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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
~突如訪れたサマーギフト~
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ニュージーランド近海に出現した空島。
『アルクトゥーンの空島』改め『アルクルフェンの箱』での戦いを終えた勇達は、激戦だった事もあり……しばらくの休息を命じられる事となった。
それからおおよそ二週間が過ぎた。
10月……夏の残暑が抜け、涼しい風が時折肌をくすぐる様になる季節。
見慣れた閑静な一般住宅街。
そこに連なる住宅の中に下がる「相沢」と書かれた石造りの立派な表札。
そこは彼女……相沢 瀬玲の自宅である。
心輝とあずーが住む園部家の自宅の隣に位置する彼女の自宅は、周囲の住宅となんら変わらない一般人が購入出来るレベルの家。
小さめの庭と一~二台分の駐車場が敷地に在り、連なる家々の中でも東京という地価のある土地にしては比較的大きめな家とも言える。
とはいえ、藤咲家の自宅も園部家の自宅も同等レベルである辺り、彼等の住む地域の住宅はこのレベルの住宅が基本なのかもしれない。
朝……学生や社会人達が登校・出勤の為に道路を並び歩く時間帯。
自宅のリビングでゆったりと紅茶をすすり、落ち着いた様子を見せる瀬玲の姿がそこにあった。
家族も同席し、一家団欒で迎える朝を満喫する彼女。
瀬玲は空島での件の折……勇の度重なる無茶な行動に嫌気が差し、自ら魔特隊を抜ける事を宣言した。
当時は感情的に成っていた事もあり、時間を置いて冷静に考える事で自身の発言などに多少なりに無責任だと思った事もあったのか反省も感じてはいた。
だが彼女の中では既に「魔特隊を抜ける」事に関してだけは曲げず突き通す強い意志を残したままであった。
彼女の両親もまた彼女の意思に賛同している。
戦いから退く事を知った彼等の気持ちは喜びに満ちていた。
彼女の両親は当初から今に至るまで、娘が死地に向かう事に賛同しなかったのだから当然だろう。
「セリ、これからの予定は何か考えてるのか?」
突然の父親からの質問に慌てる事も無く……口に充てていたティーカップを離すと、そっと机の上に置いて静かに返す。
「ううん、今の所は。 幸い、働かなくても生きていけるくらいは稼げたし……ゆっくり考えようかなって」
そう答えた彼女は表情は、これまでに無い程に穏やかな笑顔だった。
魔特隊として働き始めておおよそ半年程度ではあるが……それ以前から働いていた事も含め、彼女がこなしてきた任務はそれなりに多い。
戦いだけでは無く、『あちら側』の人間や魔者との通訳、コミュニケーションサポートなど、挙げれば数知れない程である。
実は彼女、コミュニケーション能力に長けている事もあり……実働時間で考えれば仲間内で最も長期で戦っているはずの勇を越える程の業務を行っていた。
勇は心に影を落とした期間が長く、コミュニケーションに問題があった時期が長い。
茶奈は性格上会話自体が続かない事が多い。
心輝は割と考え無しの所も多い為、相手との交渉が上手くいかない事がある。
あずーは言わずもがな。
魔者勢は比較的彼等よりも魔特隊所属期間が短い。
彼女ほど働いているとすればレンネィくらいであろうか。
それだけの業務実績もあり、彼女が有している資産は既に『億』レベル。
魔特隊に所属しているが故に表立っての話ではないが、彼女の仕事ぶりに好感を持った国からの専属オファーも多い。
それによる着色も多く、気付けば銀行口座を眺めて笑窪を作る毎日を送っている訳である。
その話術も福留から学んだ事で花開いた訳ではあるが。
「そうか、ならしばらく家に居るんだな……もし福留さんがセリの事を引き留めようとやってきたらお父さんに言いなさい。 私がお前の盾になってやる」
