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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
~勇み足されどかの者は遥かハイエンド~
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眩い光が迸り、直後閃光と成って空の彼方へと消えていく。
瀬玲が撃ち放った矢弾は先程から撃ち放っていた矢弾同様、着弾点を求めるかの様に不規則な螺旋を描いて舞っていた。
手に持つカッデレータの握り下部に設置されている命力珠弾倉が不意に「バシッ」と音を立ててスライドする。
それをおもむろに掴み取ると……「ガチッ」という音と共に外れ、そのまま腰の専用ホルダーへと備え付けた。
専用ホルダーにぶら下げられた弾倉は他に七つ……内二つは光を伴っていない様を見るに既に使用済みなのだろう。
カッデレータの矢弾は弾倉に篭められた命力を消費する事により使用者の命力消費を抑えつつ強力な一撃を放つ事が出来るのである。
光の灯る弾倉を取り、魔剣へと嵌め込むと……再び二人が居るであろう場所へと視線を向ける。
「こんなものかな……」
援護用の射撃を撃ちきり、瀬玲が落ち着きの様子を見せながら額の汗を拭う。
自身の体力や命力量が少ないという事は自他共に周知済み……この様に時折休憩を入れる事で自分のペースを保ち、戦いをスムーズに行うのが彼女流。
いつも通りの様子でアージとマヴォを見つめていると……二人が佇む場所から三つの大きな命力が膨らみを見せ、異様な光景を映す。
林を揺らす様な風などほぼ無いにも関わらず、彼等が居る部分だけが激しく揺れ動いているのだ……それは強力なまでの命力の波動からなる物理干渉の賜物。
力も光景も見て感じる事の出来る瀬玲は、その光景を前に若干の焦りを感じ……おもむろにインカムに手を伸ばした。
「アージさん、マヴォさん、何があったんですか?」
だが一向に返事は返ってくる様子は無い。
すると、不意に笠本の声が彼女の耳に入って来た。
『セリさん、どうしましたか? 何か問題でも?』
「あ、すいません、二人が言った通り戦闘は始まったんですが……戦闘が異様なんです。 あそこまで命力を昂らせるのを見るのは勇と訓練で戦った時以来なんですよ」
『……二人のインカムの信号が途絶えていますね、これはもしかしたらインカムが壊れたか、電源が入っていない可能性があります』
アージとマヴォのインカムは既にイシュライトの手により破壊されてしまっている。
その事を知らない瀬玲と笠本はその原因を探りつつも……状況の把握を急ぐ。
それに合わせたかの様に彼女の頭上を一機のドローンが飛び過ぎ、アージとマヴォの下へと向かって飛んで行った。
『先程向かわせたドローンに状況を確認させます。 セリさんはいつも通りの対応を続けてください』
「了解」
彼等の実力を知るからこそ彼女はそっと笑みを零す……「二人なら大丈夫だろう」と。
インカムから手を離し、不意に吹き付ける風に煽られた髪を押さえると……意外な心地よさが彼女の心をも落ち着かせる様であった。
「―――ほう、随分な余裕ではないか」
突如聞き慣れぬ声が耳に入り、瀬玲が「ハッ」として声の方へと振り向く。
それは彼女の後方、岩肌が作る水平線の先……そこからゆっくりと姿を現したのは、一人の魔者。
比較的小柄……瀬玲と同じ程の背丈、顔付きはシワが多く歳を取っているという風貌。
だが……全身がほぼ衣服で包まれており全容はわからないが、顔付きからは想像も出来ない程体付きがしっかりと整っており、背筋を伸ばして腕を背中に回して歩く姿はまさに威風堂々。
「き、気付かなかった……気を付けていたハズなのに」
「ハハハ……命力を極限まで抑える事など幼少期には会得していたわ。 あとはゆっくりゆっくり……走ってくればそれだけでこの通り、意表を突くなど大した事ではない」
だが、彼女の目の前に居る者は服装こそ綺麗に仕立てられた衣服ではあるものの、魔剣の様な類の武器は見られない。
服の中に仕込んでいるのか、それともただ持っていないのか……そんな相手を前に彼女は思考を巡らせていた。
―――魔剣使いじゃない……? それなら何て事無いじゃない……!!―――
「……戦う気なの? 私達は話し合うつもりでここに来たんだけど」
「話し合いとは弱者のする事と掟より伝えられておる。 望むならば戦いに勝ち得ろとな……儂もそう思うからこそ、ここに来たに過ぎぬ」
「望むって……何かしら?」
それは愚問―――
魔者は「フフン」と鼻で笑うと、途端鋭い目を向けて彼女を睨み付けた。
「簡単な事よ……魔剣使いと戦う事が儂の望み、それだけに過ぎん」
そう一言答えると……ゆるりと己の拳を構え、シワを浮かべた瞼が僅かに沈み目を細める。
「我が名はウィグルイ……さぁ魔剣使いよ、存分に死合おうぞ……!!」
「悪いんだけど、私は名乗り合うみたいな趣向は持ち合わせていない―――!!」
瀬玲は名乗る事も無く己が持つ魔剣を横に構え、その力を左手で引き絞る。
その瞬間、魔剣と左手を繋ぐ命力の光が眩く輝き、巨大な光の槍を構築した。
そして間も無く放たれた一撃……ウィグルイへと光の槍が一直線の筋を作りながら突き進む。
キュオオーーーーーーンッ!!
