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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」

~会いたくて話したくてフルボディ~

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 ラクアンツェが本部に訪れた日から四日後の夜。

 夕食を取り終えた心輝が疲れた体を休める様に湯船に浸かる。

 最近はどうにも鍛えた事で全身の筋肉が張り、元々大柄だった彼の体は魔剣使いになる前と比べて一回り大きくなったのではないかと思う程に成長していた。
 その所為か……浴槽の大きさが彼の大きさに伴わず、全身を沈める事が出来ない様だ。

 当人は余り気にしていないようだが。

「お兄居るー?」

 すると……浴場の外、洗面所から突然あずーの声が響き渡る。
 だが心輝にとってはそれは日常茶飯事なのだろう……慌てる様子すら見せず、面倒そうに首を洗面所の方へ向けた。

「なんだぁ?」
「セリちゃん来てるよー」
「はぁ? こんな夜に何しに来たんだアイツ……」

 そんなぼやきが浴場に響くが……半透明の扉の先にはもう既にあずーの姿は無く、それに気付いた心輝が「やれやれ」と面倒そうに浴槽から体を起こす。
 そのまま浴場の扉を開き、身支度を整えようと足を踏み出すと……下げた視線が不意に何かを捉え、徐々にその視線を上げていく。



 そこに居たのは瀬玲。
 洗面所と廊下を遮る扉はあずーが開けたままのフルオープン状態であった。



 心輝の裸体が彼女の前に堂々と晒され、突然の出来事を前に二人の体が固まった。

「……おう」
「おう、じゃないわよ」

 だが恥ずかしがるような素振りなど一切見せず、腕を組み見下ろす様に視線を向ける瀬玲。
 そんな言葉を返すと……不意に笑みが零れ、「へっ」と小馬鹿にするような声が漏れる。
 そんな彼女を前に心輝の目が座り、もの言いたげな顔を向けた。

 二人は幼馴染として小さい時から共に過ごしてきた。
 お互いの裸を見るなど、昔の彼等にとっては日常茶飯事だった為か……もはやお互い恥ずかしがるような素振りを見せる事は無い。
 内心では多少なりに羞恥心を感じてはいるだろうが。

「んだよ、急に……」

 心輝がおもむろにバスタオルを手に取り体を拭いながら面倒臭そうな面持ちで彼女に問い掛けると、彼の心境が理解出来ているのか……「フウ」と一つ溜息を吐き、そっと彼に答えた。

「ちょっとね、聞きたい事があってさ」
「聞きたい事ぉ? 魔特隊の事なら言えねぇぞ、辞めた・・・んだろ?」
「これから辞める・・・んだけど……」

 そんな会話を交わしながらも、頭からタオルを被り鏡越しに自分の顔を覗き込みながら顔面を入念にチェックし始めた彼を前に……瀬玲はどこか不満にも足る表情を浮かべていた。

「何、そんなに辞める事が不満なの?」
「んやぁ……こういうのは風呂上りにやっとかねぇと忘れんだよ。 ……この話、今すぐじゃねぇとダメなん?」
「そういう訳じゃないけど……」
「それとな、俺は別にセリが辞める事が不満とか思ってねぇし……っつか、不満を感じてるのはお前だろ?」

 まるで瀬玲の思っている事が見通されているかのような……そんな言葉を投げ掛けられ、図星でもあった彼女が言葉を詰まらせる。
 
「勇は勇でお前の事で結構ダメージ来てたみたいだったしよ……酷かったぜアイツ、こないだ事務所来たけどまだボロボロのまんまだった。 心のダメージは回復力にも影響が出るってよ、ハッキリと見てわかったわ」
「……そう」
「エウリィちゃんの時とは違うんだってハッキリな。 ……けど、まぁ良いんじゃねェの? そうでもしなきゃアイツはまだまだずっと無茶続けただろうしな」
「シン……」

 そこでようやく下着を履き始める心輝……その堂々たる素振りは自信に満ち溢れていた。
 大きさ・・・以外は……であるが。

 続き歯ブラシを手に取り、歯を磨こうとするが……それを引き留める様に瀬玲が声を上げた。

「ちょっとまって」
「なんだよ?」
「次の作戦の打ち合わせ、いつかもうわかる?」
「予定は明後日だが、調整次第らしいぜ。 決まったら連絡入れてやるよ」
「うん、サンキュ……それ聞きたかっただけだから」
「そんならタブ連でいいじゃんかよ……」



 タブ連とは……魔特隊に支給されているタブレットに備わっている専用ソフトを使用した連絡方法。
 既存のSNSと同様の能力を有しており、非公式ソフトともありどこか別のSNSと酷似したインターフェイスを有しているのが特徴だ。
 酷似元のアプリ会社と提携してソフトを作ったのではないかという噂もある程であった。



「なんだかね、直接話したくなって。 んじゃ、帰るわ……いきなり悪かったわね」
「おう」

 そっとその場を後に、玄関へと足を向ける瀬玲。
 そんな彼女を追う事も無く、心輝はいつもの様に歯を磨き始めていた。





 瀬玲が園部宅から出ていくと……擦れ違う様にリビングに居たあずーが廊下を伝い心輝の下へとやって来た。

「セリちゃんどうしたって?」
「あん? はんへほほへぇほなんてことねぇよ

 絶賛歯磨き中の心輝……歯ブラシを咥えながら答える心輝のあられもない姿に、さすがの彼女も顔をしかめるしか無かった。

「お兄……その格好で話してたの!? マジドン引きー!!」

 その言葉に唖然とする心輝などに目も暮れず、あずーは駆ける様にその場を立ち去る。
 最近は彼女もしっかりしてきたのか……どちらがマトモであるかわからない程に、彼女の行動は一般のそれ・・に近い思考になってきていた。



 変人だと言われていた頃の彼女を知る心輝にとっては、今の彼女の言葉が如何ほどの威力を誇っていたかは言うまでもないだろう。


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