「お母さんも貴方を守るから……無理せず言いなさいね?」
「ん……ありがと」
二人の気持ちを前に、そっと微笑みを返すと……再びティーカップを手に取り口元へ運ぶ。
そんな両親の言葉が堪らなく嬉しくて。
それ以上表情には表さなかったが、口に含んだ紅茶がいつもよりもずっと舌を透き通っていく様な美味しさを感じさせていた。
リンゴーン……。
突然呼び鈴の電子音が屋内に響く。
直後にリビングの壁に取り付けられたカメラ付きインターホンの画像に……噂をすれば影、福留の姿が映りこんでいた。
まるで彼等が噂話をするのを待っていたかのようなタイミングに瀬玲の両親が驚きの顔を浮かべるも、すぐ様その顔は真剣な面持ちへと戻り、インターホンへ向けて歩み寄っていった。
「……おはようございます福留さん」
『その声は御主人……おはようございます。 朝早くお尋ねしてしまい申し訳ありません』
いつものゆったりとした口調に調子を狂わせぬ様、父親は「ゴホン」と一つ咳き込むと……再び福留に向けて強気の姿勢をアピールするかの様に声を上げる。
「貴方と娘を会わせる訳にはいきません……あの子はもう貴方の部下ではありませんので」
それは父親として娘を守る為に放った言葉。
だが、それを受けた福留は……口を小さくぱくりと開け、首を傾げる様子を見せていた。
『えぇと……申し訳ありませんが、お話の意図がよくわかりません……』
「ですから、貴方が幾ら引き留めようと―――」
『引き留め……? ああ~なるほど、セリさんの脱退の件ですか。 その件は詳しい話が纏まり次第と思っていまして……今日参ったのはこちらが目的です』
すると福留がそっと手に持った何かをカメラの前にそっと差し出す……そこに映ったのは手提げの紙袋。
『少し遅れてしまいましたが、残暑見舞いをお届けに参りました』
「あ……」
それは福留にとっての恒例の行事とも言える手渡しの贈り物。
彼はそこに何やらのこだわりがあるらしく、事あるごとに持参し直接手渡しするのだ。
予想外の展開に、両親も唖然として立ち尽くす。
その背後で彼等の勇み足の一部始終を見ていた瀬玲は、堪らず溜息を一吐きするのであった。
『アルクトゥーンの空島』改め『アルクルフェンの箱』での戦いを終えた勇達は、激戦だった事もあり……しばらくの休息を命じられる事となった。
それからおおよそ二週間が過ぎた。
10月……夏の残暑が抜け、涼しい風が時折肌をくすぐる様になる季節。
見慣れた閑静な一般住宅街。
そこに連なる住宅の中に下がる「相沢」と書かれた石造りの立派な表札。
そこは彼女……相沢 瀬玲の自宅である。
心輝とあずーが住む園部家の自宅の隣に位置する彼女の自宅は、周囲の住宅となんら変わらない一般人が購入出来るレベルの家。
小さめの庭と一~二台分の駐車場が敷地に在り、連なる家々の中でも東京という地価のある土地にしては比較的大きめな家とも言える。
とはいえ、藤咲家の自宅も園部家の自宅も同等レベルである辺り、彼等の住む地域の住宅はこのレベルの住宅が基本なのかもしれない。
朝……学生や社会人達が登校・出勤の為に道路を並び歩く時間帯。
自宅のリビングでゆったりと紅茶をすすり、落ち着いた様子を見せる瀬玲の姿がそこにあった。
家族も同席し、一家団欒で迎える朝を満喫する彼女。
瀬玲は空島での件の折……勇の度重なる無茶な行動に嫌気が差し、自ら魔特隊を抜ける事を宣言した。
当時は感情的に成っていた事もあり、時間を置いて冷静に考える事で自身の発言などに多少なりに無責任だと思った事もあったのか反省も感じてはいた。
だが彼女の中では既に「魔特隊を抜ける」事に関してだけは曲げず突き通す強い意志を残したままであった。
彼女の両親もまた彼女の意思に賛同している。
戦いから退く事を知った彼等の気持ちは喜びに満ちていた。
彼女の両親は当初から今に至るまで、娘が死地に向かう事に賛同しなかったのだから当然だろう。
「セリ、これからの予定は何か考えてるのか?」