彼女の強化された動体視力がウィグルイの一挙動を捉え、彼女に操られた光の槍がその胴体真芯へと伸びていく―――
―――これで終わり……!!―――
光の槍がウィグルイの身体へと突き刺さろうとした瞬間……気が動いた。
ギャギャギャンッ!!
けたたましく鳴り響く異音。
その一瞬でウィグルイは高速で放たれた光の槍を躱すどころか……光の槍の横へ回り込み、まるで撫でるかの様にその表層へと命力を篭めた掌を走らせていたのだ。
反発し合う力と力が弾けて火花の様な光を生み、異音を生み出していたのである。
そんな彼の顔は……ニヤリと笑みを浮かべ。
その一瞬が……瀬玲には理解出来ていなかった。
どうやって躱されたのか。
何が起きているのか。
例え目が良くなろうと、認識力が増えたとしても……彼女の思考が追い付いていなかったのである。
それ程までに、一瞬の出来事。
その行為の直後……ウィグルイは彼女の視界から消えた。
ッパァーーーーンッ!!
「カハッ……!?」
突如、瀬玲の脇腹へと衝撃が走る。
認識すら出来ず……勢いのまま弾かれる彼女の体。
余りの衝撃に……宙を舞った彼女の体が地面へ落ちた後も転がり続け、その勢いが止まると……彼女が堪らず呻き声を上げる。
「ウウ……ウゥウーー……!!」
彼女が立っていた場所……そこに佇むのは掌底を突き出すように構えたウィグルイの姿。
地面に転がりもだえ苦しむ瀬玲を前に追撃を掛ける事も無く……静かに拳を収めると、再び腰の裏に手を回してその場で彼女を見下ろした。
「人間の魔剣使いが如何様かと思うたが……これでは拍子抜けよ。 これならば都で座して待っていた方が楽しみ甲斐があったのぉ……」
そっと視線を彼等の根城へ向け……アージとマヴォとイシュライトが激戦を繰り広げる事で生まれた命力の慟哭をじっと見つめる。
「ウ……クク……ハァッ……ハァッ……!!」
腹部の痛みを堪えながら瀬玲がゆっくりと大地に手を突き体を持ち上げる。
「ズキリ」と響く痛みが彼女の全身に伝わり、彼女の顔を思わず強張らせていた。
「うぐっ!? がはっがはっ!!」
突如、意思に反して腹の奥底から込み上げてきた何かを、彼女が堪らず吐き出す。
僅かな液体が地面へと「バシャッ」と音を立てて撒き散っていく。
そこに滲むのは……赤黒い液体。
「うぅ!?」
僅かではあるが、内部出血を起こしていたのだ。
それ程までに強力な一撃であったのだろう……内臓にダメージを受けた様であった。
腹部に滲む痛み、口に広がる血の味、そして地面に撒き散らされた血液……各々の事実を前に、彼女の認識が現実を受け入れていく。
―――何……これ……え? 私、なんで―――
現実を実感し始めた所為か……次第に彼女の体が震え、力が抜けていく。
起き上がろうとしていた体が途端に動かなくなり、四つん這いのまま地面をただ見つめ続けるのみ……。
そんな彼女をウィグルイがちらりと目を動かし覗く。
一向に立ち上がろうともしない様を前に、退屈そうな表情を浮かべたまま空を見上げて硬い顎下をコリコリと指で掻く様子を見せていた。
「さぁて……こちらはこちらで手早く片付けて、あの戦いに参加するかのぉ~?」
ウィグルイが如何にも瀬玲を焚き付けんばかりのわざとらしい声を上げる。
