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第十九節「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」
~師と 死 重ねて~
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グーヌー族の統率者の言われるがままにゆっくりと歩を進める勇。
そんな彼を、丘に立つ魔者達は一挙一動見逃さずに目を見張らせていた。
「そうだ、それでいい……そのまま来い」
その歩みを進め坂の中腹へと差し掛かると、途端に魔物が手を開く。
「待て、そこで止まれ」
「ッ!?」
言われるがままに足を止める勇……そのお互いの距離は普通に声は通るものの依然遠く、レンネィの言う距離には至っていない。
途端、周囲の木の影から駆けだす様に姿を現す多数の魔者達……彼等の手には簡素に作られた弓が握られていた。
弓に矢が番えられ、その先が勇へと向けられる。
「少し話をしようじゃないか、なぁ、『フジサキ ユー』よ」
「なっ……何故俺の名前を知っているッ!?」
突然相手からイントネーションこそ違うものの自身の名前が発せられ戸惑う。
だが戸惑う勇をほくそ笑むかの様に、目の前の統率者がニヤリとした口を浮かべたまま小さな目を更に細くさせ彼を睨み付けていた。
「何故知ってるか、だと? ハハハ……そんな事を知ってどうする? そもそも知るも何も、お前の存在は既に世界に散らばる多くの魔者達が知っているぞ」
「何ッ!?」
「お前達は我々魔物が何の文明も持たない原始人の様なものだとでも思っていたのか……? 我々には『手段』があるのだよ、お前の様な注意人物の事を知る為のな」
彼の語る事はいずれも勇達にとって初耳の驚愕の事実。
何故、どの様に情報を集めているのかはわかるはずも無いが……勇は自身が注意人物として扱われている事にもまた憤りにも似た戸惑いを覚えていた。
「なぁフジサキユーよ……お前は一体何がしたい……聞いたぞ、お前は魔者と手を取り争いの無い世界を構築しようとしていると……」
「そんな事まで知っているのか!?」
魔特隊の関係者しか知らないような事を既に知るように語る彼等に……まるで心を見透かされたような感覚に見舞われる。
先程勇が陥れられた夢の世界の終わりの様に……。
「当然だ……だがな、お前はそう言いながらこうやって我らに対して戦いを挑んできたではないか……そして仲間が多く傷付いた。 死者もいる……それでもお前は手を取れと言うのか……仲間を殺した者と明日を築けと言うのか!?」
「そ、それはお前達が攻撃を仕掛けてきたからじゃないか!!」
事の発端は……彼等グーヌー族の存在に懸念を覚えたカナダ政府が魔特隊に対処依頼を出してきた事である。
だが、彼等グーヌー族が人に危害を加えたという証拠は無く、一方的なカナダ政府からの依頼、そして勇の派遣を指定した事で様々な障害が発生し、交渉が捗らなかったのだ。
しかし危害を加えてこないと思っていたグーヌー族は、勇達が訪れたと同時に襲い掛かって来た。
殺さないよう心掛けて応戦していた所……勇が魔剣の力により気を失ったが、その力を振り払いここまでやってきた。
これがここまでに至る経緯である。
戦うにあたり、不本意に死者が出たのかもしれない。
それは勇達の過失かもしれないが……それと同時に彼等の責任でもある。
それを責めるのは理不尽とも言える事だろう。
「例えそうであろうと、同胞の命を奪ったのは事実……そんな者達と手を取り合うというのなら……お前達は対価を払わねばならない」
「対価……だと……!?」
そう言い放ち、統率者が手でジェスチャーをすると……アンディとナターシャの首へグーヌー兵達が持つ剣がゆっくりあてがわれた。
「ま、まさか……やめろッ!?」
「ハハハ……彼等が死ぬか、それともお前が死ぬか……どちらがいい!?」
言い合い、首筋に走る冷たい感覚……それを受けたアンディが目を覚まし、ゆっくりと目を開いていく。
すると徐々に自分の置かれた状況を把握し始め……動揺から、目を震わせて狼狽え始めた。
「あ、ああぁぁ……し、師匠ごめんなさい……オイラ達……!!」
「アンディ……いや、お前達が生きていてくれてよかったよ……」
アンディは勇をかつての師とその姿を重ねる。
かつてアンディ達の師匠が二人を守る為に、武器を捨て、己の身を差し出し、銃弾の雨に晒され死んだ姿を。
「お願いです師匠……オイラ達の事はほっといて……こいつらを倒してください!!」
「それは……ダメだ、出来ない……俺はお前達を見捨てる事なんて出来やしない……」
「ししょお……ウゥウ……!!」
あの時の様な思いをしたくないからこそ、あの時と同じ様な事を口走る。
そして勇もまたかつての彼等の師と同じ行動を起こし、アンディの脳裏の記憶がフラッシュバックしていく。
「嫌だァ……嫌だよししょぉ~!!」
いつの間にか目を覚ましていたナターシャもまた大粒の涙を流し泣き始めていた。
そんな様子を静かに見つめていた統率者は……間を割る様に口を挟む。
「では、こいつらを助ける代わりにお前の命を差し出す……という事でいいんだな?」
「好きにしろ……俺は……可能性を諦めたりはしない……!!」
「そうか……わかった……ならば弓兵隊、弓を引けッ!! 構えろッ!!」
勇の周りに離れて立つ弓兵達が矢を引き力を篭める。
命力の籠った矢が勇に向けられ、今にも放たれそうな程に引き絞られていた。
だがその瞬間―――
ッドバォォォォォォンッ!!!!
