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第二十三節「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」

~十 字 二 閃~

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「アイツラ……許せねぇ……絶対に許しちゃなんねぇ!! 行くぞナターシャッ!!」

 だが、そう吼えた時……一瞬、彼等の纏う空気に違和感が混じる。



 二人の背後に突如浮かぶ大きな影……その影から繰り出された巨大な槍が二人を襲った。



「ウウッ!?」

 またしても突然の急襲に、思わず二人が咄嗟に左右へ跳んで躱す。
 だが、二人の感じていた違和感は更に強みを増し、彼等を惑わしていく。



―――今の奴……一体どこからッ!?―――



―――アニキッ……あれはッ……!?―――



 二本の魔剣の力である共感覚作用でお互いの意思が通じ合う中……二人は驚愕の顔を浮かべる。
 別れる様に躱した二人へとそれぞれ一匹づつ、魔者が飛び上がり襲い掛かっていたのだ。

 突然の出来事を前に……二人が同じように魔剣を使い、突き出された槍の表皮へ魔剣を走らせ受け流す。
 辛うじて躱しきった二人が離れ飛び、その体勢を整えると……二人の視界に映った驚愕の事実に驚きを隠せないでいた。



 残り二人しか居ないはずの魔者が……三人居たのだから。



 当初三人だと思っていた内の一人は先程仕留めたはず……なのにも関わらず数が減っていないのだ。

 「メキメキ」と音を立てながら屋根の上に佇む三人の魔者……間も無く超重量に耐えられなくなった屋根が崩れると、途端三人の魔者はそれぞれが別の方向へと飛び出した。

「ヒヒィーーーー!! 驚いてらぁーーーー!!」
「カカカッ!! 殺してやるよ魔剣使いのガキ共ォ!!」
「追い掛けて来いよォーーーーー!!」

 途端それぞれが再び建物の影へと隠れ、その気配が消える。
 屋根の上からというものもあり、魔者達の動きがチラリと建物の影から見えるが……いつ襲い掛かってくるかもしれない状況に、二人は身動きが取れないでいた。

 アンディとナターシャが状況を把握しようと静かに周囲へ気配を配る。
 だが、二人の心には焦りと戸惑いが生まれ、状況の把握が遅れていた。



―――敵は三人じゃなかったのかよ!?―――



―――まさかさっきの奴倒せてなかった……!?―――



 疑念だけが二人の間に交わされ意識が混濁する。
 だが、頭をねた以上死んだはず……そう考えた二人の脳裏に浮かぶのは『伏兵』という存在。

 それは福留達が集めた情報以外の情報。
 レンネィが数少ない資料から求めた、彼等の罠。
 「レンネィが必死になって探していたのはこれだったのか」……アンディとナターシャはそう理解した。

 未だ焦りが治まりきらない中、隙を縫って魔者が再び襲い掛かる……その矛先はナターシャへ。
 囲む様に飛び出し、二人の魔者が彼女へと飛び出してきたのだ。

「ナターシャァーーーーーー!!」

 先程からの冷静な対応で窮地を脱させたナターシャ。
 彼女を先に狙う事で確実に戦力を削ぎに来たのである。

「んうーーーーーー!!」

 その瞬間、彼女はあろうことか……足で屋根を思い切り踏み抜き、途端突き破られた屋根から民家の中へと落ちていった。
 咄嗟の判断が功を奏し、二人の魔者が空中ですれ違い飛び去っていく。

 思わずホッとするアンディであったが……そんな彼の背後からもう一匹の魔者が静かに跳びかかっていた。



 だが、その時の彼は至って冷静に状況を見据えていた。



「―――何度も同じ手が通用するかァーーーーーー!!」



 突き出された槍を躱す様にその身を倒し、屋根を蹴り上げる。
 途端、レイデッターの切っ先に灯った光が強く輝き、突き出された槍へと一閃を走らせた。

「おおおおおーーーーーーッ!!」

 低姿勢から飛び上がり、力のままに槍から腕へ、腕から首へ……その軌跡が直線を描き、獣の頭ごと魔者の体を真っ二つに斬り裂いた。
 勢いよく斬り裂いた刃が光を伴い残光を形成する。
 それ程の力を篭めた一撃であった。