少しでも楽しもうという魂胆なのだろう……その一言は彼女のプライドを刺激するモノ。
「バ……バカにしないで……!!」
それに気付いたのか否か……瀬玲が震える歯を「ギリリ」と噛み締め、ゆっくりと立ち上がる。
未だ膝は震え、足元はおぼつかない。
頭も「キンキン」と鳴り響く様な頭痛に苛まれ、コンディションは最悪である。
だが、「負けられない」……そんな気持ちが彼女の中に灯り、その体を突き動かしていた。
足元に転がっていた魔剣を掴み取り、持ち上げながら立ち上がった瀬玲は再び構える。
光が迸り形成されていく光の矢……だがその光は先程よりも格段に小さく、弱々しい光の筋そのものであった。
魔剣の力は使用者の精神状態に左右されやすい。
今の彼女の中に潜む感情は『恐怖』。
その心が魔剣の力を不安定にさせているのだ。
そしてその様をチラリと覗き見るウィグルイであったが……命力の光が著しく衰えている事に彼女の感情が読み取れたのだろう、顔そのものを向ける事は無かった。
魔剣を構えられてもなお顔を背けたままのウィグルイに、瀬玲が怒りを露わにする。
「ッ!! な、舐めんじゃないわよッ!!」
瀬玲が吼え、直後に引き絞られた矢弾が撃ち放たれた。
例え細くとも彼女の放った矢弾……彼女のコントロール通りに再びウィグルイへと伸びていく。
だが先程と同様……寸での所でウィグルイはその上半身を後方に反らして躱した。
「クッ!?」
余りにも素早く無駄の無い動き……鋭く確実な動きはまるで瞬間移動を行ったかの様に動き、一瞬を捉える事が出来ない。
2回目ともあれば彼女もそれを認識する事が出来たが……彼の動きが余りにも卓越した様を持つ事から、たったそれだけの挙動でも彼女の自信を削いでいく。
その間に予め撃ち放っていた無数の矢弾が急接近し、ウィグルイへと襲い掛かった。
「ほほう!? 面白いなこれは!!」
シャララララランッ!!
ガガガガガッ!!
彼の頭上から襲い掛かった光の槍が岩肌へと突き刺さり破岩音を鳴り響かせる。
時間差で連続的に撃ち抜き、その周辺には光の槍が突き立ち並ぶ様子を形作っていった。
だが……そんな中をウィグルイはまるで踊るかのように飛び交い、光の槍の一本一本を丁寧に避けていく。
「そんなッ!?」
あっという間に彼女が撃ち溜めていた矢弾すらも回避され尽くし……無傷のウィグルイが彼女前に姿を晒した。
「これで終わりかのぉ? なれば次は―――」
トンッ……
そう言い放った直後……瞬き程の間にその姿は瀬玲の目の前へ……。
「えっ!?」
その瞬間、ウィグルイの脚が彼女の前でぐるりと回ると……速く重い蹴りが魔剣を掴む腕へと突き上げる様に打ち出された。
余りの衝撃に、掴んでいた魔剣が手から離れ、大きく空へと打ち上がる。
「うあっ!?」
彼女の後方へと魔剣が落下し、「カラーン!!」と独特の干渉音を鳴り響かせながら地面を転がっていった。
パァーンッ!!
途端見舞われる、瀬玲の頬への平手打ち。
大きく彼女の顔が跳ね上がり、瞳孔が絞られた様を露わにする。
プルプルと震え、激痛の走る頬を抑えながら……ゆっくりと彼へと振り向くが……再びの平手打ちが彼女の反対側の頬を襲った。
パァーンッ!!