統率者の背後で大爆発が巻き起こり、周囲に居る誰しもが突然の出来事に驚き首を動かした。
「っしゃらあああああ!! 心輝様、参・上ッ!!」
「ジョゾウ、見参に御座る!!」
そう叫び声が張り上がったと同時にアンディとナターシャを抱えた魔物が吹き飛んでいく。
心輝の両手の魔剣によって殴られ弾き飛ばされたのだ。
その拍子にアンディとナターシャはその腕から抜け落ち地面へと落とされた。
「なっ、キサマなッ―――」
統率者がそう言い掛けた途端、目に映る景色が勢いよくぐるりと回った。
勇が隙を突き、一瞬で距離を詰めていたのだ。
周囲に居た魔者達の意識の外で……彼は統率者の腕を取り、空高く投げ飛ばしたのである。
射程距離こそ短いが、その間の移動はまさに刹那の如く。
ノーモーションで繰り出す圧倒的加速は誰の意識すら認識は困難を極める。
これぞ彼の持つ『認識外の速度』による移動手段。
「―――ァァァアア!?」
ドッガァ!!
宙を舞った統率者の体が地面に激突し、鈍い音が周囲に響き渡る。
そして地面にうつぶせに倒れた彼を勇が体全体を使って地面へと拘束した。
「ゲハッ!?」
「言ったはずだ、俺は可能性を諦めないと!! ナイスだ二人共!!」
勇の声を聞くと、周囲を警戒し身構える心輝が視線を移す事も無く、サムズアップを見せつける。
それ程までに、最高のタイミングだったと言えよう。
「ウググ……クソォ、奴はここからずっと離れているハズなのに……」
「悪いが俺達はチームなんでね、連絡手段はいくらでもあるんだ……命力の伸縮で伝える信号通信の応用みたいなものがさ」
魔特隊がチーム構成であるが故に、彼等にはお互いだけが認識出来る連絡手段を設けている。
耳に付けるインカムでの連絡だけではない……彼の言う信号通信もまたそうだ。
方法はといえば……敵に悟られない程度に一定のリズムで命力の昂りの上昇・下降を行うという方法だ。
これにより予め決められたリズムを感じた者はその意味を知って行動を起こすという訳である。
強いて挙げるのであれば、命力によるモールス信号通信というのが最もな表現だろう。
「例え可能性が小さくとも、そこに守るべき命が在るのであれば……俺は命を救う事を諦めたりはしない!! それが例え人間でも、魔者でもッ!!」
「グゥウウウ!!」
拘束に力が籠り、力で勝るはずの統率者が動けず顔を苦しさで歪ませる。
勇も必死に彼を抑えつけ少ない命力を振り絞りその力を増していった。
その時……ピクリと勇が反応する。
加えた命力に妙な違和感を感じ取ったのだ。
上げられるはずの力が思ったよりも出ない……そんな奇妙な感覚に戸惑いを感じ顔を強張らせた。
―――なんだ……力が……?―――
先程の精神攻撃の影響だろうか?
