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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」

~漢兄想いし 遥か空の願い虚空に消え~

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 勇達がリジーシア領国で作戦を実行している頃―――



 中国、四川省……パンダの生息地として有名であり、観光地として栄えた一つの領土でもある。
 とはいえ……山麓となれば昔ながらの民家なども多く見られ、発展は深くまでは行き届いてはいないと言える。
 もちろん、昔ながらの姿を残すのもまた一つの在り方であり、価値ともなり得る事もあるだろう。

 一台の黒い大型ワゴン車が舗装された一本の道を土煙を巻き上げながら走る。
 周囲には古びた民家や木々がちらほらと並び、今なお続く人々の暮らしのありのままを映す。
 車を運転するのは体のしっかりした軍服を着る男。
 その後部座席には茶奈と笠本、アージとマヴォがそれぞれ並び座っていた。

 手渡された資料等に目を通しつつ状況の確認を行う茶奈達ではあったが……慣れてはいない組み合わせではあるものの、不安など一切感じない程にリラックスした様子を見せていた。



 それというのも……



「まさかパンダの生息区域に変容して現れたのがパンダの魔者とは驚きですね。 偶然とは怖いものです」

 笠本が資料を目を通しながら眼鏡を輝かせて呟く。

 そこに映る資料には中国政府が独自の活動で今までに集めた、ベゾー族の姿や近況を纏めた画像が多く映っていた。
 その姿はパンダそのものとは言えないものの、アージ達と同じ熊型の魔物。
 しかしその紋様と言えば、白地に黒のまだら模様……パターンこそ違えどていで言えば「パンダそっくり」なのだ。

「フフッ、こうしてみると可愛いですよね」
「えぇ、この子供の魔者の姿と言ったら堪りませんね」

 ベゾー族の写真を前に笑顔を浮かべて語り合う女性陣。
 その様子をアージが背後からじっと見つめ見守る。



 遥か昔から異種族との戦いを繰り広げた彼等『あちら側』の者にとって、「他の種族を愛でる」という行為は理解出来ない事この上無い行動であった。
 その異種族を救う事はあっても、彼女達の様にその心をやる姿にはさすがに共感は得られないだろう。



「さすが女神ちゃん……慈悲深いよなァ……惚れ直しちゃうよォ」

 ……その様な想いにふけるアージの横で、マヴォがその想いを全否定するかの様に呟く。
 そんな彼に対し呆れて物も言えないアージはただ溜息を付くとその瞼をゆっくり閉じた。



―――もしかして俺だけなのか、そう思うのは……―――



 アージが自身の在り方に懐疑的になりながら、目を閉じたままに夢想する。



 彼は今まで、まともに異性を愛した事は無かった。
 それは彼が戦いに明け暮れたからこそではあったのだろう。
 そして同種にしか感情を寄せられる事が出来ないのは彼に限らないだろう。

 彼等「ソノバル族」はアージが僅か5歳程の頃、彼とマヴォを残して全滅した。
 彼等が魔剣を得て使い、戦い、旅を続けたのはその悲劇を繰り返さない為。

 だがふとその目的を思い返し、和気藹々とする3人の姿をチラリと覗き、想いを重ねる。



―――本当は……この様な事を求めていたのかもしれんな―――



 その時脳裏に思い浮かべるのは、青い空の下……農耕具を持ち、畑を耕す笑顔の自身の姿。
 傍には複数の自分と同じ種族の者達……。

 平穏の光景。

 もしもこの世界において戦う理由など無ければ……きっと彼の傍には小さな子供が居たかもしれない。
 伴侶と寄り添い、今の世界と同じ様な文化の庇護の下、幸せに包まれた生活を送っていたかもしれない。



 もしかしたらそれが自身の想い求めるモノなのかもしれない。



 だが、今はまだその光景の中に居る者達の顔は……黒く塗りつぶされたままだ。



―――だからこそ……今はその想いを殺してでも明日に繋げなければならん―――



 それは目の前に映る光景を守る為。
 『ヘイワ』を望む者達がいるからこそ……戦う理由となる。

 自身が望む「今」を求め、アージはそう心に思う。
 組んだ腕が無意識にジワリと僅かな力と熱を籠らせたのだった。


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