「あぐっ!?」
瀬玲の両頬が腫れて赤く染まる……なお震えが止まらず、ただただその場に立ち尽くすのみ。
圧倒的な力の差……それは彼女を絶望に貶めるには十分過ぎた。
「あ……ああ……!?」
勝てるはずの無い相手。
絶対的な畏れ。
死への恐怖。
それが彼女を襲い……そして、感情を支配する。
―――勝てない……勝てるわけがない……!!―――
その感情が、遂に彼女の心を支配した時……彼女の足は思わず……踵を返していた。
「あ……ああッ!! ああぁあーーーッ!!」
目元に浮かぶ涙、おぼつかない足元が駆ける彼女の足をもつれさせて遂にはこけさせるが……それでもなお、感情に引きずられるがままに思いっきり大地を蹴り出し……再び走り始めた。
瀬玲は逃げたのだ……恐怖の余りに……ウィグルイという絶対的強者から。
瀬玲が撃ち放った矢弾は先程から撃ち放っていた矢弾同様、着弾点を求めるかの様に不規則な螺旋を描いて舞っていた。
手に持つカッデレータの握り下部に設置されている命力珠弾倉が不意に「バシッ」と音を立ててスライドする。
それをおもむろに掴み取ると……「ガチッ」という音と共に外れ、そのまま腰の専用ホルダーへと備え付けた。
専用ホルダーにぶら下げられた弾倉は他に七つ……内二つは光を伴っていない様を見るに既に使用済みなのだろう。
カッデレータの矢弾は弾倉に篭められた命力を消費する事により使用者の命力消費を抑えつつ強力な一撃を放つ事が出来るのである。
光の灯る弾倉を取り、魔剣へと嵌め込むと……再び二人が居るであろう場所へと視線を向ける。
「こんなものかな……」
援護用の射撃を撃ちきり、瀬玲が落ち着きの様子を見せながら額の汗を拭う。
自身の体力や命力量が少ないという事は自他共に周知済み……この様に時折休憩を入れる事で自分のペースを保ち、戦いをスムーズに行うのが彼女流。
いつも通りの様子でアージとマヴォを見つめていると……二人が佇む場所から三つの大きな命力が膨らみを見せ、異様な光景を映す。
林を揺らす様な風などほぼ無いにも関わらず、彼等が居る部分だけが激しく揺れ動いているのだ……それは強力なまでの命力の波動からなる物理干渉の賜物。
力も光景も見て感じる事の出来る瀬玲は、その光景を前に若干の焦りを感じ……おもむろにインカムに手を伸ばした。
「アージさん、マヴォさん、何があったんですか?」
だが一向に返事は返ってくる様子は無い。
すると、不意に笠本の声が彼女の耳に入って来た。
『セリさん、どうしましたか? 何か問題でも?』
「あ、すいません、二人が言った通り戦闘は始まったんですが……戦闘が異様なんです。 あそこまで命力を昂らせるのを見るのは勇と訓練で戦った時以来なんですよ」
『……二人のインカムの信号が途絶えていますね、これはもしかしたらインカムが壊れたか、電源が入っていない可能性があります』
アージとマヴォのインカムは既にイシュライトの手により破壊されてしまっている。
その事を知らない瀬玲と笠本はその原因を探りつつも……状況の把握を急ぐ。
それに合わせたかの様に彼女の頭上を一機のドローンが飛び過ぎ、アージとマヴォの下へと向かって飛んで行った。
『先程向かわせたドローンに状況を確認させます。 セリさんはいつも通りの対応を続けてください』
「了解」
彼等の実力を知るからこそ彼女はそっと笑みを零す……「二人なら大丈夫だろう」と。
インカムから手を離し、不意に吹き付ける風に煽られた髪を押さえると……意外な心地よさが彼女の心をも落ち着かせる様であった。
「―――ほう、随分な余裕ではないか」
突如聞き慣れぬ声が耳に入り、瀬玲が「ハッ」として声の方へと振り向く。
それは彼女の後方、岩肌が作る水平線の先……そこからゆっくりと姿を現したのは、一人の魔者。
比較的小柄……瀬玲と同じ程の背丈、顔付きはシワが多く歳を取っているという風貌。
だが……全身がほぼ衣服で包まれており全容はわからないが、顔付きからは想像も出来ない程体付きがしっかりと整っており、背筋を伸ばして腕を背中に回して歩く姿はまさに威風堂々。
「き、気付かなかった……気を付けていたハズなのに」
「ハハハ……命力を極限まで抑える事など幼少期には会得していたわ。 あとはゆっくりゆっくり……走ってくればそれだけでこの通り、意表を突くなど大した事ではない」
だが、彼女の目の前に居る者は服装こそ綺麗に仕立てられた衣服ではあるものの、魔剣の様な類の武器は見られない。
服の中に仕込んでいるのか、それともただ持っていないのか……そんな相手を前に彼女は思考を巡らせていた。
―――魔剣使いじゃない……? それなら何て事無いじゃない……!!―――
「……戦う気なの? 私達は話し合うつもりでここに来たんだけど」
「話し合いとは弱者のする事と掟より伝えられておる。 望むならば戦いに勝ち得ろとな……儂もそう思うからこそ、ここに来たに過ぎぬ」
「望むって……何かしら?」
それは愚問―――
魔者は「フフン」と鼻で笑うと、途端鋭い目を向けて彼女を睨み付けた。
「簡単な事よ……魔剣使いと戦う事が儂の望み、それだけに過ぎん」
そう一言答えると……ゆるりと己の拳を構え、シワを浮かべた瞼が僅かに沈み目を細める。
「我が名はウィグルイ……さぁ魔剣使いよ、存分に死合おうぞ……!!」
「悪いんだけど、私は名乗り合うみたいな趣向は持ち合わせていない―――!!」
瀬玲は名乗る事も無く己が持つ魔剣を横に構え、その力を左手で引き絞る。
その瞬間、魔剣と左手を繋ぐ命力の光が眩く輝き、巨大な光の槍を構築した。
そして間も無く放たれた一撃……ウィグルイへと光の槍が一直線の筋を作りながら突き進む。
キュオオーーーーーーンッ!!
