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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」

~戦士起ちし 非道許さぬ心持ちて~

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 ガタガタと徐々に車が揺れ始めると、次第に周囲から民家が減っている事に気が付く。
 もう間も無く作戦区域の近くに差し掛かっているのであろう。

 彼等ベゾー族の生息区域は四川省の山中。

 まさにパンダの生息区域のど真ん中が変容し、黄色が目立つ木々が立ち並ぶ山がありありと姿を見せているという。



 中国政府の提供した情報によれば現状まで彼等との接触はほぼ無く、お互いを刺激せぬよう向こうからも接触を避ける様な行動をしばしば見せていた。

 しかし彼等の生活地盤が安定したのだろうか、ここ最近になり彼等の活動が活発化し周辺地域への進出を始めたのだ。
 その状況を重く見た政府がこの件に関する重要度を引き上げ、魔特隊へ解決要請し今に至るという訳である。



「もうすぐ仮設作戦本部に到着だ」

 不意に運転手から声が上がり、彼等が首を揃えて正面を向く。

 そこに見えるのは深い林の中に建つ場違いとも言える巨大な白いコンクリート製の建造物。
 箱とも思えるその建造物には通信用のアンテナ等の機器がしっかり備え付けられており、仮設とは思えない施設としてその存在感を示していた。

 「非限制性缔约方関係者以外立入り禁止」と書かれた看板がでかでかと置かれ、その下には何やら細々と中国語が並び連なっている。
 これらは軍施設であるが故に……恐らくは「撮影等の禁止」及びその注意事項を謡う文なのだろう、それらしい簡素な絵も描かれていた。

 フェンスに仕切られた敷地内へ車が入っていき……停車すると、兵隊が車の扉を開けて茶奈達を迎える。
 誘われるがまま彼女達が車の外へ一歩を踏み出し、乾燥して硬く固まった地面を踏みしめ大地に立った。

「すごいですね、これ仮設なんですか……」
「そうだ、出来うる限りの設備は整えてある」

 自慢げに話すのは先程の運転手である軍服の男。
 それなりの高官なのだろう、茶奈達を迎えた兵士達が力強い敬礼を行い彼の降車を歓迎していた。

「付いてきてくれ、案内する」

 素早い足取りで施設内へと入っていく男を追う様に茶奈達が付いていく。
 すると間も無く彼女達の前に現れたのは……簡素でありながらも様々なモニターや周辺状況を観測する電子機器が立ち並ぶ部屋であった。
 それはまるで映画によくある様な作戦指令室オペレーションルーム
 軍服を身に纏った多くの者達がそこでそれぞれの機器に触れて最終調整等を行っていた。

「ここが指令室だ。 ここから現地の情報を収集しつつ作戦のバックアップを行わせて頂く」

 彼等にとってベゾー族はよほど目につく存在なのだろうか……今までに類を見ない程の規模の用意に、その本気が肌で感じ取れる様だ。

 指令室の一角に備えられた会議スペースに案内されると、その先に待ち構えていたモノ・・にもまた圧倒される。
 中央に備えられた大机の上に並べられた資料の数々……ちらりと覗けば、そこには茶奈達の持つ情報には含まれていない資料も存在していたのだ。
 その資料にはベゾー族が行ったであろう攻撃の跡の様なものが映った写真が含まれており、彼女達の目を惹いた。

「改めて紹介させて頂こう。 今回この作戦のオブザーバーとして君達のサポートをする事となったロン将軍だ」

 龍と名乗るその者、年齢は50歳前後であろうシワを顔に残すが……全体的に体付きが引き締まったガタイのしっかりした男。
 れっきとしたアジア系にも拘らず背丈が高い。
 極秘作戦の代表者であるだけに、かなりの位の者であろう……その立ち振る舞いはそれに相応する程の威厳を誇っていた。

