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第二十一節「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」

~豪胆有りて、道なき道~

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 巨大な空に浮かぶ島……アルクトゥーンの空島。

 そう呼ばれ、噂になっていたのは『あちら側』の世界でもかなりの昔の話である。

 噂によれば、『そこには伝説の魔剣が奉納されている』、『魔者が虎視眈々とそこで攻撃する機会を伺っている』、『天士が住んでいる』などと……様々な憶測が囁かれていた。

 世界中を流れ、姿を見せない空島は……出会えた者は奇跡だろうと揶揄される程に神出鬼没。
 多くの者達がその島に想いを馳せ、いつか辿り着こうと夢見る者すら居た。



 しかしその噂は、既に聞かなくなって久しい。



 世界がフララジカにより交わったのであればそれは更に顕著となる。

 

 だが幸か不幸か……交わった世界は、容易に空島へ辿り着く力を有していたのだ。



 唯一、噂を知る男は言う。
 「この出会いは、幸運だった」、と。





 一人の人影が地球の重力に逆らい、巨大な岩肌の側面を駆け登っていく。
 岩肌に穴を開けながら突き進んでいく豪快な走りを見せるその男……剣聖。

 あっという間にその勢いは島の頂へと到達し……風に削られ丸くなったその先端部に立つ。

 周囲をぐるりと見渡し、何かを探す様にその視線を刻む様に動かすと……周囲には幾つもの穴が散見された。

 いずれも島内に侵入する穴なのだろう。
 だが、剣聖はそれを意にも介さず何かを探し続ける。



 すると突然……彼の瞼がピクリと動き、ぐるりと僅かに顔を回した。



 その視線の先、何もない岩肌……だが確実に何かがあると確信したかのように、剣聖の顔は「ニヤァ」と大きく口角を上げた笑みを浮かばせた。

「あそこか……」

 おもむろにそう呟くと……その脚にググッと力が籠り、「ミシミシ」と地面に地響きが響き渡り始める。



 その途端……剣聖の体が空高く飛び上がった。



「しゃらくせぇのは嫌いなんだよォ!!」



 飛び上がった体が重力に引かれ、空で弧を描く様に大地へ向けて降下し始めると……彼の体が勢いに乗り、「睨んでいた場所」へと急降下していった。



 そして―――



ドッゴォォォォーーーン!!



 灰色の土煙を立ち上らせ、その巨体が地面の中へと突っ込む……その跡には人一人二人は入れそうな大穴がぽっかりと姿を現していた。



「どうやら正解だったようだな……」

 パラパラと小さな土の粒や壁材がしきりに砕け落ち、剣聖の足元へと落ちていく……そんな彼が着地した所は……広々とした丸い広間の様な空間。
 人気が無いのにも拘らず明かりの灯ったその空間に、金属製の箱……強いて言うのであれば「コンテナ」の様な物が乱雑に捨て置かれていた。

「ここは倉庫といった所かぁ……」

 カッコよく着地し、カッコイイ台詞を放ったにも拘わらず辿り着いたのは全く人の手の入っていない倉庫。
 途端、鋭く左右に首を振って周囲を見渡すと……ボリボリと頭を指で掻き、何食わぬ顔で立ち上がり周囲を散策し始めた。



ガラガラガラ……



 次々にコンテナをしきりに開き、中身を確認する。

 中から出てくるのは埃の被った何かの空の容器と埃そのもの。
 有用性のある物は何も出てこない……強いて言うのであれば容器そのものの素材が彼にとっては未知の物体であり、個人的な興味を惹く物。
 手に取り「グニグニ」と指で摘まむと、柔軟性を体現するかの様に簡単に変形する。
 だが一旦手を離すと、途端に元の形状へと戻る……まるで形状記憶合金の様な特性を持った樹脂素材にも見える物質。

「こいつ持ってったら奴等飛んで喜びそうだなぁ」

 そんな事を呟きながらも……ヒョイとその容器をあらぬ方向へ投げ捨てた。



 例え興味を持っていたとしても、彼が成そうとしている事を前には如何なる事にも後回しとなる。
 それは彼だけが持つ目的と信念が故の在り方。



 周囲に在る物に有用性を感じない事に気付いた剣聖は、周囲を囲む壁を見渡し広場の入り口を探す。
 だが部屋そのものがそれなりに高度な技術で作られているのだろう……目立つ様な扉の痕跡はどうにも見つからない。

「あ~ん……しかもめんどくせぇなここ……」

 おまけにどうやら彼の様にの命力を感じ取る感覚を遮断する何かが張り巡らされている様であり、感覚を鋭くしても一切の気配を感じ取る事が出来ずにいた。
 どうやら壁に張り巡らされた白い壁……それが何かしらの作用で彼等の感覚を狂わしている様であった。

「アイツラ、この感覚の中でまともにやりあえるかぁねぇ……」

 今までと異なる感覚を与えるこの内部は、鋭敏な感覚を持たぬ者を惑わす。
 入り組んだ道、変わり映えのしない様相、そして感覚を遮断する機構……それらはいずれも魔剣使いや魔者を拒むかの様に作られた仰々しい作り。



 不吉な可能性を示唆しながら、剣聖は一先ずその場をくまなく調べる為に部屋の外周をゆっくりと回り始めたのだった。


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