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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」

~勇弟落ちし 誠意翻弄せし邪なる心~

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 マヴォが木々の間を跳ねるようにジグザグに駆け巡る。
 それを追う様に矢弾が飛び交い、彼を茶奈の下へは向かわせない様に誘導していた。

「チィ!?」

 矢弾の射られる間隔が短くなっていき、彼の行動パターンを徐々に理解した弓術兵達が少しづつ追い詰めていく。
 もはや彼を茶奈の場所から遠ざけるのではなく……彼自身を仕留めるかの様に狙いが定まっている様であった。



―――こうなったら纏めて斬り裂いてやるッ!!―――



 走りながらでは集中する事もままならないと感じたマヴォは何を思ったのか……その場に立ちどまった。
 途端、両手に握るヴァルヴォダとイムジェヌに力が籠り、命力が空気の流れに沿って波を作り始める。

 そんな彼に容赦の無い矢弾が降り注ぎ襲い掛かった。

「フンッ!!」

 そこに形成される命力の盾。
 その盾が矢弾を弾き受け止めると、その力は徐々に変化を始める。

 彼の命力が盾を形成しつつも両手の魔剣へと流れ込んでいった。

「邪魔だどけぇ雑魚共!!」



 完全に命力が伝わりきり、二つの魔剣が力強く光を放つ。



 ……何者かがそんな彼を遥か遠くから眺めている事も知らずに。



ドゥルオッヴァ!!」



トゥーーーーンッ!!



ビシィッ!!



「ガハッ!?」



 突如、マヴォの左腹側部背面に強烈な衝撃が走る。
 咄嗟に腹部を屈み見ると……小さな穴が開いており、そこから「ブシッ」と音を立てて血液が吹き出していた。

「んだよ……これ……ッ!?」

 突然の出来事に動揺したのか……彼の得意技である【ドゥルオッヴァ】の為に貯めていた両手の魔剣の命力の輝きが徐々に薄れ大気に消えていく……。

 そして力が抜けたその膝を大地へ突き沈ませたのだった。



ザッザッザッ……



「どうやら命力を込めれば銃弾も効くようだな……」

 そんな彼の側にやってきたのは弓術兵達。
 彼が膝を突いた事で戦闘力を大幅に削いだ事を確信したのだろう、迷う事無く近づいていく。

「な、何を……した……ッ!?」

 傷口を抑え痛みに堪えながらマヴォが声を上げると、丁寧にベゾー族達が余裕の笑みを浮かべて答えた。

「『ライフル』って知ってるか? 人間の武器だそうだ……金属の塊を超高速でぶち込む武器だ。 ちょいと我らの王の進言でなぁ……その弾に命力を込めて撃ち込んだのさ」
「なんだとォ……!?」