突然の父親からの質問に慌てる事も無く……口に充てていたティーカップを離すと、そっと机の上に置いて静かに返す。
「ううん、今の所は。 幸い、働かなくても生きていけるくらいは稼げたし……ゆっくり考えようかなって」
そう答えた彼女は表情は、これまでに無い程に穏やかな笑顔だった。
魔特隊として働き始めておおよそ半年程度ではあるが……それ以前から働いていた事も含め、彼女がこなしてきた任務はそれなりに多い。
戦いだけでは無く、『あちら側』の人間や魔者との通訳、コミュニケーションサポートなど、挙げれば数知れない程である。
実は彼女、コミュニケーション能力に長けている事もあり……実働時間で考えれば仲間内で最も長期で戦っているはずの勇を越える程の業務を行っていた。
勇は心に影を落とした期間が長く、コミュニケーションに問題があった時期が長い。
茶奈は性格上会話自体が続かない事が多い。
心輝は割と考え無しの所も多い為、相手との交渉が上手くいかない事がある。
あずーは言わずもがな。
魔者勢は比較的彼等よりも魔特隊所属期間が短い。
彼女ほど働いているとすればレンネィくらいであろうか。
それだけの業務実績もあり、彼女が有している資産は既に『億』レベル。
魔特隊に所属しているが故に表立っての話ではないが、彼女の仕事ぶりに好感を持った国からの専属オファーも多い。
それによる着色も多く、気付けば銀行口座を眺めて笑窪を作る毎日を送っている訳である。
その話術も福留から学んだ事で花開いた訳ではあるが。
「そうか、ならしばらく家に居るんだな……もし福留さんがセリの事を引き留めようとやってきたらお父さんに言いなさい。 私がお前の盾になってやる」
「お母さんも貴方を守るから……無理せず言いなさいね?」
「ん……ありがと」
二人の気持ちを前に、そっと微笑みを返すと……再びティーカップを手に取り口元へ運ぶ。
そんな両親の言葉が堪らなく嬉しくて。
それ以上表情には表さなかったが、口に含んだ紅茶がいつもよりもずっと舌を透き通っていく様な美味しさを感じさせていた。
リンゴーン……。
突然呼び鈴の電子音が屋内に響く。
直後にリビングの壁に取り付けられたカメラ付きインターホンの画像に……噂をすれば影、福留の姿が映りこんでいた。
まるで彼等が噂話をするのを待っていたかのようなタイミングに瀬玲の両親が驚きの顔を浮かべるも、すぐ様その顔は真剣な面持ちへと戻り、インターホンへ向けて歩み寄っていった。
「……おはようございます福留さん」
『その声は御主人……おはようございます。 朝早くお尋ねしてしまい申し訳ありません』
いつものゆったりとした口調に調子を狂わせぬ様、父親は「ゴホン」と一つ咳き込むと……再び福留に向けて強気の姿勢をアピールするかの様に声を上げる。
「貴方と娘を会わせる訳にはいきません……あの子はもう貴方の部下ではありませんので」
それは父親として娘を守る為に放った言葉。
だが、それを受けた福留は……口を小さくぱくりと開け、首を傾げる様子を見せていた。
『えぇと……申し訳ありませんが、お話の意図がよくわかりません……』
「ですから、貴方が幾ら引き留めようと―――」
『引き留め……? ああ~なるほど、セリさんの脱退の件ですか。 その件は詳しい話が纏まり次第と思っていまして……今日参ったのはこちらが目的です』
すると福留がそっと手に持った何かをカメラの前にそっと差し出す……そこに映ったのは手提げの紙袋。
『少し遅れてしまいましたが、残暑見舞いをお届けに参りました』
「あ……」
それは福留にとっての恒例の行事とも言える手渡しの贈り物。
彼はそこに何やらのこだわりがあるらしく、事あるごとに持参し直接手渡しするのだ。
予想外の展開に、両親も唖然として立ち尽くす。
その背後で彼等の勇み足の一部始終を見ていた瀬玲は、堪らず溜息を一吐きするのであった。
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