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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」

~巻き起こる命と命のコリジョン~

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「このまま一気に突き抜けるぞッ!!」
「オオッ!!」

 追い掛けてくる先陣の六人には目も暮れず、淡い木漏れ日が差す木々の間を潜り抜け……二人の戦士が一定の間隔を保ちながら二人並んで駆け抜けていく。

 素早い駆け足が静かな林間に喧騒を呼び、落ちた枯れ葉が勢いを伴って舞い飛ぶ。

 だがもう間もなく彼等の根城とも思える距離へと迫ろうとした時、不意にアージとマヴォの前に姿を現す三人の敵。
 壁を成す様に並んで現れたその三人へと勢いのまま飛び掛かる。

「けぇぇいッ!! 邪魔をするなァ!!」

 アージが持つ巨大な大斧を頭上で高速で振り回し、勢いのままに一気に叩き降ろした。



ドッガァーーーーーッ!!



 岩石を含む大地がけたたましい大音を上げて揺れ、不意を突かれた敵達が姿勢を崩す。
 その隙を逃さず、アージに続きマヴォが追撃を仕掛けた。

「ちぃえあッ!!」

 マヴォがその巨体とは思えぬ素早い動きで飛び掛かり、怯みを見せた相手へ回転蹴りを見舞う。
 一瞬で正面に立つ二人へ攻撃を見舞い、防御しきれず衝撃に圧され吹き飛ぶ敵達。
 だが残った一人がマヴォの着地の隙を狙い撃つかの様に飛び掛かる。

「行かせぬゥ!!」

 その瞬間、襲い掛かる魔者の頭部に強い衝撃が走る。
 アージがその巨大な手でその頭部を掴み押していたのだ。

 勢いのままに高速で引きずられていく魔者。

「ッガアアアーーー!!!」

 力の限り勢いのままに上空へと放り投げ、その体が林の上空へと投げ出される。
 途端、四方から光の槍が襲い掛かり、その魔者へと突き刺さった。



 止められない。

 止められる訳が無い。



 イ・ドゥール達の雑兵は猛者なのだろう……だがアージとマヴォはそれを更に上に行く強者。
 勢いに乗った彼等を止める事が出来るのは、同等またはそれ以上の力を持つ者のみ。
 もしくは、彼等の仰ぐ「師父」と呼ばれた王と思わしき者の前。

 その力をありありと見せつける二人を前に、追う者達も焦燥感を伴う表情を見せていた。



 勢いのまま走るアージとマヴォ。
 追い掛けて来る者達が追い付けない事を理解してか、マヴォが走りながらインカムに手を充て連絡を始める。

「セリッ!! きょりッ!?」
『もうすぐ、真っ直ぐ、あと1分くらい!!』

 現地ナビゲーターとしての役割も果たす程の瀬玲の眼が彼等と根城の距離を割り出し、簡潔かつ的確に伝える。
 その間も山頂から幾つもの閃光の筋が空を舞い、撃ち放たれた光の矢弾は着弾する事なく彼等の空をぐるぐると螺旋を描き、時折彼等を追う先陣の六人へと降り注いでその勢いを止めさせていた。



 このまま辿り着き、王と相対すれば道は開ける……そう思った矢先―――



ピュンッ!!



パァーンッ!!



 突然の出来事であった。

 米粒程の小さな石粒が二人の耳元を貫き……インカムを粉砕したのだ。



「なッ―――!?」
「―――にぃ!?」



 余りにも強力に打ち出された石粒は、砕ける事無くインカムのボディを破砕し彼等の後方へその破片を舞い散らせていく。
 二人が気付くのが遅れる程に……鋭く速く……そして命力を乗せた二撃。
 突然の出来事を前に二人は思わず立ち止まり、正面を見据える。

 ……その先に居たのは一人の男の姿。

 

「申し訳ありませんが、この先へと行かせる訳にはいきません」



 落ち着いた雰囲気を持つその者。
 イ・ドゥール族である事に間違いないが、若そうな面持ちと全身を覆う綺麗な服装を伴う身なり、背筋を伸ばし足を揃え腕を後ろに回すその姿は自身を『強者』として魅せるには十分な程に圧倒的な存在感を醸し出していた。

