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第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」

~除 隊 宣 言~

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 レンネィの治療が済んでから二日が過ぎた。

 彼女の経過は良好。
 まるで本当に傷など無かったかの様に跡の一つすら残らず、血色のある白い肌は健康そのものという現代医療の診断結果を導き出した。

 とはいえ、彼女は未だ眠りっぱなし。
 穏やかな寝顔を浮かべた彼女は見慣れた病室に寝かされ、窓から差し込む暖かい日光を受けていた。
 そこはかつて剣聖が療養していた病室。

 彼女の傍には心輝と勇が椅子に座り付き添っていた。

「シン昨日寝てないだろ……俺が代わりに付き添うからお前は一旦帰れよ」
「おお、サンキュ……じゃあ3時間くらい休んでくる……」

 心輝は病院の近くにあるホテルを借り、そこで寝泊まりしていた。

 寝泊まりと言っても風呂や着替えといった身の回りの事を済ますだけ。
 睡眠は殆ど省き、残る全ての時間を彼女の付き添いに充てていた。
 
 それ程までに彼女を愛してしまっていた事に、彼は今更ながらに気付いたのだ。

 心輝はふらりと立ち上がると、ゆっくりと病室の入口へと歩み始める。
 入口へ差し掛かると、その足を止め……勇へと顔だけを振り向かせた。

「起きたら……すぐ教えてくれ」
「ああ、絶対に真っ先に伝えるよ」

 そう、簡単に互いの一言を交わすと……心輝は静かな病棟の廊下を歩き去っていった。

 そんなやり取りがすぐ近くで行われたのにも関わらず、一向にレンネィは起きる様子を見せない。
 本当に生きているのだろうか、そうすら疑わせる程に……ただ静かに吐息を漏らすのみ。

 ぽっかりと大穴が開く程の傷を負ったのだ、後遺症があってもおかしくは無い。
 もし彼女が二度と目を覚まさなかったら心輝はどうなってしまうのだろうか。

 そんな想いが駆け巡り、綺麗な彼女の体を前にした勇の心には一縷の不安が拭えずにいた。

 心輝に名前だけを聞いた男……井出という存在が何者かはわからない。

 だがもし彼が彼女の体を再生させるまでに至る腕前を持つのならば……後遺症すらもどうにか出来てしまうのではないか、そんな期待すらも感じさせる。

「レンネィさん……早く起きて、アイツを安心させてやってくれよな」

 なお眠り続けたままの彼女を前にそう呟くと……勇は一人静かに、心輝が戻るまで彼女の傍に付き添い続けたのだった。





――――――





 それから数日……魔特隊本部。

 事務所に集うのは茶奈、アンディ、ナターシャ、そして平野のみ。
 少なくなった面々に比例し、その口数もまた減り……ただでさえあまり喋ろうとしない者も多い所為か、部屋の中は静寂に包まれていた。

 彼女達を暗くさせるのはレンネィだけの出来事ではない。
 彼女が倒れた翌日……笠本からの連絡で、瀬玲が重傷を負って現在鋭意治療中である事が伝えられたのだ。

 不幸は続く……それが彼女達の気持ちを深く沈ませる要因でもあった。

 レンネィは未だ目覚めず、心輝は絶えず彼女の傍に付き添い欠席中。
 瀬玲は重傷で音沙汰無し、彼女の傍に居るアージとマヴォも無事としか伝えられていない。
 戦闘員のジョゾウもまた国連の度重なる要請に応えて殆どが空島での活動中だ。
 あずーは私用ではあるが年末のテストに向けた猛勉強中……。
 カプロは現在魔剣の研究に大忙しで工房に引き籠っている。

 多くの要因が重なり、事務所には以前の賑わいはもはやありはしない。
 一次的な事ではあるだろうが……それがどこか心に寂しさを呼ぶ。

「勇さんは福留さんと何を話しているのかな……」

 ぽつりと茶奈が呟く。
 そんな彼女の声が聞こえたのか、事務作業中であった平野がそっと頭を上げた。

「今後の魔特隊の方向性をお話するそうですよ。 レンネィさんは事実上戦闘部隊から外されますし……」

 彼女が3年間は命力を使用してはいけないという事は、関係者全員に周知されていた。
 もちろんこれは井出が秘匿して欲しいという事の範疇外であり、即座に伝えられた事だ。
 この連絡は既に彼等の管理を行っている小嶋首相の耳にも入っている。
 彼女からの決定の声はまだ伝えられてはいないが、その意思だけは福留を通して伝えられていた。

 小嶋首相が打ち出したのは……レンネィの意識が戻り次第の、魔特隊除隊宣言。

 命力を使えないという事はつまり、魔者とは戦えないという事。
 彼女が戦闘部隊から外されるのは必然の出来事だった。

 勇と福留はその事もあり……今後の魔特隊に関しての対応で話し合う為に今現在、本部二階にある応接室で打ち合わせ中。

 レンネィが抜ける事でリーダーが居なくなる……それを踏まえた話をする為である。

「魔特隊……どうなっちゃうんだろう……」

 ぽつり……再び茶奈が呟く。
 しかしその質問に答えられる者は居ない。

 どうにもなりはしないだろう。
 仲間が減ってもやる事は変わりないのだから。
 彼女のその寂しさを孕んだ小さな声は弱々しく……彼女の想いを察し、返事を返す事が出来ないだけ。
 普段はお調子者のアンディとナターシャですら、彼女の問いに気付いてもなお黙々とデスクに向き合いながら自分のやれる事をやる他なかった。

 彼女達の不安は拭えず、時はただ過ぎるのみ。



 そんな彼女達の想いも他所に……本部のゲートが音を立てて開き始めていた。


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