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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」

~語られし古のメモリーズ~

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 それは私達がまだ16歳に成って間もない頃……おおよそ300年前。

 とある街に住んでいた私達は……魔者の襲撃に脅える毎日を過ごしていた。

 時折ふらっと現れる魔剣使いに頼って魔者を退けては糧を得て、その魔剣使いが倒れれば新たな魔剣使いがやってくるのを待ち続け……私達はそんな毎日を繰り返し過ごす事が当たり前だった。

 いえ、きっと今でも『あちら側』ではまだそんな生活を送る人は多いでしょうね。

 そんな私達でも、決して毎日が絶望していた訳では無かったわ。

 街の人々はどう思っていたかはわからないけれど、私達は未来に馳せていた。
 街の中にあった古代遺跡が私達の興味を惹き、事あるごとにそこへ足を運んでいたの……本当に懐かしいわぁ。



 ある日、私達はいつもの様に遺跡へとやってきていた。
 目的は古代文字の解読とその意味を知る事……街の人はそんな事になんて全く興味を持っていなかったし、そこが何の為に建造されたかなんて知ろうともしなかった。
 だから基本的にそこに来るのは私達だけ……やりたい放題だったわ。

「―――ねぇ、そっち何か見つかった?」
「ダメだね、何も見つからない」
デュゼロー・・・・・諦めるの早すぎ……学者・・は?」
「アイツは奥まで行ったよ」

 遺跡自体はそれなりに大きく……私達三人・・・・だけでは調べても調べきれないくらいだったわ。
 だから毎日の様に通っていたっていう事もあるけれど。

 街の人からは変わり者だと揶揄されて、出される食料も他の人と比べて少なかったり……まぁ当然よね、畑仕事とかもあまりやらなかったし。

 まぁでも一番の変わり者と言えば……学者・・だったわね。
 学者というのはその時の彼のあだ名。

 私達の中で誰よりも古代文字に精通していた彼は、古代文字を見つけてはそれを解読しようとして、私とデュゼローもそれに合わせる様に行動してたわ。

「学者ァ……一人で突っ走らないでよぉ」
「あ、ごめん。 ちょっと昨日気になる壁画を見つけたから調べておこうかなってね」

 顔を合わせる事も無く、淡々と靭皮紙じんぴしに古代文字を書き移していく彼。
 そうやって文字を残しては家に帰って解読作業を行うのが彼の日課みたいなものだった。

「二人は発掘の続きを頼むよ……俺はこれで忙しい」
「まったく……早く終わらせて手伝ってよね?」
「うん、急ぐよ」

 急ぐなんて言っていたけれど、その後結局2時間くらいずっと文字を書き続けてたのは今でも覚えてる。
 先日発掘した所から出てきた文字だからきっと夢中だったんでしょうね。

 気付けば夕刻……。
 そろそろ帰らないとと思ってデュゼローと一緒に学者を引きずる様に壁画から離してその場から立ち去ったわ。



 でも、その日だけはいつもと何かが違っていた。



 遺跡は建物で、内部に入ると厚い壁が遮って外の事なんて全くわからなかった。
 でも何も変わらない、いつもの街が待っている……そう思っていた。



 私達が遺跡から外へ出ようとした時……そこから見えた光景は絶望を呼ぶものだった。



「ま、街が……燃えてる……!?」

 建物に火が付けられ、轟々と黒い煙を放ちながら立ち込める炎。
 遠くから人が叫ぶ声が聞こえ、悲鳴も木霊する。
 その事から一瞬でわかった……「魔者が襲撃を掛けてきたのだ」と。

 その時はまだ魔剣使いが街に居たから……皆安心しきっていた。



 まさかその魔剣使いが一目散に逃げてしまったなんて、誰もが夢にも思わなかったでしょうね。



「ど、どうしよう……」
「何してんだ!! に、逃げるんだよ!!」
「ど、どこに……?」

 慌て怯え、遺跡の中からどうするか手をこまねいていた時……学者が呟いた。

「奥に戻ろう」

 彼自身も助かる確証は持っていなかったし、外へ出て魔者に見つかってしまえば殺されてしまうのは明白……それなら遺跡の奥で隠れていた方が幾分か助かる可能性はあるのではないかと私達は考えた。

 幸い、遺跡の中は入り組んでいたし、私達は道をよく知っていたから……迷う事無く彼の言葉に従い、私達は遺跡の奥へと戻っていった。
 時折地面が揺れるくらいの大きな衝撃が遺跡内にも響いて、遺跡が壊れてしまうんじゃないかって思ったものだわ。

