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第二十節「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」
~久しきデートと明日の予定~
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昼過ぎ……曇り空が僅かに気温を下げるも、湿度の高さが息苦しさを誘う。
しかし気候とは別に……事務所に張り篭める僅かな重い空気が勇の眉を細めていた。
「勇君、何を思っているのかはわかりませんが、無茶はいけませんねぇ……」
「すいません……」
その視線の先に居るのは同じく眉を細めて困った顔を浮かべる福留。
「いやいや、怒ってる訳ではないのですよ? ただやりすぎれば体を壊してしまいますし……ここ数日勇君がやたら張り切っていると聞いたので嬉しく思ったのですが……少しやりすぎに感じますねぇ」
「う……気を付けます……」
そう言われ勇がそっと目を背けると……それに気付いた福留がピクリと眉を動かした。
「……まぁ、色々思う事はあるのでしょう。 とりあえず、体を休める為に今日と明日はゆっくりしてください。 今の所急務はありませんから」
「了解です」
「茶奈さん、貴女も彼と一緒に居てあげてください。 じゃないとまた無茶しそうですからねぇ」
「え、あっ……は、はい!!」
そう言われ、二人は自分のデスクへと戻ると……荷物を手に取り事務室から出ていく。
後から「おつかれー」と声が聞こえると、軽く振り返り残った仲間達へと手を振り挨拶を交わした。
こうして福留に諭された勇は茶奈と共に事務所を後にし、早めの帰路へと就く事となった。
その道中、歩きながら帰る二人……。
勇は何か納得がいかないのだろうか、体を動かしたそうに腕を振る。
「休めって言われても、何もする事が無いからな……結局何かしちゃいそうだよ」
「ダメですよ勇さん……何かしようとしたら私まで怒られちゃいますよ?」
「うーん……筋トレくらいはいいだろ?」
さすがに程度までは聞いていなかった茶奈も首を傾げて彼を見つめる。
そんな仕草が妙に可愛くて……咄嗟に目が合うと、勇はついその視線を背けた。
「でも、暇なら折角ですしお買い物でも行きませんか? 少し買いたい物があるんです」
「あぁ、それならいいよ。 俺も折角だし何か買うかな」
二人は長く戦いを行ってきた為、その報酬により資産は普通の人々よりも格段に多い額を有している。
だが、だからといって着飾ったり無駄遣いする事は無く……着る物はそこらに売っている安物の服だ。
一部の道具は機能性等も考え高級品を使っていたりもするが……大概の生活用具はなんら普通の人々と変わらないレベルなのである。
そんな彼等が向かう先は当然……いつものショッピングモール。
施設が彼等の帰路にある為、こうして用があれば帰りに寄る事が出来る。
とはいえ、二人がこうして買い物に出掛ける事は滅多に無く……妙に茶奈が浮ついた表情で施設内に並ぶ店舗を見つめていた。
「楽しそうだね」
「こうやって二人で買い物に来るのも久しぶりだから……」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
軽く言葉を交わすと……欲しい物が目に入ったのか、茶奈が勇の手を取って駆ける。
突然手を掴まれた事で焦る勇であったが……彼女に合わせる様に足を動かし歩み出した。
そんな二人の姿は、はたから見ればなんて事は無い普通のカップルだった。
好みの服を探し、似合うかどうかを尋ねる様子。
どんな柄が好みなのかを選ばせる様子。
試着した感じを問う様子。
そのいずれもが、なんて事のない風景。
彼等の人として生きる様。
選ぶ物こそ、飾る事も無くセンスの欠片も感じられないものではあったが……それでも彼等は嬉々としてそれを選ぶ。
不器用で、ナンセンスだからこそ……何でも楽しめているのだ。
時には店員に尋ねてコーディネイトしてもらったり、お勧めを聞いたり……
そうして二人の時間はあっという間に過ぎ去っていった。
気が付けば手に持つ荷物はお互いに大袋四袋程度……買い過ぎでは無かったが、彼等にとっては十分過ぎる量だった。
「この服を着れる明日が楽しみ……フフッ」
「ハハ……じゃあ明日はどこか遊びにでも行く?」
「行きたいっ!!」
突然降って沸いた強制的な休みを満喫する為に、二人は荷物を携えながら意見を交わす。