 人間の武器の応用。
 それは驚くべき適応能力から生まれた新しい知恵の形。

 考えてみれば簡単な事だ。

 ジョゾウも早い段階からスマートフォンを使いこなし、そういった物に疎そうなアージですら今では使いこなす程とは言わないものの機械類をそれなりに使う事が出来る。

 そんな魔物が現代の人間の武器を使えば、こうなる事もやぶさかではないのだ。



 自信満々で話すベゾー族達を前に、マヴォは冷や汗を流し激痛に耐えながら耳を貸す。
 だがそんな彼等もその話が終わると突然真顔になり、彼の顔を見つめた。

「貴様も同族だろう、白の兄弟の片割れよ……」
「なっ、何故俺達の事を知っている!?」

 白の兄弟の存在は『あちら側』ではそれなりに有名ではある。
 だが、彼等がその存在であるという事は一目見たからわかるという訳ではない。

 何故彼等がそれをハッキリと理解した風に答えたのだろうか。
 その疑問はすぐに払拭される事となった。



「お前達が来る事も知っていたさ……俺達は人間と密かに通じ合っているからな」



 その一言を聴いた瞬間マヴォの目が見開き、驚きの表情が浮かぶ。
 そんな彼の様子も予想していたのだろう、ベゾー族は再び言葉を連ねた。

「……この世界の人間には我々に従う事を決め、協力する者達が居るのだよ」 
「なっ……!?」

 マヴォは衝撃の事実を前に未だ驚きを隠す事が出来ない。
 魔者に従属する事を願う人間がいるという事実……それもまた、彼等にとってはあり得るはずの無い事だったから。

「だからだマヴォよ、我々と共に来い。 近い将来我々が天下を取る……我々がかつての天士と成るのだ。 悪い話ではあるまい?」

 大勢のベゾー族が彼を囲み弓を引く中、そんな彼に生か死か・・・・の二択を迫る。



 不穏な空気が流れ、彼等の汗を含み重くなった体毛を僅かに靡かせていた。



―――



 指令本部では、画面に映る僅かな映像を前に多くの者達が驚愕を隠せないでいた。

 魔者達が銃や爆弾を使い、茶奈、アージ、マヴォを追い詰めていく姿を映し出していたのだ。
 それらは明らかに『こちら側』の人間が作った銃火器類。
 それを迷う事無く巧みに操る魔者達。
 違和感すら感じる異様な光景に誰もが閉口していた。

「これは……由々しき事態だと思います……何故彼等に人間の武器が渡っているのか……龍さん、事情説明を請います」
「……恐らくこれは……一部の軍属による武器の横流し……だと思われる」

 心当たりが有るのか無いのか……龍の口調は先程までと違い重苦しい。
 残ったドローンから映し出される映像には、彼がよく知る武器ばかりが映し出されていたからだ。

「もし彼女達にもしもの事があればその時は……国際問題と成り兼ねませんよ!?」



 彼等魔特隊の出向を望む声はまだまだ多い。

 だがもし呼んだ国の落ち度で彼等が命の危険に晒されでもすれば……それは次の機会を待ち望む世界への明白な反逆とも成り得てしまう。
 『故意に彼等を危険に晒した』と言われてもおかしくないのである。

 そしてそれは龍自身もよく理解している事であった。



「今すぐに政府に連絡しろ、『一部将校級の人物に国家反逆及びクーデターの恐れ有り』と伝えるんだ!!」
「了解!!」

 部下の一人がその命令を受け連絡を始める。
 ドローンを落とされ手空きとなった者達も急ぎ調査を行う為に情報データベースへとアクセスし始めていた。

「……クーデターですか……?」

 笠本が思わず口に漏らすと、龍が静かに頷き答える。

「あぁ……可能性の話ではあるが。 もしかしたら魔者という絶対的な戦闘者に協力しこの国を転覆させようとする者の行いである可能性が高い」

 話す龍の眉間にシワが寄り、事の重大さを物語る。

「魔者が勝てば、魔剣使いは簡単には来れなくなる……彼等に勝てる者はこの国から居なくなるのだ。 そうなれば、ベゾー達が仮にこの国を支配した時……彼等に媚びを売り、地位を得た者は成功者となる」
「何者かが彼等に武器を渡して取り入っていると?」

 笠本の問いに静かに頷く龍。

「国の在り方、政治に不満を持つ将校も少なくは無い……可能性があるのであれば、より高い位置に着きたいと思う者も居てもおかしくないだろう……例え将軍クラスであってもな」



 権威欲に駆られた人間には、己の望む高みを目指す為になりふり構わない者もいる。
 それは国柄や価値観などでは無く……頂点に在りたいと願う人間という種が持つ一つの欲。



「笠本殿はここで出来うる限りの行動を頼みたい」
「龍さんはどうする気なのですか!?」
「この命に代えようと彼等を助けに行く!!」

 そう言い放つと、数人の部下が立ち上がり、彼の周囲へ集まる。

「我々もお供します!!」
「ウム、早急に救出隊を編成し、残った者は政府及び軍へ増援を要請しろ!! これは第一級事案だ!!」

 そして部下を引き連れた龍は駆け足で指令本部の建物から出て行った。

「よろしくお願いします龍将軍……」

 今はただ願う事しか出来ない笠本は……ひたすら彼女達の無事を祈り続けた。


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