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第十七節「厳しき現実 触れ合える心 本心大爆発」

~シンシンシタク オキザリテ~

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 海外への出動となれば、当然日帰りなど出来る訳は無い。
 ヨーロッパ方面ともなれば地球の裏側……長い時間を使い、場合によっては一週間以上も現地滞在する事はざらである。
 移動による身体へのストレスを解きほぐす為に最低でも一日は現地で休養を取るなど、心身のケアは魔特隊の出張要項にも含まれる。
 また時差ボケによる身体のリズムの調整も彼等には重要で、これには『あちら側』の人間も同様に毎度の事ながら手を焼いている事だ。

「衣類OK、パスポートOK、生活用品はホテルにあるとして……こんな所でいいかな……」

 勇が一般的に片手で持てる程度の大きさのリュックサック一つで荷物の整理を済ませる。
彼自身お洒落である訳でもなければ趣味道具が多い訳でもない。
 趣味やお洒落の為に大きなスーツケースを常に持ち歩く心輝や瀬玲とは異なり、彼の場合は基本的に着回しする服を用意するだけで済む為、移動の際の荷物整理は非常に簡素だ。

 またこれにより移動も楽になるという事もあり、それにならった茶奈も同様にする傾向にある。

 荷物を整理する勇の又隣にある茶奈の部屋では、同様に自分の荷物を整理する茶奈の姿があった。
 こちらは比較的近くの国での対応なので滞在期間は短い。
 その為いつもの小さなウサギ型のリュックサック一つで済んでいる様だ。

 勇は準備を整え一段落すると……椅子に腰を掛け、学生時代から使っている勉強机にその手を添える。
 机の上に置いてある少し大きめのアルミケースをそっと手に取ると、おもむろにそのロックを外し「カパッ」と音を立てて上蓋を開いた。

 そこにあるのは、翠星剣の核とも言える50モンズ級の命力珠。

 虹色の輝きを放ち、その力をすぐにでも解き放たんと渦巻く珠を見つめ……勇は戦いになるかもしれない状況に対し覚悟を行う。

「使う事が無ければ……それが一番いいさ」

 彼がそう呟きながら視線を移すと……そこには翠星剣と、剣聖より借り受けた魔剣「アラクラルフ」が映り込んだ。

 剣聖とラクアンツェから受け取った指摘……彼の戦い方の幅を広げる為に、自分に何が出来るのか……思考を巡らせる。



コンコン。



 すると不意に勇の部屋の扉から高い音が上がり、彼の声を待つ事無くゆっくりと開いた。

「勇さん、そろそろ出発しないと遅れちゃいますよ」

 茶奈が隙間から顔を覗かせ彼を呼ぶ。

「あ、もう行かないとか……ありがと」

 軽く言葉を交わすと、勇は立ち上がり、荷物を持つ。
 リュックを背負い、翠星剣の本体を専用の鞄に包み背負う。
 そして専用ケースにアラクラルフを仕舞うと、命力珠の入ったケースと共に両手に携えた。

 こうして持ってみると少量の荷物でも十分多い。

 勇と茶奈の持つ魔剣が大型だからこその荷物の量なのだと言えばそうなのかもしれない。

「幾つか荷物持ちましょうか?」
「え? あ、いやいや……」

 善意での進言であろうが、女の子に荷物を持ってもらうのは勇の男として持つ僅かなプライドでも許す筈が無く。

 無垢な善意が時折男を意固地にさせる。

「自分の分くらい・・・は、自分で持っておきたいからね」

 それは何気ない一言のつもりだった。
 だが、それを受けた茶奈は……途端に「ムスッ」とした表情を浮かべ―――

「……じゃあ私も自分の荷物を持っていきますからっ!!」

 突然そう強い口調で返すと……ドタドタと廊下を鳴らしながら自室へ戻っていった。

「あ……俺なんか不味い事言ったかな……」

 そんな時、ふと脳裏にラクアンツェに言われた事を思い出す。



―――君はちょっと思いやりに欠けるんじゃないかしらねぇ~―――



 その言葉がじわじわと勇の頭の中で反響して大きくなっていく。
 最近は戦いの事ばかり気にしていたからなぁ……と溜め息交じりに呟く勇の姿がそこにあった。



 無垢な女性も時折には面倒クサイのだ。
 ……時折であるかどうかは別の話ではあるが。



 家を出た勇と茶奈はいつもの様に歩き本部へと向かう。
 作戦の最終確認を行った翌日の今日……勇の出発の日の出来事。



 先日の明るい雰囲気とは全く異なり、茶奈の一方的な苛立ちからの微妙な空気を伴ったまま二人は別れ……勇のチームを乗せた車は空港へと出発する。

 平野がオペレーティングメンバーとして同行し、勇達を乗せた便は空高く舞い上がった。
 幾つかの空港を経由して予定地であるトルコへと向かう航空機はただ静かに、しかし轟々とエンジン音を猛らせ深青の彼方に消えていったのだった。



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