それとも別の要因か……。
考えようにも、暴れる統率者を前に意識を浮つかせるのは危険であろう……目の前に起きている事に目を離す事も出来ず、頭を軽く振ると再び力を篭めて統率者を抑え続けた。
そんな彼を、丘に立つ魔者達は一挙一動見逃さずに目を見張らせていた。
「そうだ、それでいい……そのまま来い」
その歩みを進め坂の中腹へと差し掛かると、途端に魔物が手を開く。
「待て、そこで止まれ」
「ッ!?」
言われるがままに足を止める勇……そのお互いの距離は普通に声は通るものの依然遠く、レンネィの言う距離には至っていない。
途端、周囲の木の影から駆けだす様に姿を現す多数の魔者達……彼等の手には簡素に作られた弓が握られていた。
弓に矢が番えられ、その先が勇へと向けられる。
「少し話をしようじゃないか、なぁ、『フジサキ ユー』よ」
「なっ……何故俺の名前を知っているッ!?」
突然相手からイントネーションこそ違うものの自身の名前が発せられ戸惑う。
だが戸惑う勇をほくそ笑むかの様に、目の前の統率者がニヤリとした口を浮かべたまま小さな目を更に細くさせ彼を睨み付けていた。
「何故知ってるか、だと? ハハハ……そんな事を知ってどうする? そもそも知るも何も、お前の存在は既に世界に散らばる多くの魔者達が知っているぞ」
「何ッ!?」
「お前達は我々魔物が何の文明も持たない原始人の様なものだとでも思っていたのか……? 我々には『手段』があるのだよ、お前の様な注意人物の事を知る為のな」
彼の語る事はいずれも勇達にとって初耳の驚愕の事実。
何故、どの様に情報を集めているのかはわかるはずも無いが……勇は自身が注意人物として扱われている事にもまた憤りにも似た戸惑いを覚えていた。
「なぁフジサキユーよ……お前は一体何がしたい……聞いたぞ、お前は魔者と手を取り争いの無い世界を構築しようとしていると……」
「そんな事まで知っているのか!?」
魔特隊の関係者しか知らないような事を既に知るように語る彼等に……まるで心を見透かされたような感覚に見舞われる。
先程勇が陥れられた夢の世界の終わりの様に……。
「当然だ……だがな、お前はそう言いながらこうやって我らに対して戦いを挑んできたではないか……そして仲間が多く傷付いた。 死者もいる……それでもお前は手を取れと言うのか……仲間を殺した者と明日を築けと言うのか!?」
「そ、それはお前達が攻撃を仕掛けてきたからじゃないか!!」
事の発端は……彼等グーヌー族の存在に懸念を覚えたカナダ政府が魔特隊に対処依頼を出してきた事である。
だが、彼等グーヌー族が人に危害を加えたという証拠は無く、一方的なカナダ政府からの依頼、そして勇の派遣を指定した事で様々な障害が発生し、交渉が捗らなかったのだ。
しかし危害を加えてこないと思っていたグーヌー族は、勇達が訪れたと同時に襲い掛かって来た。
殺さないよう心掛けて応戦していた所……勇が魔剣の力により気を失ったが、その力を振り払いここまでやってきた。
これがここまでに至る経緯である。
戦うにあたり、不本意に死者が出たのかもしれない。
それは勇達の過失かもしれないが……それと同時に彼等の責任でもある。
それを責めるのは理不尽とも言える事だろう。
「例えそうであろうと、同胞の命を奪ったのは事実……そんな者達と手を取り合うというのなら……お前達は対価を払わねばならない」
「対価……だと……!?」
そう言い放ち、統率者が手でジェスチャーをすると……アンディとナターシャの首へグーヌー兵達が持つ剣がゆっくりあてがわれた。
「ま、まさか……やめろッ!?」
「ハハハ……彼等が死ぬか、それともお前が死ぬか……どちらがいい!?」
言い合い、首筋に走る冷たい感覚……それを受けたアンディが目を覚まし、ゆっくりと目を開いていく。
すると徐々に自分の置かれた状況を把握し始め……動揺から、目を震わせて狼狽え始めた。
「あ、ああぁぁ……し、師匠ごめんなさい……オイラ達……!!」
「アンディ……いや、お前達が生きていてくれてよかったよ……」
アンディは勇をかつての師とその姿を重ねる。
かつてアンディ達の師匠が二人を守る為に、武器を捨て、己の身を差し出し、銃弾の雨に晒され死んだ姿を。
「お願いです師匠……オイラ達の事はほっといて……こいつらを倒してください!!」
「それは……ダメだ、出来ない……俺はお前達を見捨てる事なんて出来やしない……」
「ししょお……ウゥウ……!!」
あの時の様な思いをしたくないからこそ、あの時と同じ様な事を口走る。
そして勇もまたかつての彼等の師と同じ行動を起こし、アンディの脳裏の記憶がフラッシュバックしていく。
「嫌だァ……嫌だよししょぉ~!!」
いつの間にか目を覚ましていたナターシャもまた大粒の涙を流し泣き始めていた。
そんな様子を静かに見つめていた統率者は……間を割る様に口を挟む。
「では、こいつらを助ける代わりにお前の命を差し出す……という事でいいんだな?」
「好きにしろ……俺は……可能性を諦めたりはしない……!!」
「そうか……わかった……ならば弓兵隊、弓を引けッ!! 構えろッ!!」
勇の周りに離れて立つ弓兵達が矢を引き力を篭める。
命力の籠った矢が勇に向けられ、今にも放たれそうな程に引き絞られていた。
だがその瞬間―――
ッドバォォォォォォンッ!!!!
