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第二十一節「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」

~想い重ねて、鉄の翼~

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 比較的穏やかな気候がもたらされるニュージーランドという国。
 小さな大地を有するこの国は、訪れた者の気持ちも穏やかにさせるという。

 そんな国の近海に吹き荒れる不穏な風は……勇達の気持ちをも激しく揺れ動かす。
 

 早朝、日が空に高く昇り始めた時間帯……。

 ニュージーランドのとある滑走路……そこに深緑の外装を持った3機の大型輸送機が並び、出発の時を待っていた。
 その傍に立つのは勇達先行部隊……と離れて気ままにうろつく剣聖。

「あと10分ください!! 間も無く準備完了します」
「急げ!! 乗客の命が掛かってるって事を忘れるな!!」

 怒号が飛び交い、国連所属の軍人達が右往左往する。
 そんな様子を眺めながら、勇達の頭が左右にちらちらを動く様を見せていた。

「あ~……こんな事ならシャワーだけでも浴びてくればよかった……」

 瀬玲が愚痴を漏らし、不機嫌そうな顔を作る……右足のつま先が上下に振れて「トントン」と音を立て、彼女の苛立ちを表していた。

「イラついてんなセリの奴……」
「仕方ないよ~昨日からお風呂入ってないし。 アタシも入りたいんだけど……」

 先日打ち合わせを行った後、戦闘の支度は行ったが身支度を行う程の時間は与えられなかった。
 それからおおよそ半日……夜を通してこの地にやってきた7人の姿は先日のままだ。

「羽毛の手入れは必要であろう? なればセリ殿の思う事も理解出来よう」
「手入れって何をどうやってやってんスか?」
「うぬ、こう唾を付けてな、専用のクシを使つこうて……」
「え、何それ……ジョゾウさんちょっと汚いんだけど……」

 その時、当然の様にジョゾウの顔が固まるが……どこか悲しそうな眼をしていた事に気付いた者は少ない。



 間も無く準備完了の号令が上がると、今度は人員搬入で慌ただしい様相を見せた。
 ニュージーランド政府側と打ち合わせを済ませやってきた福留の指示の元、勇達にも搭乗の指示が下る。

 機内に用意された座席に勇達が座ると、備え付けられたシートベルトを掛ける。
 そんな彼等の前に福留が立ち、彼等に向けて声を掛けた。

「皆さん、私はここまでですので……ここで本作戦の最終確認を行います。 皆さんの目的の第一優先はあくまでも旅客機の乗客乗員114名の救助です。 わかってると思いますが不用意な戦闘は気を付けてください。 それと現地の情報を集める調査班の研究員さん方の護衛もよろしくお願い致します」
「クハハッ!! まぁ任せろぉ、俺が居るから何とでもならぁ!!」

 輸送機内部の大きな閉鎖空間が剣聖の大声を反響させ響き渡り、勇達が堪らず耳を塞ぐ。
 だが福留だけはそんな大声にも怯む事無く……後に続くであろう言葉を連ねた。

「……それと今回、剣聖さんとジョゾウさんに同伴してもらうという事で、フララジカに関する情報の取得をお願いします。 二人であれば現地の文字の解読は恐らく問題無いでしょうから」
「おう、任せな」
「承知!!」



 剣聖は元より……ジョゾウはカラクラにおいて武人としてだけではなく、博識ある者としての地位も高い。
 剣聖程では無いがそれなりの知識を有し、古代文字等も多少は理解出来る様であった。
 
 空島という、空との関連性と謎の伝説の島……これ以上にジョゾウの適任と言える状況は無いと言えよう。

 

「では私から伝えられる事は以上となります。 皆さん、ご健闘をお祈りしています」
「福留さん」
「なんでしょうか勇君?」
「俺達は平気ですから……必ず皆を連れて帰ります」
「……どうかよろしくお願い致します……!!」

 その会話を最後に、福留は歩き輸送機から降りていく。
 彼の背中を見届ける勇達の視線は、徐々に閉じられていく輸送機の後部ハッチに遮られ……彼等を乗せた輸送機が徐々に動き始めた。



 空へ向かって行く、勇達を乗せた輸送機……それを見届ける様に、飛行場に佇む福留は彼等の行く先を静かにじっと見つめ続けていた。

「どうか……生きて帰ってきてください」

 こう願ったのは何度目だろうか……その数は福留本人にしか知る由は無い。
 だがその想いは、重ねる度に強く、今なおありのままに在り続けている。



 大型機独特の轟音を響かせ、1機目に続き飛び去っていく随伴の2機。

 彼等を見守るのは、福留だけでは無い。
 その滑走路で活動した関係者達の殆どが、彼等の無事を祈ってやまない。


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