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第二十節「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」

~痛みと苦しみを乗り越えて決着~

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「勇さん……!!」

 勇の姿を目の当たりにした皆が笑みを浮かべ名を漏らす……。
 安堵の表情を浮かべ、歓びの体を表す者すらいた。



「さすがだぜ勇……あいつはやっぱり俺達の―――」





ギュンッ!!





 その一瞬、周りにいた者達が凍り付いた。





 勇の真上から飛び掛かり、一撃を見舞うギオ。
 そしてそれを辛うじて魔甲で防ぐ勇。

 勝ったと思っていた……その矢先のギオの奇襲。
 その一瞬がまるでスローモーションの様に感じられる程に衝撃的であった。



バッキャアーーーッ!!



 余りの衝撃で魔甲に亀裂が入り、本体から離れた細かい破片が周囲へと舞い散る。
 それを携える勇の顔もまた歪めていく様を映し出していた。



 それに対するギオは……既に無傷。



 魔甲を破損しながらも受け流し、お互いの体が交錯する。



 その拍子に動きが鈍った勇の背へとギオの蹴りが見舞われた。

「ガハッ!?」

 仰け反りながら衝撃で勇の体が跳ね上がる。

「ハッハァーーーーーーッ!!」

 嬉々とした表情を浮かべ……ギオが大地を蹴り、勇へと襲い掛かった。

「勇ーーーーーーッ!!」

 仲間達の叫びも空しく……その腕が勇の後頭部を掴み、その顔を地面へと叩きつける。



ドッゴォ!!



 地面へとめり込む勇の頭……そしてそれと同時にグラウンドに亀裂が入り、「ボゴォッ!!」と音を立てて大きなヘコミを形成した。

 頭に続き勇の体が地面へと力無く落ちる。
 だがそんな勇をゆっくりと持ち上げ……ギオが大きな笑みを浮かべた。

「カハッ……」

 傷だらけとなった勇の顔は鼻血や頭部からの流血で赤く染まっていた。

「モウ終ワリナンテ言ワナイデクレヨ……マダ……マダ……!!」

 掴んだ頭を放り投げ……ブラリとした勇の体が宙を舞う。



バサッ……



 最早残り少ない命力しか残っていない勇はまともに動く事すらままならなくなっていた。
 それでもなお力を振り絞り……腕を大地に突き、体を起こそうとする。

 翠星剣を支えにゆっくり立ち上がり……そんな様子をギオは静かに待つ。



 獲物が戦意を持ち続ける限り……彼は唯その時を待つ。



 翠星剣を持ち上げる事すら困難となった勇が剣を落とし、朦朧とした意識の中でも戦意を失う事無くゆっくりと拳を構えた。

 それと同様に……ギオも拳を構えゆっくりと勇へと近づく。

「ぐぅぅぅッ!!」

 ギオへ向けられて放たれる拳。
 だがそのスピードは既に力は殆ど籠っておらずゆるりとした拳にすら見えた。

 そんな攻撃を躱され、カウンターが勇の顔へと重くぶち当たる。

「ガッ!?」

 一歩、二歩……その衝撃でおぼつかない足が下がり、がくんと構えた腕が落ちた。
 その瞬間を逃さず追い打ちのボディブローが勇の腹部へと見舞われた。

「うぐぉ……」



 崩れ落ちる……そう思った矢先―――



バッガァーーーーーン!!



 油断していたギオの側頭部に力を篭めた魔甲が三度みたび突き刺さる。
 その拍子に魔甲が砕け、破片が四方へ散乱した。

 勇の残る力を篭めた一撃。
 だがそれすらも虚しく、よろけた体を支えたギオが鋭い目つきを勇へと向け……鋭い一撃を彼へと見舞った。



ガッ!! ガッ!!



