると……間も無く心輝が炎を放ち、密林の木々の上スレスレを飛び始めたのだった。
進路を妨げるモノは無し……彼等は指示のままに進攻を続ける。
だが福留達が策士の存在を感じ取れる確証は未だ得られないまま。
オッファノ族の影で蠢く何者かが勇達の動きを監視し、虎視眈々と狙いをすましている。
いつまでもその尻尾を見せようとしない狡猾な相手を前に、澄ました顔を浮かべる福留の心には如何な想いを潜ませるのだろうか。
ドッガァ!!
アージやマヴォと同等ともあろうかという程の大きさを持つオッファノ族。
そんな巨体へアージ自慢の拳が容赦無く捻じ込まれる。
途端、「メキメキ」と肉と骨を軋ませる音を立てながら……巨体が高く打ち上げられた。
そこは彼等程の背丈を持つ草木が生い茂り、僅かな木々が並ぶ湿地地帯。
アージとマヴォ率いるC班は早くもその場所で戦闘を開始していた。
功を焦った数人のオッファノ族雑兵が彼等に戦いを挑んでいたのである。
魔者であり、敵対しているとわかるはずも無い二人へ何故戦いを挑んだかは定かではないが。
しかし所詮は雑兵……たった数人では魔剣使いの進攻を止める事など出来はしない。
イ・ドゥール族の都で鍛えられた二人であればなおさらの事だ。
「ハアッ!!」
マヴォが木の上から飛び掛かる者の攻撃を躱し、擦れ違いざまにカウンターの膝蹴りを見舞う。
素早い身のこなしを持つマヴォならではの反撃だ。
強烈な一撃を腹部に受けた雑兵は衝撃のままに弾き飛ばされ、勢いのままに草木の中へと転げる様に消えていく。
仲間の惨状を目の当たりにした他の雑兵達が戸惑いを隠せない。
圧倒的な実力を持つ二人を前に、仇を取りたくとも手が出せずにいたのだ。
「もう終わりかあッ!? 戦う事が目的でないのであれば去れェ!!」
「お前等が手を出さねぇなら何もする気はねぇぞ!!」
彼等の怒号が響く中……雑兵達は枝から枝へ飛ぶ様に渡り、密林の中へと去っていく。
二人に打ちのめされた者達も死んではおらず……遅れて続き、這う様にしてその場から姿を消した。
「行ったか……」
敵を退け佇む彼等の後方から、間も無く国連軍兵士の乗った車両が姿を現す。
二人としてはそれなりに先行していたつもりだった。
戦いで足を取られていた間に追い付かれてしまった様だ。
「兄者、先を急ごう」
「うむ」
再び力強く大地を蹴り出し、泥を跳ね上げて彼等が先を進む。
既に時刻は夕刻……太陽は地平線の彼方にその姿を置き、青かった空は再び赤みを帯び始めていた。
一方その頃……。
心輝と瀬玲らB班もまた敵意に囲まれていた。
そこは密林に覆われた場所。
無音の中に響くのは野鳥や動物の鳴き声、草木の擦れる音。
まるでそれは静けさを助長するかのよう……敵意など全く感じない。
だがそれは、そうさせない様にオッファノ達が動いていたに過ぎない。
彼等に迫るのは、アージ達を襲っていた雑兵達よりも戦う意思の強い者達。
純粋に戦う事を目的としてやってきた敵である。
しかしその動きと言えば……統制が取れている様で統一性の無いばらけた動き。
訓練されていない様な、個々の意思を強く感じさせる素人に近い動作だった。
それに気付かぬ程の心輝達ではない。
迫る敵意に気付いた二人が足を止め、警戒する様に周囲を伺う。
そんな時、四方を囲む木々の中から雑兵達が飛び掛かった。
「―――いつもこれだ!! ったくよォーーーーーッ!!」
その雄叫びと共に、二人が同時に飛び出す。
心輝は飛び出す様に向いた方向へ。
瀬玲は飛び掛かった雑兵達の隙間を縫う様に上空へ。
無駄の無い動きは、敵に動向を悟らせない。
雑兵達にとっては、二人がまるで煙となって消えたかの様だった。
高速で散った二人を捉える事が出来ず、飛び掛かった六人程の雑兵達が揃って膝を大地へ突かせて着地していく。
そんな彼等へ、飛び上がった瀬玲の視線が鋭く向けられる。
だがその時……飛び上がった瀬玲へ向け、新たに現れた雑兵が襲い掛かった。
「おおおンッ!!」
命力を篭めた爪が暗い闇に落ち始めた森の中で輝きを放つ。
鋭い爪が瀬玲目掛けて光を走らせた時―――
「―――ッハハ!! 来たあッ!!」
瀬玲は恐れるどころか……その顔に大きく歪んだ笑みを覗かせていた。
戦いに魅入られた彼女にはもう恐怖などは無い。
今の彼女に有るのは……戦いそのものへの渇望。
欲望にも足る闘争精神は、彼女に更なる飛躍の一歩を踏ませる。
その瞬間……雑兵の視界から瀬玲の姿が消えた。
まるで空中で跳ねたかの様に……飛んだ勢いを急加速させたのだ。
体重移動を利用して慣性を振り子の様に働かせ、更に高く舞い上がらせたのである。
その体が宙で大きく捻られると……その身を揺らす様に大きく回転し始める。
長い髪が追従し、彼女の体を中心とした円を描くと……その外縁に光が纏い始めた。
ヒョンッ!!―――ヒョォォォンッ!!