統率者の背後で大爆発が巻き起こり、周囲に居る誰しもが突然の出来事に驚き首を動かした。
「っしゃらあああああ!! 心輝様、参・上ッ!!」
「ジョゾウ、見参に御座る!!」
そう叫び声が張り上がったと同時にアンディとナターシャを抱えた魔物が吹き飛んでいく。
心輝の両手の魔剣によって殴られ弾き飛ばされたのだ。
その拍子にアンディとナターシャはその腕から抜け落ち地面へと落とされた。
「なっ、キサマなッ―――」
統率者がそう言い掛けた途端、目に映る景色が勢いよくぐるりと回った。
勇が隙を突き、一瞬で距離を詰めていたのだ。
周囲に居た魔者達の意識の外で……彼は統率者の腕を取り、空高く投げ飛ばしたのである。
射程距離こそ短いが、その間の移動はまさに刹那の如く。
ノーモーションで繰り出す圧倒的加速は誰の意識すら認識は困難を極める。
これぞ彼の持つ『認識外の速度』による移動手段。
「―――ァァァアア!?」
ドッガァ!!
宙を舞った統率者の体が地面に激突し、鈍い音が周囲に響き渡る。
そして地面にうつぶせに倒れた彼を勇が体全体を使って地面へと拘束した。
「ゲハッ!?」
「言ったはずだ、俺は可能性を諦めないと!! ナイスだ二人共!!」
勇の声を聞くと、周囲を警戒し身構える心輝が視線を移す事も無く、サムズアップを見せつける。
それ程までに、最高のタイミングだったと言えよう。
「ウググ……クソォ、奴はここからずっと離れているハズなのに……」
「悪いが俺達はチームなんでね、連絡手段はいくらでもあるんだ……命力の伸縮で伝える信号通信の応用みたいなものがさ」
魔特隊がチーム構成であるが故に、彼等にはお互いだけが認識出来る連絡手段を設けている。
耳に付けるインカムでの連絡だけではない……彼の言う信号通信もまたそうだ。
方法はといえば……敵に悟られない程度に一定のリズムで命力の昂りの上昇・下降を行うという方法だ。
これにより予め決められたリズムを感じた者はその意味を知って行動を起こすという訳である。
強いて挙げるのであれば、命力によるモールス信号通信というのが最もな表現だろう。
「例え可能性が小さくとも、そこに守るべき命が在るのであれば……俺は命を救う事を諦めたりはしない!! それが例え人間でも、魔者でもッ!!」
「グゥウウウ!!」
拘束に力が籠り、力で勝るはずの統率者が動けず顔を苦しさで歪ませる。
勇も必死に彼を抑えつけ少ない命力を振り絞りその力を増していった。
その時……ピクリと勇が反応する。
加えた命力に妙な違和感を感じ取ったのだ。
上げられるはずの力が思ったよりも出ない……そんな奇妙な感覚に戸惑いを感じ顔を強張らせた。
―――なんだ……力が……?―――
先程の精神攻撃の影響だろうか?
それとも別の要因か……。
考えようにも、暴れる統率者を前に意識を浮つかせるのは危険であろう……目の前に起きている事に目を離す事も出来ず、頭を軽く振ると再び力を篭めて統率者を抑え続けた。
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