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第二十一節「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」

~古人語りて、悠久の時~

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 球形に造られた大部屋。
 その部屋の風貌は剣聖が居た部屋と同じであるが、異様さだけが異なる。
 だが初見の勇達にしてみればその異様さは不気味さすら感じ取れる程であった。

「なんだこれ……」

 すると機長が勇の横を通り、楕円の物体へと近づいていく。
 そしてまるで「これを見てくれ」と言わんばかりに指を差し勇を誘った。

 彼に誘われるがままそっと近づくと……そこに映った光景に勇は驚きの顔を浮かべる。

「これは……!?」
「副機長です……あの怪物達に詰め込まれたのです」

 表面に透明のカバーが施され、その先に見えるのは人の顔。
 楕円形の物体は人を収納する物だったのだ。
 そして周囲を見渡すと、幾つもの物体の中に人影がちらりと見え隠れしていた。

 詰め込まれた者はいずれも意識が無いようで……微動だにする事さえ無い。

「これは一体何なんだ……これは出せるのか? ジョゾウさんちょっと来て下さい!!」

 勇の声に反応しジョゾウが駆け寄る。

「ジョゾウさん、これの中の人を出す方法はわかりますか?」
「ウゥム……やってみねばわからぬがやってみよう」

 そっと楕円形の物体へ手を伸ばし、その周囲をまさぐる。
 ボタンの様なモノも見つからないが……ジョゾウには何やらわかるのだろうか、調べていくにつれその体を動かしていく。

 そして不意にジョゾウが声を上げた。

「在り申した、これに御座る」

 そこにあったのは、楕円形の物体に刻まれた古代語の紋様の一つ……そこにゆっくりと指を触れると「ヒュオオン……」という音と共に楕円形の物体が動き、その体が真っ二つに分かれ開かれた。



シュオオオオ……



 内部の妙な気体が漏れ、外気に混ざっていく。

 すると、副機長と呼ばれた男がゆっくり目を覚まし、寝ぼけた様な顔付を見せた。

「あれ……機長、私は……」
「無事で良かった……我々は助かるぞ!!」

 そんなやり取りをしていると、待っていた人々の内の数人が飛び出す様に走り……自分達の大切な人であろう者が収納された物体へと近寄っていった。

「開け方を教えてくれ!!」
「こっちも!!」
「右側にある紋様の中央に四角い場所があろう、そこを押すのだ!!」

 ジョゾウに伝えられるがままに物体をまさぐり、紋様を見つけては押していく……すると他の物体も同様に開き、中から人の姿が次々と現れ始めた。

「良かった!!」
「もう会えないかと……」

 人々が安堵の顔を浮かべ、閉じ込められていた者達の安否を気遣う。
 他にも閉じ込められていた者達が居るようで……勇達も散策を始めた。

 だが、おもむろに近くにあった別の楕円形の物体の中をそっと覗くと……その中に映るのは干からびた人の姿。

「うっ!?」

 それだけではなく、他の大部分の物体の中にはミイラと化した遺体が仕舞われており、勇達の動揺を買う。

「これは一体……なんでこんな所に閉じ込める必要があったんだ」
「恐らく……これを調べればわかろうな」

 勇の声に反応したジョゾウがそう声を上げながら、中央にあるオブジェクトへ向けて足を運ぶ。
 そこに見える金属の塊……それが一体何なのか、勇には想像すら付かなかった。
 だがジョゾウは何やらわかる様で……そっとその手をオブジェクトへ触れさせると、途端にその上にある無数の光の粒が形作っていった。