彼女の強化された動体視力がウィグルイの一挙動を捉え、彼女に操られた光の槍がその胴体真芯へと伸びていく―――
―――これで終わり……!!―――
光の槍がウィグルイの身体へと突き刺さろうとした瞬間……気が動いた。
ギャギャギャンッ!!
けたたましく鳴り響く異音。
その一瞬でウィグルイは高速で放たれた光の槍を躱すどころか……光の槍の横へ回り込み、まるで撫でるかの様にその表層へと命力を篭めた掌を走らせていたのだ。
反発し合う力と力が弾けて火花の様な光を生み、異音を生み出していたのである。
そんな彼の顔は……ニヤリと笑みを浮かべ。
その一瞬が……瀬玲には理解出来ていなかった。
どうやって躱されたのか。
何が起きているのか。
例え目が良くなろうと、認識力が増えたとしても……彼女の思考が追い付いていなかったのである。
それ程までに、一瞬の出来事。
その行為の直後……ウィグルイは彼女の視界から消えた。
ッパァーーーーンッ!!
「カハッ……!?」
突如、瀬玲の脇腹へと衝撃が走る。
認識すら出来ず……勢いのまま弾かれる彼女の体。
余りの衝撃に……宙を舞った彼女の体が地面へ落ちた後も転がり続け、その勢いが止まると……彼女が堪らず呻き声を上げる。
「ウウ……ウゥウーー……!!」
彼女が立っていた場所……そこに佇むのは掌底を突き出すように構えたウィグルイの姿。
地面に転がりもだえ苦しむ瀬玲を前に追撃を掛ける事も無く……静かに拳を収めると、再び腰の裏に手を回してその場で彼女を見下ろした。
「人間の魔剣使いが如何様かと思うたが……これでは拍子抜けよ。 これならば都で座して待っていた方が楽しみ甲斐があったのぉ……」
そっと視線を彼等の根城へ向け……アージとマヴォとイシュライトが激戦を繰り広げる事で生まれた命力の慟哭をじっと見つめる。
「ウ……クク……ハァッ……ハァッ……!!」
腹部の痛みを堪えながら瀬玲がゆっくりと大地に手を突き体を持ち上げる。
「ズキリ」と響く痛みが彼女の全身に伝わり、彼女の顔を思わず強張らせていた。
「うぐっ!? がはっがはっ!!」
突如、意思に反して腹の奥底から込み上げてきた何かを、彼女が堪らず吐き出す。
僅かな液体が地面へと「バシャッ」と音を立てて撒き散っていく。
そこに滲むのは……赤黒い液体。
「うぅ!?」
僅かではあるが、内部出血を起こしていたのだ。
それ程までに強力な一撃であったのだろう……内臓にダメージを受けた様であった。
腹部に滲む痛み、口に広がる血の味、そして地面に撒き散らされた血液……各々の事実を前に、彼女の認識が現実を受け入れていく。
―――何……これ……え? 私、なんで―――
現実を実感し始めた所為か……次第に彼女の体が震え、力が抜けていく。
起き上がろうとしていた体が途端に動かなくなり、四つん這いのまま地面をただ見つめ続けるのみ……。
そんな彼女をウィグルイがちらりと目を動かし覗く。
一向に立ち上がろうともしない様を前に、退屈そうな表情を浮かべたまま空を見上げて硬い顎下をコリコリと指で掻く様子を見せていた。
「さぁて……こちらはこちらで手早く片付けて、あの戦いに参加するかのぉ~?」
ウィグルイが如何にも瀬玲を焚き付けんばかりのわざとらしい声を上げる。
少しでも楽しもうという魂胆なのだろう……その一言は彼女のプライドを刺激するモノ。
「バ……バカにしないで……!!」
それに気付いたのか否か……瀬玲が震える歯を「ギリリ」と噛み締め、ゆっくりと立ち上がる。
未だ膝は震え、足元はおぼつかない。
頭も「キンキン」と鳴り響く様な頭痛に苛まれ、コンディションは最悪である。
だが、「負けられない」……そんな気持ちが彼女の中に灯り、その体を突き動かしていた。
足元に転がっていた魔剣を掴み取り、持ち上げながら立ち上がった瀬玲は再び構える。
光が迸り形成されていく光の矢……だがその光は先程よりも格段に小さく、弱々しい光の筋そのものであった。