「なにぃーーー!?」
「ヤロォ!?」

 ナターシャへ攻撃を仕掛けていた魔者達が予想しえなかった状況に思わず声を上げ戸惑う姿を見せていた。



 だが、そんな魔者の一人へ向けて……民家の窓から飛び出したナターシャが襲い掛かる。



「アアァーーーーーッ!!」



 アンディの行動に目を取られていた魔者が気付いた時……視界が離れ行く大地を写しながら、黒くフェードアウトしていった。
 彼女の鋭い一撃が魔者の首を抵抗なく斬り裂いていたのだ。

「チィイイ!? 王に連絡をッ!!」

 一人残った魔者がそう呟きながら足を止め、周囲を見渡す。
 遠く離れた王の場所を探っているのだろう。
 その選択が彼の生死を分けた。
 逃げていれば、助かったかもしれない……彼の選んだ道は、間違っていた・・・・・・



 残り一人の魔者を挟む様にアンディとナターシャが姿を晒す。
 共に光り輝く魔剣を握り締め、ゆっくりと一歩、また一歩……魔者へと近づいていく。

「あ、ち、ちきしょうッ!? ……来るなぁ、来るんじゃねぇ!!」

 だが彼等は止まらない。
 それどころか、その歩みを徐々に早め……確実にその距離を埋めていた。

「あ、ああ……くっそォーーーー!!」

 自棄ヤケになった魔者が咄嗟にアンディの方へと飛び出し、その槍を力の限り突き出す。

 

 だが、極限まで昂っていたアンディを、雑兵が止められるはずも無かった。



 途端、魔剣の切っ先が力強く突き出された槍の側部へ突き当てられ、魔者の意図に反してその軌道が逸れていく。
 魔者が戸惑いの顔を浮かべる中……その顔が形成されきる前に……突き出された魔剣から光が迸り、槍を横一閃に斬り裂いた。

 跳ね跳ぶ魔者の腕。
 その胸に刻まれる横一文字。

 鮮血が飛び散り、あまりの痛さに切断された腕部を抑えて悶え苦しむ魔者。
 その口が、「助けてくれ」と動いた途端……彼の背中に大きな衝撃が走った。

 アンディの横一文字に合わせて刻まれた、ナターシャの縦一文字の深い一撃である。

 鮮血が舞い散っていく。
 アンディの白い髪が返り血により赤く染まり、ナターシャの赤い髪がその濃さを増す。
 それが様になる程に……二人の想いは強く、厳しい表情を浮かび上がらせていた。





 お母さん・・・・・を守れなかった……自分達の無力さを嘆く、無念の表情を。





 二人が周囲に気配を飛ばすが……気配は感じられない。
 恐らく雑兵はこれで全部なのだろう。

 そう察した二人は魔剣を通して無言でやりとりし、その足を踏み出す。
 彼等の仕事はまだ終わりでは無いからだ。

 だがその途中で二人の歩く道は分かれる様に別の道へと踏み出していた。

「あれ、アニキ……レンネィさんの助けに行かないの?」

 思わずナターシャがアンディへと問い掛けると……彼は足を止め、真剣な表情を浮かべたまま彼女へと顔を向ける。

「うん……だけど、今は人を逃がすのが先だろ? 今は……レンネィさんの言う事を守ろうぜ」
「アニキ……うん、わかった」

 自分達の実力は自身が言う程凄くはない。
 そこで初めてレンネィが怒鳴った意味を理解したのだろう。
 だから彼女は自分達を責め、役割を充てた……アンディはそう察したのだ。

 そして、もしかしたらまだ伏兵が潜んでいるかもしれない……そうしたら、またあの母子の様な被害者が増えるかもしれない。
 そう考えたからこそ、彼は選んだ。
 自分達がやれる最適の手段を。



 人の居ない道を、二人の小さな戦士が手を繋いで走り抜ける。



 自分達が救えるはずの命を救う為に。


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