「ここまでハッキリ生きた遺跡に触れるのは初めてに御座る……どれ、この島の秘密が何かを探ってみせよう」

 不慣れな指使いでオブジェクトの頭頂部に触れ続けると、頭上の光の粒が集まり映像を映し始めた。

 そして部屋一杯に聞こえて来る謎の言語……。

「これって、『あちら側』の言語?」
「左様、しかも相当古い言語に御座る……拙僧が翻訳をしてみせよう」





////////////////////////


かつて、戦争があった。


それは星全体を巻き込み、憎しみと恨みと妬みが渦巻く戦争。


人間と魔者が争い、互いの感情をぶつけ、殺し合った。


そして天士達は……世界を捨てた。


残ったのは、負の感情だけが支配する世界……そして世界を別った張本人、創世の女神と呼ばれし一人の天士。


多くの者達が苦しみ、息絶えた。


もはや世界はどちらかが滅ぶまで止まらないのだろうか。


我々は考えた。


この憎しみも、恨みも、妬みも、断たねばならない。


この世界を救えぬのであれば、我々だけはそうであってはいけない、そう考えた。


我々は天士の技術を独自に研究し、遂にこの『アルクルフェンの箱』を造り上げた。


我々はこの魔剣『アルクルフェンの箱』に乗り、世界と断絶した。


かつて創世の女神が示唆した、百億の時の彼方の果てに、世界の終わりと始まりが訪れる時……。


世界の終わりと始まり、フララジカ……。


我々はそれに対抗する為に、この島に力を収める事にする。


いつか世界が昔の様に皆が助け合う美しい世界へと戻る事を信じ、我々はこれを遺そう。


願わくば、悠久の果てにこの地に訪れし者が……我々と同じ、争いの無い世界を欲する者であらんことを。


////////////////////////





「―――……以上に御座る」
「ジョゾウさん、ありがとうございます」

 多くの人々がその言葉に聞き入り、声を殺す中……ジョゾウがオブジェクトから指を離す。

「人間にも、隠れ里みたいな事をする人達が居たんだな」
「その様であるな……誰しも、泰平を望むのは一緒なのであろう」
「えぇ……でもこの島にこんな秘密があったなんて……この島そのものが魔剣……」
「しかも人間が造りし魔剣よ……これは大変な事に御座る」

 その時、ふと再び周囲を伺う。

 楕円形の物体に収められたミイラ、それは恐らくこの映像を遺した者達の遺骸。

「推測であるが、恐らくここに居た者達は全員……この島に命力を吸われ息絶えたのであろう。 魔剣が命力を望むのと同様に、この島が生きる為には命力を必要とするのかもしれん」

 そっとミイラと化した古代人を眺め、目を細める。
 彼等が何故そこまでしてこの島を生かそうとしたのかが勇には理解出来なかった。

「だからって自分達の命を犠牲にしてまでやる事じゃないんじゃないか……」
「勇殿……これは彼等が己に課した『呪い』に御座る……この島を造り未来に馳せたのは、その禍根を先に居る我々に残さない為……彼等はその為に自らを犠牲にしたのだ。 あっぱれな者達であろう……敬意を表さずにはおられぬ」

 「ウンウン」と頷き感慨深い顔を向けるジョゾウ。

「さて勇殿、寄り道が過ぎ申した……乗客乗員を送り届けねば!!」
「そうですね、それじゃあ入口まで皆を連れて行こう」

 ジョゾウが我先にと飛び出し、自分達が入って来た道へと駆け出し叫ぶ。

「皆の者、拙僧に付いて参れ!!」

 彼に誘われるがまま、全員が揃った乗客乗員が彼の後を追う様に続き部屋から立ち去っていく。
 人影がまばらになっていくと……後を守る為に残る勇に機長がそっと声を掛けた。

「すいません、今の話は我々が聞いてても問題無かったのでしょうか……?」

 引け目を感じているのだろう……言うなれば機密にも近いと思われる様な内容だったのだから。
 機密等に触れる事が多い機長という存在だからこそ、それを聞いてしまった彼はそこに心配を隠せない様を見せる。

「あ、えっと……多分口外は禁じられると思いますが、罰せられる事は無い……と思います」
「はぁ、そうですか……そういえば貴方、結構若い顔付きしてますよね……本当に軍人さん?」

 そんな言葉を聞くと勇もさすがに困った顔を浮かばせる。
 彼は自分が童顔である事にコンプレックスを持っていた経歴もあり、自分の顔に関する話題は苦手だ。

「に、日本人は皆こんな顔なんです」
「あぁ、成程……理解しました。 流ちょうな自国語で話されたので同郷かと」

 「ハハ……」と勇が笑い誤魔化す。
 翻訳能力は結構な役割を果たしていた様だ。

「一応念の為に、帰りの道で国連の方々から説明されると思いますのでしっかり耳に入れておいてください」

 いつの間にか彼等だけとなった部屋……機長がそれを聞き届けると、二人は共に駆け出し部屋を後にした。



「皆、人質は全員救出した。 これから入口に向かう」

 インカムに向けて声を送り、仲間達に乗客乗員の無事を伝える。
 すると間もなく聞こえて来る仲間の声。

『わかったわ。 こっちもまばらに魔者が出てきてるけど、問題無いと思う』
『んじゃアタシは剣聖さんと一緒に戻るねぇ』

 だが、肝心の別動隊である茶奈と心輝からの返事が戻ってこない。

「茶奈、シン、聞こえているか?」

 だが返事は一向に返ってこず、仲間達の心配が募る。



『おうクソガキ、その質問の回答を教えてやるぜ』



 途端聞こえて来る剣聖の声……先程と同じ「島内放送」を使った反響のある音声が勇達の耳に入って来た。

 だが伝えられた言葉は―――

『どうやら二人はちょいとやべぇ事になってるみたいだぜぇ』

 勇の心配が現実味を帯びる。

 大勢と共に通路を走っていく勇達……その面持ちは既に険しい顔付きへと変わっていた。





 別所……とある大部屋。
 そこの中央で魔剣を構える心輝、そして壁際で研究員達を守る様に命力の壁を張る茶奈の姿があった。



 彼等の前に立ち塞がるのは……緋色の翼を持ちし魁将メズリ。



 緊張が張り詰め、場を支配する。
 最早戦いは避けられない……そう予感させた。


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