「それでは龍将軍、よろしくお願いします」
「うむ……では早速だが今回の作戦に入る前に彼等の特徴だけを説明しよう」

 龍が笠本の言葉を皮切りに語り始める。
 するとおもむろに置かれた資料を机一杯に広げ始めた。

 先程覗いた写真以外にも似た様な画像がちらほらと見られる。
 中には人間だったであろう肉体の破片や血肉の跡が鮮明に映る画像も含まれていた。

「外部流出を防ぐ為にこの写真は資料には添える事は出来なかった。 了承願う」

 そう答える龍に対し笠本が無言でゆっくりと頷くと、その意図を汲んだのだろう……彼が再び口を開いた。

「これは彼等ベゾーが周辺進出の際に行った攻撃行動だ。 彼等は突如現れては攻撃を仕掛け、破壊の限りを尽くす……最早一刻の猶予もならない事態だが、我々には手の出しようも無い」

 魔者は魔剣かそれに付随する命力でなければ傷つける事は敵わない。
 それ故に直接的な現代兵器の通用しない相手に現代人は手も足も出ない。
 間接的な殺害は可能であるが……それによる周辺被害の方が甚大になる可能性が高いのだ。
 仮に山を燃やそうものなら、山火事によって麓の街や村は全滅だろう。
 対策しようにも、攻めてきている現状でそんな時間などありはしない。

「相手には恐らく強大な砲撃の様な事を行える者が居ると思われる。 これがその証拠だ」

 その指が指し示すのは先程彼女達が目に映した写真。
 大地が丸くえぐられる様に歪み、周辺に煤の様な黒く焼けた跡が残っていた。

「これって……私の火球攻撃に似てますね……」

 そう思い当たる上で考えられるのは一つ。

「これほどの威力となれば……魔剣だな。 恐らく茶奈殿と同じ遠距離砲撃に長ける魔剣か、それに特化した戦闘能力を持つ……王」

 唸る様な低い声のアージの説明に、茶奈とマヴォも首を頷かせる。

「でもこれは許せません……こんな……むごい事を……!!」

 茶奈の机に乗せた指へ不意に力が籠もり……下に添えられていた資料が「クシャリ」と歪みシワを作った。

「多くの人民の命が失われた。 魔者が近くに居る事は周知済みであるにも関わらず、彼等はその場で生活を続ける事を望んだ。 彼等は決して敵意など持っていなかったのだ……我々はそんな彼等への虐殺を許す訳にはいかん」

 この国は歴史も古く、昔から多くの凄惨な出来事を刻んできた。
 だが、そんな事など関係無く……龍はその真剣な顔持ちを茶奈達に晒し力強く語る。
 それ程までにこの龍という男は正義感に満ち溢れていた。
 そしてそんな彼を取り巻く部下達も……彼のその一言を受けて一斉にその真剣な眼差しを茶奈達へと向ける。

「わかりました……なんとしてもベゾー族を止めてみせます」
「ウム、想像以上の悪行……白の兄弟としても許してはおけぬ!!」
「おうよ!! 俺達に任せておけ!!」

 茶奈達3人が高揚し、その身を温める。
 その姿を笠本はじっと見つめ、冷静な言葉を放った。

「今回は初めてのチームでの作戦です。 各々の役割をしっかり把握した上で行動願いますね。 今回は私からバックアップを行いますので、茶奈さんは状況把握をお願い致します」

 通信機器を介しての言葉はアージとマヴォには伝わらない。
 その為、茶奈が笠本を介してオブザーバー側の情報展開を伝える手筈となっていた。

「わかりました!」
「それでは諸君頼んだぞ!!」

 龍の一言を受けて茶奈達が頷くと……彼女達は戦闘準備を始めた。
 それぞれに与えられたジャケットを身に纏い、備えられた収納空間に戦闘用の道具を仕舞い込む。



 そしてそれぞれが持つ魔剣を手に……彼女達が施設の外へと立ち構えた。



「もしもし茶奈さん聞こえますか?」
「はい、聞こえます」

 施設の外を歩き始めた茶奈に笠本からの通信が入る。

「これから情報収集用のドローンが複数機発進します。 それらは軍の所有物なので戦闘中は敵と間違えないようお願い致します」

 その言葉を耳にした茶奈が不意に振り向くと……施設の屋上から無数の黒いドローンが「ウーン」と音を鳴らしながら空へと舞い上がっていくのが見えた。

「あれの事かな……」

 そう呟きながら彼女が振り向きなおすと……茶奈は再び足を踏み出し、先に進むアージとマヴォに追い付こうと駆け足で走り寄っていったのだった。


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