 一発、二発と食らわされ、最早意識が残っているのか、死んでしまうのではないか、そう思う程に痛々しい光景を見せつけられ……茶奈の口から悲鳴にも近い声が漏れ始めていた。

「やめて……もう……やめてぇ……!!」

 詰まる声。
 目元には涙が浮かび上がり、感情が悲しみで染まる。
 だがその願いも虚しく攻撃は止まる事は無い。

「……さて、そろそろ出向いてやるか……」

 剣聖が諦めの顔を浮かべ身を乗り出す。



 勇の凄惨な姿を前に、誰しもがもう諦めすら感じていた。





パシィーーーンッ!!





 その時、軽い音が鳴り響いた。



 既に力尽きたと思われた勇の抵抗……ギオの拳を手の平で受け流す。
 アザだらけの腫れあがった顔……そこにある瞳にはまだ輝きが残っていた。



 諦める事の無い、不屈の光が。



 それは最後の抵抗、そう思われた。



 だが―――



 その時、勇が一歩を踏み出した。



「ア……アァーーーー!!」



 残る力を篭めた拳が大きく弧を描きギオへと飛び込んでいく。



 そして―――





ゴガァッ!!





「ゲファッ!?」

 既に命力すら籠っていないその打ち下ろしの一撃……だがそれが想像以上にギオへのダメージを体現させていた。

 殴られた拍子に大地へ転がるギオの体。

「ガァァッ!! ンガァーーー!?」

 それどころか、先程に無い程にもがき苦しみ、殴られた頬を必死に抑えていた。



 その様子をポカンと眺める勇。
 だが途端「ハッ」とすると……再びゆっくりと足を踏み出し、転がるギオへと近づいていく。



ガッ!!



 続く顔面への殴打。



「アブッ!! チョ!! ヤメッ!!」



ガンッ!! ガンッ!!



 命力を篭めていない拳での連続の殴打。
 だがそんな攻撃であろうと、妙にギオがそれを嫌がり苦しみ始めていた。



「へっ、あの野郎……土壇場で気付きやがった……こりゃ勝ったな」
「……えっ?」

 身を乗り出そうと一歩を踏み出した剣聖であったが……急な展開を前にその足を止め、「ニヤリ」と笑みを浮かべた。

「ギオはなぁ~……命力による攻撃にゃあめっぽう強いが……命力を篭めないただの攻撃にゃあめっぽう弱いんだぁよぉ」
「えぇ~……」
「魔物なのに……障壁が無い……?」
「だがまぁ、命力に頼る戦いが主の世界だ……そこに気付ける奴なんざ指の数程すら居ねぇ……大概がここに至る前に死ぬのさ」

 意外な弱点を教えられ、今の勇の奇妙な優勢具合を納得する仲間達。
 天は人に二物を与えず……まさにギオの様な存在こそ、こう形容するに相応しい。



「も、もう止めてくれぇ……!!」

 命力の籠らない攻撃は彼の戦意と命力による強化を奪い取っていたのだろう。
 徐々に異形化していた体が白みを帯びた肌へと戻っていき、変容した体付きも人間の様な様相へと急激に戻り始めていた。



「勇ーーーーーーッ!!」

 ギオの声も耳に届かず殴り続ける勇の下に仲間達が駆け寄ると……朦朧とした様子を見せる彼を、心輝が背後から抑え制止する。

「もういい!! もう終わったんだ勇ッ!! お前が勝ったんだよォーーー!!」
「あ……え……?」

 途端、茶奈とあずが涙を浮かべ勇を正面から抱き込んだ。

「勇さんッ……!! 良かった……生きてて良かった……!!」
「勇くぅーーーんッ!! 心配させないでよぉ~~!!」

 未だ状況が飲み込めていない様子を見せる勇を前にして、瀬玲やアージ達も笑顔を見せて彼等を見つめていた。

「いいのかセリ? お前も抱き着かなくて」
「私はむしろギオ君を……じゃなくて、そんなの私の柄じゃないし」

 すると「ハハハ」と笑い声が上がり、瀬玲が堪らず頬を赤らめさせる。

「けど、無事……じゃないけど何とかなって良かった」



 こうして、思いがけぬ形から導いた勇の逆転により二人の疑似的な「殺し合い」が幕を閉じたのであった。


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