遊園地、水族館、食べ歩き……挙げればきりがない程に。
既に時刻は4時過ぎ……日の光が僅かに弱まる時間帯。
二人はその空の下を歩き、再び帰路へと就いたのだった。
しかし気候とは別に……事務所に張り篭める僅かな重い空気が勇の眉を細めていた。
「勇君、何を思っているのかはわかりませんが、無茶はいけませんねぇ……」
「すいません……」
その視線の先に居るのは同じく眉を細めて困った顔を浮かべる福留。
「いやいや、怒ってる訳ではないのですよ? ただやりすぎれば体を壊してしまいますし……ここ数日勇君がやたら張り切っていると聞いたので嬉しく思ったのですが……少しやりすぎに感じますねぇ」
「う……気を付けます……」
そう言われ勇がそっと目を背けると……それに気付いた福留がピクリと眉を動かした。
「……まぁ、色々思う事はあるのでしょう。 とりあえず、体を休める為に今日と明日はゆっくりしてください。 今の所急務はありませんから」
「了解です」
「茶奈さん、貴女も彼と一緒に居てあげてください。 じゃないとまた無茶しそうですからねぇ」
「え、あっ……は、はい!!」
そう言われ、二人は自分のデスクへと戻ると……荷物を手に取り事務室から出ていく。
後から「おつかれー」と声が聞こえると、軽く振り返り残った仲間達へと手を振り挨拶を交わした。
こうして福留に諭された勇は茶奈と共に事務所を後にし、早めの帰路へと就く事となった。
その道中、歩きながら帰る二人……。
勇は何か納得がいかないのだろうか、体を動かしたそうに腕を振る。
「休めって言われても、何もする事が無いからな……結局何かしちゃいそうだよ」
「ダメですよ勇さん……何かしようとしたら私まで怒られちゃいますよ?」
「うーん……筋トレくらいはいいだろ?」
さすがに程度までは聞いていなかった茶奈も首を傾げて彼を見つめる。
そんな仕草が妙に可愛くて……咄嗟に目が合うと、勇はついその視線を背けた。
「でも、暇なら折角ですしお買い物でも行きませんか? 少し買いたい物があるんです」
「あぁ、それならいいよ。 俺も折角だし何か買うかな」
二人は長く戦いを行ってきた為、その報酬により資産は普通の人々よりも格段に多い額を有している。
だが、だからといって着飾ったり無駄遣いする事は無く……着る物はそこらに売っている安物の服だ。
一部の道具は機能性等も考え高級品を使っていたりもするが……大概の生活用具はなんら普通の人々と変わらないレベルなのである。
そんな彼等が向かう先は当然……いつものショッピングモール。
施設が彼等の帰路にある為、こうして用があれば帰りに寄る事が出来る。
とはいえ、二人がこうして買い物に出掛ける事は滅多に無く……妙に茶奈が浮ついた表情で施設内に並ぶ店舗を見つめていた。
「楽しそうだね」
「こうやって二人で買い物に来るのも久しぶりだから……」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
軽く言葉を交わすと……欲しい物が目に入ったのか、茶奈が勇の手を取って駆ける。
突然手を掴まれた事で焦る勇であったが……彼女に合わせる様に足を動かし歩み出した。
そんな二人の姿は、はたから見ればなんて事は無い普通のカップルだった。
好みの服を探し、似合うかどうかを尋ねる様子。
どんな柄が好みなのかを選ばせる様子。
試着した感じを問う様子。
そのいずれもが、なんて事のない風景。
彼等の人として生きる様。
選ぶ物こそ、飾る事も無くセンスの欠片も感じられないものではあったが……それでも彼等は嬉々としてそれを選ぶ。
不器用で、ナンセンスだからこそ……何でも楽しめているのだ。
時には店員に尋ねてコーディネイトしてもらったり、お勧めを聞いたり……
そうして二人の時間はあっという間に過ぎ去っていった。
気が付けば手に持つ荷物はお互いに大袋四袋程度……買い過ぎでは無かったが、彼等にとっては十分過ぎる量だった。
「この服を着れる明日が楽しみ……フフッ」
「ハハ……じゃあ明日はどこか遊びにでも行く?」
「行きたいっ!!」
突然降って沸いた強制的な休みを満喫する為に、二人は荷物を携えながら意見を交わす。
遊園地、水族館、食べ歩き……挙げればきりがない程に。
既に時刻は4時過ぎ……日の光が僅かに弱まる時間帯。
二人はその空の下を歩き、再び帰路へと就いたのだった。
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