 奥へ辿り着いた私達は、壁画の壁に背を掛け身を寄せ合いながら事が過ぎ去るのを待った。



「―――もう終わった?」
「わからない……」

 どれくらいの時間が経ったか……徐々に揺れも収まって、安堵の気持ちが僅かに生まれた……そんな時だった。



コツーーーーーーン……―――

コツーーーーーーン……―――



 石造りの広く硬い空間に鳴り響く物音……それは断続的に、同じような音を立てて間を貫いてやってきた。

 その音を聞いた途端、私達の身体は凍り付いた様に固まった。
 この場に魔者がやってくるかもしれないという恐怖に私達はただ声を殺し、来るかもしれない一瞬を来ない様祈るだけだった。



 ただ一人を除いて。



「あのさ、ちょっと」
「……?」

 そう呟いたのは学者……。

「言い忘れてたことがあるんだ」

 それは最後の言葉なのかって思ったけれど―――



「ここの床、凄く脆いから気を付けないと―――」



ミシッ……



ビキッ……



 気付いた時には既に時遅く……外の衝撃により崩壊が加速していたのでしょうね、途端に私達が座り込んだ床が崩れ……その床の下にあった空間へと落ちてしまったの。



「イタタ……」
「クッソォ……学者ァ……言うなら早く言ってくれよォ……」
「ごめん、忘れていただけなんだ」

 崩れた床の先にあったのは、妙に広い……薄暗い部屋。
 それなりに底が深かったのか、見上げるとぽっかり空いた穴の先に小さな光が見えた。

「ここ、どこだぁ?」
「それよりも……早く隠れないと」



ゴゴゴ……―――



 その時、周囲に地響きが鳴り始め……私達が慌てて再び身を寄せ合う中……遺跡が大音を立てて崩れ落ちた。
 幸い、私達が落ちた空間は強固な部屋だったのでしょうね……地響きの後、崩れ落ちた穴から遺跡の壁の欠片が幾つも落ちてきて……私達は逃げる様に穴の下から離れたわ。

 その結果、私達はその場所に閉じ込められたけれど……魔者に殺される結末から脱する事が出来た事に胸をなでおろしたものよ。

 暗くなったその部屋で、とりあえずと持っていた松明に火を灯して部屋に光を呼び込んだの。
 そこで私達の目に映ったのは、とてもすごい物だった。



「これって……!!」



 埃を被り、蜘蛛の巣に塗れたその部屋一杯に広がっていたのは……無数に並ぶ本の数々。
 そこはいわゆる書物室……遺跡の地下に備えられていた、遺跡をまだ人が使っていた時代に作られた書物を保管する為の部屋だった。

 私達は偶然の発見に驚きと喜びで打ち震えたわ。
 街が滅んだという事実を忘れるかのようにね。

 いの一番に躍り出たのは当然学者……彼はおもむろに中を確認しようと本を手に取った。



 けれど、手に取った本は瞬く間に崩れ落ちて、彼の手からすり抜ける様に落ちていった。
 床に落ちた本はたちまちバラバラになって粉々に成ってしまったの。

「そ、そんな……」

 地下室とはいえ、保管がしっかりと成されてなかったのでしょうね……見る本のどれもこれもが荒い作りと風化に耐え切れず、形を崩していったわ。

 けれど、その中に一つだけ……一際輝くかの様にその身をありありと色濃く晒す本が一冊だけあった。



 それが……後に私達が名付けた『おわりトはじまりノ書』。



 それだけが存在を崩す事無く私達の前に姿を見せ、その身を委ねてくれた。
 手に取った時、妙な違和感が体中に駆け巡ったものよ……「ああ、これはそういう事・・・・・なんだ」ってね。



 この古文書は……魔剣だったのよ。



 命力を持ち、生きているかのようにその身を維持する古文書は、長い年月を以ってもなおそのままであり続けているわけ。

 中に書き連ねられた文を私達は読み、そして知った。

 古代の戦争の事。

 創世の女神の在り方。

 そして、フララジカの事。

 古文書に書かれた事を私達は知り、そして感じた。
 「このままでは世界は滅びてしまうかもしれない」とね。



 その部屋は遺跡から遠く離れた山の中腹に繋がっている通路を有していたわ。
 幸い、私達はそこを早い段階で見つけ、そのままその場を後にした。
 もちろん、『おわりトはじまりノ書』はしっかりと携えてね。

 その後、生きて別の街へと辿り着き……私達は訴えた。
 「このまま何もしなければ世界が滅ぶかもしれない」……フララジカを止めなければならないと。



 けれど……誰も私達と真面目に取り合おうとはしなかった。



 だから私達は決めたの。
 私達が魔剣使いと成って、世界と向き合い……フララジカを阻止する、またはその礎を作る……そう決めて、三人は共に旅に出た……というワケ。




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