それは束と成った髪が空を裂く音。
一転、二転……回数を重ねるごとにその鋭さを増していく。
その鋭さが最大まで高まった時……彼女はまるで竜巻の如き姿へと成す。
【髪の剣】という突風を纏いし竜巻へと。
その外縁と交わった時、雑兵の体は真っ二つに斬り裂かれたのだった。
そして細かくばらけた髪が肉塊を更に細かく引き裂いていく。
飛び散った肉片を前にした時……彼女の顔には大きく目を見開かせた異質な笑顔が浮かぶ。
それが戦闘狂と化した瀬玲の本当の姿であった。
間も無く舞い上がった瀬玲の体が重力に引かれて地上へと降下していく。
その先に待つのは、見上げながら地上に佇む雑兵達。
しかし、彼等に迎えられる彼女の顔は未だ笑いを浮かべたままだ。
再び激突……そう思わせた時、聞いた事のない妙な異音が瀬玲の耳を突く。
それに気付いた時、彼女達の視界外から炎の筋が幾重にも大地を走らせていた。
「っしゃらァーーーーーッ!!」
それはただの炎では無い。
心輝が放った物理干渉能力を有する【炎の鞭】だ。
雑兵達の足首に纏わりつく様に炎が伸び、全員の脚へと絡みついていく。
絡み付いた鞭は、高温の熱を滲ませながら……雑兵達を一気に引きずり込むのだった。
「「グオオオッ!?」」
途端、その場の雑兵達全員が体勢を崩して転んでいく。
それすらも意に介する事無く、心輝は全ての雑兵を宙へと放り投げた。
まるで瀬玲に殺させず逃がすかの様に……。
宙に舞った雑兵達の体が大地へ叩きつけられる。
しかし思ったよりもダメージは無かったのだろう。
体勢を立て直すや否や……慌てた様を見せながら、森の中へと散り散りに逃げて行った。
後に残るのは……心輝と、着地を果たした瀬玲の二人だけだ。
「やりすぎんじゃねぇよォ……つかお前、相当化け物染みたなぁ」
「それ、アンタに言われたくないんだけど?」
互いに憎まれ口を叩き合いながらも、いつの間にか浮かんでいたのは穏やかなる笑顔。
彼等は一瞬だけの戦いで成長した力を見せつけ、互いに高まった力の在り方に関心を寄せていた。
「さっきのあれ凄かったじゃん、どうやったの?」
「あん? 出来る様になったんだよ。 グワイヴの超パワーのお陰に決まってるだろ」
ヴィジャールーとの戦いがきっかけで使える様になった【炎の鞭】。
攻撃そのものに殺傷能力は無いが、自由自在、形容自在。
使い方次第ではヴィジャールーを握り潰した時の様な事も可能だ。
炎を放つグワイヴならではの技と言った所か。
それに対し瀬玲は……ただ髪に命力を篭めただけである。
だがそれは一本一本に鋭く、濃く、強靭にあつらえられたダイヤモンドワイヤーの如く。
その様な命力が篭められた髪はまさに【束髪の刃】と言っても過言ではない。
命力の使い方を理解した彼女ならではの技と言えるだろう。
「っとぉ、んな話してる暇ねぇぞ!!」
「あーそうだった……んじゃ改めていこっか」
二人はそう言い放つと揃って飛び上がる。
瀬玲が心輝の腰へと抱き掛かると……間も無く心輝が炎を放ち、密林の木々の上スレスレを飛び始めたのだった。
進路を妨げるモノは無し……彼等は指示のままに進攻を続ける。
だが福留達が策士の存在を感じ取れる確証は未だ得られないまま。
オッファノ族の影で蠢く何者かが勇達の動きを監視し、虎視眈々と狙いをすましている。
いつまでもその尻尾を見せようとしない狡猾な相手を前に、澄ました顔を浮かべる福留の心には如何な想いを潜ませるのだろうか。
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