魔剣の力は使用者の精神状態に左右されやすい。
今の彼女の中に潜む感情は『恐怖』。
その心が魔剣の力を不安定にさせているのだ。
そしてその様をチラリと覗き見るウィグルイであったが……命力の光が著しく衰えている事に彼女の感情が読み取れたのだろう、顔そのものを向ける事は無かった。
魔剣を構えられてもなお顔を背けたままのウィグルイに、瀬玲が怒りを露わにする。
「ッ!! な、舐めんじゃないわよッ!!」
瀬玲が吼え、直後に引き絞られた矢弾が撃ち放たれた。
例え細くとも彼女の放った矢弾……彼女のコントロール通りに再びウィグルイへと伸びていく。
だが先程と同様……寸での所でウィグルイはその上半身を後方に反らして躱した。
「クッ!?」
余りにも素早く無駄の無い動き……鋭く確実な動きはまるで瞬間移動を行ったかの様に動き、一瞬を捉える事が出来ない。
2回目ともあれば彼女もそれを認識する事が出来たが……彼の動きが余りにも卓越した様を持つ事から、たったそれだけの挙動でも彼女の自信を削いでいく。
その間に予め撃ち放っていた無数の矢弾が急接近し、ウィグルイへと襲い掛かった。
「ほほう!? 面白いなこれは!!」
シャララララランッ!!
ガガガガガッ!!
彼の頭上から襲い掛かった光の槍が岩肌へと突き刺さり破岩音を鳴り響かせる。
時間差で連続的に撃ち抜き、その周辺には光の槍が突き立ち並ぶ様子を形作っていった。
だが……そんな中をウィグルイはまるで踊るかのように飛び交い、光の槍の一本一本を丁寧に避けていく。
「そんなッ!?」
あっという間に彼女が撃ち溜めていた矢弾すらも回避され尽くし……無傷のウィグルイが彼女前に姿を晒した。
「これで終わりかのぉ? なれば次は―――」
トンッ……
そう言い放った直後……瞬き程の間にその姿は瀬玲の目の前へ……。
「えっ!?」
その瞬間、ウィグルイの脚が彼女の前でぐるりと回ると……速く重い蹴りが魔剣を掴む腕へと突き上げる様に打ち出された。
余りの衝撃に、掴んでいた魔剣が手から離れ、大きく空へと打ち上がる。
「うあっ!?」
彼女の後方へと魔剣が落下し、「カラーン!!」と独特の干渉音を鳴り響かせながら地面を転がっていった。
パァーンッ!!
途端見舞われる、瀬玲の頬への平手打ち。
大きく彼女の顔が跳ね上がり、瞳孔が絞られた様を露わにする。
プルプルと震え、激痛の走る頬を抑えながら……ゆっくりと彼へと振り向くが……再びの平手打ちが彼女の反対側の頬を襲った。
パァーンッ!!
「あぐっ!?」
瀬玲の両頬が腫れて赤く染まる……なお震えが止まらず、ただただその場に立ち尽くすのみ。
圧倒的な力の差……それは彼女を絶望に貶めるには十分過ぎた。
「あ……ああ……!?」
勝てるはずの無い相手。
絶対的な畏れ。
死への恐怖。
それが彼女を襲い……そして、感情を支配する。
―――勝てない……勝てるわけがない……!!―――
その感情が、遂に彼女の心を支配した時……彼女の足は思わず……踵を返していた。
「あ……ああッ!! ああぁあーーーッ!!」
目元に浮かぶ涙、おぼつかない足元が駆ける彼女の足をもつれさせて遂にはこけさせるが……それでもなお、感情に引きずられるがままに思いっきり大地を蹴り出し……再び走り始めた。
瀬玲は逃げたのだ……恐怖の余りに……ウィグルイという絶対的強者から。
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おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・
・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
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