「何故だ、何故そこまで頑なに拒むッ!?」
「掟ゆえ」
「今世界は大きな変化を迎えているんだぞッ!?」
「掟には逆らえませぬ」

 そう押し問答をしている間にも、後ろから先陣組が追い付き……アージとマヴォとの距離を一定に保ちつつ並び構えていた。

「我等イ・ドゥール……掟に生き、掟に消ゆ者達の集い……それはこの地で生きる事を決めた者達の定めでもあるのです。 そして我等を知る者は外へ出る事叶わぬ……それもまた掟ゆえ……ここで果てて頂きましょう」



 そう言い放った途端……アージとマヴォの視界がまるでしぼみ、狭まるかの様に正面に立つ男へと吸い込まれていく。



「コ、コイツはあッ!?」



 突如男から放たれた命力が高く、力強くほとばしり……彼等の周囲を包んでいく。
 その力の量は彼等をも取り込んでしまう程に大きく。

 途端二人の顔が強張り、圧し負けぬ力強い命力をたぎらせた。

「我が名はイシュライト……力をぶつけ、命のあるがままに戦いましょうぞ」
「我が名はアージ!!」
「我が名はマヴォ!!」
「「我等白の兄弟!! イシュライトよ……我等が前にこうべを垂れよ!!」」

 互いが名乗りを上げ、その拳や武器を構える。

 イシュライトは見る限り魔剣を有していなかった。
 だが、その拳そのものが彼の最大の武器なのだろう……右腕を突き出すように構えられたその様相はまさに格闘家そのもの。
 拳法服とも思える自由度の高い服装は、彼が自由に舞う事が出来る様に仕立て上げられた物なのだろう。

「一つ聞きたいッ!!」
「……なんでしょう?」

 アージから突然放たれた一言……それに対しイシュライトは表情一つ変える事無く静かに彼の言葉を待つ。

「貴公が王か……?」
「王……統治者という事ですか? ……いいえ、違いますよ。 私は我等が師父と比べればまだまだ未熟故、その様な言葉をお受けするにもおこがましい立場なのです」
「貴公が未熟か、フハハ……なれば強いであろうな……なおの事相対せねばなるまい?」

 武人であるアージ……武への追及は彼の生き甲斐ともある事。
 強者と言われて戦わぬ理由など彼には無いのである。

 だが、そんな言葉を前に……イシュライトの顔が僅かに笑みを漏らした。

「なるほど、貴方もまた武人という訳ですね……ですが申し訳ありませんがそれは適いませぬ」
「貴公の方が上だと言うからか?」
「いえ、確かにそれもまた自負しておりますが―――」



 その時……イシュライトの目が鋭く光り……その口角がニヤリと上がる。





「師父はお出掛け中故……かの方は人間の魔剣使いに興味がおありでしてね……!!」





 その言葉を聞いた途端、「ハッ」とする二人。
 思わずアージが振り返り見上げ、叫び声にも足る大声を放った。



「狙いはセリかあああーーーーッ!?」



 だがそんな声が届くはずも無い。
 堪らずアージが後方へと飛び出そうとするが、二人を遮る様に先陣組がまるでその行動を理解しているかの様に行く手を塞ぐ。

「きっ、キサマラあッ!?」

 焦るアージとマヴォ。
 だが、その後方で……イシュライトが更に力強い命力を滾らせる様をありありと見せつけ、二人を威嚇する。



『これは死闘である』



 言葉にも成らない力の意思が二人にそう感じさせた。
 これ以上、背中を向ければ殺される―――そう確信させる程の強い意志が二人の背中に突き刺さる様に充てられていたのだ。

 焦りを浮かべながらも、二人は振り返る……目の前に居る『敵』が、彼等を離さない。



「油断するなマヴォ……気を抜けば……やられるぞッ!!」



 それ以上の言葉は要らない。
 必要無いのだ。



 強者とは、拳を交えて語るのだから。



 三つの気高い命が迸り、林を騒めかせる。
 彼等の戦いは、ただ……激戦だけを予感させた―――。


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